第14話 能力紹介編⑤ 「アイテム・ボックス」&「ゴールド・ボックス」
転移勇者の能力紹介は一旦、これで以上となります。
なお「アイテム・ボックス」はなろう系では非常にメジャーなので、説明をかなり端折っていますw
勇者の剣の実力はある程度ながら、わかったわ。
実戦経験はないけど、少しずつでも経験を積んでいけばいずれ、冒険者として十分通用するレベルに育つはず。
あとは・・・そうそう。
勇者に教えておきたい魔法が2つあったわ。
「勇者様。
最後にもう2つ、あなたにお教えしたい魔法があります。
1つはアイテム・ボックスと言う・・・。」
「ああ、それならもう覚えたよ。
アイテム・ボックス!!」
「魔法で・・・って、なんでもう使えるのです!?」
お、おかしいわね。
いくら勇者の物覚えが良いからって、なんで見た事もないはずの魔法を使えるのかしら?
「エミリーがドラゴンの素材をしまう時、使ってるのを見たんだ。」
・・・あー、だからか。
それだけで即修得するのもあれだけど。
「えーと、一応解説しておきますと、アイテム・ボックスは物を自由に出し入れするための魔法です。
携帯できる倉庫のようなものですわ。
だけど生きた人間や魔物なんかは入らないので、気を付けて下さいね。」
「うん、わかった。」
ちなみに例の本には、転移勇者達はアイテム・ボックスについては、簡単に受け入れる傾向にあると書かれている。
向こうの世界ではそういう技術なんて、ないらしいんだけどね。
「そしてもう1つ、お教えしたい魔法がこれです。
ゴールド・ボックス!!」
私が魔法を唱えると同時に、すぐ真上に金色の細長い箱が出現する。
箱には数字で『600000』と書かれていた。
「な、なんだい?
この魔法は!!」
「これはお金を自由に出し入れするための魔法です。
勇者様の世界で例えるなら、携帯できるATMのようなものですわ。
例えば、金貨1枚取り出したいと念じると・・・。」
ゴールド・ボックスから一枚の金貨が飛び出した。
と、同時に箱の数字が『590000』へ変わる。
「あっ。
数字が10000減った!!」
「ええ、テンイ。
この魔法でお金を取り出すと、鉄貨1枚で10、銅貨1枚で100、銀貨1枚で1000、金貨1枚で10000減るの。
もちろん、お金を入れた場合は逆に数字が増えるわ。」
「なんだか日本円みたいだね。」
「そして、金貨を1枚入れたいって念じると・・・。」
先ほどの金貨1枚がゴールド・ボックスの中へ入っていき、箱の数字が『600000』へ戻る。
「へぇ。」
「他にはこんな事も出来ますわ。
聖女、あなたもゴールド・ボックスは使えるでしょ?
ちょっと使ってくれない??」
「えっ?
別に良いけど・・・ゴールド・ボックス!!」
聖女が魔法を唱えると同時に、すぐ真上に金色の細長い箱が出現する。
箱には数字で『5000』と書かれていた。
「・・・あ、あなた、これだけしかお金を持ってないの?
よくこれまで旅を続けられたわね・・・。」
「しょ、しょうがないでしょ!!
あんたの国ったら、人をこき使うばっかりで報酬なんかちっとも払ってくれないんだもの。」
それを言われると、返す言葉が無い。
聖女の所持金である5000・・・銀貨5枚では1~2日の食費・宿代を払うのがやっとよ。
なお、1人の人間が一ヵ月間、同じ場所に留まって生活する場合はね。
150000~200000・・・金貨15~20枚ほど必要になると言われているわ。
あくまで目安だから、万人に当てはまるわけじゃないけど。
「それはさておき、例えばですね。
聖女に金貨を20枚渡したいって念じると・・・。」
私の箱の数字が『600000』→『400000』へと減る。
代わりに聖女の箱の数字が『5000』→『205000』へと増えた。
「おおっ・・・。
こんなことまで!!」
「はい。けれど相手にお金を渡す事はできても、相手からお金を引き出す事はできません。
だから、この魔法同士でお金のやり取りをするのは危険です。
人とお金のやり取りをする際は極力現金で渡すようにしてくださいね。」
直接、ゴールド・ボックス同士でお金のやり取りをするのは、便利だけど危険でもある。
間違えて相手に大金を渡してしまった場合、相手の合意なしでは取り返す事ができないのだから。
「ってか、良いの王女?
私に金貨20枚も渡して・・・。」
「構わないわよ。私の国がやらかした迷惑料とでも思ってちょうだい。
まあ、あなたにとっちゃはした金だろうけど。」
聖女であれば金貨20枚なんて、はした金も良いとこでしょう。
彼女がその気になれば、金貨100枚稼ぐのだって楽勝なはずだもの。
・・・そんな彼女がどうして、銀貨5枚しか持ってなかったかは謎だけど。
「こ、こんなに気前の良い王族、初めて見たわ。
デルマ・・・あなたはとっても太っ腹な王女ね!!」
「この程度で太っ腹て!!
あなた一体、今までどんな扱いを受けてきたの!?」
やっぱ彼女、人運に全然恵まれなかったせいで、闇聖女へと堕ちてしまったのでは・・・。
「ゴールド・ボックス!!
うわぁ、俺の上に金色の箱が出た!!
・・・でもやっぱ、数字は『0』なんだね。」
聖女としょうもないやり取りをしている間にも、あっさりゴールド・ボックスを修得する勇者。
一応は特別な才能無しで修得可能な範疇だけど、初心者が簡単に使いこなせるほど難易度の低い魔法じゃないのになぁ。
「『0』なのはお金を入れていないのだから、当然ですわ。
手元にお金が全然無いのも不安でしょうから、あなたにも金貨を20枚、渡しておきますね。
ご自由に使って大丈夫ですが、当面の生活費となるので無駄遣いにはお気を付け下さい。」
私の箱の数字が『400000』→『200000』へと減る。
代わりに勇者の箱の数字が『0』→『200000』へと増えた。
「に、二十万も・・・。
ありがとう、王女!!
でも、自分の所持金が丸見えなのは怖いなぁ。」
「大丈夫ですよ。
所持金を見せたくない時は・・・。」
私が念じると、ゴールド・ボックスの数字が『******』へと変わる。
「あっ!?
いくら持ってるかわからなくなった。」
「他人にいくら持ってるかバレるのは危険ですからね。
普段はこうやって金額を隠しておくと良いですわ。」
「面白いなぁ。
俺も色々やってみよっと!!」
そして勇者はゴールド・ボックスから銅貨を出したり、聖女に銀貨1枚を渡したりして遊び始めた。
なんだか新しいおもちゃに夢中になるお子様みたい・・・。
無邪気ね。
「う~ん・・・。
テンイったら、やっぱり凄いわねぇ。」
「凄いって。
そんなの見ればわかるじゃない。
あのチート能力を見て、大した力じゃないなんて思う奴、いないわ。」
「いや。チート能力も凄いけど、それよりさぁ。
一回見ただけで、魔法もスキルも簡単に修得しちゃうじゃない。
そんな人、世界中探したって中々いないわ。」
・・・確かにそうね。
ひょっとしたら、並のチート能力にも負けない特性かも。
「武術の達人は相手の技を一度見ただけで、自分のものにしてしまうって聞くけど・・・。
勇者も剣の修行の果てに、似たような事が出来るようになったのかもね。」
チート能力だけでもとんでもないのに、元々持ってる剣の腕前や、一目で魔法やスキルを自分のものにするセンス・・・。
彼はもしかしたら、魔王すら上回る最強の転移勇者へと成長するかもしれない。
「私、やっぱり怖いわ。
勇者の力・・・。
あれだけの能力を持ったまま、普通の青年でいられるのかしら?」
転移勇者に限らず、人間なんて簡単に力に溺れてしまうもの。
少し権力を持っただけで、性格を腐らせる輩なんて数知れず。
安全な場所から一方的に攻撃できると知った途端、醜い本性を剥き出しにする人達も多い。
なのに軽く力を振りかざしただけで、人も国も世界も簡単に壊せたとしたら・・・。
そんな能力を持った人間が、いつまでも正気を保っていられるかしら?
「・・・王女、あなたは心配性ねぇ。
そんな事、気にしたってしょうがないじゃない!!
なるようにしかならないって。」
「あのねぇ、聖女。
あなたは適当すぎるのよ!!
そりゃまあ、その通りかもしれないけど・・・。」
私は未だにゴールド・ボックスで遊んでいる勇者を見つめる。
その表情は年相応の青年のもので、とても世界を破壊するような人物とは思えない。
・・・。
まあ、私は私のできる事をするまでね。
こうして勇者の魔法訓練は終わりを告げ、私達は旅に戻るのだった。