第157話 外れギフト編② 祝福の儀
旅の最中、プレン国という小国へ立ち寄った転移勇者一行。
今晩の宿を探し回っていたところ、教会の周りで人盛りが出来ているのを見つけたの。
「なんの催しだろう?」
「祝福の儀だよ。
神様からギフトを授けてもらえるんだ。」
「へ?」
見物人の話によるとね。
この国では数年前から『祝福の儀』と呼ばれる儀式が行われるようになったんだって。
なんでもこの国の有力者の子だけが受けられる儀式でね。
神様から特別な力を持つ『ギフト』を授けてもらえるの。
ただ何のギフトを授かるかは完全にランダムで、当たり外れが大きいみたい。
だから『剣聖』のような誰からも称賛されるギフトを授かる事もあれば、さ。
『洗濯』のように誰からもバカにされるギフトを授かる事もあるんだって。
「洗濯て。
それ、与えられた人をバカにするんじゃなくてさぁ。
そんなものを与えた神をバカにすべきじゃない?」
「でもこの世界ってそんな儀式まであるの?
まるで携帯小説のテンプレ展開じゃん。」
少なくともこの国に来るまでは、この世界にそんな儀式があるなんて話、聞かなかったわ。
だけどね。
「見聞きするのは初めてですが、例の本にも書いてありますよ。
数多の世界で『祝福の儀』やそれに類する儀式が根付いてると。
ちなみにその手の儀式で授かる力は、バカにされたり、外れだと言われるものの方が強力である事が多いと記されています。」
「・・・なんか例の本情報って聞くと、途端に信じたくなくなっちゃうなぁ。」
「なんで『外れ』の方が凄いのにさ~。
バカにされちゃうの~?」
「どうもよくわからないギフトだからって、外れ扱いしてバカにするケースが多いようね。
あるいは即座に真価を発揮しないせいで、即座に見放されるとか・・・。
あとは謎な理由で無能扱いされてるギフトが実は普通に凄かった、みたいなパターンかしら。」
「なんともアホらしい話ねぇ。」
ど~やら祝福の儀なんかが根付いてる世界では、知らないものに対する調査や分析といった概念が希薄みたい。
「アホらしいって。
この国だとギフトは絶対なんだぞ!!
もしも外れギフトを掴まされでもすれば、第一王子ですら周りから馬鹿にされ、落ちぶれるくらいだ。」
「ああっ、そ~だ。
だから祝福の儀はこの国の中心となる人物を決める、大事な儀式なんだ。」
あら~・・・。
「そういうところも例の本に記されている内容と一緒のようですね。
なんでもギフトの当たり外れだけで、人間の価値の99%が決まってしまうとか。
外れギフトを授かったから・・・ただそれだけで親子の縁を切られる事も多々あると伝えられています。」
「・・・俺らの国でもよく聞く話だ。
嫌な話だぜ。
ま、子供が外れギフトだった時点で、んな事関係なく、親もろとも冷遇されるがなっ。」
「こ~して聞くと、祝福の儀ってさぁ。
相当陰湿な文化に聞こえちゃうんだけど。
どこにも夢がないじゃん。」
実際、かなり陰湿だと思うわ。
だけどさすがの私も本当にこんな儀式が存在するなんて、信じてなかったの。
だって人間の事情に合わせて、定食屋のお昼ご飯のよ~に力を寄越す神様なんて、実在するのかとか・・・。
『ギフト』1つで全てが決まる社会なんて、偏りが酷すぎて、上手く成り立つのかとか・・・。
考えれば考えるほど、現実味を感じられなくなって、ね。
「でもそれはそれとして面白そ~だなぁ。」
「なら、儀式の様子を見てくか?
『ギフト』が貰えるのはこの国のお偉方の子だけだがよ~。
見物だけなら、誰でも自由だぞ。」
「おおっ!!
ねえ、皆。
ちょっと覗いて見ようよ。」
勇者ったら、興味津々ねぇ。
実は私も気になってるけどさ。
こうして教会で行われてる『祝福の儀』を見物する事になったわ。
********
「ではハズよ。
水晶の前へ立つが良い。」
「は・・・はいっ。」
ハズと呼ばれる青年が水晶の前に立つと同時に、水晶から眩いばかりの光が放たれる。
・・・あれ?
あの水晶は・・・。
あの光は・・・。
そして光が収まると同時に水晶から声が響く。
「ハズよ。
其方には『ゴミ拾い』のギフトを授けてしんぜよう。」
「ゴミ拾い!?
神よっ。
どうして・・・。」
しかしハズの嘆きも虚しく、光も声も消失する。
・・・。
「うっわぁ。
ゴミ拾いだなんて、酷ぇな。」
「・・・どう考えても、外れギフトよね。」
「ハズ様もお終いだな。」
見物人からの反応も冷ややかよ。
「ゴ・・・ゴミ拾いだとっ!?
そんなギフトしか授けられぬ者など、もうわしの息子じゃないわっ!!」
「父さん!?
あんまりだよっ。」
しかも例の本に書いてある通り、授けられたギフトが外れというだけで、父親からも即座に見捨てられる始末。
きっと自分まで冷遇されるのを恐れての事でしょ~ね。
でもギフト1つで親子の縁を切る人なんて、余計に冷遇されるよ~な・・・。
けれどそれ以前に・・・。
「ではアリィよ。
水晶の前へ立つが良い。」
「は~い♪」
続いてアリィと呼ばれる女の子が緊迫感の無い様子で水晶の前へ立つ。
するとハズの時と同様、水晶から眩いばかりの光が放たれる。
「アリィよ。
其方には『大聖女』のギフトを授けてしんぜよう。」
「『大聖女』!?
きゃーーーー♪」
・・・・・・。
「大聖女だって!??」
「まさかそんな凄まじいギフトが授けられるだなんて・・・。」
「アリィ様!!
アリィ様!!」
もう響きからして、大当たりそ~なギフトを授けられた事で、見物人も大はしゃぎ。
両親も諸手を上げてアリィを賞賛してるわ。
「アリィ!!
お前は私達の誇りだっ。」
「きっと聖女エミリーすら上回る、素晴らしい大聖女になるわ。」
・・・う~ん。
「この私を上回るだなんて、お~きく出たわねぇ。
そもそもアリィが授かった『大聖女』のギフトって、そんなに凄いものなの?
な~んのオーラも感じないんだけど~?」
僻みのように聞こえるエミリーの台詞だけどさぁ。
彼女からは僻みらしき感情は一切、感じられなかったわ。
むしろ冷め切った感じよ。
「そ~だね。
な~んにも変わってるよ~に見えな~い。」
おまけに感覚の鋭いクロまでこの反応。
・・・これはやっぱり。
「まあまあ、2人とも。
きっとその気になれば、とんでもない力が出せるんだよ。
よくわかんないけどさ。」
勇者はそ~いうけど、これは・・・。
「いえ。
そうとも言い切れないかもしれません。」
「へ?」
疑問たっぷりな勇者に対し、私は祝福の儀で使われている水晶について話す。
「この儀式で使われている水晶ですがね。
あれは『テレフォン・クリスタル』と呼ばれる物です。」