第156話 外れギフト編① ひねくれ者のハーフ
私は元ジャクショウ国の第四王女、デルマ。
今日も勇者のハーレム要員として、旅の真っ最中よ。
「もう少しでプレン国という小国へ辿り着きます。」
「じゃあ今日はそこで宿を取ろうか。」
「でも勇者様。
一応、注意してくださいね。
プレン国の第二王子は異世界人を嫌ってるとの噂ですから。」
「そうなの!?
困ったなぁ・・・。」
けれどだからって、国ぐるみで異世界人を拒絶してるって程でもないわ。
第二王子やその関係者と関わらなければ、大きな問題は起きないはずよ。
「あ~らら。
こないだのストーカー魔族の時のよ~な、面倒事が起きなきゃい~けど。」
「ストーカー魔族って。
エミリーはヴェリアの事が嫌いなのかい?」
「・・・ど~なんでしょう?
だけど見てて面倒臭く感じるのは確かね。」
エミリーったら、ま~たそんな悪態を付いて。
ちなみに彼女の言うストーカー魔族ことヴェリアはね。
非常に珍しい人間と魔族のハーフなの。
つい最近、異世界人と魔族の抗争に巻き込まれた件で知り合ったわ。
「ダメだよ~、エミリーお姉ちゃん。
そんな事言うとヴェリアさん、怒っちゃうよ~。」
なんて言いながら、クロは少し離れた場所にある木の上を眺めている。
この反応・・・。
「もしかして、あの木の上にヴェリアが隠れてるの?」
「うんっ。」
「だからバラすなって~のっ。
ホント、てめ~はよぉ・・・。」
あ。
ヴェリアが現れた。
・・・まさかこんなに早く彼女と再会する事になるなんて。
と、言うよりさぁ。
「あなた、まさか本当にストーカーなの?」
「ざっけんなよっ、デルマ!!
たまたま近くを通りがかっただけだっつ~のっ。」
どこまで信じて良いのやら・・・。
「ねえ、ヴェリア。
やっぱり俺達と一緒に行こうよ。」
「はぁ!?
だから嫌だっつってんだろ~が。」
見かねた勇者が再びヴェリアを誘おうとするも前回同様、彼女は同行を拒絶する。
「・・・それに見ろよ。
デルマも同行を渋ってるじゃね~か。」
「えっ!?
あ・・・。」
・・・。
「所詮、俺は人間と魔族のハーフさ。
一緒になんていたくね~に決まってるぜ。」
へ?
「いやぁ。
別にハーフかどうかなんて、ど~でもい~けど。」
「ど~でもいい!??
おまっ!!
おまっ・・・。」
「こらっ、王女!!
ま~たそんな薄情な言い方して。
ほら、こう。
『ハーフかなんて気にしないよ』って感じで言いなって。」
そ~いうものかしら。
まあ言い方はともかく、魔族への偏見がなくなっちゃった今じゃさぁ。
人間と魔族のハーフだなんて言われてもねぇ。
『すっごく珍しいのね』以上の感情になれないわ。
だから私がヴェリアの同行を渋ってるのは、そんな理由じゃなくて・・・。
「・・・王女の考えは大体、予想が付くよ。
多分、ヴェリアが力を暴走させないか、心配なんだよね。
あの時のような形態になって、さ。」
って、完全に思考を読まれてる!?
何故か勇者ったら、妙な所でやたらと鋭いのよね。
「はい。
勇者様のおっしゃる通りです。
他にヴェリアの同行を渋る理由なんて、ありませんし。」
彼女は怒りで我を忘れると、普通の魔族じゃありえない姿に変わり、全てを破壊しようと目論んじゃうの。
その戦闘力も末恐ろしいものがあって、ランク5のスキルの使い手ですら、あっけなく瀕死へ追いやったわ。
前回は勇者とエミリーの活躍で、どうにか元の状態へ戻せたけどさ。
今後、同じような事が起きないとは限らないもの。
そうなれば命の保証はどこにもない。
「・・・逆に渋る理由、それだけなのかよ。」
はっきり言いすぎて、機嫌を損ねるかと思いきや、なんでかしら?
ヴェリアったら、妙に戸惑った感じね~。
そもそも私だけじゃなく、勇者もエミリーもクロもさ。
ヴェリアがハーフだからって、嫌がったりなんかしないわよ。
「ま、暴走を防ぐ方法も探せば見つかるかもしれないけどね。」
「なっ!?」
エミリー曰く、あの形態もヴェリアからすればごく自然な状態らしいわ。
だったらやり方次第で暴走を抑える事も可能かもしれない。
「ただそのためにはヴェリアの事をもっとよく知る必要があるの。
あなたには隠し事がたっくさんあるようだし、ね。」
「!??
デルマ、てめぇ俺の秘密を暴こうってかっ!?
プライバシーの侵害だろ~が、こらっ。」
「プライバシーの侵害て。
勇者の世界じゃないんだから。」
私からしたら、あんまり馴染みのない価値観だわ。
とは言いつつ、口封じによる死亡率はこの世界の方が圧倒的に上だから、恐ろしいのだけれど。
「つ~かデルマ、クロ!!
これ以上、俺を詮索するのはやめろおっ。
マジで秘密が暴かれそ~で、嫌なんだよ・・・。」
「え~・・・。
ど~せヴェリアが只者じゃない事くらい、もうばればれでしょ・・・。
無理に自分を隠そ~としなくても。」
「黙れ、黙れ黙れーーーー!!!!」
「・・・そ~怒鳴らないでちょ~だいよ。
わかった。
わかったから・・・。」
・・・エミリーが面倒な気分になるのもわかる気がする。
「あ~、なんだよデルマっ。
その面倒臭そうな顔は・・・。
それにクロも毎度、俺が近くにいるのをバラしてんじゃね~よ。
ちったぁ大人しくしやがれっ!!」
「・・・しょ~がないわねぇ。
クロ。
これからはヴェリアが傍にいても、知らんぷりしてなさい。」
「?~。
なんで~。」
「ヴェリアはね・・・。
とっても恥ずかしがり屋さんなの。
だから隠れてるのをバラされると、恥ずかしくてしょ~がないんだって。」
「そっか~。
わかった~♪」
「おいこらっ!!」
なんか彼女とは腐れ縁になりそ~だからね。
あんまし険悪な関係になるのも好ましくないわ。
害がないなら多少の我儘くらい、受け入れてあげましょう。
「でもさすがに黙ってると危ない!!
って時は遠慮なく言ってちょ~だいね。
ヴェリアもそれくらいは構わないでしょ?」
「ちっ。
しゃ~ね~なぁ。」
「は~い。」
ま~暴走形態でもない限り、ヴェリアが私達に害を加える事はないと思うけどね。
普段の彼女は善良とまではいかなくても、口の悪さほど悪辣にも見えないし。
「ヴェリアったら、相変わらず面倒臭い女ねぇ。
思春期なんて、こんなものなのかしら?」
「るせ~、クソ聖女が!!
・・・ケッ。」
あ、飛んでちゃった。
「ヴェリア!?
もう、君達ったら容赦ないんだから。
やっぱり、彼女と一緒に旅するのは嫌かい?」
「絶対に嫌とまでは言いません。
勇者様がど~してもと望むのであれば、受け入れましょう。
ただそれでも彼女が危険な力の持ち主である事には変わりません。
それは忘れないで下さいね。」
「危険な力の持ち主・・・か。」
「あんな力さえ持っていなければ、なんら警戒する必要はないんですがね。
もちろん人間と魔族のハーフってだけで、厄介事の種にはなるでしょ~が。
ただそのくらいなら勇者様がトラブルから愛されている以上、些細な誤差です。」
「だから俺をトラブル発生機みたいに言わないでくれよっ。
もう、王女ったら。
・・・。」
別に勇者が悪くないのはわかってるんだけどね。
わかってても、あまりもの愛されっぷりに突っ込まずにはいられなくて。
「あたしはどっちでもい~よ~。
ヴェリアさんと一緒でも、そ~じゃなくても。」
「その言い方もちょっと酷いなぁ。」
なんか良くも悪くも強くは意識してない感じね。
クロからすればヴェリアはちょっとした知り合い程度なんでしょう。
「ま~、テンイがど~してもって言うんなら、止めないけどさぁ。
出来れば勘弁かしら。」
「エミリーの場合はそうかもしれないわねぇ。
正妻を巡るライバルの登場だもの。」
「こらこら。」
勇者に嫌われてる(?)私と、お子様のクロじゃライバルとは言えないからね。
「そんな理由で渋ったりなんかしないわよ。
強力なライバルなんて、今更だし。」
?
「もちろんハーフだとか、力が強すぎるとかさぁ。
んな事をウダウダ言う気もないわ。
ただど~してもあの態度がねぇ。」
「え~っと、つまりヴェリアが偉そうにしてるから嫌なの?」
「そ~じゃなくて、あんだけ強い癖にね。
悲劇のヒロインぶってうじうじしてるとこが、ヤなの。
私がヴェリアのよ~に強かったら、どんなクズだって力尽くでぶっ飛ばしたでしょ~に。」
「さすがエミリーだわ。
思考回路が闇聖女そのものね。」
ただエミリーの過去から察するに、きっと彼女はヴェリアのよ~な力が欲しかったんでしょう。
そんな彼女からしたら、ヴェリアの態度はもどかしく映っちゃうのかしら?
「なるほどね・・・。」
「ただどちらにせよ、まだヴェリアをハーレム要員に加えるのは難しいですよ。
彼女自身、勇者や私達の事を測り兼ねてる感じですから。」
「うん・・・。
って、言い方っ!?」
?
勇者ったら、何を怒ってるのよ。
「そんな事よりプレン国が見えてきましたよ。」
「そんな事よりって。
まったく、君って奴は。」
何故か困り果ててる勇者はさておき、こうして私達はプレン国へ辿り着いたの。