第155話 第4のハーレム編㉑ アビスとの契約
アビス様は便利すぎるため、召喚し放題とならないよう、少々制約を付けましたw
今回の騒動でも大活躍だったアビス様。
けれど迂闊に召喚すると、大事なお役目の邪魔になっちゃうかも・・・。
って、問題が発生したわ。
だからダメ元でこう提案したの。
「簡単な話です。
勇者様とアビス様が契約を結ぶ事で、今回のような一件は解決します。」
と。
「ほう?」
「ねえ、王女。
それってどゆ事?」
「はい。召喚魔法でアビス様を呼び出しても、それは一時的な繋がりに過ぎません。
ですが正式に契約を結ぶ事で、アビス様と特別な繋がりが生まれるのですよ。
例えるならば、騎士とその愛馬のような関係になるって所ですかね。」
「なるほど・・・。
なんとなくイメージは出来たけど、契約を結ぶ事で何のメリットがあるんだい?」
「いくらでもありますよ。
・・・そうですね。」
最大のメリットは、その気になればどれだけ離れていても、意思疎通が可能な点かしら。
『テレパシー』の魔法を使った時のように、ね。
互いの視覚を共有する事も可能だから、召喚する前にアビス様の状況を確認出来るようになるわ。
あと勇者がアビス様に力を分け与える、逆にアビス様から勇者が力を授かる、なんて芸当も可能よ。
それ以外にも契約を結ぶ事で様々なメリットがあるの。
「へ~・・・。
良い事だらけじゃん。
そもそもそれのどこが『失礼な方法』なの?」
「いやいや。いくらなんでもアビス様を愛馬同然に扱うなんて、あんまりにも失礼ですよ!!
アビス様は神の使いとしてこの世界を見守ってきたエンシェントドラゴンなんですからっ。
本来なら気軽に会話するだけでも、恐れ多い程です。」
「あっ!?
そ~だね。神の使い云々ってのは、いまいちピンとこないけどさぁ。
それでも人と同じ感覚で話せる相手に主従関係を迫るなんて、失礼にも程があるか。」
「ですね。
まあこの手の契約は『主従を結ぶ』と言うより『一心同体に近い状態となる』ものなのですが。」
失礼と言えば、お手軽にホイホイ召喚してる時点で失礼なんだけどね。
もっともアビス様はその立場や口調に反し、あまり偉そうにしない上、割かしノリも軽いからねぇ。
だから召喚されるくらいなら、平然と受け入れて下さるわ。
でもさすがに正式な契約なんて、承諾する訳が・・・。
「面白そうではないか!!
我は一向に構わぬぞ。」
「えーーーーっ!!??
いやいや、アビス様。
本当にそれで良いのですか!?
あなたはエンシェントドラゴンなのですよ?
ほら、誇りとかプライドとか、そういう問題は・・・。」
「互いに利があるならば、我の誇りなど些細な問題ではないか。
のう、デルマよ。」
「うっ!?」
・・・なんかついさっきのやり取りをダシにされた気分。
「それにテンイの人となりはもうわかっておる。
其方なら我を蔑ろにする事もなかろう。」
「もちろん蔑ろにする気はないけど。」
「ならば決まりだ。
すぐにでも契約を結ぼうではないか。」
随分あっさりと話を進めるわねぇ。
「でもさ、王女。
契約って、どうすれば結べるの?」
「召喚に関する書籍によると、互いが触れあった状態で『契約を結んで欲しい』と願うだけで良いそうですよ。
それを相手が了承すれば、契約が成立するとあります。」
私も実際にやった事はないんだけどね。
互いの信頼関係さえあれば、そんなに難しくはないようだけど。
「わかった、やってみるよ。
アビス。」
「うむっ。」
勇者とアビス様が互いに触れあい、そして心の中で契約を交わす。
すると、2人から淡い光が放たれたの。
「これで契約は終わり?
・・・うおっ!?
喋ってもないのにアビスの声が!!
・・・・・・・・・・・・。」
「我もテンイの声が聞こえるぞ。
どうやら契約は成功したようだな。」
「テンイったら、まさか本当にアビス様と契約しちゃうなんて。」
「はわ~・・・。
よくわかんないけど、すご~い♪。」
エミリーやクロも驚いてるわね。
というか提案した私も正直、驚いてるわ。
「さて・・・と。
まだ我には戦後の後始末が残っている。
悪いが、ここいらで帰らせてくれぬか?」
「あ、そうだね。
忙しい所、ごめんねアビス。」
「気にするでない。
だが少しの間、我は忙しい日々を過ごす事になりそうだ。
申し訳ないが、数日ほどは召喚に応えられぬかもしれぬ。」
「それは仕方ないよ。
むしろ都合が付けば、力を貸してくれるだけでも、凄くありがたいし。」
それはそうなのよね・・・。
召喚者とその魔物というスタンスで見るなら、勇者とアビス様の関係はおかしなものかもしれない。
でも対等な仲間として見るなら、都合が付かず力を貸せない時もある。
・・・なんて珍しい話じゃないからね。
「じゃあね、アビス。」
「うむ。さらばだ。」
こうしてアビス様は元の場所へ帰って行った。
「あ、そうだ。勇者様。
正式に契約した相手を召喚する時はこう魔法を唱えて下さいね。
『コントラクト・1・サモン』と。
魔法の名称が変わるだけで、使用感覚はこれまでと同じです。」
「なるほど。
契約する事で魔法名まで変わるんだね。」
勇者とアビス様が正式な契約を結ぶ・・・。
実はとんでもない大事なのだけど、こんなにあっさり行われちゃってい~のかしらね~。
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「しっかしテンイと一緒だと、ほんっとうにとんでもない騒動にばっか巻き込まれるわねぇ。」
「さすが勇者様です。」
「俺のせいにしないでよっ。
というか王女!!
それ、皮肉でしょ・・・。」
あれから私達はあの町に戻る事なく、そのまま目的地のチュウオウ国へ向かって足を進めているわ。
・・・今更だけどアビス様にチュウオウ国まで運んで貰うって手もあるのよね。
ま~、旅路の中で勇者を元の世界へ戻す手掛かりが見つかるかもだしね。
それを考えると、わざわざ提案する程でもないかしら。
「・・・・・・。
そう言えば、さ。
今頃、ヴェリアはどうしてるんだろう?」
思考に耽ってると、勇者が寂しそうな顔で呟く。
ヴェリアは他の魔族のように故郷へ帰らなかった。
でもいくらマサヨシ達の態度が軟化したとは言え、彼らの元へ戻ってるとも思えない。
一体、どこをどうしてるのやら。
「ヴェリアさんなら、その木の陰にいるよ~?」
「「「え″!??」」」
「馬鹿野郎!!
バラすんじゃねぇ。」
クロが雑談感覚で衝撃の事実を告げ、それに釣られてヴェリアが現れちゃった!??
「マジでクロの『索敵』は面倒だなっ。」
別に敵意はなさそうだけど。
「ヴェリアったら一体、何の用かしら?」
「・・・知らないわよ。
ストーカーの考える事なんて。」
「誰がストーカーだ!?
このクソ聖女がっ。」
エミリーってば、本当に口が悪いんだから。
けれどヴェリアは闇聖女の暴言に反発しつつも、もじもじするばかりで何もしようしない。
?・・・。
「・・・・・・。
もし良かったらさ、ヴェリア。
俺達と一緒に旅をしないかい?」
へ?
「ハッ、誰がお前らなんかと慣れ合うか!!
俺はお前のハーレム要員になる気はねぇ。
ハーレム野郎なんぞになびく、お手軽女と一緒にすんなっ。」
「ねえ、ちょっと!?
断るのは良いけど、変な誤解しないでっ!!」
「?~。」
異世界人のハーレム要員って、お手軽女なのかしら?
今一つピンとこないわ。
「ま、お前らに礼くらいは言ってやろうと思ってなぁ。
俺の手の平で踊ってくれて、ありがとうってよっ。
・・・ククク。」
「そのお礼の言い方はど~なのよ・・・。」
「まあまあ。
きっとヴェリアの照れ隠しだよ。」
「ちゃうわっ!!」
・・・もうこの反応からして、照れ隠し以外の何者でもないよ~な。
「・・・・・・。
じゃあな。」
「あっ!?
ヴェリアさん、いっちゃったね~。」
ヴェリアなりに私達へお礼を言いたかったのかしら?
「また会えるさ。
きっと。」
「そ~ですね。
なんとなくですが、私もそんな気がします。」
それも割とすぐに再会出来そうな気がするの。
なんでかしらね・・・?
「相も変わらずテンイには変な女ばっか寄って来るわね。」
「酷くない!?」
自分の事を棚上げするエミリーはさておき、私達の冒険はまだまだ続くわ。
今回の話をもって「第4のハーレム編」は終了です。
・・・どうしてこんなに長くなってしまったのかw
次のエピソードからはもっとコンパクトにしたいものです。