第152話 第4のハーレム編⑱ 召喚魔法の欠点
異質な姿へ変貌し、全てを破壊せんと暴走する魔族ヴェリア。
しかしチート能力を持つ勇者がランク1のスキル『強化』を使い、仲間と力を合わせて、彼女の暴走を抑えたの。
これにて一件落着・・・と言いたい所だけど、まだまだ問題は山積みよ。
「勇者様。
『強化』の効果が切れるまで、くれぐれも人に触れてはいけませんよ?
握り潰しちゃいますからね。」
「握り潰すだなんて、んな大袈裟な。
・・・あっ?」
軽い態度でなんとなしに地面の石を拾おうとするも、拾うどころか砂粒のように握り潰しちゃう勇者。
「ハイ。
キヲツケマス。」
「まあ『強化』の効果は10分程で消えますから。
それまでの辛抱ですよ。」
なんたって勇者の『強化』は暴走状態のヴェリアと渡り合える程だからねぇ。
ランク5のスキルの使い手すら、体一つで圧倒したあのヴェリアと・・・。
「それはともかく、まずは重傷者の応急処置をしなければ。」
「そうだね・・・。
エミリー。
お願い!!」
「はいはい。
クロ。
誰か死んじゃいそうな人がいないか、見つけてくれない?」
「あ、は~い。」
そしてクロを助手にエミリーは重傷者への応急処置を始めたわ。
クロの『索敵』に頼れば、気配の強弱で手っ取り早く重傷者を探し出せて便利ね。
「・・・。」
そんな感じであれこれ動いている私達をね。
ヴェリアがどこか呆然とした様子で眺めていたわ。
もうヴェリアが暴れ出す様子はないけど、彼女が誰かと目を合わせた途端・・・。
「「「ひっ!?」」」
異世界人もそのハーレム要員も魔族も関係無く、恐怖のあまり涙目になっちゃう程よ。
今のヴェリアに恐怖を抱いてないのは私、勇者、エミリー、クロの4人だけ。
「・・・またやってしまったのか?
またやってしまったのか!?
俺は・・・。」
「ヴェリア・・・。」
「・・・所詮、俺はこうなる運命だったんだな。
ハハッ。」
子供達からも怯えられてしまい、ヴェリアはいたく傷付いた表情で項垂れている。
「な~にがこ~なる運命よ?
キレ散らかした奴がドン引きされるなんて、当然の事じゃない。
お~げさな・・・。」
「こらっ、エミリー!!
ダメだよ、そんな言い方しちゃあ。」
・・・まあそうっちゃそうなんだけど、闇聖女ったら相変わらず辛辣ねぇ。
でも呆れ果てたエミリー以外、そんな軽口を叩く余裕すらなく、辺りは静寂で包まれている。
けれど黙ってばかりじゃ、話が進まないわ。
「では勇者様。
魔族に関してはアビス様を召喚して、どうにかしてもらいませんか?」
「エンシェントドラゴン、アビス!?
・・・なるほど。
己の手を汚せないなら、かの方に魔族を始末してもらおう・・・。
そういう算段ですね?」
「「「「「「「「なっ!??」」」」」」」」
「あのね、ユキ・・・。
勝手に物騒な解釈するの、止めてくれない?
そんな事を頼む気なんて、さらさらないから。」
魔族が憎いからか、NINJAの性なのかは知らないけれど、物騒な事ばかり言うんだから。
ユキってば。
「ま~王女がそんな事を考える訳ないよね。
けどじゃあ、アビスを呼んでどうする気だい?」
「それはですね。
アビス様の力で魔族を帰そうと思ったのですよ。
彼らの故郷、ブラック・アイランドへ。」
「あ、なるほど。
確か魔族ってそ~いう名前の孤島で暮らしてるんだっけ。」
早い話が魔族を強制送還しちゃおうって訳ね。
「・・・俺達を故郷へ帰すだと!?」
「その方があなた達にとっても良いはずよ。
このままここに残り続けた所で、きっとまた人間と衝突しちゃうでしょうし。」
「そ~だね・・・。
なんか悲しいけど、それが一番マシなのかもね。」
「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」
魔族に動揺が走るも、私の提案に反対する気は無さそうね。
・・・以前、出会った魔族のように人間と分かり合える魔族ばかりじゃない。
分かり合えないなら、互いに住み分けた方が無益な衝突を減らせるでしょう。
むしろ魔族よりも、マサヨシやユキ達の方が不満げに顔を歪ませてるわね~。
だけどエミリーが回復したといっても、あくまで死なない程度のもの。
まだ彼らは満足に体を動かす事も出来ないわ。
そんな状態でしかもヴェリアがいる以上、黙ってるしかないようね。
「よしっ、じゃあ善は急げだ!!
エンシェントドラゴン・サモン!!」
こうしてアビス様を召喚する勇者だけれど・・・。
「って、えーーーーっ!!??
何、これぇ・・・。」
「・・・う、ぐ。
テンイ、か。」
なんか召喚したばかりなのにアビス様、傷だらけで息も絶え絶えじゃない!?
「すまぬ、テンイよ・・・。
我は今、世界の命運を掛けた大事な戦いの最中なのだ。
用があるなら、あと15・・・いや、10分で良いから待ってくれぬか?」
「あわわわ・・・。
ゴメン、アビス!!
そんな大事な戦いの途中で呼び出しちゃって!!」
「・・・いや、トドメを刺される寸前だった故、むしろ助けられたくらいよ。
しかしまだ同士達が命を賭して、戦い続けてるのだ。
頼む。我を元の場所へ帰してくれっ!!」
「わ、わかった!!
すぐに帰・・・。」
って!?
「ダメです、ダメです!!
勇者様っ。
まだアビス様を帰してはいけません!!」
雰囲気に飲まれて、アビス様の言いなりになっちゃダメよ。
「・・・・・・。
いくらテンイの仲間とて、そなたの都合に従う義理などない・・・。
邪魔は許さぬぞ!!」
きゃっ!??
そう凄まないで欲しいわ。
「そうだよ、王女!!
だってアビスは大事な戦いの最中なんでしょ?
邪魔しちゃダメだよ。
10分くらい、待ってあげようよ・・・。」
「・・・別にアビス様の邪魔をしたい訳じゃありませんよ。
けれど大事な戦いの最中だからこそ、帰す前にすべき事があるじゃないですか。」
「「?・・・。」」
勇者はあわてんぼうなのが玉に傷ね。
アビス様もいくら大事な戦いの最中だからって、頭に血が上りすぎよ。
「エミリー、お願い!!
アビス様を回復してあげて!!」
そうよ。
大事な戦いの最中だからこそ、傷だらけの状態で帰しちゃダメよ。
可能な限り、治療を施してから帰さないと。
「うわっ!?
何を騒いでるかと思ったら、アビス様ってば酷い傷ね~。
ま、い~わよ。ちょうど応急処置も終わったとこだしね。」
「うんっ。
もう死んじゃいそうな人、いなくなったよ~♪」
私の呼びかけに応じ、エミリーがクロを連れてアビス様の元までやってくる。
「じゃさっそく・・・。
ヒール!!」
そしてエミリーの回復魔法がアビス様の傷を癒す。
「・・・勇者様、アビス様。
こうする方が双方にとって都合が良いのですよ。
アビス様は戦いを有利に運べ、私達はアビス様を失うリスクを減らせる訳ですから。」
「そんなビジネスライクな言い方はど~かと思うけど・・・。
でも確かに大事な戦いの最中だからこそ、傷を癒してから帰した方が良いよね。」
「・・・。」
アビス様も納得してくださったのか、大人しくエミリーの治療を受けてるわ。
「う~ん・・・。
でもちょっと困ったわねぇ。」
「へ?」
「いやね、さすがはエンシェントドラゴンと言うべきか・・・。
人と比べて生命力がありすぎる上、相当な重傷だからさぁ。
完治するまで時間が掛かりそうなの。」
・・・そうなんだ。
性格はともかく、その力は聖女に相応しいエミリーにそう言わせるなんて、さすがはアビス様ね。
「・・・良い。
もう我は十分回復した。
あまり時間を取る訳にもいかぬ故、ここいらで帰して欲しい。」
「本当は完治させるのが望ましいですが・・・。」
「そ~も言ってられない時だってあるわよ。
しょ~がないわ。」
確かに治療に時間を掛けすぎて、大事な戦いに支障が出ても本末転倒だからねぇ。
こればかりは仕方ない、か。
「わかった。
もうアビスを元の場所へ帰すよ。
ごめんね・・・。
邪魔しちゃって。」
「気にするな。
では10分後にまた会おう。」
そしてチラリと私を見た後、アビス様の姿は消えてったわ。
別に怒ってる感じじゃなさそうだったけど、流石に失礼過ぎたかしら?
だけど失礼だからって、言うべき事を喋らないのもよくないからね。
「だけど世界の命運を掛けた戦いって、なんなんだろう?」
「さあ・・・。
どうやらアビス様は勇者様の世界で言う『中二病』的な気質があるようです。
きっと大袈裟な表現をなされたんでしょう。」
「そんな言い方したら、アビスに怒られるよ?」
ただそれでも、アビス様なりに負けられない戦いの最中だったのは事実なんでしょうね。
・・・世界の命運云々の真相はともかく。
「アビス様をまた呼び出すのは10分・・・。
いえ、念のため15~20分後くらいにしましょうか。」
「そだね。」
今回に関しては、1分1秒を争う事態とまではいかないしね。
しかし待ってる間、他に出来る事はないかしら?
「ねぇ、エミリーお姉ちゃん。
お願い、お父さんをもっと元気にしてあげて!!」
えっ!?
シファ・・・。