第150話 第4のハーレム編⑯ 助けたい相手
異世界人と魔族の抗争の末、全てを圧倒する程の力を覚醒させたヴェリア。
彼女はたった1人で異世界人を瀕死にまで追い込んだの。
仲間である魔族すら巻き込みながら、ね。
「!!??
あ・・・あ・・・。」
「・・・。」
そして更にはボロボロの父親に縋る、魔族の子供シファにすら手に掛けようとしたわ。
「・・・。」
ま・・・まずいわっ。
早くなんとかしなきゃ。
え~っと、え~っと!!
ダメっ。
焦って頭が回らない。
「・・・うっ、ううっ。
逃げ・・・ろ・・・。」
えっ?
「ヴェリア・・・お姉ちゃん?」
「早く・・・俺から・・・離れろ・・・。
・・・お前にまで、手を掛ける前に、早くっ!!」
変貌する前のヴェリアへ戻った?
だけどまた冷酷な彼女へ戻るのも時間の問題よ。
だからお願い、シファ。
早く逃げて!!
「うがぁああああああああ!!!!!!!!」
「やめろぉおおおおおおおおお!!!!!!!!」
勇者!!??
シファを助けようとしたのか、なんと彼は魔法もスキルも使わず、不殺の剣1つでヴェリアに突撃したの!!
って、あまりにも無茶過ぎるわよっ!!
今のヴェリアはランク5のスキルの使い手だって、生身で返り討ちにしちゃうのに・・・。
「・・・邪魔だっ!!」
「うわぁああああああああ!!!!????」
案の定、軽く振り払われただけで、勇者は勢いよく弾き飛ばされたわ。
このまま壁にぶつかりでもしたら大怪我よ!!
「強化!!」
だから私は咄嗟にランク1のスキル『強化』を使い、彼を受け止めた。
彼に怪我らしい怪我が無いのは、何よりだけど。
「あっ!?
クロったら、いつの間に・・・。」
「えっ!?」
続いて少し目を離した隙にクロがシファとそのお父さんの元へ駆け寄っていたの。
シファ達を救助するためなんでしょうけど、なんて無茶を・・・。
「・・・。」
「・・・。」
だけどクロは豹変したヴェリアの冷酷な瞳に全く怯む事なく、力強い瞳で見返している。
彼女がほんの少し、力を解放しただけで命を落としかねないのに・・・。
「・・・。」
そのまま無言で私達の方へ振り向き、シファの父親を運びながらこちらへ戻って来るクロ。
そんなクロに付いて来るシファ共々、ヴェリアが手を出す事はなかったの。
彼女の標的は既にマサヨシへ移っている。
「もう・・・。
クロもだけど、勇者ってばなんて無茶な真似を!!
下手すれば、命を落としていたかもしれないんですよ!?」
ハーレム要員が転移勇者を本気で叱りつけるだなんて、許される事じゃないと知りつつも、注意せずにはいられないわ。
いくらなんでも自殺同然の行為を咎めない訳にはいかないもの・・・。
「だって、助けなきゃ・・・。」
「助けなきゃって、シファ達をですか?
それともマサヨシ達の事ですか?」
私の問いに勇者は決意を込めた瞳でこう返す。
「ヴェリアを助けなきゃ!!」
・・・へっ!?
「あの~・・・。
今のヴェリアは被害者ではなく、加害者ですよ?
血に飢えた獣となんら変わりませんよ??」
「違うっ!!
彼女は本当は優しい子なんだ・・・。
あんな風に変貌する前は誰一人傷付けないよう、必死だったんだ!!」
・・・え~っと、そうだったかしら。
・・・・・・。
「・・・確かに言動を度外視すれば、そうとも取れますね。
あれ・・・?
ヴェリアって、本当に優しい子だったの!?」
「『本当は優しい子』だなんて、本気ですか!?
同じ魔族すら、容赦なく傷付けるような方が優しい子だなんて、絶対にありえません!!」
だけどマサヨシが殺され掛けた事に大層、ご立腹なのかユキが猛反発する。
「でも俺にはわかる・・・。
今の彼女はただ力に・・・心に振り回されてるだけなんだ。
本当は誰も傷付けたくないんだっ。」
「勇者・・・。」
どうして勇者はそこまでヴェリアを・・・。
「だからお願い、王女!!
ヴェリアを止める方法を考えてよ!!
これ以上、彼女が誰も傷付けないように・・・。」
えーーーーっ!!??
そんな方法があるかと言われたら・・・。
・・・まあ。
「一応、彼女を止める策も無くは無いですよ。
成功するか怪しい上、とても勇者様が納得するとは思えない方法ですが・・・。」
「・・・それってまさか、子供達を盾にヴェリアへ迫るとかですか?」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
えっ!?
「あのねぇ。んなやり方を選んでも逆効果よ。
だって今のヴェリア、いくら冷酷そうに見えてもその実、メンタルがぐちゃぐちゃだもの。
下手しなくても子供達ごと、殺されかねないわ。」
私はユキの言い掛かりをきっぱりと否定する。
「よ・・・良かったぁ。
・・・でも王女。
もし効果的なら、子供達を人質にする作戦を取る気だった?」
「へ・・・?
う~ん、ま~怪我を負わしたりするのは論外だとしても・・・。
それで事態が丸く収まるなら、それも有り・・・。
・・・いえ、やっぱり子供達の心に悪いかしら?」
「悪いに決まってるじゃないか!!
もう・・・。
そんな安易に邪道へ走っちゃ、ダ~メっ。」
・・・そんな事、言われてもねぇ。
「で、俺が納得いかないかもしれない方法ってなんなのさ?」
ユキのせいで話が脱線したけど、改めて私は策の説明を始める。
「はい。
ヴェリアにあらゆる悪い効果を治す魔法『オール・リフレッシュ』を使うのです。
上手くいけば、暴走した彼女を元に戻せるかもしれません。」
「ええっ!?
いや・・・。
魔法を使うの自体はい~けど、使われる前に殺されるのは御免よ。」
「わかってるって。
エミリー。
あなたを警戒したヴェリアが、魔法を発動させる前に襲撃しないとも限らないしね。」
ま~案外、やれるものならやってみろ的なノリで、素直に魔法を受けてくれる可能性も低くないと思うわ。
でもなんかされる前に殺してしまえ、的な感じで襲われる可能性も0じゃない。
故に無策でエミリーの魔法に頼るのはリスクが大きい。
「だから力尽くでヴェリアの動きを抑えた後、あなたの魔法を使うのよ。
そうすれば、彼女に反抗される心配無く『オール・リフレッシュ』が使えるわ。」
「・・・なるほど~。
って、ど~やってヴェリアの動きを抑えるつもりよ・・・。
ランク5のスキルですら、全然通じないのにさぁ。」
「そ~だね。
ど~やって、ヴェリアの動きを抑える気だい?」
そこで勇者の出番よ。
「『強化』です。
勇者様、あなたが『強化』を使って、ヴェリアを力尽くで抑えるのです。
そう・・・例えるならば、注射を嫌がるお子様を強引に押さえつける親の如く。」
「その例えはどうなの!??
・・・でもなるほど。
君の狙いはなんとなくわかったよ。」
「今までの勇者様の戦いを見る限りですね。
例え、ランク1のスキルである『強化』でも、あなたが使用したならば・・・。
ランク5の攻撃さえ、弾き飛ばせる程に肉体が強化されるでしょう。」
「!!!!
あまりにも非常識な話ですが、テンイさんの噂が真実ならば、あながち戯言ではないのかもしれません。」
そして今回の勇者は既に私が『強化』を使ってる所を見ているわ。
だから彼がその気になればいつも通り、見様見真似で『強化』を使えるはずよ。
「・・・普通にまともそうな案じゃん?
なのになんで俺が怒ると思ったんだい??」
「あのですねぇ・・・。
今のヴェリアの実力は未知数ですよ?
仮に勇者様が『強化』を使おうが、力尽くで抑えられる保証なんてありません。
なんだったら殺される可能性すら、考えられるくらいです。」
「・・・。」
そうなのよ・・・。
私の案は勇者にとって、あまりにリスクが大きすぎる。
はっきり言って、勇者に尽くすべきハーレム要員が出すべき案じゃないわ。
「・・・こんな案に頼るよりは、素直にヴェリアの前から逃げ出す方がまだマシです。
今なら子供達くらいは共に連れ出せるでしょう。
さすがに全員を助け出すのは不可能でしょうが。」
「そんなっ!?」
ユキの悲痛な叫びに心が痛むけど、それでも大人しく逃げるのが勇者にとって最善だと思うの。
多分だけれど、ヴェリアは勇者や子供達に関してはそれほど強い殺意を抱いてない。
全力で離れてしまえば、追い掛けてまで殺そうとはしないはずよ。
・・・もっともボロボロの魔族はともかく、異世界人はまず助からないでしょうけどね。
特にマサヨシに対しては、死にそうなのにも関わらず、トドメを刺したがる程度には怒り狂ってるしさ。
「お願いします、テンイさんっ。
マサヨシ様を助けてっ!!」
それを理解していながらも、ユキが勇者へ懇願する。
けれどいくら彼が善良だとしても、命を危機に晒してまで、ヴェリアを止めようだなんて、考えるはずないわ。
考えるはずないからこそ、やや不安を抱きつつも、私はあんな案を出し、そのリスクもしっかり説明したの。
これなら例え勇者でも、迷う事なく逃げの一手を選ぶはずよ。
「わかってるよ、ユキ。
俺は『強化』を使い、ヴェリアを止めてみせるっ。
これ以上、誰も傷付けさせる訳にはいかないんだ!!」
・・・って。
Σ(゜Д゜;エーーーーーーーーッ!!!!!!!!
「テンイさんっ!!」
「よしっ、行くぞっ!!」
「『よしっ、行くぞっ!!』
じゃ、ありません!!」
私は慌てて勇者の腕を取り、待ったを掛ける。
実はすこ~しだけ『危険を承知で突撃するかも・・・』なんて、不安を抱いてたわ。
抱いてたけど、まさか本気でヴェリアに突撃する道を選ぶなんて。
「ダメですって!!
勇者様・・・。
怪我じゃ済まないかもしれないのですよっ!!」
「・・・だけどっ!!」
「そもそもどうして勇者様はそこまでヴェリアに拘るのです?
ヴェリアなりに必死だったとは言え、私達を騙し、利用していた彼女にどうして・・・。」
勇者は単に美少女だから、なんて理由じゃ説明が付かない程、ヴェリアに執着している。
つい最近、出会ったばかりな上、私達を騙す気満々だった彼女にどうして・・・。
「俺が彼女の立場だったらさ・・・。
きっと止めて欲しいと思うんだ。
誰も傷付ける事がないよう、止めて欲しいと思うんだ。」
えっ!?
「どんなに人並外れた力を持っていたとしても、さ。
本当は誰も傷付けたくないんだよ・・・。
俺も・・・そしてヴェリアも!!」
「勇・・・者・・・。」
「そんなヴェリアを止められるのは、きっと俺だけなんだ。
・・・だからお願い、王女。
行かせてくれっ。」
勇者の言葉を聞いた私は、いつの間にか彼の腕から手を離していた。
強引に振りほどかれた訳じゃないにも関わらず・・・。
「行くぞ・・・。
強化!!」