第144話 第4のハーレム編⑩ NINJAの暗躍
「俺のおかげでガキ共は助かったんだ・・・。
だったら俺の言い分くらい、聞いてくれても良いよなぁ?」
「「「「「「「「なっ!??」」」」」」」」
なんとヴェリアの正体は魔族・・・。
しかも人間と魔族のハーフだったの。
そして本性を現した彼女は他の魔族へ己の要望を突き付ける。
「言い分?
ヴェリア、あんた何を企んでるのよ・・・。」
「ハッ。
別に大した事じゃね~よ。
単にガキ共を連れて、ここから出て行けっつってんだ。」
えっ?
「・・・延々とマサヨシ達に突っかかられても迷惑なんだよ。
ど~せ勝ち目がね~んだし、戦う意味もね~んだからなぁ。」
「で・・・ですがっ!!」
「ですがじゃねえっ!!
あんまり聞き分けが悪いようなら、俺が代わりにてめえらをボッコボコにしてやろうかぁ?」
「「「ぐっ!!」」」
それって、つまり・・・。
「ねえ、ヴェリア。
あなた、最初から魔族とグルだった訳じゃないの?」
「あ~?
ちげ~よ。
元々、俺はな・・・。」
私の問いにヴェリアは自らの事情を話す。
以前、彼女自身が話した通り、つい最近マサヨシのPTに加わったってのは本当のようね。
その時点では特別な企みなんかは無かったんだって。
だけど彼らがあの町に滞在している最中、魔族の襲撃を目撃。
何事かと思い、こっそり魔族へ正体を明かした後、事情を問い質したそうよ。
で、どうして魔族があの町に固執するかはわかったけど、迂闊に説明する訳にもいかない。
彼ら・・・特にマサヨシは悪しき魔族を滅ぼす事こそ正義だって思い込んでるからね。
だから仕方なく一人、子供達を探していた所で私達と出会い、ぶりっ子しながら助けを求めた、と。
「ど~もてめぇらは相当なお人好しみて~だからなぁ。
上手く利用してやったんだよ。
だが俺の正体を知ってなお、黙って利用されてくれるとかさぁ。
マジモンのバカだよな~、笑えるぜっ。」
「その通りではあるけど、ど~にもムカつく言い方ねぇ。
やっぱさぁ。ヴェリアが魔族に囚われた振りしてたけどさぁ。
無視して、とっとと逃げた方が良かったんじゃない?
ど~せ自演だったんだし。」
「ダメだよ・・・。
結果論じゃそ~だけど、ヴェリアと魔族がグルじゃない可能性もあったんだから。」
・・・そうなのよ。
あの段階で十中八九、ヴェリアと魔族がグルな事は勇者も予想してたわ。
でも万一、そうじゃなかった時、ヴェリアの身が危ないからって。
そう思って、騙された振りして大人しく魔族の元へ付いてったの。
まったく、困ったお人好しっぷりね・・・。
「つ~か、てめえらよぉ。
なんで人間の癖に魔族にびびらねぇんだ?
世間知らずのお子様だって、俺らを見りゃあ怯えまくるってんのによ~。」
・・・あ~。
「私も少し前までは魔族の事、とても恐ろしい存在だって思ってたの。
だけど初めて会った魔族がその・・・。
見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうような人だったから、警戒する気も失せちゃって・・・。」
「・・・そんな言い方は可哀想だよ、王女。
ただ恋に向かって一直線なだけだったのに、さ。
その真っ直ぐな心にむしろ俺は尊敬したね。」
「とっても愉快な人だった~♪」
「あ~・・・。
ま~初めて会った魔族があれじゃ、警戒する気が失せるのも無理ないわねぇ。
でもあなた達、勘違いしちゃダメよ。
あれはだいぶ、特殊なケースだから。」
「あのさぁ・・・。
お前らの『初めて会った魔族』って、どんな奴だったんだよ・・・。」
あら?
なんかヴェリアや他の魔族が困惑してるわ。
いや、容姿や実力は魔族に相応しいものを持ってたんだけど、中身が・・・ね。
でも彼みたいな魔族ばかりなら、人間との諍いももっと減るでしょうにねぇ。
・・・今頃、貴族の女の子と仲慎ましくしてれば、い~けど。
「ま、い~や。
成り行きとは言え、今はあいつらが俺の潜伏先なんだ。
勝ち目もね~のに、てめえらにちょっかい掛けられちゃ~、迷惑なんだよ。
犠牲が出る前に尻尾巻いて逃げやがれ!!」
「あ・・・あなたにはわからないんだ!!
純粋な魔族じゃないあなたに我らの思いなど・・・。
人間共から虐げられる屈辱などっ。」
「奴らは俺達の子供を攫ったんだ!!
攫った奴らも、そいつらと一緒にのうのうと暮らしている輩も、そんな連中を庇う奴らもっ!!
皆殺しにせねば、気が済まぬわっ。」
「・・・へ~。
例え、返り討ちにあって、ガキ共もろとも皆殺しにされてもかぁ?」
「「「ぐっ!!」」」
話を聞く限り、ヴェリアは潜伏先(?)のマサヨシ達と魔族が争い合うのが迷惑だったみたい。
だから子供達を魔族の元へ返し、後は彼らがこの地から立ち去れば、争いも起こらなくなる、と。
そう思ってあんな行動を起こしたようね・・・。
・・・あれ?
「もしかしてヴェリアって、争いを止めようとしていただけ?」
「そうだよ!!
やっぱり、ヴェリアは良い子だったんだ。」
「はぁ?
勘違いしてんじゃね~よ、バカが。
単に鬱陶しいこいつらを視界から追っ払いたいだけだっ!!」
「あのねぇ、テンイ・・・。
これが良い子はないでしょ。」
とは言え、彼女の言い分に乗っかった方が私達にとっても良さそうね。
「どちらにせよ、早くこの場から立ち去った方が無難よ。
だって・・・。」
「結局、誰もいなかったじゃないか!!」
「だからガキの戯言になど、付き合いたくなかったのだ!!」
しかし全てを語る前に追跡者の警戒に回っていた魔族が戻って来たの。
「おいっ、貴様ら!!
結局、誰も周りに潜んでなんかいなかったぞ?」
「・・・見つかったのは精々が場違いな丸太だけ。
こんな下らねぇ茶番に巻き込みやがって!!」
場違いな丸太・・・?
「ねえねえ、クロ。
あなたの感じた気配って、名前がわからないだけで、出会った事がある人なんでしょ。
誰の事だかわかる?」
「ん~っと、ん~っと・・・。
・・・・・・あっ!?
確かマサヨシさんの後ろにいた女の人!!
あの人の気配だった~♪」
「マサヨシの後ろにいる女・・・?
ああ、ユキの事か。」
「・・・ねえ、デルマ。
クロがそこまではっきり答えられる時点であの場にユキがいたの、ほぼ確定じゃない?」
うん、そうね。
すっごくマズイ状況だわ・・・。
「あのさぁ、ヴェリア。
ユキって一体、どんな女の子なの?」
「あいつか?
地味な割に案外、油断ならね~感じだな。
手裏剣やくないを使って、魔物共を蹴散らしてる所も見たぜ?」
「へ~・・・。
なんだかくノ一みたいでカッコ良いなぁ。」
マズイ、マズイ、マズイ!!
「大変です、勇者様!!
彼女はきっとNINJAと呼ばれる存在です・・・。
私達はまんまとしてやられたのです!!」
「に、NINJAだってぇ?」
「はいっ。
諜報や偵察を得意とし、場合によっては暗殺なども生業としている人々の事です。
彼らの暗躍により、強国すらも翻弄されるケースがあると聞きます!!」
書籍によると、NINJAはそれはそれは厳しい修練を積まなければ、一人前になれないとあるわ。
でもその分、独特なスキルを多数扱え、敵に回すとこの上なく恐ろしい存在とも伝えられているの。
にしても、まさかマサヨシの側に控えてた女の子がNINJAだったなんて。
「諜報や偵察が得意って・・・。
マズいじゃん!!
このアジトの場所、マサヨシ達にバレちゃったんじゃない!?」
「んなっ!?
おい、てめえらっ!!
グズグズしてね~で、ガキ共連れてとっとと逃げろっ。
マサヨシ達が・・・異世界人共が攻めて来るぞ!!」
「ちょっと待って下さい。ヴェリア様!!
あんな人間共の戯言なんか、信じられません!!」
だけど魔族は私達の証言が信じられないのか、動揺こそすれ、受け入れようとはしない。
「・・・そんなに私達を疑うなら、あなた達自身で確かめなさいよ~。
誰かサーチ系の魔法の使い手くらい、いるでしょ?」
「ちっ。
どうせ無駄だが、そこまで言うなら試してやろう・・・。
サード・サイン・サーチ!!」
苛立ちながらもエミリーの提案を受け入れ、魔族の1人がランク3の探知魔法を使う。
クロほど探知したものを正確に把握出来なかったとしても・・・。
「・・・・・・・・・・・・。
なっ!?
あ・・・あ・・・。」
「おいっ!!
どうした!?」
「来る・・・。
大勢の人間が俺達のアジトに向かって、物凄い速度で近づいてやがる!!」
「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」
多数の何者かが近づいてるとなれば、それが異常事態である事くらい、理解出来るはずよ。
「・・・マジかよ、おい。
だがよ、これでわかっただろっ。
だから早く・・・。」
「・・・嫌です。
我々は逃げません・・・。
ここで逃げても同じですから!!」
「人間共の襲撃なんか、返り討ちにしてやらあっ!!」
「ざっけんな、おい!!
いい加減にしね~と、ぶっ殺すぞ!!」
でも私達の発言が事実と知った今でも、魔族は逃げようとしない。
むしろ人間なんて返り討ちにするんだと息巻いてるわ。
「勇者様、皆!!
私達も急いでこの場から離れましょう!!」
「で・・・でもっ!!
じゃあ魔族は・・・。
子供達はどうなるの!?」
「それは・・・。」
そして私達も咄嗟の判断が出来ず、戸惑ってばかり。
ほとんど全員がこんな調子だから、子供達に至っては不安そうに周りを見渡す事しか出来ない。
「・・・来るっ!!
マサヨシさん達が、来るっ!!」
だけど迷ってばかりなのが、命取りだったのか・・・。
「ここがユキの言ってた魔族のアジト、か。
・・・悪しき魔族め。
この俺が皆殺しにしてやる!!」
逃げ出す間もなくマサヨシ達、異世界人がこのアジトへ攻めてきたの!!