第141話 第4のハーレム編⑦ 魔族との和解?
攫われた魔族の子供達を救助した転移勇者一行+ヴェリア。
なので町の外にいるエミリー、シファ、ミーモと合流しようとしたのだけれど。
「ひ・・・酷いよっ。
いくら人じゃないからって、めった刺しにするなんてあんまりだっ!!」
「こらこら。
しょ~もない事でムキにならないの。」
何故かエミリーとシファの間で物騒極まりない会話が聞こえてきたわ。
「おいっ。
聖女、てめえ!!」
そしてヴェリアが弾かれたように飛び出しちゃったの。
「・・・・・・・・・・・・。
って、は!?」
「何よ、いきなり・・・。
大声出しちゃってさぁ。」
「「?・・・。」」
会話の内容に反し、誰かがめった刺しにされてるなんて事はなかったわ。
エミリーやシファ達の手には刃物の代わりに、とある本が握られてたの。
「・・・その本。
『鬼殺しの秘剣』じゃんか。
俺達の世界の大人気漫画をパクった劣化コピー作の・・・。」
「どうやら先ほどの会話はあの本の1シーンについて、言い合ってただけのようですね。
・・・そんな事だろうとは思ってましたが。」
いくらエミリーがグレた闇聖女でも、お子様をめった刺しになんかする訳ないからね。
「そ~よ。
待ってるだけじゃ暇だったからね~。
王女から借りた本を読んでたのよ。」
「この本、面白いね~♪」
「でもあのガラの悪い白髪の半裸野郎、すっげ~腹立つぜ。
なんだよ・・・。
鬼だからって、箱の外からめった刺しにしやがって!!」
しかし『鬼殺しの秘剣』は魔族の子供にも好評みたいね。
「・・・褒められるべきはオリジナルの方なんだけどなぁ。
『鬼殺しの秘剣』のよ~な劣化コピー作じゃないんだけどなぁ。」
けれど勇者は『鬼殺しの秘剣』が好評なのにちょっぴり、不満顔なのよねぇ。
元の世界のオリジナル作品のパクリだからみたいだけど。
ま、その割に彼も『鬼殺しの秘剣』を愛読してるけどね。
多分、この世界じゃオリジナルの方には触れられないからでしょう。
「まあ、あなた達・・・。
エミリーさんと一緒に楽しく本を読んでたのね。
良かったじゃない♪」
そして盛り上がるシファとミーモに対し、ヴェリアが優し気な笑みを浮かべながら接していた。
・・・。
まあ良いわ。
「じゃあ、さっそくで悪いんだけどエミリー。
この子達に回復魔法を掛けてあげて。」
「はいはい。」
エミリーは軽い雑用でもこなすかのようなノリで、つい先ほど助け出した魔族の子供達を癒す。
「あの、テンイさん・・・。
マサヨシさん達が心配するかもなので、あたくしは一度、町へ帰ります。
申し訳ありませんが、この子達を面倒を見てくれないでしょうか?」
「わかったよ。
シファやミーモ達の事は任せて!!」
勇者がヴェリアの頼みを二つ返事で引き受けたのを確認した後、彼女は安心した表情で町へ戻って行った。
「じゃ、この子達の治療が終わったら、ご飯でも食べましょうか。」
********
「美味しいよう。
美味しいよう。」
「ありがとう!!
お兄ちゃん達。」
「・・・あんた達ったら。
本当に飢えてたのねぇ。
そうよね、お腹が減るって辛いわよね~・・・。」
私達は皆へパンや干し肉、果物や作り置きしていたお弁当のおかずなどなど・・・。
いろいろな食べ物を渡したわ。
魔族の子供達はそれらを美味しそうに食べている。
「じゃ、あとはシファ達をどうやって親元へ返すかだね。」
「そ~ですね~。
親の居場所に関してはクロの『索敵』に頼れば良いでしょう。
しかし魔族が私達を誘拐犯だと誤解する恐れもあります。」
「ええっ!?
この子らを助けたのは俺達だよ!!
そんな誤解なんてされるかなぁ。」
「ありえなくもない話よ、テンイ。
魔族って猪突猛進な輩が多いもの・・・。」
それは以前会った魔族を思い返せば、なんとなくわかる気がする。
「なのでヴェリアが戻って来るまでは、迂闊に動かない方が良いかもしれません。
この子達を上手く親元へ返す方法は彼女に相談しましょう。」
早くこの子達を親元へ返してあげたくはあるけど、迂闊に行動するのもトラブルの元だからねぇ。
なんとかする当てがありそうなヴェリアに頼る方が安全だと思うわ。
「なあなあ、デルマね~ちゃん。
ど~してヴェリアね~ちゃんなら、なんとかしてくれそ~なんだ?」
とっくに食事を済ませたシファがきょとんとした様子で尋ねてくる。
「あら、知らなかったの?
だって彼女は・・・。」
「皆~~~~!!!!
たっくさんの魔族がこっちへ来るよ~!!」
でもシファに事情を説明しようとした矢先、クロの叫び声が聞こえてきたの。
まさかの直行!??
「シファ!!」
声に釣られ、思わず上空を見上げると本当に大勢の魔族が私達の元へやって来たわ。
「ミーモ!!
それに他の子供達も・・・。」
「あ、おと~さんだ♪」
「パパ~!!」
魔族の中にはシファとミーモのお父さんもいたようね。
と言うか、シファのお父さんって勇者が不殺の剣で返り討ちにした魔族じゃない。
「・・・本当に貴様らが。
息子達を返せ・・・。
返せーーーー!!!!」
「あのさぁ。
俺達が攫ったみたいに言わないでよ。」
けれど勇者に負けたばかりなのに一切怯む事なく、物凄い剣幕で息子を返すよう、怒声を上げている。
子を想う親の心は凄まじいわ。
「全く、喧しいわねぇ。
で、あの魔族の中にあなた達のお父さんがいるのね?」
「「「「「「うんっ!!」」」」」」
「それなら彼らの要望に従った方が良さそうね。
でもあの子達を返した途端、訳の分からない理由で攻撃される恐れもあるわ。
だからエミリー。防御魔法はいつでも使えるようにしといてね。」
「はいはい。」
「・・・。」
この判断が正しいかは疑問だけどさ。
本当だったら身の安全が保障されるまでは、この子達を傍に置いた方が良いかもしれないもの。
とは言え、変にごねたらごねたで、話がこじれる可能性もあるわ。
だから素直にあの子達を返し、敵じゃないアピールに励むとしましょう。
仮に襲撃されても勇者やエミリーがいれば大丈夫でしょう。
「ほら、君達・・・。
お父さんの元へ行くんだ。」
「「「「「「わ~い!!」」」」」」
勇者に促され、魔族の子供達は嬉しそうに父親の元へ駆け寄った。
魔族は無邪気な子供達を大切そうに抱えている。
「・・・まさか本当にこの子達を返すとは。
何かの罠じゃないだろうな?」
「罠なんて仕掛けて何の得があるのよ・・・。
それよりこの子達を助けたのは私達なんだからさぁ。
お礼くらい、欲しいんだけど~?」
あのね、エミリー。
「ふざけるなあっ!!」
「やっぱ、ダメか~。
ケチ臭い魔族ねぇ。」
「・・・ケチとかそういう問題じゃないと思うよ?」
ダメ元でお礼を要求しただけとは言え、この状況でそんな台詞を吐けるなんて、さすが闇聖女ね。
ただ意外にも魔族から殺気が感じられない。
素直に我が子を返した私達に対し、戸惑っている。
「だけどこれで攫われた子供達は無事、親元へ返ったんだよね?
だからもう魔族があの町を襲う事もないよね。
いや~、平和に事件が解決して良かった~♪」
その一方、一件落着とばかりに喜ぶ勇者。
確かに彼の言う通り、もう魔族があの町に固執する理由はない。
理由はないはずなのに、何故か嫌な予感が止まらないの。
「何を言っている・・・。
この子達と無事、再会出来たからこそ何の遠慮もいらない。
何の遠慮もせずに、あの町を破壊出来るのだ!!」
「なんだって!!??」