第139話 第4のハーレム編⑤ 魔族の子供達
小さな町を執拗に襲撃する魔族。
その理由はなんと、この町の誰かが魔族の子供を誘拐したからだった。
それを裏付けるかのようにクロが『索敵』でなんらかの気配を察知。
彼女に案内されるがまま、路地裏の奥までやってきたの。
「「ひいっ!??」」
「・・・ヴェリアの言ってた事、本当だったのね。」
「ボロボロじゃないか!!」
すると小さなお子様魔族が2人、身を寄せ合ってるのを発見したわ。
体はボロボロ、服もボロボロ、もう立っているのがやっとな感じで、かなり危うい状態よ。
「や・・・やめてっ。
来ない、で。」
「どうか落ち着いて下さい。
あたくし達は味方です。」
「嘘だっ!!
どうせあいつらの命令で俺達を捕まえに来たんだろう!!
・・・はぁ、はぁ。」
それでも私達を恐れ、取り乱してるのを見たら、どう接して良いかわからなくなってしまう。
「い~から、落ち着きなさいって。
メンタル・リフレッシュ!!」
「!!
・・・。」
「あ・・・。」
けれどエミリーの魔法により、彼らは落ち着きを取り戻したの。
この魔法は・・・。
「王女。
・・・これは。」
「はい。『メンタル・リフレッシュ』は対象の精神を落ち着かせる魔法です。
これを使えば、激しい怒りに支配された方すら平常心を取り戻します。
あの子達のように錯乱した人を落ち着かせるのにも使えますよ。」
「おおおっ!!
何気に凄い魔法じゃないか!!」
『ヒール』のようなわかりやすい回復魔法なんかと比べると地味だけどね。
でも使いどころが非常に多い、便利で強力な魔法よ。
「ま、そ~万能なものでもないけどね~。
一時の激情なんかには効果覿面だけどさぁ。
あんまりにも逝っちゃってる人に対しては、気休め程度にしかなんないもの。」
「その例えはど~なの?」
「しかしそれに関してはエミリーの言う通りです。
勇者様の世界で例えるなら、アロマテラピーの強化版のようなものですからね。」
別に『メンタル・リフレッシュ』は相手の精神を捻じ曲げる類の魔法じゃないもの。
あくまで気分を落ち着かせるための魔法よ。
そんな事を話しながらもエミリーは『ヒール』や『オール・リフレッシュ』で子供達を癒す。
「・・・まさかエミリーさんが回復魔法を使える聖女だったなんて。」
「ま~ね~。
でもまだ子供達にあんまり元気が戻ってないわね~。
お腹でも空いてるのかしら?」
なんてエミリーがぼやいた瞬間、子供達が腹の虫を鳴らす。
「「あ。」」
「とりあえず簡単な食事でも与えましょ~か。」
私はアイテム・ボックスから携帯食料用のパンや干し肉、水を出して、子供達へ渡す。
よほど食事に飢えていたのか、子供達は私達への疑いすら忘れ、一心不乱にそれらに噛り付いた。
涙を流しながら、ね。
「・・・そんなにお腹が空いていたのか。
可哀そうに。」
「でも、良かったね~♪」
そうね。
とりあえず、子供達を保護出来て良かったわ。
「ありがとうございます。
シファ達が助かったのもあなた方のおかげです。」
「あ、ありがとう・・・。」
「疑ってごめんなさい・・・。」
子供達もなんとか私達を信用してくれたようね。
ちなみに救った魔族の子供の内、男の子の方はシファ、女の子の方はミーモって名前よ。
「後はこの子達を親元へ帰すだけですね。
マサヨシや町人達にばれないよう、気を付けなければいけませんが・・・。」
「「お願いっ。他の子達も助けてっ!!」」
「ええっ!??
攫われた魔族の子って、君達の他にもいるの!?」
必死にまくしたてるシファ達の話を要約するとね。
どうやら他に捕えられた魔族の子が4人もいるんだって。
上手く逃げ出せたのはあの子達だけみたいなの。
あと魔族の子供を攫ったのはこの町の半グレ集団らしいわ。
勇者の世界で例えるなら『やくざ』のような連中ね。
きっと人身売買目的でしょう。魔族の子は高値で売れるって噂だし。
他の町人やマサヨシ達は誘拐に関わってない感じよ。
「なんて外道共だ・・・。
皆!!
そいつらの所へ乗り込んで、攫われた子供達を助け出そう!!」
「あたくしからもお願いしますっ。
・・・テンイさん。」
「こらこらこらこら。
待ちなさいってば!!」
2人して興奮していたので、急いで待ったを掛ける。
「でも王女!!
子供達が・・・。」
「子供達を助けるのはい~にしてもですね。
それが正面突破なんてのは、ど~考えてもリスクが高すぎますっ。
騒ぎが大きくなって、余計に子供達の身が危うくなりますよ!!」
「「うっ!?」」
勇者や聖女であるエミリーがいれば、半グレ集団くらい、力でねじ伏せられるでしょうけど。
それでも相手が人質なんか取ったり、マサヨシ達の介入を許せば、子供達の命すら危うい。
「じゃ、ど~すりゃ良いのさ・・・。」
「そうですね。
まずは偵察から・・・。」
「あ、皆!!
誰かこっちへ近づいて来るよっ。
一人はマサヨシさんみたい・・・。」
なんて話してるとクロから警告が。
って、それはマズいわ!!
私は素早く子供達を抱え、魔法を発動させる。
「クリーンネス!!」
魔法の効果で私と抱えられた子供達の姿は消え、見えなくなったの。
「うおうっ!!
王女とシファ達が消えた!?」
「し~っ、透明になっただけですよ。
マサヨシ達が離れるまで、私達へ声を掛けないで下さいね。
シファ達も絶対、喋っちゃダメよ!!」
「「う・・・うんっ!!」」
先ほど使った魔法『クリーンネス』は使用者の姿を透明にする魔法なの。
ついでに使用時に着ていた服や、触れていた人も一緒に透明にしちゃうわ。
私から離れると、姿を現すけどね。
使いようによっては便利で強力な魔法だけど、欠点も少なくない。
透明化後にくっついたものなんかは消えないからね。
仮にこの魔法を使った後、雨が降った場合、不自然に水滴が浮いて、隠れてるのがバレバレになるわ。
それに下手な使い方をすると、凄く危険な魔法でもあるの。
例えばの話、もしもこの魔法を勇者の世界で使ったりしたらね・・・。
多分、『自動車』なんかの乗り物に挽かれて、命を落とす可能性さえあるでしょう。
それはともかく、クロが察知した通り、マサヨシと連れの女性が1人、こちらへやってきたわ。
「そんな所で何をしてるんだ?
テンイ、ヴェリア。
・・・それに連れが1人、いないようだが。」
「ああ、デルマのこと?
彼女ならお花を摘みにいってるわ。」
「お花って、ト・・・。
ごほん。
まあそれなら仕方ないか。」
素知らぬ顔で平然と誤魔化すエミリーはさすがね。
私達と出会う前からいくつもの修羅場を潜ってるだけあるわ。
「・・・・・・。
あたくしはテンイさん達と相談していたのです。
魔族との争いを止める方法がないか。」
「まだそんな事を言っているのか、君は。
平和主義者も度が過ぎると身を滅ぼすよ?」
「・・・そんな風に言わなくても良いじゃないか。」
相変わらずなマサヨシの態度に勇者も思わず憮然となる。
「大体、あんな腐った連中共が和解なんかに応じるものか。
そうさ。悪しき者には一人残らず、正義の鉄槌を下すんだ!!
・・・のためにも、ね。」
「マサヨシ。
・・・お前。」
「あんた、ちょっと怖いわよ。」
「うん・・・。」
「・・・。」
爽やかな笑顔で過激な正義を主張するマサヨシに勇者達も気圧されている。
やっぱり正義感に支配された異世界人は恐ろしいわね。
「ヴェリアもいい加減、無駄な努力は止めた方が良い。
テンイ達もさっさとこの町から出て行ったらどうだ?
・・・巻き添えを食らう前にな。」
言うだけ言った後、マサヨシは無口な連れを引き連れ、去って行ったわ。
これは誘拐犯以上に魔族の子供達を見せる訳にはいかないわね。
「まずはシファ達を町から離れた場所へ逃がしましょう。
シファ達を誘拐した輩も危険ですが、それ以上にマサヨシ達が危険ですから。」
そんな私の提案に反対する人は誰もいなかったの。