第138話 第4のハーレム編④ 魔族が暴れる理由
「・・・。
なんかモヤモヤするなぁ。」
「あんまり気にしすぎても、しょ~がないですよ。」
「そ~そ~。
所詮は他人事なんだしさぁ。
この町の事はマサヨシ達に任せりゃい~じゃない。」
町を襲う魔族達を討伐してくれ!!
・・・なんて町長の依頼をマサヨシ達から罵倒されつつもキャンセルした転移勇者一行。
だから彼らと魔族の争いに巻き込まれる前にこの町から立ち去ろうとしたの。
でもね。
「あ。」
「ど~したの、クロ?
・・・あ。」
「・・・・・・。」
何かに気付いたクロに釣られて後ろを振り向くと、一人の少女が立っていたわ。
あの子はさっきのいざこざで魔族に戦いを辞めるよう、説得してた・・・。
「え~っと。
君はあの時の・・・。」
「・・・はい。あたくしはヴェリアと申します。
テンイさん達にどうしても頼みたい事がありまして・・・。」
「頼みたいこと?」
困ったわ。
何故か厄介事の予感が。
「お願いします!!
どうか悪しき人間に攫われた魔族の子供達を救い出して下さい!!」
魔族の子供が攫われたですって!??
********
「あたくしはとある事情により、旅を続けている者です。
つい最近、マサヨシさんのPTに加わりました。
ですが・・・。」
ぽつり、ぽつりと事情を話すヴェリア。
ど~やら彼女達はたまたまこの町を訪れ、運悪く魔族の襲撃に巻き込まれたようね。
普通なら魔族から襲撃なんかされたら、こんな小さな町なんてあっけなく滅ぼされてしまう。
でもさすがは異世界人と言うべきかしら。
マサヨシ達は恐るべき力を持つ魔族でさえ、より大きな力で退けたの。
だけど。
「マサヨシが魔族を殺そうと躍起になってる、と。」
「マサヨシさんは悪しき魔族を滅ぼす事こそが正義、と信じ切っています。
・・・しかしあたくしにはそうは思えませんでした。
魔族がこの町を襲うのには何かしらの理由があると考えたのです。」
「で、それを調べた結果、どうやら魔族の子供がこの町の誰かに攫われてる。
・・・ってのが判明した、と。
それなら魔族が『返せ!!』なんて躍起になるのもしょ~がないかしら。」
そうだったのね・・・。
ただ仮に今の話が本当だとしても、きっと町ぐるみでの犯行じゃないでしょう。
何の心当たりもなさそ~な町人も多かったし。
「あのさ、ヴェリア?
その話、マサヨシ達は知ってるのかい?」
「・・・詳しくは話していません。
情けない話ですが、あたくしの話を信じて貰えるかわからなかったので。
仮に信じて貰えたとしても、逆に子供が危険に晒されるかもと思い・・・。」
「正しい判断ね。」
下手にマサヨシへ話せば、攫われた子供もろとも殺す!!
なんて言い出しそうだもの。
それでもそれを誤魔化しながら、ヴェリアは魔族にもおそらく訳が・・・。
と、説得しようとしたんだって。
・・・でも彼らは全然、聞く耳を持ってくれなかったそうよ。
「ですが、テンイさんなら・・・。
魔族だからと、必要以上に傷付けようとしないあなた様ならば!!
・・・あたくしの話を聞いて下さるかも、と考えたのです。」
「・・・・・・。
ねえ、皆!!
俺達の力で攫われた魔族の子供達を助けられないかな?」
「あ、やっぱしそういう結論になるのねぇ。
テンイったら。」
ま~彼ならそう答えるだろうと、私も思ったわ。
とは言え、ヴェリアの言う事が事実なら、放っておくのも目覚めが悪いしね。
勇者が乗り気であるなら、私だって協力してあげたい。
「・・・ね~ね~、デルマお姉ちゃ~ん。
魔族ってさぁ。
人間に姿を変えられるの~?」
へ?
「ど~したのよ、クロったら。
急に妙な事を聞いてさぁ。」
確かになんか唐突ね~。
まあともかく。
「やろうと思えば、いくつか方法はあるわよ。
一般的にはその手の魔法具を使うやり方かしら。
姿を変える魔法も何個かあるんだけどね。」
「そ~なの?
王女。」
「見た目のみを変える魔法なら、修得はさして難しくありません。
私だって使えるくらいですから。」
体格ごと見た目を変える、体自体を変形させる類のものになると、一気に修得難易度が跳ね上がるけどね。
だけど魔法を使っての変装は修得難易度以上の問題点があるわ。
「ですがその手の魔法は一定時間経つと、効力が消えます。
なので少しでも油断すると、魔法を掛け逃して、正体がバレてしまうリスクが大きいのです。
だからそんな心配のいらない、魔法具を使うのが一般的ですかね。」
もちろん、その場しのぎであれば魔法で見た目を変えるのも全然有よ。
でも長時間、誤魔化し続けるとあれば、唐突に効果の切れる心配の薄い魔法具の方が安定するわ。
「あとはハーフなんかだと『特性』としてどちらの種族にも姿を自在に変えられる。
・・・と、本に記されていましたが。
さすがにそれは例外中の例外でしょう。」
「へ~。」
「そ~なんだ~。
・・・。」
素直に感心する勇者と、相も変わらず不思議そうにヴェリアの方を見ながら何かを納得するクロ。
・・・。
「それにしてもクロちゃんは凄いですね♪
あたくしや魔族の方々の接近にいち早く気付いて・・・。」
「クロには『索敵』の特性があるんだ。」
「まあっ。」
クロに見つめられて、少しばかり居心地が悪かったのかしら?
何かを誤魔化すかのように、ヴェリアはクロを褒め称える。
「あ、そ~だ。クロ。
この町に魔族の子供がいないか『索敵』で探し出せないかな?」
「わかった~。
テンイお兄ちゃん。」
そして人探しこそ彼女の出番とばかりに勇者がクロにお願いしたわ。
実際、私達の中でこ~いう事に一番向いてるのはクロだものね。
「・・・・・・・・・・・・。
あっ!?
エミリーお姉ちゃん。
早く、こっちだよ!!」
「わわっ?
わかったから、引っ張らないでよ~。」
さっそく何かを感知したのか、慌てた様子でエミリーに付いて来るよう、促すクロ。
聖女である彼女を真っ先に連れて行こうとしたって事は・・・。
「・・・これは子供達の状態が心配ですね。
急いだ方が良いでしょう。」
「わかった・・・。
行こう。」
「はいっ!!」
エミリーに続き、私達もクロが案内する方へ進む。
・・・。
「テレパシー。」
そんな中、私はこそっとランク1の魔法『テレパシー』を使用したの。
(勇者様、エミリー、クロ。
聞こえる?)
「「うわあっ!?」」
(シッ!!
静かに。)
「ど・・・どうしたのです?
テンイさん、クロちゃん。」
「あ~・・・。
多分、虫が顔に飛んで来たとかでしょ。
ほらほら、そんな事より急がないと。」
「は・・・はい。」
ナイスフォローよ。
エミリー。
(これは魔法『テレパシー』によるものです。
任意の相手と口を開かずとも、会話可能になります。)
(そ・・・そうなんだ。
王女ったら、そんな魔法まで使えたんだね。)
(私の力量では目の前の相手との内緒話くらいにしか使えませんがね。)
『テレパシー』の修得そのものは魔法全体で見ても簡単な方よ。
でも目の前にいない相手や、遥か遠くの相手と通信するのは、相当な使い手じゃなければ難しいわ。
(つまりデルマ。
あんたはヴェリアに隠れて、何かを話したかったから、急にテレパシーなんて使ったのね。)
(そうよ。
勇者様やクロには驚かせるような真似をして、悪いと思ったけど。)
(それくらいは気にしなくてもい~けどさぁ。
何で急に内緒話なんかしようとしたの?)
それはね。
(ねえ、クロ・・・。
あなたにどうしても尋ねたい事があるの。)
(?~。)