第12話 能力紹介編③ 勇者と剣
類まれなる魔力の強さを制御できない故に、快適な異世界ライフが危うくなってしまった勇者テンイ。
そんな彼に対し、私は一つの提案を行った。
「勇者様。
魔法の力が強すぎるのであれば、これを使って戦ってみては如何でしょうか?」
そう言いつつ、私は一振りの剣を勇者に手渡す。
「こ、これは・・・剣?」
「はい、これは鉄の剣。
一般的な兵士や冒険者達がよく使う武器です。
冒険の役に立つかもと考え、城からいくつか拝借してきましたの。」
鉄の剣はこの世界で最もよく使われている武器の1つで、攻撃力こそ中の下程度だけど、安価で丈夫な扱いやすい剣よ。
それに『攻撃力こそ中の下』とは言っても、ゴブリンくらいなら容易く斬り伏せる程度の性能はあるしね。
「あ~、なるほど。
テンイって確か、この世界に来る前は剣の修行をしてたんだっけ?」
「そうよ、聖女。
だから魔法に頼らずとも、剣で道を切り開く・・・ってのもありかなと思いまして。」
それにスキルに頼らない純粋な剣技であれば、魔法と違って想定外の暴発を心配する必要は無い。
だから魔法で戦うよりも(周りにとって)はるかに安全なのは大きな利点ね。
けど真っ当な剣技だけで戦おうと思ったら、敵に接近しなければならないため、少なからず危険を伴う。
だから勇者に剣の才能が無ければ、もう冒険者以外の生き方を探すしか無いのだけど・・・。
「・・・剣で道を切り開く、か。」
『剣』そのものに強い思い入れでもあるのか、私から受け取った鉄の剣をじっと見つめる勇者。
そして剣を鞘から抜き放ち、真っ直ぐと振り下ろした!!
どうやら素振りで受け取った剣の感触を掴もうとしているようね。
それにしても・・・。
「・・・綺麗な太刀筋ね。」
実戦でどこまで通用するかはわからないけど、本当に美しい剣さばきだと思う。
けど彼の太刀筋、どこか見覚えがあるのよね。
確か・・・。
「ええ。
イケメン補正もあって凄く美しいわ。
・・・でもこの剣技もチート能力のおかげなのかしら?」
まるでチート能力であって欲しくないような口ぶりだけど、気持ちはわかる。
これほどの剣技が都合の良いチート能力で手に入っただけだったとしたら、なんだか残念な気分になるわ。
でもきっと、この剣技はチート能力によるものじゃない。
「いや。あの剣技は多分、チート能力じゃなくて、彼自身の努力で身に付けたものだと思うわ。
・・・似てるのよ。
夜遅くまで剣の素振りを続けている兵士達の太刀筋と。」
夜中、ふと目が覚めて城の中を歩いている途中、たまに熱心に剣の素振りを行う兵士達を見かける事がある。
その兵士達と勇者の太刀筋が本当によく似ているの。
少しでも強くなろうと足掻き、磨き上げた剣技と。
「なるほどねえ。
テンイったら見た目だけじゃなくて、中身も結構カッコいいじゃない。」
「そうね。」
勇者の内面をカッコいいと思ったのは、これが初めてだわ。
「( *´ω`* )」
「ん″!?」
「・・・。」
一瞬、勇者が凄く嬉しそうな表情でこっちを見ていたような気がするけど・・・きっと気のせいね。
相変わらず、素振りを続けてるみたいだし。
そもそも転移勇者がこんなつぶやき程度で心の底から喜ぶなんてありえるのかしら?
例の本を読んだ限り、彼らは伝説の英雄のごとく称えられないと満足しないと思うんだけど。
「あっ、そうだ。
王女!!」
「えっ。
ど、どうしたの?」
「俺ってずっと剣道をやってきたから、両手剣スキルと相性が良いんだよね?
異世界のカッコいい剣技、何か教えてくれないかな!!」
け、剣技って・・・一応、すぐにでも教えられそうなスキルはいくつかあるけど、大丈夫かしら?
魔法の時のように、天災レベルの威力を発揮するかも・・・。
でもやたらと期待に満ちた目で見つめられると、不安だから教えたくない、なんて言いにくい・・・。
ま、まあ今は私達以外、誰もいないし、両手剣スキルを使った勇者がどれほどのものか調べる良い機会かもね。
・・・ならば。
「では『斬撃波』なんて如何でしょうか?」
「斬撃波?」
「斬撃を飛ばし、遠くにいる相手を切り裂く両手剣スキルの1つです。
初歩的な両手剣スキルですから、勇者様ならきっとすぐに使いこなせるはずですわ。
実際に使ってみますね・・・斬撃波!!」
私は鉄の剣で斬撃波を使い、完全に試し斬り用と化した大岩に向かって斬撃を飛ばす。
すると斬撃を受けた大岩にほんのわずかだけど亀裂が走ったの。
まっ、ランク1の両手剣スキルなんてこの程度ね。
私自身、大した剣の使い手でも無いし。
「なるほど、これが斬撃波・・・。
よしっ、俺も撃ってみるよ!!」
相変わらず一度見ただけの技を使いこなせると豪語する勇者。
いくら初心者用のスキルとは言え、一度見ただけでもうコツを掴んだのかしら?
・・・実はこの勇者、チート能力云々を抜きにしても戦闘の天才なんじゃ。
ってか。
「・・・え~と。
そんな近くの大岩で試し斬りをするのですか?」
勇者がターゲットにしているのは、私がさっきから試し斬りでよく使っている大岩よ。
「別に大丈夫じゃないの?
斬撃波って、あくまで斬撃を真っ直ぐに飛ばすだけのスキルだし。
ボムみたいに二次災害の心配なんて、しなくて平気だって。」
「普通ならそうなんだけど・・・。」
転移勇者だからねぇ。
魔法とスキルは別物だし、大丈夫だと思いたいのだけど。
「じゃあ、行くよ。
斬撃波!!」
シュッ!!
・・・。
バコッ!!
勇者の放った斬撃波がいとも容易く大岩を真っ二つにした!!
真っ二つとなった大岩の断面は非常に綺麗で、彼の剣技がいかに優れているかが見て取れる。
ズンッ!!
な・・・何、この衝撃音!?
あっ!!
大岩の遥か彼方に見える岩山に巨大な亀裂が入っている・・・?
紙一重で真っ二つにはなってないようだけど、どうして??
さっきまで亀裂の入った岩山なんて見かけなかったんだけど。
「・・・。
ひょっとしてテンイの斬撃波、あんな大きな岩山まで真っ二つにしかけたの・・・?」
「「・・・。」」
斬撃波は何かを切り刻んだり、遠くに飛んで行くほど威力が落ち、いずれ消滅する。
なのにこんな所から放った斬撃が、何百キロ離れているかわからない岩山を真っ二つにしかけた。
・・・つまり距離が近ければ勇者の斬撃波は、岩山さえも真っ二つにしてしまうって事で。
・・・・・・・・・・・・。
うん。
「素晴らしいですわ、勇者様。
まさか禁断の剣技と呼ばれる斬撃波を使いこなすなんて!!
だけど残念ながら、斬撃波は世界をも揺るがす凶悪極まりない両手剣スキル。
迂闊に使うなんて許されない事ですの。
ああ。残念、無念・・・。」
「嘘つかないでよ、王女!!
さっきは初歩的なスキルだって、言ってたじゃないか!?
ってか、王女だって普通に使ってたよね、ねぇ!!」
両手で私の肩を揺さぶりながら、問い詰めてくる勇者。
ちょっとそれやめて!!
本当に頭がくらくらするから、結構辛いのよ!!
・・・さすがに勇者を騙くらかして、危険極まりない剣技を自重させる作戦は失敗ね。
にしてもランク1のスキルでランク5以上の力を引き出すなんて。
勇者のチート能力は魔法だけじゃなく、スキルにまで適用されるのかしら?
いや、むしろ・・・。
「テンイったら、攻撃魔法の威力もとんでもなかったけど・・・。
剣技の威力はそれをも上回るのね。
どうしてかしら??」
「・・・まあ、勇者が魔法を使い始めたのは最近だもの。
けど剣技に関しては、転移前から相当鍛えていたみたいだし。
だから余計に威力が増したんじゃないかしら・・・。」
剣技や格闘技などの体術系のスキルは、素の実力次第で性能に大きな変化が出る。
ただでさえチート能力によって性能が大幅強化されている所に、彼自身の剣技の実力が乗っかったからでしょう。
天災級の威力が発揮されたんだわ。
いけないいけない・・・。
こんなスキルをほいほい使わせたら、それこそ世界に大きな傷跡を残しかねない。
「ねえ、王女。
せっかく覚えた斬撃波、使っちゃ・・・ダメなの?」
「ダメ。」
「(´;ω;`)」
ちょ、ちょっと可哀そうだけど、しょうがないわよね。
迂闊に使えば、知らずのうちに多くの人が巻き添えを食らった、なんて事態になりかねい。
に、しても。
「・・・あの~、勇者様。
勇者様は元の世界では一体、どれほどの剣の使い手だったのでしょうか?
相当高い実力があったと思われますが。」
竹刀による殺さない剣術でここまでの域に達するなんて、どんな修行を積んできたのやら。
「・・・いや、え~と。
別に俺の剣なんて、全然大した事ないよ。
本当に俺の実力なんて、所詮・・・。」
なんだか悲しそう表情で、俯きながら返事をする勇者。
例の本には、転移勇者はとんでもない実力を見せながらも『大した事ないよ』とか『普通ですよね?』なんて、発言する事が多いと書かれている。
でも決して『無自覚天才の嫌味』だとか『ドヤりたいからそうほざいている』とか、そんな風に言ってはいけない、思ってるのを勘付かれてはいけないんだって。
気を悪くして、敵だと認識される可能性があるもの。
けど勇者の場合、どうもそんな風に見えないのよね。
剣で酷く打ちのめされた経験でもあったかのように思えるもの。
剣道で何か辛い思い出でもあるのかしら?
ただその辺を無理に聞き出すわけにはいかないわね。
誰だって話したくない事くらい、あるでしょうから。
でもまあ。
「でも、テンイ。
これほどの剣技を扱えるのなら、スキル無しでも冒険者として十分やっていけるわよ!!
せっかくだからゴブリン討伐くらい、チャレンジしてみない!?」
「ええっ!?」