第137話 第4のハーレム編③ 正義の戦士マサヨシ
「確かに中々の強さじゃないか。
でもさ、君達・・・。
悪しき魔族にその対応は手緩すぎだと思うよ?」
えっ!?
「な・・・何の集まり!??」
・・・勇者が驚くのも無理ないわ。
だって15~20人くらいの団体様が私達へ向かってぞろぞろ歩いて来るんだもの。
「僕はマサヨシ。
僕らは町を襲う魔族を倒すために雇われた傭兵みたいなものさ。」
「傭兵て。
その割にちっとも戦えなさそ~な女の子がたくさんいるよ~だけど。」
エミリーが突っ込むのも無理ないわ。
傭兵を名乗る割に男性はたったの4人で他は全て女性。
もちろんこの世界には男子顔負けの強~い女性もそれなりに多いわ。
でも彼女達の中で戦えそうな子って、ほとんどいない感じなのよね~。
大半が私でも楽に勝てそうなのばっか・・・。
「別にい~んだよ。
だってこいつらは俺が守ってやるんだからなっ☆」
「「「きゃーーーー!!!!」」」
この様子からすると、彼女達は彼らのハーレム要員なのかしら?
彼らを取り囲んでチヤホヤしてるわ。
・・・マサヨシだけはそんな輪から外れてるようだけれど。
でも代わりに鋭い目つきの女性が1人、後ろで静かにたたずんでるわね。
彼女は油断ならない雰囲気がするわ。
しかしこれは・・・。
「・・・ハーレム要員って事はあなた達、日本からやって来た異世界人なの?」
「王女!!
ハーレムを侍らせてるから日本人だなんて、風評被害だよっ。」
「へー・・・。
よくわかったじゃん。
そうさ。俺達は勇者召喚に巻き込まれた日本人だ。」
「当たってた!?
・・・そんなだから、俺達に変なイメージが付いちゃうんだ。」
それって勇者が言えた義理かしら?
「・・・そんな事よりテンイ、だったね。
君、かなり噂になってるよ。
とんでもなく強い転移勇者だって。」
「そ・・・そう?」
「魔法もスキルも使わず、剣技だけで魔族を圧倒するなんてさぁ。
本当に凄いじゃん・・・。
なのにどうして手を抜いたんだ?
何故、あの魔族を殺さなかった!?」
「ななっ・・・?」
唐突に荒々しい口調となったマサヨシに勇者が引いている。
「だって魔族は『悪』じゃないか?
世界のためにも悪しき魔族には一人残らず、正義の裁きが下されるべきなんだ!!」
「な・・・何を言ってるのさ?
マサヨシ。
怖いよ、君。」
・・・マサヨシの(自分の定めた)悪を滅ぼす事に一切躊躇しない姿勢。
きっと彼は・・・。
「(勇者様。あまり彼を刺激してはいけません。
例の本にも書いてありました。
おそらく彼は異様に正義感が強いタイプの異世界人です。)」
「(その言い草は酷くない?
でも例の本の内容にしては、納得出来る気がするなぁ。)」
例の本曰く、全体的に転移勇者・転生勇者は正義感の強い人が多いとあるの。
そして正義感が強すぎるあまり、小さな罪にも過剰な罰を下し、他者を苦しめる事もある。
そんな彼らの中でも更に正義感が強く、決して己の正義を曲げない人も一定数、存在するそうよ。
彼らは能力の高さが目立つのもあって、非常に高い評価を受けているケースも珍しくないわ。
けれど自らが『悪』と見なした者には一切の事情も顧みず、問答無用で危害を加える事も多々あるんだって。
もしもそんな彼らのハーレム要員になる場合は、徹底的にイエスマンを貫くべきとあるわね。
いくらおかしいと思っても、下手に意見すれば、途端に過剰な敵意を向けられる可能性が高いからと。
逆に彼らのハーレム要員じゃないなら、極力接点を無くす方が身の安全に繋がると書かれている。
「あなたが愚息を救って下さった転移勇者様ですね?
どうか是非、お願いしたい事があります。」
マサヨシとちょっとした口論を続けていると、後ろから恰幅の良いおじさんがやって来たの。
「お、町長じゃん。」
ってか、町長だったんだ。
そしてその後ろにはついさっき勇者が助けた通行人がいたわ。
彼は町長の息子だったのね。
「あの~、町長さん。
俺達にお願いしたい事って、なんでしょうか?」
「どうか我々の町を襲う魔族を滅ぼしてくれないでしょうか?」
「お断りします。」
「「即答!??」」
私が予想した通り、町長は魔族討伐の依頼を申し出たけど、勇者は一瞬で断ったわ。
「そ・・・そんなっ。
お礼は弾みますから、どうか・・・。」
「・・・俺には人や魔族を『殺す』ような真似は出来ません。
だから申し訳ありませんが・・・。」
そして勇者が依頼を断った理由も私の想像した通りね。
けれど自分が無理だと思ったら、迷う事なく断るようになれるなんてさ。
勇者も少しずつだけど、しっかりしてきてるじゃない。
「人や魔族を殺せないだってぇ~。
不殺主人公でも気取ってんのか、こいつ?
キッモ。」
「大体、殺すべきクズを見逃して、それでもっと事態が悪化したらど~すんだよ。
カスが。」
「ど~せ『人殺しは悪い事だ』みたいなさぁ。
くっだらね~理由で、良い子ちゃんぶってるだけだろ?
薄っぺらい偽善者野郎が!!」
でも勇者の態度が気に食わなかったのか、マサヨシの連れ3人が彼へ罵倒を浴びせる。
そんな3人に対し、勇者は・・・。
「き・・・君達の方こそ、何を言ってるの・・・?
自分達の言い草がおかしいって、わからないの!?」
「「「(゜Д゜)ハァ?」」」
怒りを露わにするどころか、心の底からドン引きしてたの。
「だって俺達、日本人なんだよ?
人殺しなんて嫌がって、当然じゃないか。
喜んで誰かを殺せる奴なんて、ただの異常者だよ!!」
「「「なんだと!?」」」
「・・・俺、別に間違った事、言ってないよね?」
確かに彼の言う通り、『日本人』は基本的に殺人を忌避するそうよ。
良い子ちゃんぶってるどころか、かなり悪辣な人間でも殺人だけは躊躇う事が多いらしいの。
「お前なんかに俺達の何がわかる!?」
「えええっ!!??
逆切れかい・・・?」
「・・・なんなんだよ、この世界はよぉ。
お前のような恵まれた奴ばかり優遇しやがる!!」
「俺だって・・・。
俺達だって、本当はっ!!」
でもマサヨシの連れ3人は勇者の言葉が大層気に入らなかったようね。
今にも噛み殺しそうな勢いで彼に向かって怒鳴りつけてるの。
・・・例の本にも書いてあったわ。
異世界人の大半は最初の殺人こそ、極端に嫌がるものの、一人でも誰かを殺してしまった途端ね。
殺人への忌避感が急速になくなってくって。
中には異世界へ来た途端、何の躊躇いもなく人を殺せる輩もいるらしいのだけれど。
だけど彼らの場合、反応から察するに多分・・・。
「止せ。
これ以上、テンイに構っても時間の無駄だ。」
「マサヨシ?
だがよ・・・。」
「・・・君には失望したよ、テンイ。
それだけの力を持ちながら、己の弱さに屈し、悪を討ち滅ぼす事を躊躇うとはね。」
いや。
勝手に妙な期待をされても困るって。
「町長もテンイのような奴に頼るのは止めた方が良い。
・・・手を汚す覚悟もない弱者なんていらない。
そんなに殺し合いが嫌なら、また魔族が来る前にこの町から出て行く事だ。」
こうして勇者を貶しつつ、マサヨシは私達の元から去って行ったわ。
未練を抱いてそうな町長達と、憎々し気に勇者を睨み付ける異世界人を連れて。
「・・・。」
そんな中、一人の少女だけが意味あり気な視線で私達を見つめていたの。