第131話 過去編(勇者) 勇者の剣歴
雑談を名目としたテンイの過去話回。
・・・1話で完結しましたがw
ここはとある町の定食屋。
転移勇者とそのハーレム要員達は、少し遅めの昼食を楽しんでいたわ。
そんな最中、ふとエミリーが勇者に質問したの。
「今更だけどさぁ。
テンイって、何歳なの?」
「俺が何歳かだって?
16歳だよ。」
「ふーん・・・。
私の2つ下なのね。」
つまりエミリーは18歳なのね。
「勇者様って、私と同い年だったんですね。」
ま、似たような年齢だとは思ってたけど。
だって勇者は『高校生』なんですもの。
例の本にも特殊なケースを除けば『高校生』は必ず15~18歳であると記されていたわ。
「じゃあ、王女も16歳だったんだ。」
「はい。
そうですよ。」
予想通り、8歳のクロを除けば年齢の近い者同士ね。
私達って。
「あとテンイって、元の世界ではどんな生活を送ってきたの?
あの剣技は相当な修羅場を潜り抜けないと、身に付かないでしょ。」
「・・・変な誤解をしないでくれよー。
そりゃ確かに剣の修行はかなり打ち込んできたけどさぁ。
危ない人生なんか送ってないって。」
そうよねー。
修行はかなり頑張ってたと思うけど、命を賭けたやり取りなんて、やってこなかったはずよ。
「あら、そーなの。
私のように聖女だってバレたせいで、国から売り飛ばされたとか・・・。
ロクでもない権力者のせいで、初恋の人を裏切ってしまった挙句、二度と会えなくなったとか・・・。
苦労して故郷まで逃げ帰ったのに、既に家族が皆殺しにされてたとか・・・。
そんな目には合ってこなかったのね。」
「「「・・・・・・。」」」
・・・エミリーが辛い人生を歩んできてるのは、なんとなく予想してたけどさぁ。
想像以上にエグい過去を背負っていたようね。
「よくそんな事実を、あっけらかんと話せるわねー・・・。」
「あっけらかんと話さないと、やっていけないからよ。」
・・・また1つ、闇聖女の深淵を覗いてしまったみたい。
もっとも過酷と言えば、クロの人生も十分以上に過酷だけどね。
山賊に両親を殺された挙句、自身は奴隷として売られちゃったんですもの。
その挙句、クズな村人達に買われ、ヒドラの餌にされる寸前だったと。
事情はシンプルかもしれないけど、エミリーに負けず劣らず、エグい過去だわ・・・。
これじゃあ、山賊相手にドス黒い所を見せてもしょーがないかもしれない。
「この世界の人達って、人生ハードモードすぎない?」
「エミリーとクロが特殊なだけですよ。
・・・多分。」
私はそんなエグすぎる人生なんか、歩んでないもの。
とは言え、勇者のいた世界と比べると、凶暴な生物や悪党が目立つからね。
トータルで見れば、こちらの世界の方が辛い目に合ってる人は多いでしょう。
「俺の人生なんて、向こうの世界じゃありふれてるからなぁ。
警察官の息子として生まれて、普通に学校に通って、勉強して、剣道に打ち込んで・・・。
父さんも母さんも2つ下の妹も平和に暮らしていたよ。」
「『警察官』って、な~に?」
「こっちの世界で言えば、お役人のような立場の人達ね。」
「あらま。
テンイの家って、結構エリートなんだー。」
そうね。
例の本にも『警察官』は地位の高い職業って書かれてたわ。
「・・・あー。エリートっちゃあ、エリートかもねー。
警察官って。
けど世襲制じゃないから、俺も警察官になれるとは限らないよ。」
「確か最近の勇者様の世界では、親の仕事を受け継ぐケースはさほど多くないそうですね。」
「そだね。
そういう人達もいるっちゃ、いるけど。」
そもそも今の日本の仕事の大半は、親から子へ自動で引き継がれる訳じゃないそうよ。
「それでも剣の修行に励んでた時間は相当長い方かな。
小学校や中学校の頃は剣道の全国大会で優勝・・・は出来なかったけど、上位には入賞したよ。
俺だけじゃなくて、他の家族も剣道で結果を残してるしね。」
「つまりどーいうことなのー?」
「あのね、クロ。
小っちゃい時の勇者は子供の中でも特に剣が強かったのよ。
国の中でも最強の一歩手前くらいはね。
勇者の家族も皆、剣が強いみたい。」
「へー・・・。
すごーい♪」
「予想以上に凄かったのねぇ。
あなたも、あなたの家族も。」
確かに。
「・・・あの頃は楽しかったなぁ。
で、高校じゃあ特に剣道の強い人が集まる学校へ入学したんだけどさ。
そこでの修行が辛すぎて、挫折しちゃったんだ・・・。」
その話は前にも少し聞いたわね。
でもさぁ。
「平和な勇者様の世界で、あなた以上に剣の強い人がゴロゴロいるんですね。
私としてはそっちの方が驚きですよ。」
平和な世界でそんなに強さに執着する理由がよくわからないわ。
「・・・特にとある先輩なんか、稽古は容赦ないわ、罵倒は浴びせまくるわでさぁ。
もう本当に酷い人間だったよ。
ただその先輩、事故にあって剣を握れなくなっちゃったけどね。
今頃、どーしてるのやら・・・。」
「そーいう事情があったのねぇ。
だから強さの割に自信が無かったのかー。」
「中学生までは俺は強いんだって、自信満々だったけどね。
鼻っ柱をへし折られちゃったよ。
でもまあ、このくらいなら俺達の世界じゃよくある話さ。
大人になる頃にはそんな事なんて、すっかり忘れちゃうんじゃないかな。」
例の本にも勇者のような人生くらいは、向こうの世界じゃよくある事。
って、書かれてたわねぇ。
剣の実力こそ凄いけど、そこを除けば本人の言う通り、極々普通に暮らしてきたようね。
「で、お父さんが許してくれなかったから、彼女は作れなかった、と。
・・・もったいない話ねぇ。
あなたほど格好良ければ、女の子なんて選り取り見取りだったろうに。」
「そうかなぁ?
女の子の『友達』自体は割とたくさんいたけど・・・。
・・・ひょっとして、父さんの言う事を律儀に守らなければ・・・!!??」
あーらら・・・。
「いーじゃん、これから作れば。
この私が彼女どころか、正妻としていつでもあなたの物になってあげるわー♪
さ、カモーン。」
「ううっ・・・。
今の俺に結婚なんて無理だよぉ。
覚悟が持てないよぉ(´;ω;`)」
「ちっ。」
・・・うん。
やっぱり闇聖女は怖いわね。
「・・・それより王女は?
王女はどんな人生を歩んできたの?」
そして話を逸らすためか、勇者は私に話を振って来たわ。
「私の人生ですか?」