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第130話 お兄ちゃん編③ 転移勇者は「お兄ちゃん」と呼ばれると泣く

Side 〜クロ〜


あたしね。昨日、王女様に教えてもらったの。

あたしくらいの女の子がご主人様に『お兄ちゃん』って、呼んだらね。

大喜びしてくれるって。


なのに・・・。





「うっ、うっ。」





泣いている!?

あたしが『お兄ちゃん』って、呼んだからなのっ?


「テンイお兄・・・。

 ・・・ううん。

 ご主人様・・・。」


「クロ!!

 ・・・。

 ゴメン、さっきは怒鳴ったりして。」


・・・。


「どうしてご主人様は『お兄ちゃん』って、呼んでほしくないの?

 あたしが元奴隷だから?

 奴隷は主人に『ご主人様』って言わないと、ダメなの・・・?」


「・・・違う、そうじゃない。

 クロはもう奴隷なんかじゃない。君は何も悪くない。

 でも悲しくなるんだっ!!

 元の世界の事を思い出して、涙が止まらなくなるんだ・・・。」


元の・・・世界?



********



「俺が元いた世界にはね。

 2つ年の離れた妹がいたんだ。」


少し落ち着いたご主人様は、なんで泣いちゃったのかを説明してくれた。


「あいつもクロと同い年くらいの時は、俺を『お兄ちゃん』って呼んでたんだ。

 あの頃のあいつは可愛かったなぁ。

 ・・・今じゃすっかり『兄貴』呼ばわりの生意気な奴になっちゃったけど。」


「へ~、テンイって妹がいたんだ。

 あなたの妹って事はさぁ・・・。

 物凄い美少女なんでしょ?」


「・・・まあ、かなりモテてるみたいだね。

 俺からすればちょっと不思議だけどさ。

 あんな生意気や奴がモテるなんてさぁ。」


ご主人様にも妹がいたんだね。


「でも俺が剣の修行を投げ出して、荒れてた時には気を使ってくれてね。

 なのに俺はあいつにまで辛く当たっちゃって・・・。

 悪い事をしたなぁ。謝りたいなぁ。」


・・・。


「ま、クロと比べたらちっとも可愛げのない、生意気な妹だけどさ。

 君に『お兄ちゃん』って呼ばれ続けて、あいつの事を・・・家族の事を考えちゃったんだ。

 ・・・そして、もう二度と会えないかもしれないって。

 そう思うと、涙が止まらなくなったんだ。」


「ご主人様・・・。」


「王女が俺を元の世界へ帰す為、頑張ってくれてるのは知っている。

 でも必ず帰れるなんて保証はどこにもないからさ・・・。」


そ~言えば王女様、言ってたっけ。

異世界人を召喚するよりも、元の世界へ帰す方がず~っとず~っと難しいって。


「・・・そういう事でしたか。

 申し訳ありませんでした。勇者様。

 私の軽はずみな教えのせいで、あなたを悲しませてしまい・・・。」


「ま~そりゃ辛いか~。死に別れよりはマシでしょ~けど。

 ・・・けどテンイがこのまま元の世界に帰れなかったらさ~。

 死に別れと変わんなくなるのか。」


だよね・・・。





「・・・俺は可愛い女の子から『お兄ちゃん』なんて呼ばれるよりもさ。

 本物の妹から『兄貴』って呼ばれたい。

 もう一度あいつに・・・家族に会いたいよ・・・。」





あ。


--------


「私だったらね。

 年下の可愛い男の子から『お姉ちゃん』って甘えられるよりもさぁ。

 本物の弟から『姉さん』って呼ばれたい・・・。」


--------


聖女様と同じだ。


・・・。


「あたし、ご主人様の気持ち、わかるの。」


「クロ?」


だってね。





「どんなに仲良くなっても、あたしはご主人様の妹にはなれない。

 だって、ご主人様はあたしの家族じゃないから・・・。


 ご主人様はもう二度と家族に会えないかもしれない。

 あたしだって、もう二度と殺された家族には会えない。」





ご主人様はあたしの本当のお兄ちゃんでも、お父さんでもない。

王女様や聖女様だって同じ。

本当のお姉ちゃんでも、お母さんでもない。


「クロっ・・・。

 ごめんっ。

 俺は自分の事ばかりっ。」


でもね。





「例え、本物の家族じゃなかったとしてもね。

 あたし、ご主人様の事が大好きだよっ♪

 だってご主人様のおかげで、毎日が楽しいんだもん。」





奴隷だった頃はね。


ずっとお腹ペコペコでとっても辛かった。

意地悪な人ばかりで、誰も優しくなんかしてくれなかった。

一人ぼっちで寂しかった。


けど今はそうじゃない。

毎日が楽しい。

それもこれも全部、ご主人様や王女様、聖女様に出会えたおかげなのっ。



「クロっ!!」



わっ!?

どーしたんだろう?

急に抱き着いたりして・・・。





「俺だって、君の事が大好きだよっ。

 ・・・だから良いんだ。俺の呼び方なんて、どうだって。

 君が一緒にいてくれるなら・・・。」





ご主人様!!


「じゃあ『テンイお兄ちゃん』って、呼んでも良い?

 その方が『ご主人様』って呼ぶより、ず~っと仲良くなれるんでしょ?」


「ああっ。構わないさ。

 これからも仲良くやっていこうね。

 クロ。」


「うんっ。

 テンイお兄ちゃん♪」


良かった。

ご主人様・・・ううん。

テンイお兄ちゃんが元気になってくれて。


「やれやれ。これで丸く収まったのかしら?

 しっかし例の本ってあれねぇ。『ナデポ』と言い、『妹萌え』と言い・・・。

 異世界人やハーレム要員を喜ばせるためのものじゃなくて、ホームシックにさせて泣かせるためのものなの?」


よく考えたら、そ~かも。

あたしも前にテンイお兄ちゃんから『ナデポ』されて、泣いちゃったんだっけ。


「いや、そんなはずはないんだけど。

 単に勇者やクロが例外なだけでしょ?」


「・・・そもそも俺はクロに『ナデポ』なんて、目論んでなかったからねっ!!

 やっぱ、例の本は悪書として盛大に燃やすべきじゃないかな?」


「そ・・・それだけはお許しを。

 あれでも異世界人について知れる、唯一無二の貴重な書物なのです。」


「そうは言うけどねぇ。

 例の本の話を聞いてると、ネット民から理不尽な風評被害を受けてるみたいでさぁ。

 腹が立ってくるんだよっ!!」


?~。


「あらあら。

 テンイの世界にも風評被害を広める醜い人達がたくさんいるのね。」


「性根が醜いのは『悪い』ネット民だけだけどね。

 人に迷惑を掛けない『良い』ネット民や、『普通』のネット民だってもちろんいるよ。」


なんか難しい単語がいっぱいだな~。


・・・


あ、そーだ。


「あのね。これからは王女様の事をデルマお姉ちゃん・・・。

 聖女様の事をエミリーお姉ちゃんって、呼んでも良い?

 そっちの方が仲良くなれるんでしょ?」


「えっ!?

 ・・・例の本には何も書いてなかったけど、そ~いうものなのかしら?

 まあ別に構わないけど。」


「んー・・・。

 呼び捨てやおばさん呼ばわりはさすがに嫌だけどさぁ。

 『エミリーお姉ちゃん』ならま、いっか。

 好きになさい。」


ホントっ!?


「やったあっ。

 ありがとう。

 デルマお姉ちゃん、エミリーお姉ちゃん!!」


「・・・なんか照れるわねぇ。」


「あー、わかる。」


「アハハ。」





今のあたしには家族がいない。

テンイお兄ちゃんも、家族に会う事が出来ない。


でもあたし達、ず~っと楽しく過ごしていくんだ~。

だって皆が一緒だもんっ♪


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読んで頂き、ありがとうございました。

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