第129話 お兄ちゃん編② 妹萌えへの挑戦
Side 〜クロ〜
あたし、クロ。
今から皆で朝ご飯を食べる所なんだ~。
あ、そ~だ。
これからはご主人様の事、お兄ちゃんって呼んだ方がい~んだよね。
だってそっちの方が喜んでくれるって、言ってたもん。
「おはよ~。
お兄ちゃん♪」
「おはよう。
クロ。
・・・ん?」
あれ?
なんか不思議そ~にしてる~?
「お兄ちゃんって、俺の事かい?」
「そ~だよ。
テンイお兄ちゃん♪」
そ~答えたらご主人様、なんか考え出しちゃった~。
「・・・昨日、王女から教えてもらったのかな?
俺の事、お兄ちゃんって呼んだ方が嬉しがるとか・・・。」
「うんっ。
えーっと、確か『妹萌え』だっけ~?」
そ~いや『妹萌え』って、ど~いう意味なんだろう?
妹、萌え・・・もえ・・・燃え・・・。
( ゜д゜)ハッ!
お兄ちゃんって呼んだらあたしは・・・燃えちゃう!?
「王女様っ!!
あたし、炎に燃やされちゃうの!?」
「なんでっ!?」
・・・あらら?
そ~でもないみた~い。
「王女、ま~た君はクロに妙な事を吹き込んで・・・。
そんなに肩を揺らされたいのかなぁ?」
「ちょっ!?
お止めください。どうかこの私めにお慈悲を!!
それをやられると、頭が揺れて酔っちゃうんです。」
ど~してかな~。
ご主人様、王女様にちょっぴり怒っちゃったみた~い。
「ってか、口癖みたいなもんかと思って、スルーしてたけどさぁ。
クロの『ご主人様』呼びだって、ど~せ君の差し金だったんでしょ!?」
「濡れ衣ですって!?
確かに例の本にもそれがベターだと書かれてましたが、決して私の目論見ではありませんよ!!」
「ん・・・この反応は嘘じゃないっぽいなぁ。
・・・けどだとしたら、お子様が知り合いを『ご主人様』呼ばわりするなんて、おかしくない?
今更かもしれないけど・・・。」
そ~なのかな~。
「あ~、昨日クロが言ってたわよ。
奴隷だった頃の主人がね。『ご主人様』って言わないと、殴ったり、蹴ったりしてきたんだって。
それが嫌で主人に対しては『ご主人様』って言う癖が付いたとか。」
「マジでっ!?
いやいや・・・。
俺はクロになんて呼ばれようが、殴ったり、蹴ったりなんかしないよっ!!」
「うんっ。
それはわかってるよ~。
でもつい癖で~。」
「・・・普段、あんまりにもお気楽すぎて、忘れそうになるけどさ。
君って元奴隷だったんだよね。
俺なんかじゃ想像も出来ないような、酷い目にだっていっぱい合ってきたんだよね・・・。」
?~。
ど~してご主人様、しんみりしてるの~?
「ま。『妹萌え』だかなんだか、知らないけどさぁ。
『お兄ちゃん』って呼ばれるくらい、別に構わないんじゃない?
『ご主人様』なんて呼ばれるよりは、よっぽど健全でしょ。」
「そうだね。
・・・。」
「テンイお兄ちゃん?」
「・・・。
いや、何でもないよ。」
ど~したんだろう?
ご主人様~。
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「ハアッ!!」
「グギャア!??」
今日もご主人様、剣一本でモンスターの群れを圧倒しちゃった~。
「さすがですっ。
勇者様♪」
「うんうん。
だ~いぶ、戦い慣れてきたようねぇ。」
「アハハ。」
王女様はご主人様を喜ばせようと、作り笑顔で一生懸命。
聖女様はご主人様の成長を喜んでるみたい。
そんな二人にご主人様はいつも通り、ちょっぴり照れてたの。
じゃ、あたしも!!
「カッコい~。
テンイお兄ちゃ~ん♪」
「・・・うん、ありがとう。」
あれれっ?
ご主人様、いつもと違って素っ気ない・・・。
なんで~?
********
「美味しいね~。
テンイお兄ちゃん♪」
「・・・そうだね。」
美味しいお昼ご飯を食べてる時も・・・。
********
「テンイお兄ちゃん!!
モンスターがすぐ傍にいるのっ!!」
「・・・って、そうだっ!!
ボンヤリしてる場合じゃないっ。」
モンスターが傍にいるって伝えた時も・・・。
********
「・・・。」
全然、嬉しそうじゃなかったの。
「・・・あたしが元奴隷だからかな。
だから『ご主人様』って呼ばないあたしが嫌いになっちゃったのかな?」
「それはないと思うけど・・・。
でも可愛い女の子から『お兄ちゃん』って呼ばれたのに、嬉しそうじゃないなんて。
やっぱり彼は普通の異世界人とはかけ離れた存在なのかしら?」
「うん、そ~いう問題じゃないから。
でもたかが『お兄ちゃん』呼ばわりされたくらいで、あんな態度を取るなんて変ねぇ。
それに怒ってると言うよりはさぁ・・・。」
・・・。
「テンイお兄ちゃん・・・。」
なんでそんなに・・・。
「もう『お兄ちゃん』なんて、呼ばないでくれっ!!」
えっ!?
ご主人様、走り出しちゃった!??
ど~してっ!!
「えーーーーーーーー!!??
そこまでクロに『お兄ちゃん』って呼ばれるのが嫌なの・・・?
・・・嘘でしょ。」
「確かに変ねぇ。
で、ど~する? 追いかける? しばらく放っておく?
もう街中まで着いたし、少しくらい一人にしても平気だと思うけど。」
「う~ん・・・。」
わかんない。
わかんないよっ。
「!!」
「あっ、クロ!?」
「走り出しちゃった。
しょ~がない。
私達も行きましょうか。」
********
路地裏の方からご主人様の気配がする。
「・・・どうして、こんな事になっちゃったのかしら?
もしかして、例の本の内容がおかしかったとか。」
「元々あの本はおかしな事しか書いてないでしょ。
それを抜きにしたって、今日のテンイの態度は妙だけど。」
ご主人様・・・。
「うっ、うっ。」
泣いている!?
あたしが『お兄ちゃん』って、呼んだからなのっ?