第128話 お兄ちゃん編① 転移勇者の呼び方
Side 〜クロ〜
「じゃあクロ。
今日もハーレムのお勉強を頑張りましょうね。」
「は~い。」
あたし、クロ。
異世界からやって来た転移勇者様のハーレム要員なの~♪
「まったくデルマったら・・・。
ま~たアホくさいお勉強を始めちゃって。
『常識』のお勉強はもう良いの?」
「ん~、あんまり気にしすぎても、しょ~がないかなって。
エミリーが話したような、腐った常識も多いみたいだしね。」
「・・・あらあら。」
「だから『常識』を気にするよりもさぁ。
勇者が道を踏み外さないよう、努力した方が良いかなって。
そのためにはもっと立派なハーレム要員になれるよう、お勉強しないとね。」
「相変わらず、目的だけは立派ね~。
手段はおかしいけど・・・。」
そ~なの。
最近の王女様は『常識』をもっと知りましょう、って必死だったの。
でも王女様にとって『常識』はハチャメチャすぎて、わかんなかったみた~い。
支離滅裂で理解出来ないんだって。
「じゃあ今日は何を教えようかしら?
・・・いくら知識だけだとしても、エミリーがこの前やろうとした事を話すのは早すぎるからねぇ。
そ~いうのは、せめて12歳以上になってからにしないと。」
「あんたって、そのあたりの常識はあるのね。」
「母上が知識として知るのは12歳以上、実践は16歳以上になるまで、絶対ダメっ!!
って、よく話してたからね。心身に悪影響だからって。
勇者の世界でも似たような感覚らしいわ。」
?~。
何のお話だろう?
「だからクロにハーレム要員として教えられる事はね。
勇者への褒め方・煽て方・呼び方なんかになるんだけど・・・。
・・・あ。」
「ど~したの~?
王女様~。」
「『呼び方』の話で気になったんだけどさぁ。
あなたって私が話すまでもなく、勇者の事を『ご主人様』って呼んでたわね~。」
そ~だけど。
「ダメなの~?」
「別にダメじゃないわ。
例の本にも、メイドや元奴隷少女なんかは『ご主人様』呼びするのがベターだって、書かれてたしね。
・・・まさか、それを知ってて?」
「違うよ~。
あたしが主人を『ご主人様』って呼ぶのは、癖みたいなものなの~。」
「癖?」
だってね。
「奴隷だった頃の意地悪なご主人様がね。
『ご主人様』って呼ばないと、殴ったり、蹴ったりしてきたの~。
それが嫌で主人には『ご主人様』って、呼ぶようになったんだ~。」
「ご・・・ごめんなさい。」
「ど~して王女様が謝るの~?」
王女様、謝るような事なんて、な~んにもしてないよ~。
「けどまあ、もし勇者を『ご主人様』って呼ばなかったとしてもさぁ。
彼はあなたを殴ったり、蹴ったりなんかしないはずよ。」
「あたしもそ~思うよ~。
でも癖が抜けないんだ~。」
「意外と闇が深いわね~。」
奴隷になってから、ずーっとそうだったからなぁ。
「ってかさぁ。
テンイってクロから『ご主人様』呼ばわりされて、喜んでるのかしら?」
「う~ん・・・。
勇者の場合、嫌がってはなさそうだけど、喜んでもなさそうなのよねぇ。
良くも悪くもどう呼ばれるかなんて、あんまり気にしてなさそうだしね。」
あたしもそんな気がする~。
「どっちかと言えば『ご主人様』呼ばわりなんて、嫌がりそうなタイプに見えるけどね。
私達とは主従関係でいられるよりも、普通に親しくして欲しそうだもの。
まあクロに関してはそれが彼女の個性だと思って、気にするのを止めちゃったんでしょうけど。」
「えっ!?
ご主人様、ほんとは『ご主人様』なんて呼ばれたくないの?」
「『呼ばれたくない』とまでは、思ってないんじゃない?
デルマの言う通り、割とその辺、適当そ~だし。
けど多分、彼の好みじゃないでしょ~ね。」
そんなぁ・・・。
「じゃあさ、クロ。
これからは勇者の事を『お兄ちゃん』って呼んだらどう?」
???
「例の本によるとね。
転移勇者は年下の可愛い女の子から『お兄ちゃん』って呼ばれたら、大喜びするらしいの。
『妹萌え』って、言うんだって。」
「そ~なんだ~?」
よくわかんな~い。
「私やエミリーが勇者に『お兄ちゃん』なんて呼んでも、合わないけどさ。
クロにはピッタリな呼び方だと思うのっ。」
「ふ~ん?」
ど~してご主人様、あたしから『お兄ちゃん』って呼ばれたら、喜ぶんだろう・・・。
不思議~。
「・・・そ~いうものなの?
異世界人は変わった趣味の人が多いのね~。」
そ~だね~。
「あれ?
こっちの世界でも年下から甘えられたい人は男女問わず一定数、いるらしいわよ?
例の本以外でも、よく聞く話だけど。」
「ん~・・・。
確かにそ~いう話も聞かなくはないけどさぁ。」
「私やクロにはよくわからないけどね。
エミリーは年下の可愛い男の子から甘えられたいとか・・・。
・・・思う訳ないわよね。
どう考えてもそんな趣味なんて、なさそうだもの。」
だろ~ね~。
なんか聖女様に甘えても『はいはい』って、軽く流されそう~。
「・・・。」
「エミリー?」
「私だったらね。
年下の可愛い男の子から『お姉ちゃん』って甘えられるよりもさぁ。
本物の弟から『姉さん』って呼ばれたい・・・。」
えっ?
「甘えてくれなくったって、構わない。
罵倒されても良い。
・・・それでも一目でもハルトに・・・弟に会いたい。」
「ご・・・ごめんなさい。」
「別にデルマが謝る事じゃないわよ。
あなたは何も悪くないんだから。」
聖女様の弟って、ひょっとして・・・。
・・・。
・・・ううん、無理に聞かない方が良いよね。
「ま、別にテンイを『お兄ちゃん』呼びするくらい、い~んじゃない?
彼にそーいう趣味があるかは知んないけど、『ご主人様』呼ばわりよりは好ましいでしょ。」
「ホントっ!?
じゃ~あたし、明日からご主人様の事を『お兄ちゃん』って、呼ぶ~♪」
なんでかはわかんないけど、そ~呼べばご主人様、喜んでくれるんでしょ?
あたしを助けてくれたご主人様が喜んでくれるなら・・・。
あたしだって、嬉しいもんっ。