第11話 能力紹介編② 炎魔法「ファイア」&氷魔法「アイス」
テンイは爆発魔法『ボム』を放った。
はるか遠くにあった巨大な岩が跡形もなく砕け散った!!
「「「・・・。」」」
・・・普通のボムはゴブリンを倒すのがやっとなんけどね~。
なんで勇者のボムはドラゴンも巨大な岩も易々と破壊するのかしら?
「ま、また俺何かやっちゃいました?」
勇者ってば好きねぇ、その台詞。
やっぱり今回も内心、物凄く引いてるんだけど、彼の心を傷つけるわけにはいかない。
あんまり彼のストレスが溜まったら、どう暴発するかわかったものではないのだから!!
よしっ。
今度こそ、完璧な演技で褒めちぎるのよ!!
「きゃ~~~~!!!!
さすがですわ、勇者様。
ランク1のボムでランク5以上の破壊力を引き出すなんて、凄すぎます!!」
「(´・ω・`)」
あ、あれ・・・?
表情も声色も完璧だったのに、どうして??
「褒め方が嘘くさすぎて、しょんぼりしちゃったんじゃないの?」
なっ!?
私の褒め方が嘘くさい・・・ですって?
冷めた聖女の台詞にコクコクしていた勇者だが、私が目を向けた瞬間、わざとらしく顔を逸らす。
なん、ですって?
「・・・おかしいわね。
例の本には『転移勇者に対しては、わざとらしいくらい褒めちぎるのがベスト』って、書いてあったんだけど。」
もうなんでも良いからキャーキャー褒めて持ち上げれば、転移勇者の機嫌は最高潮になる・・・。
って、私の愛読書『転移勇者との付き合い方 ~ハーレム編~』には記されていたのに。
「・・・またあの変な本に書かれている事を鵜呑みにしたの?
あんたって賢いのかバカなのか、よくわからないわ。」
「えっ!!
ほ、本って何の話だい!?」
ひょっとして、テンイは転移勇者の中でも変わり種なのかしら?
それとも私の褒め方が未熟すぎるせい??
どちらにしても困ったわ。
「ま、まあ本の事は一旦、置いておくとして・・・。
どうして力を暴走させた時よりも威力が上がったのでしょう?」
「そ、そんなの俺に聞かれても。」
そりゃ、そうよね。
いくら魔法の才能が変態の域に達していたとしても、さ。
この世界に来て日が浅い勇者にそんな質問をして、答えられるはずがないわ。
「でも王女の真似して魔法を撃ってみたらね。
以前、暴走させた時よりもスムーズに魔力を放出できたんだ。」
「ああ、そっか。
正しい魔力の使い方を知ったから、威力が上がったんだわ!!
コントロール出来ずに暴走させるよりも、真っ当なやり方で魔法を使う方が効果はあるし・・・。」
・・・な、なるほど。
確かに武術だって、技の使い方をしっかり理解して放つ方が威力は出る。
基本的には暴走によって放たれる魔法よりも、ちゃんとしたやり方で放つ魔法の方が強いってわけね。
じゃ、じゃあ私は勇者を余計パワーアップさせちゃったって事?
ただでさえ、天災レベルにヤバい子なのに・・・。
け、けどもっと上手に魔法が使えるようになれば、威力のコントロールだって出来るようになるはず。
ここは気を取り直して、と。
「じゃ、じゃあ次はファイアの魔法をお教えしますわ。」
「・・・あ、うん。」
ファイアはランク1の炎魔法で、非常にメジャーな魔法よ。
単純な威力こそそれほどでもないけど、何かを燃やして炎を広げる事も可能だし、やりようによっては恐ろしい攻撃手段になる。
「ファイア!!」
またも近くにあった大岩に魔法を放つも、表面に焦げ目がついた程度で我ながら大した事無いわね。
岩は炎に強いから、仕方ないんだけど。
「へー・・・これがファイアなんだ。
うん、大体わかった!!」
って、わかるの早すぎ!!
「あのっ、勇者様。
勇者様のお力は素晴らしいですが、時に加減が必要となる事もありますわ♪
なので今回は、威力を抑えて魔法を放ってみてはいかがでしょうか?」
「うん、わかってるよ。
俺の魔法は威力が強すぎて怖いから、もっと弱く放てるようになれって事だね?」
「・・・そ、そんな卑屈にならなくても。」
勇者の言う通りなんだけど、さ。
にしても転移勇者って『自分の力の強大さに誇りに持つものだ』と、例の本には書かれているんだけどねぇ。
勇者の場合、聖女以外のほぼ全員から怯えられているせいで、誇りを感じる前に心が傷ついちゃったのかしら?
これはきちんとメンタルケアしておかないと、闇堕ちしそうで怖いわ・・・。
「念のため、さっきのボムの時みたいに遠くの大岩を狙いましょうね♪」
「・・・。」
そ、そう不貞腐れないでよ。
皆の安全のためでもあるんだからさぁ。
「今度こそ、威力を抑えて・・・。
ファイア!!」
ブオッ!!!!
・・・じゅうううううううう。
大岩、溶けちゃったじゃない。
それどころか岩のあった所がぐつぐつと煮えたぎっているし・・・溶岩かしら?
「え~と、勇者様。
本当に力を抑える気があったでしょうか?」
「あったよ!!
頑張って抑えようとしたんだよ!!!!
・・・でも全然、抑えられなくて。」
ど、どうしてかしら?
ただでさえ、ランク1の魔法でランク5の魔法以上のパワーを叩き出してるのに、威力を抑えられない??
「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。テンイ。
制御に失敗しても平気なよう、わざわざ人気の無い所まで来たんだから。
次はきっとなんとかなるって!!」
聖女ってば、またそんな大雑把な事を・・・。
どうも彼女、清楚な見た目に反してがさつなのよねぇ。
「・・・エミリー。
だよね、そうだよね!!」
「そうそう、その意気よ♪」
しかし落ち込んでいた勇者にとって、聖女の励ましはありがたかったようで、元気を取り戻す。
う、う~ん?
あんまり転移勇者が喜びそうな励まし方じゃなかったのに、彼ったら嬉しそう。
よくわからないわ・・・。
「けど人がいないにしても、岩山を火山に変えるのはマズイわよねぇ。」
せめて溶岩だけは沈めておかないと。
そう考え、溶岩の元まで近づこうとしたけど、熱い・・・熱い!!
溶岩から少し距離があるけど、しょうがない。
氷魔法で溶岩を冷やしましょうか。
「アイス!!」
私はランク1の氷魔法、アイスを使うも溶岩どころか周りの熱気でさえ、満足に吹き飛ばせなかった。
こ、これは私程度の魔力じゃ、どうしようもないかしら?
困ったわねぇ。
「・・・王女、その溶岩を冷やそうとしているんだね。
俺に任せて!!」
任せてって・・・・・・・・・・・・まさか!!
「アイス!!」
ビキキキキ!!!!
勇者の放ったランク1の氷魔法が、溶岩どころか、前方一帯を氷で覆いつくす!!
火山が氷山へ変わっちゃったわ・・・。
さっきまでは真夏よりも暑かったのに、今は真冬よりも寒い。
「・・・ま、まあ、火山のままよりはマシかしらね?」
「ど、どうして・・・?
なんで力を抑えようとしたのに、上手くいかないんだ!?」
あっ、力を抑えようとはしてくれたのね。
相変わらずのでたらめパワーだったけど。
「う~ん・・・。
テンイの魔法、なんか変ねぇ。」
「変って。
そんなの見ればわかるじゃない。」
「(´;ω;`)」
あらっ?
勇者ったら、魔法の威力をコントロール出来ずに泣いちゃったのかしら?
まったくもう、泣き虫なんだから。
「いやね。だってテンイ、魔法の軌道はきちんと制御できてるじゃない。
だったら威力だって、問題なくコントロールできるはずでしょ?」
あっ!!
「そ・・・そうね。
単に魔法の制御力が無いだけなら、軌道だってコントロール出来ないはず。」
一般的に魔法の軌道コントロールが上手ければ、威力の調整も上手いのが普通。
逆もしかりよ。
しかも勇者の場合、あれほど強大な魔法をかなり的確に軌道コントロールしている。
「なんでなのかしら?」
なんでって、え~と・・・。
・・・あっ、もしかして!!
「ひょっとして、勇者のチート能力のせい!?
彼のチート能力が、魔法の威力を通常の数十倍、数百倍に引き出しているとか??」
「マジでっ!!
そんなチート能力あるの!??」
「私も聞いた事はありませんが。
しかし転移勇者であれば、どのようなとんでもない力が眠っていても、おかしくないはず・・・。」
だって、転移勇者だからね。
「けど、困ったわぁ。
こんなにデタラメな威力の魔法しか使えないとなると、使い道も限られてくるわ。
・・・戦争で大勢の人間を一気に殺しつくすとか。」
「ちょ、ちょっと待って!!
やだぁ・・・。
大量破壊兵器として生きるなんて、絶対やだぁ!!」
「私だって、嫌よ。
ど~せ戦争になんか関わっても、良い事なんか一つも無いし。
戦争なんかで幸せになれるのは、ごく一部のクズ共だけよ!!」
あっ、良かった。
勇者も聖女も、虐殺や戦争なんかには否定的なんだ。
助かった・・・。
仮に勇者がそのような道を歩めば、いずれ本当に破壊神に成り果て、世界を滅ぼしてしまうかもしれない。
彼のようなメンタル自体は普通の少年が、虐殺なんか続けて平静を保てるはずないのだから。
「他には・・・あっ!!
野良ドラゴン狩りで生計を立てるとか?」
つまり、世界各地で天災となっているドラゴンなんかを狩りまわるってわけね。
それなら大金を稼ぎつつ、世界平和にも貢献出来るわけだし、決して悪い話ではない。
ないんだけど・・・。
「ド、ドラゴン狩り!?
・・・それはちょっと。」
「え~、なんでよ?
テンイったらつい最近、ドラゴンぶっ倒したばかりじゃない。」
聖女の言う通り、勇者は今の時点でドラゴンをも倒す実力を秘めている。
とは、言ってもねぇ。
「・・・いや。あのね、聖女。
今の勇者がドラゴンを前にして平静を保てると思う?」
しょうもないチンピラ相手にすら、取り乱して魔法を暴発させるのに・・・。
「思わない・・・。」
「野良ドラゴン狩りって生き方はありかもしれないわ。
けどそれは勇者の心が今の数十倍、いや・・・数百倍は強くなってから考える話よ!!」
「・・・返す言葉もございません。」
けどこのままじゃ勇者、いろんな意味でアンバランスすぎて、この世界で上手く立ち回れないわ。
魔法がデタラメに強すぎてダメなら、他の方法は・・・あっ!!
「勇者様。
魔法の力が強すぎるのであれば、これを使って戦ってみては如何でしょうか?」