第127話 闇聖女編⑤ 「愛」とは?
今更ですが本作のメインヒロイン達は物事の考え方が変です。
なので鵜呑みにはしないで下さい。
・・・しないと思うけどw
Side ~聖女~
「・・・昨日はヤケに疲れたわ。
やっぱ、闇聖女コワい・・・。」
「そう恨めしそうに見ないでよ。
ちょっと正妻マウント取ろうとしただけじゃない。」
「いらないでしょうが。
私にそんなマウントなんて・・・。」
ウンザリした様子の王女を、私は軽くいなす。
晴れ渡った空の下をのほほんと歩きながら。
先日、私はテンイを我がものにしようと、彼に夜這いを掛けたの。
・・・ものの見事に失敗しちゃったけれど。
「んー・・・。
あたし、いつの間に寝ちゃったんだろう?
確かご主人様と聖女様が楽しい事をするって。」
「夢でも見てたんだよ、クロ。
うん、夢でも見てたんだ。
夢だよ、夢。」
大事な事だから四回言いましたって所かしら?
「・・・うーん。
わかんなくなっちゃった。
ご主人様の言う通り、夢だったのかなぁ?」
「そうそう。
そうに決まってるって♪」
都合の悪い事は強引に夢扱いしようとするなんて、テンイは悪い男ね。
「(*´Д`)=3ハァ・・・。
昨日のあなたや勇者を見て、余計にわからなくなっちゃったわ。
常識ってなんなのでしょう?
男女の絆ってなんなのでしょう?
愛ってなんなのでしょう?」
あーらら。
王女ったら、増々混乱しちゃった。
しょーがない。
「『愛』に常識も正解もないわよ。」
「えっ?」
ったく。
「『愛』なんてものはね。所詮は願望・欲望の押し付け合いよ。
仮に常識やルールがあった所で、そんなものは打算から生み出された鎖でしかない。
鎖を縛る側になるか、縛られる側になるかは人によるけどね。」
「・・・そーなの?
でも人間関係の根本が『願望・欲望の押し付け合い』って所は、納得かも・・・。
そういう事情があるなら『常識』が矛盾だらけで統一性すらないのも、理解出来るし。」
なんか王女って、彼女なりの理屈や価値観に合えば、どんな珍説でもあっさり受け入れちゃうのよねー。
「こらこら、王女。
あんまり『愛』にネガティブなイメージばかり持つのは良くないよ。
そう悪い部分ばかりじゃないんだから。」
「うーん・・・。
でも山賊王とそのハーレムの関係は、あまりに醜いものでした。
けれど貴族の女の子と魔族の絆は、尊いものだと感じました。
しかしハーレムを望む男性と、ハーレムを嫌い、純愛を望む女性とで起きた事件は未だ、正解がわかりません。
やっぱり『愛』って難しいですね。
考えれば考えるほど、深みに嵌ってしまいます・・・。」
「・・・そうだね。
本当に難しいね。
人間関係って。」
『愛』がわからないーなんて言っても、王女も少しずつ学んでいってるのね。
やっぱ昨日は情に流されず、テンイを襲った方が良かったのかも・・・。
「ねえねえ、聖女様~。
結局、ハーレムって・・・皆仲良しって良い事なの~?
それとも悪い事なの~?
どっち~?」
あらら。
クロもあの子なりに悩んでいたのね。
「別にこの世界はハーレムも逆ハーも、特に禁止されていないわ。
だけど複数の異性を愛する事を嫌う人達は決して珍しくない。
この前の女の子だって、純愛を望む気持ちそのものは間違いなんかじゃない。」
常識やルールでハーレムに関するあれこれをどう縛ろうが関係ない。
数多の人間が一番に執着するものは、同じ『人間』だもの。
「・・・だからあなたも大きくなったらね。
ハーレム野郎が大嫌いになるかもしれないわ。」
「じゃ・・・じゃあ。」
けど、これだけは間違いじゃない。
「でもハーレム野郎を受け入れるか、拒絶するか・・・。
それを決めるはあなた自身よ。
クロ。」
「えっ?」
「愛の形なんて、人それぞれだもの。
○○だから正しい。△△だから間違ってるなんて、そんな事は無い。
だからね。あなたが何を想い、どう感じるかは、あなた自身で決めなさい。
それがあなたの幸せに繋がるはずだから・・・。」
そう。愛に正解なんてない。
正解なんて各人が勝手に決めちゃえば良い。
もちろん他者の目やルールなんかのせいで、自分の想いを貫けない事もある。
でもそんなものは上手く出し抜いちゃえば済む話よ。
「わぁー・・・。
そっか、そうだったんだ!!
あたしが決めていーんだー♪」
悩みがなくなったクロの笑みはとても輝かしかったわ。
「ご主人様ー。
あたし、ご主人様がどんなにたっくさんの女の子と仲良くなってもね。
ご主人様の事、大好きだからー♪」
彼女はテンイの方へ向き直り、自分の想いをまっすぐに伝えた。
「・・・うん、クロ。
ちっとも感動的な台詞じゃないからね。
ってか、すっごく失礼な言葉だからね。」
あらあら・・・。
せっかくの告白(?)なのに、テンイったらクールねぇ。
まーそもそもクロの『大好き』は恋愛感情から来てるものじゃないけど。
「まったく。
誰の影響で、こんな変な子に育っちゃったのやら。
・・・困ったものだよ。」
「?~。」
そしてテンイは呆れるような態度で、クロの頭を軽くポンポンと叩いた。
彼女は何もわからずキョトンとするばかり。
『今の』テンイとクロの関係はこれでいーのかもね。
「・・・本当に人間関係とは難しいものですねー。
なんでもかんでもルールや常識に従えば良いってものじゃないのが。」
一方、王女は未だに悩み続けている。
あの子って常識が無い割に、常識に拘ろうとするわね。
「あんたねー・・・。
じゃ、常識だったら『聖女に選ばれた者は世界を救うための礎とならなければいけない』。
・・・なーんて、意見にも従うの!?」
「えっ?
従う訳、ないけど。」
「えっ?」
どうしてかしら?
「それってつまり『自分の都合で他人を犠牲にしても構わないですよ~』って事でしょ?
そんなものは『常識』じゃないわ。
見苦しい連中が我が身可愛さに戯言を呟いてるだけよ。」
・・・・・・。
「そうだよ、エミリー!!
俺はそんな『常識』になんか、絶対に従わないからねっ!!」
「うんっ!!
勝手な理由で聖女様をいじめるなんて、ダメなのっ!!」
・・・・・・。
やれやれ。
「それで良いのよ。
常識を知るのも大切だけど、それ以上に良識や信念を大事にしなさい。
・・・わかった、デルマ?」
「いきなり名前呼び!?
別にいーけど、急にどうしたのよ・・・。
聖女ったら。」
「あんたもいつまでも『聖女』呼ばわりしないで、『エミリー』って呼びなさい。」
「あ、うん。
わかったわ。
エミリー。」
不可解に思いながらも、王女・・・デルマは私の意見をすんなりと受け入れた。
そんな私をテンイがなんだか羨ましそうに見てるわね。
ま、私はライバルが親密になる協力なんてしないから。
あなた自身の力で頑張りなさい。
「じゃ、早くチュウオウ国まで向かいましょ。」
「ああっ。」
「ええっ。」
「は~い♪」
別に私はテンイの正妻になる事を諦めるつもりはない。
だけど今はこの下らない、けれど和やかなハーレムごっこを楽しもうじゃないの。