第124話 闇聖女編② 勇者を喰らいし者
闇聖女×ヘタレ勇者のお話。
・・・誰得なのかはさておくとしてw
Side ~聖女~
ここはとある町の宿屋。
既に日は暮れていれど、まだ夢の中へと旅立つ時間じゃない。
「・・・・・・。」
王女とクロは今、仲良くお風呂に入っている最中。
普段なら一緒に入る事も多いけど、今日は一足先に上がらせてもらったの。
私自身の野望のためにも。
「テンイー。
いるー?
入っていいー??」
そして意を決し、テンイの部屋の扉をノックする。
「エミリー!?
うん、いいよー。」
少し上の空な感じだったけど、すんなりと部屋へ入れてくれたわ。
彼は何かを失くしてしまったのか、部屋中をガサゴソとしていた。
「・・・何を探しているの?」
「俺の大切な物が見当たらなくてね。
どっかに落としちゃったのかなぁ。
エミリー、知らない?」
「知らないわ。」
「そっかー。」
私の返事に残念そうにしつつも、彼は探し物を続けている。
・・・その姿には私への警戒心なんて、微塵も感じられない。
まるで無垢な子羊のように。
ずっと一緒に旅する内に忘れちゃったのかしら?
なんで私がテンイと共にいるのかを。
「ねえ、テンイ・・・。
ちょっとバンザイしてくれない?」
「?
こう?」
彼は私のお願いを少し訝し気にしながらも、すんなりと聞き入れた。
そんな彼が身に付けている服を脱がしていく。
母が幼子の着ている服を脱がすかの如く。
「えっ?」
唐突な行為に理解が追い付かないのか、テンイはされるがままだったわ。
なんて無防備なんでしょう・・・。
狼に変貌するのは、男だけの特権じゃないのよ。
「エ・・・ミリー・・・?」
「あらー・・・。
やっぱ鍛えてるだけあって、良い体してるわねぇ。
毎日、剣の素振りを頑張ってる成果かしら。」
無防備となった彼の上半身をなぞるように触る。
・・・男としてまだまだ頼りないって事は、知ってるはずなのになぁ。
その鍛え抜かれた肉体には、つい身を委ねたくなるわ。
「あの、その・・・。」
「けど私だって、スタイルには自信あるもん♪」
なんて言いながら、私は何の躊躇いもなく、服を脱いだ。
衣服が破れて、裸同然の姿になるくらい、戦争に参加中は日常茶飯事だったからねぇ。
そのくらいで羞恥する純情なんて、とっくの昔に無くなっちゃったわ。
「!!!!????
くぁwせdrftgyふじこlp。」
一方、テンイは上半身が露わになった私を見て、顔を真っ赤にしながら謎の悲鳴を上げたの。
・・・確か彼、親から『一人前の剣士になるまでは女の子と付き合うな』なーんて、言われてたんだっけ。
だからこんなに初心なリアクションなのかしら。
同じ初めてでも、私とは大違い。
「ど、ど、ど・・・。
どういう、つもり・・・なのぉおおおお!!??」
声をどもらせながらも、彼の目は私の胸に釘付けみたい。
素直な子ね。
「テ・ン・イ。
どーして私があなたと行動を共にしているか・・・。
覚えてないの?」
「・・・えとえと。
それは愚王から、魔王討伐するよう命令されたから・・・。」
「誤魔化そうとしたって、ダーメ♪」
そんな命令を受けた事なんて、今の今まで無視していた癖にさ。
「お、俺の伴侶にな、なりたい・・・から・・・って。
・・・ででで、でもそんなの冗談としか。」
「本気に決まってるじゃない。」
あの日、ジャクショウ国で彼の力を目の当たりにした時から、ずっと本気だったわ。
そして共に旅を続け、彼の人間性を知り、確信したの。
私が幸せになるためには、テンイの伴侶になるしかないと。
「あなただって、私のような美少女とこんな事がしたかったでしょ?」
私は潤んだ瞳をしながら、彼のたくましい体に自分の胸をくっつける。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「ウフフ。
体は正直ねぇ。」
「どこ見ながら言ってんのーーーー!!??」
下の方を見ながら話すと、彼はますます動揺したわ。
バレバレな感情を隠したかったのか、彼は私に言及する。
「だ、大体、君が俺の伴侶になりたいのはお金のためでしょ!?
そんな下らないもののために自分の体を売る気なの!??
ダメだよ。もっと自分を大切にしなよ!!」
「・・・ま、それも大きいわね。
けど勘違いしないで。お金は下らないものなんかじゃないわ。
だってお金がないと、食事だって満足に出来ないもの。
飢えに苦しみ続けるって、とっても辛い事なのよ。」
「エミリー・・・。
って、いやいやいやっ!!
お金ならもう十分持ってるじゃないか、君。」
まあねー♪
テンイがドラゴンやらワイバーンやらの高級素材を狩ってくれるおかげで、懐はかなり温まってるわ。
けれど私がテンイに執着する一番の理由はお金じゃない。
「・・・そうね。
でも私が一番欲しいのは、王女の言うチート能力。
あなたが持っている大きな力が欲しいの。」
王女はテンイのチート能力を怖ろしい危険物のように考えている。
だからこそ彼女はチート能力を持つ彼を信じ切れないのでしょう。
あの子だって、彼が人並に善良だって事くらいはとっくに理解してるのにねぇ。
「ち、チート能力が欲しいって・・・。
こんな危険な力なんか、どうして欲しがるの!?
・・・一歩間違えたら、世界だって壊しちゃうかもしれないんだよっ!!」
そして彼が大きな力に溺れないのは、彼女の態度も影響してると思うわ。
でもさ。
「それが何だって言うのよ・・・。
それでも私は大きな力が欲しい。」
「えっ?」
「人を癒し、守るだけの力なんて、あっても仕方ない。
そんなものだけあっても、本当に大切なものは守れない。
・・・むしろ悪意を呼び寄せ、私も周りも不幸にするだけ。」
「エミリー・・・。」
そうよ。
私が人を救うしか取り柄のない、哀れな聖女だから・・・。
聖女の力を欲した悪党から虐げられた。
家族を死なせてしまった。
愛する人と人生を歩めなかった。
テンイのように全てを破壊する力があれば、あんな連中なんか皆殺しにして、幸せになれたに違いないわ。
でもどれだけ望もうが、私は敵を滅ぼす力を身に付けられなかった。
・・・だからこそ。
「私はあなたの力が欲しい・・・。
あなたの全てが欲しい。
例え、この身の全てを捧げたとしても、あなたと共にいたい。」
私はチート能力を持つテンイの女になりたいの。
聖女としての運命から、守ってもらうためにも。
「あ。」
あらあら、テンイったら。
随分、呆然としちゃって。
ま、本音を言えば、初めては大好きな人に捧げたかったって、気持ちもある。
けどテンイでも別に悪くはないかなーっ、とも感じている。
今の所、彼の事を『異性としては』全然愛してないけどさぁ。
『仲間としてなら』まあまあ好感はあるしね。
頼りない性格だけど、結構優しいし、『聖女だから』なーんて言わないから、付き合いやすいし。
何よりあんなに大きな力を持っているのに、人格が破綻してないのが貴重すぎるわ。
暴力でも権力でも大きな力の持ち主なんて、人格破綻者ばっかりだしね。
「じゃ、次は下の方も脱ぎましょっか。」
「ちょっ!?
待って!!
待っ・・・。」
「ダーメ♪」
彼は自分から脱ごうとしない。
でも脱がそうとしたら、抵抗出来ずに従いそうな感じね。
今すぐにでも私を食べたい癖に、その気持ちを抑えるのでいっぱいいっぱいってところかしら。
本気に嫌なら、力づくで跳ね除ける事だって出来るもの。
魔法やスキルを含めない、純粋な力でもテンイの方が強いしね。
・・・。
にしても、彼ったら本当に綺麗な顔ね。
性格に反して、体付きは凄く男らしいし。
きちんとお風呂に入って、清潔にしているのもポイントかしら。
あらヤダ。
打算のためだけに彼を襲うつもりだったのにさぁ。
「改めて見ると、あなたって本当に格好良い人ねぇ・・・。
なんだか私、ドキドキしてきちゃった。
・・・もういろんな事情なんか、ぜーんぶ忘れちゃいそう。」
「あ、あ、あ。」
「今日は思う存分、楽しみましょ♪」
私が乗り気になっているのが伝わったのか、テンイの動揺がますます強くなったわ。
彼の理性が消し飛ぶものも時間の問題ね。
じゃ、いよいよお楽しみの始まり・・・。
「勇者様ー。いますかー?」
「ご主人様ー。いるー?」
ドンドン。
・・・・・・。
ん″?