第123話 闇聖女編① ハーレムを滅ぼしお札
Side ~聖女~
ここはとある町の宿屋。
聖女である私は辛い過去を長々と思い返していた。
「「zzzzzz。」」
「よく寝てるわねー・・・。
羨ましいわ。」
・・・今日は怖くて眠れない。
失った家族や元恋人から罵倒される夢を見てしまったから。
もしも目を瞑ったら、また同じ夢を見てしまいそうな気がして。
「これでもテンイ達と会う前よりはマシだけど。
あの頃は2日に1回は悪夢に怯えて眠れなかったっけ。」
それでも叶う事なら、もう二度と見たくはない夢。
けれど一生、私はこの悪夢から逃げられないでしょうね。
・・・私が聖女だったせいで、あの人達は不幸になったのだから。
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「ふぁ~あ~。」
そして眠気を我慢しながら、晴れ渡った空の下を歩く。
今は目的地であるチュウオウ国を目指して、足を進めている所よ。
ここ最近は珍しく、おかしな事件に巻き込まれたりせず、平和な時を過ごしていたわ。
・・・けれどちょっと面倒な問題も起きている。
少し前、ハーレム嫌いの女性達とひと悶着があってからさぁ。
王女がハーレム要員(?)として振舞うのは正しいのか、疑問に感じちゃってね。
そこまでなら別に良いんだけれど、おかしな質問をしてはテンイを困らせるようになったの。
「勇者様・・・。
何故、勇者様の国ではハーレム男が嫌がられるのですか?
・・・もしや、神々が世の女性を洗脳したのでは!?」
「んな訳ないでしょ!!
もしも本当に『外国の宗教の影響』でハーレムが禁止になったとしてもさぁ。
地球には本物の神様なんて、存在しないんだから。」
こんな風にね。
・・・仮に神々が実在したとして、女性がハーレム野郎を嫌がるよう、洗脳するなんつー、下らない真似をするかしら?
「なら、もう一つの説である『一万円札の陰謀論』なのでしょうか?
これも例の本曰く、スマホに書かれていたそうですが・・・。」
「宗教よりも突拍子がねえっ!?
いくらなんでもお札がハーレム野郎の排除なんてする訳・・・。
・・・って、もしかして福沢○吉のこと?」
「名前までは存じませんが、一万円札と化した男性の陰謀と言う説です。
どーやら女性の立場をもっと良くしたいと願ったそうで。
その一環として一夫多妻制・・・ハーレム制度が無くなるよう、働きかけたようですね。」
あらまあ。
「ご主人様の世界では、男の人がお札に変わっちゃうの!?
すごーい♪」
「・・・あのね。
そういう意味じゃないから。」
他人の立場を良くするために尽力するなんて、随分と奇特な人物ねー。
その○沢諭吉とやらは。
お偉いさんなんて、他人を蹴落としてでも、自分の立場を守ろうとする人ばかりだってのに。
「一万円札の人って、んな事までしていたんだ。
けどじゃあ、外国の宗教云々はなんだったんだろう?」
「これも例の本経由のスマホ情報ですけどね。
一説によると、一万円札の人とハーレム嫌いの外国の神様は切っても切れない関係にあったそうです。
大の仲良しだった時もあれば、国同士の争いにより敵対関係になった事もあるようで。
ただどちらにせよ、関わりが深いだけに、影響されてしまったのかもしれませんね。」
「うーん・・・。
所詮はスマホ情報だし、どこまで真実なのかわかんないけどさ。
・・・一定の説得力はあるのがなぁ。」
テンイの国にもいろいろあるよーね。
ま、好きにすればいーけど。
「男の俺からすれば、浪漫が1つ失われたみたいで、ちょっぴり残念だけどさぁ。
女性の立場を良くするための結果でしょ?
だったら、日本からハーレム制度が無くなったのは良い事なんじゃないかな。」
「そうですねー・・・。
女性の立場を良くしようとする事自体は、素晴らしいと思います。
しかし今のあなたの国の状況を調べるほど、矛盾点が多く出てしまい、頭がこんがらがるのです。」
「どうして?」
そうよ。
何がそんなに不可解なのやら。
「勇者様の世界では友達が大勢いるのは素晴らしい事だとされています。」
「うん。そうだね。」
「様々な方と関わり、人脈を広げるのも素晴らしい事だとされています。」
「まあ、そうかな。」
「なのに大勢の異性と親しくなるのは悪しき事だと貶されるのです。
これって、矛盾していません?」
「いや、その理屈はおかしい。」
「なぜです!?
数多の人々と親しくなると言う意味では、どれも変わりませんよ?」
・・・。
確かにそーいう意味では皆、同じだけどさぁ。
どうしてかテンイと同じく、その理屈はおかしいと思ってしまう。
「それだけではありません。
例の本曰く、童貞は男性からも女性からもバカにされると記されていました。」
「って、おおーいっ!?
例の本にはそんな事まで書いてあるのかよ・・・。
・・・もうあの本、悪書として燃やした方が良いんじゃないかな。」
『童貞』?
「王女様ー。
『童貞』ってなーに?」
「クロっ!?」
「・・・えーっと、そうね。
簡単に言えば『女の人と大人の遊びをした事がない男の人』の事よ。
詳しくはあなたが12歳以上になってからね。」
「教えないでくれよ!?
んな下品な言葉!!」
そーいう意味なんだ・・・。
「・・・まあ、そういう話も聞かなくはないけどさぁ。
それとハーレムに何の関係があるの?」
「だって、考えてみてくださいよ。
童貞をバカにするって事はですね・・・。
『エッチな人ほど素敵』であると、堂々と公言するようなものですよ?」
「悪意ない!?
その解釈!!」
けれど、間違ってはないわね。
『エッチ出来ない奴はバカにすべき』って事はさぁ。
言い換えるなら『エッチ出来る奴は素晴らしい』って事だもの。
しっかしこの世界でも、結婚の有無であーだこーだ言われる事はあるけれど。
エッチの有無でバカにされたり、称えられたりするなんて風習、初めて聞いたわ。
大体ねぇ・・・。
「テンイの国って、んな発言が飛び交ってる世界なの?
随分とまあ、下ネタ好きの人間が多い事で。
恥ずかしいって感情が無いのかしら?」
いい年した人間が下ネタを連発するなんて、相当度胸が無いと難しいと思うけど。
「いや。例の本曰く、勇者の国は恥ずかしがり屋の人が多いみたい。
その割に『童貞キモイ』みたいな下ネタがあちこちで飛び交ってるんだって。
不思議な国ねぇ・・・。」
「・・・俺の故郷をdisらないでくれる!?
まあ確かに『童貞キモイ』って、よくよく考えるとクレし○よりも下品な下ネタだけど。
皆、自覚した上で喋ってるのかなぁ。」
おー、混乱してるわねー。
しかもそんなテンイを余計に混乱させるような発言が!!
「つまりですよ。
『童貞キモイ』→『エッチな人ほど素敵』→『大勢の女性とエッチ出来るほど素敵』。
・・・という価値観を日本の方々は持ってる事になります。
だったら『日本人は皆、ハーレム野郎が大好き』という結論になるはずでは?」
「ならないってばーーーー!!!!
滅茶苦茶だぁ。
そんな理屈はっ。」
あ。爆発した。
「ならないのですかっ!?
勇者様の故郷は不可解な世界ですね・・・。」
「不可解なのは君の方だよ。
・・・・・・。
急にそんな事が気になり出したのは、やっぱり前の事件のせいかい?」
「はい。
あの日以来『ハーレム』の良し悪しが全くわからなくなりまして・・・。
・・・それに突然、誰かを『愛』してしまい、責務を果たせなくなるかもと思うと。」
「・・・・・・。
言いたい事は何となくわかるけどさぁ。
やっぱ君、どこかずれてるよねー・・・。」
王女にとって、この前の事件はよっぽど衝撃的だったようね。
以前に増して、迷走しちゃってるわ。
「あたしもわかんないな。
どーして皆、仲良しなのがいけないんだろうって。」
あらま。
クロも悩んじゃってるのか。
「ま、大人になったらわかるわよ。」
「むー・・・。
大人って難しいなぁ。」
けれど王女は王女なりに『愛』とは何か、理解しようとしているのね。
おそらくはテンイのために。
・・・・・・。
マズいわね。
今は王女は『愛』というものをよくわかっていない。
だからそういう意味でテンイに執着する事はない。
テンイもそれを知ってか知らずか、彼女の心に踏む込めずにいる。
だけどもしも王女が『愛』を知り、その想いがテンイへと向いてしまえば。
多分、テンイは彼女を・・・。
どーしよ。
どーしよ・・・。
どーしよ!!
別にテンイが王女を二人目の妻にしようが、愛人にしようが構わないわ。
けれど私が正妻になれないのは困っちゃう・・・。
守ってもらえなくなっちゃう!!
こうなったら、最終手段よっ。
王女が『愛』を知る前に、私がテンイと結ばれてやるわっ。
お金のため・・・。
そして未来永劫、守ってもらうため。
テンイの正妻の座を手に入れるためなら、手段なんか選んでられないんだからっ!!