第122話 過去編(聖女)⑬ 聖女の始まり
今話で過去編(聖女)は終了。
こんな過去を経験すりゃあ、誰だってグレて金の亡者になるわ・・・。
と、納得できる出来になっていれば幸いですw
Side ~聖女~
「嫌よ!!
この国がどーなろうが、私の知った事じゃないもの。」
「頼みますよー、聖女様・・・。
野良ドラゴンからこの国を守れるのは、あなただけなんです。
・・・報酬はきちんと払いますから、ね?」
「・・・・・・。
ったく、一週間だけよ。
これっぽっちの滞在費と成功報酬で引き受けてあげるんだから、感謝なさい。」
こんなド田舎の小さな国なら聖女だと気付かれる事もないだろう、と考えて。
ジャクショウ国までやって来た私はしばらくの間、簡単なクエストを受けたり、野山で食料を集めながら、暮らしていたわ。
けれど結局、聖女だってのがバレちゃってこのザマよ。
まー、冒険者ギルドは『聖女だから』なんてクソみたいな理由で報酬を踏み倒そうとしないだけ、マシだけどさぁ。
早くこの国から離れないと、また面倒な連中に絡まれるかも・・・。
な~んて、悩んでいた矢先。
「へぇ。
君が聖女エミリーかい?
噂通り、とんでもない美少女だね。」
「誰よ?
あんた。」
「「「ノ、ノマール王子!??」」」
ジャクショウ国の第一王子が兵士を連れて、私の元までやって来たの。
どちらかと言えば整った顔立ちだけど、王族にしては地味な感じの男ね。
・・・国家の犬共が私を捕まえようとやって来た事はしょっちゅうだったけどさぁ。
王子自らが直接やってくるってのは、初めてだったわ。
しかもね。
「まずは君の力を試させてもらおう。
二の奥義・雷撃斬!!」
「!!??
フォース・シールド!!」
いきなり斬り掛かってきたの。
地味な面構えの割にやり方がワイルドすぎて、ビックリしたものよ。
『二の奥義・雷撃斬』は剣に雷を纏わせ、相手を攻撃するランク2の両手剣スキルなの。
並の魔物なら一撃で葬り去る程の殺傷力があるわ。
異世界人や異世界パワーを浴びた連中と比べりゃ、全然弱いスキルだけれど。
それでもランク2のスキルが使えるって事は、戦闘のプロを名乗れる程の実力がある訳だからねー。
小国の王子にしちゃあ、大したものね。
「ランク4の防御魔法!?
やはり君は本物の聖女で間違いないようだな。」
そう言う王子の剣は私どころか私の出した盾にさえ触れていなかった。
どーやら私が本物の聖女かどーか、見極めたかっただけのよーね。
だから初めから寸止めで済ます気だったみたい。
しかし急に攻撃されたからって、ランク2のスキルを防ぐのにランク4の魔法を使うのは悪手だったわ。
パーシヴァーからもよく注意されたっけ。
安易に強い防御魔法ばかり使うな・・・状況に合わせて強弱を調整しろってさ。
「で、何の用よ?」
「君にはこれから召喚する転移勇者と共に王命に従って欲しい。
父上・・・王は魔王討伐をさせたがってるみたいだけどね。
さっそくで悪いが、城までご同行願おう。」
「断るって言ったら?」
んでもってこの国の連中は転移勇者と共に私を魔王討伐に参加させる気だったのよ。
・・・たまにいるのよねー。
異世界から転移勇者を召喚し、騙したり脅したりして、魔王討伐させようって連中が。
当然ながら、世界平和なんて美しい理由からじゃない。
魔族の国を侵略して資源を奪いたいか、魔族に痛い目合わされた輩の報復か・・・。
ジャクショウ国の場合は前者ね。
「こんな噂が流れているよ・・・。
聖女は慈悲深きお方。
誠心誠意、頭を下げ続ければ、どのような願いも聞き入れて下さると。」
「(゜Д゜)ハァ?」
「それを妹に話したら、呆れるように答えたよ。
どーせ大勢で取り囲んで、頼みを断れないようにしただけだと。
どんなに強い防御魔法が使えようと、包囲してしまえば、攻撃力の無い聖女では突破出来ないだろう、と。」
その時は『余計な事を言うんじゃないわよ。クソ妹が!!』って、顔も知らない王子の妹を恨んだものよ。
今現在、一緒に旅をしている王女の事だけどね。
・・・まーあの子って、あんまり自覚はないかもだけど、敵に回すと怖いからねぇ。
お人好しで非情になりきれないから、それほどエグイ真似は出来ないけどさ。
もし彼女が一切の慈悲も無い娘だったら、ジャクショウ国はかなり怖い国になってたでしょう。
結局、王女の入れ知恵のせいで逃げ場を失った私は、ノマール王子に付いて行くしかなかったの。
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「この子が聖女エミリー?」
「みずぼらしいカッコねぇ。
いくら顔が美しくても、これじゃあさー・・・。」
「ま、元は落ちぶれ貴族の娘って話だからねぇ。
しょーがないわよ。
オーッホッホッホッ。」
「えー・・・。」
もうすぐ勇者召喚が始まるからと、王室に案内される最中、底意地の悪そーな三人の女に嫌味を言われたわ。
・・・素顔は悪くなさそーだけど、無駄に着飾りすぎてるせいで、脳みそ空っぽなバカ女にしか見えない。
三人の女は呆れて物も言えない私を満足そうに眺めると、高笑いをしながら去って行ったの。
「何・・・あれ・・・。」
「あー、彼女らは私の妹だよ。
・・・まあ、先ほどの態度は君の美貌に嫉妬して、ムキになってただけだろう。
あまり気を悪くしないでくれ。」
「別にいーけど。
王族なんて所詮、あんな連中ばっかだしさぁ。」
「酷い偏見だね!?」
ただあの時の私は、どーしても腑に落ちなかったっけ。
「さっきの悪態なんかよりもさぁ。
あんなアホそーな子らの入れ知恵のせいで、逃げ損ねた事実の方が腹立たしいわよ!!」
「口が悪いなぁ、聖女様は。
けど私に入れ知恵したのは彼女達じゃあない。
第四王女のデルマさ。」
「あ、そなの。」
「・・・あの子も大概、あれな娘ではあるんだけどね。
と、噂をすればやって来たよーだ。」
そう話す王子が見つめる方に目をむけると、噂のデルマ王女が私達の元へとやって来たわ。
先ほどの王女達とは逆で、王族にしては質素すぎる格好だけど、その美しさは私すら嫉妬を覚えるほどだった。
「ノマール兄様!!
やっぱり勇者召喚なんて、止め・・・。
って、そちらの美しい女性は一体どちら様で?」
「ああ。
巷で噂になってた聖女エミリー様だよ。
君の助言のおかげで、協力してもらえる事になったんだ。」
「・・・って、聖女エミリー!??
こんなド田舎の小さな国に本物の聖女が滞在してたなんて。
噂には聞いてたけど、てっきり偽物とばかり・・・。
しかもあんな適当なアドバイスで、聖女を捕らえるとはねー。」
「ド田舎の小さな国て。
聖女を『捕らえる』て。
相変わらず王族としての自覚に欠けるなぁ、デルマは。」
ただまあその美貌に反し、変わり者なのは一目瞭然だったけどね。
ってか、その適当なアドバイスに振り回される身にもなって欲しいと不満に思ったものよ。
「下らない事に付き合わせて、ごめんなさいね。
聖女エミリー。
って、そんな事よりも!!」
「『そんな事よりも』で済ませられても、困るんだけど・・・。」
「勇者召喚なんてやっぱ止めましょうよ。
異世界から罪も無い若者を誘拐するなんて、あんまりだわ!!
・・・それにこの国の力で転移勇者を従えるなんて、絶対無理よ。
反抗されて、国が滅んじゃうかもしれないわ!!」
勇者召喚を神聖な儀式だと信じているバカも多い中、単なる誘拐でしかないと理解している王女には関心したものね。
常識に囚われず、自分の頭で物事を考えられる子だと。
「心配しすぎだって、デルマ。
大体、転移勇者にいくら才能があろうと、無暗に魔法やスキルを教えなければ平気さ。
ありあまる力を発揮出来なければ、転移勇者と言えど、ただの少年・少女にすぎないからね。」
「そうは言いますけど、兄上。
転移勇者の中には意図せず力を暴発させて、大きな被害をもたらしたものも多々いると伝えられています。
そんな風に侮っていては痛い目を見ますよ!!」
「んなまさか。
力を暴発させるなんて、神様以上の才能の持ち主が感情を爆発させた時くらいだ。
それに危なくなったら、転移勇者を元の世界に帰せば良い。
な~に、父上もバカじゃない。
万一に備えて、転移勇者を元の世界に帰す手段くらい、用意した上で召喚に臨んでいるはずさ。」
「・・・それはそうでしょうけど。」
けどまあやっぱり温室育ちの王女様だけあって、考えが甘いと感じたけどね。
実際の所、転移勇者を召喚するよりも、帰す手段を準備する方が困難なのよ。
しかも初めから死ぬまで利用する気満々だから、帰す手段を準備してないケースの方が多いみたい。
ま、あの時は所詮は他人事だからと、助言する気も失せてたけどさ。
ただまあ、転移勇者の力ならこんな弱小国くらい、一人で滅ぼしかねないわ。
いくら茶番だからってあまり油断しすぎるのもダメか、と思い直したものよ。
その思いが功を成すとは思わなかったけれど。
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「ではこれより、勇者召喚の儀を始める。」
性格の悪そーな爺さん・・・もといジャクショウ国の王が高らかに宣言する。
魔王討伐のよーな危険な事になんか付き合ってられないし、適当に従ってるフリしながら隙を見て逃げよっと。
けどあの腹黒王子が私を逃がさないための策を弄してたらどうしましょう?
なーんて、ごちゃごちゃ考えている間に眩い光の中から一人の少年が召喚されたわ。
当時はその少年との出会いが、私の運命を大きく変える事になるなんて、思いもしなかったの。