第121話 過去編(聖女)⑫ 光と闇を抱えし女
筆者の作品では人助けを後悔する連中ばかり登場しますが・・・。
まあ、あれです。
彼女達はやさぐれてるから、あーいう考えになってしまうだけです。
決して一般論ではないので、そこだけは誤解しないで下さいね。
・・・しないと思いますが。
Side ~聖女~
「君が聖女エミリーだね?
噂通り、とんでもない美少女じゃないか。
俺達はね。
世界平和のために魔王討伐の旅を続けてるんだ。
是非、俺のパーティに加わらないか?」
「お断りするわ。」
「即答!?」
家族を失い、一人ぼっちになった私は、聖女だからと奴隷のように扱おうとするサザル国から逃げ出した。
行く当てなんて無いけれど、私の事なんて誰も知らない場所で人生をやり直そうと思ったの。
で、とある町で有り金のほとんどを食料に変えて、出て行こうとした所で声を掛けられたわ。
ハーレムを侍らせた転移勇者にね。
・・・テンイの事じゃないわよ。
この世界では戦闘が得意な異世界人は皆、転移勇者・転生勇者として一括りに扱われているの。
今の旅の連れの王女はテンイを勇者呼ばわりしているけど、あれは職業で呼んでるようなものよ。
『剣士さん』や『お役人さん』みたいな感じでね。
「何が気に食わないの!?
俺、ランク4の魔法やスキルが使える凄く強い勇者だよ?
魔王すら倒せるって、言われるくらいなんだよ??」
「気に食わない訳じゃないけどさぁ。
それくらいの実力じゃあ、一緒にならない方が互いに幸せかなって。
・・・だって私は聖女、呪われた運命を背負ってるから。」
「ネガティブだな!?
おいっ!!」
聖女としての業は並の転移勇者じゃ跳ね除けられないくらい、重い。
下手に関わったら、家族やパーシヴァ―のように不幸な末路を辿るのは目に見えてたからね。
私の側にいたいなら、最低でもランク5を超える魔法・スキルくらいは使えないと。
「それに悪い事は言わないから、さ。
魔王討伐の旅なんて止めておきなさい。
相手はランク5のスキルの使い手すら、無傷で捻り潰しちゃうよーな怪物よ。」
「嘘だろ!?
魔王ってそんなに強いのか・・・?」
「それに魔王や魔族って、無関係を貫けば無害だけどさぁ。
下手に傷付けると、相手を根絶やしにするまで攻撃を止めないわよ?
魔王に手を出した国がどういう末路を辿ったか、知りたい??」
「ひえっ!?」
異世界人の中にはお偉いさんに騙され、魔王討伐に向かう輩もいる。
けれどあんな危険生物に喧嘩を売るなんて、自殺しに行くも同然よ。
仮に死なずとも、魔王に脅され、奴の下で働く羽目になった連中も存在すると聞くわ。
「・・・ね、ねえ。
やっぱ魔王討伐の旅なんて、止めましょうよ。」
「そうですって。
命を捨ててまで、お偉方の指示に従う義理なんかありませんもの。
あなた様なら普通に冒険者として活動するだけでも大成功しますから、ね。」
「う、うん。そうだね。
物語の主人公じゃあるまいし、自分から死地に飛び込むなんてアホらしいよね。
俺らは雑魚狩りでもしながら、平和にやって行こうか。」
「ナイスアイデアですわ。」
私の瞳を見て、魔王がヤバいって話が真実だと理解したのでしょう。
ヘタレながらも真っ当な判断を下し、転移勇者とそのハーレムは去って行ったわ。
・・・。
あの頃はね。
転移勇者の中に神様にだって勝っちゃうくらいの猛者はいないかなぁって。
んでもってハーレム野郎でも構わないから、人並に善良な性質だったらなぁ。
そしたら聖女としての運命から、守ってもらえるかもしれないのに・・・。
なーんて、諦め半分に夢想したものよ。
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とは言え、あの転移勇者みたいに断ったら引き下がってくれる人は全然良い方ね。
大抵は自分勝手な理屈を付けて、強引に従えようとする連中ばかりだもの。
でも家族を失ってしまった以上、もう評判なんて一切気にしなくても良い。
強引な勧誘なんて罵倒しながら断り、無理矢理捕まえようとしても防御魔法を駆使し、逃げ出したわ。
けれど、逃げられなかった時もなかった訳じゃない。
「聖女エミリー!!
戦争の犠牲を減らすためには、どうしても貴方の力が必要なのだ。
悪いが一緒に来てもらおう。」
「嫌よ!!
いくら金を積まれようと、戦争なんて二度とゴメンだわ。」
「・・・何を勘違いしているのだ?
聖女は無償で人々に尽くす、平和の象徴とも呼べる存在。
金など払うはずなかろう。」
「まーた、そういう事を言う・・・。
あんたらお偉いさんには働いてもらった分の報酬を払おう、って発想すらないの!?
ドブネズミ並に意地汚いわね!!
大体『平和の象徴』を戦争の道具になんかしようとするな、バカ!!
心の底から聖女になり切ってる奴だって、あんたらみたいな愚か者に協力なんかしないわよ!!」
とある日、不意に兵士達に囲まれ、隊長らしき男から身勝手な事を言われたわ。
「全くもってその通りだが、仕方あるまい・・・。
我が国の上層部は平和を愛さず、富を全て独り占めしたがるような連中ばかりなのでな。
わずかな予算で部下の犠牲を少しでも減らすためだ。諦めてもらおう。」
「諦める訳ないでしょうが!!
フォース・バリア!!」
私はランク4の防御魔法を使い、兵士達を近づけまいとしたの。
奴らは隊長ですらランク3、それ以外の連中もランク1~2の魔法・スキルくらいしか使えなかったわ。
「どう?
あんたらに私の防御魔法を打ち破る事なんて出来ないのよ。
わかったら私の事なんか諦めて、好きなだけ殺し合いの続きをやればー?」
「・・・さすがは噂の聖女。
俺の全力の一撃さえ防ぐとは、武人として尊敬に値するよ。
だがな、お前はもう我らに従うしかないのだ。」
「何を言ってるのよ?
誰も私の防御魔法を打ち破れないのにさぁ。
どーやって私を捕まえる気よ?」
だけど隊長は信じられない事を言い出した。
「簡単な事だ。
お前の防御魔法が解けるまで、待ち続ければ良い。
何分でも、何時間でも、何日でも!!」
「・・・・・・・・・・・・へ?」
「いくら聖女とは言え、ランク4の防御魔法を無限に維持出来る訳じゃあるまい。
食わず、寝ずでい続ける事など出来はしまい。
ならば、お前の精魂が尽き果てるまで、見張りを続ければ済むだけの話だ。」
まさか防御魔法が打ち破れないなら、力尽きるまで待てば良い!!
・・・なんて戦略を取るとは思わなかったわ。
「わたしゃ、珍獣かぁ!?
そもそも女の子を寄ってたかって攫わなきゃ、出来ない戦争なんて止めてしまえーーーー!!」
「いくら正論を説こうが無駄だ。
さて、お前の体力はいつまで持つかなぁ?」
「このクソ野郎がぁああああああああ!!!!!!!!」
その後、意地でも防御魔法を貼り続けたけど、結局は力尽き、奴らに捕まっちゃったわ。
・・・あいつらと来たら。
どれだけ粘ろうが、それでも包囲を一切解かず見張り続けるんだから。
あれはあれで地獄だったわね。
今でもたまに夢で見て、うなされる。
ま、いくら私を捕まえて利用しようが、元々負け濃厚の戦争っぽかったし、どうしようもなかったけれど。
転移勇者ならともかく、聖女の私に敵を打ち倒す攻撃力はないからね。
奴らが私に構う余裕すらなくなった隙を突いて、逃げ出してやったわ。
シザーやラティのよーに、戦争を嫌っていた兵士を連れて。
あのクソ隊長を出し抜いて『ざまぁ♪』って気分だったのに、あいつときたらさぁ。
不敵な笑みを浮かべながら私らを見送るんだもの。
結局、隊長やあの国の上層部は戦死したり、処刑されたそうだけど・・・。
「どうか隊長を恨まないで下さい!!」
「あの方なりに一人でも多くの部下を救おうと必死だったんです!!」
・・・なんか最初から最後まで、あの隊長の手の平の上だったんじゃあ?
って気がしてならなかったわ。
そんな怒りのやり場をどこへ持っていけばいーのか、分からないような目にも合ってきたわ。
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故郷からどこまで行っても、どこまで離れても、聖女エミリーの噂が消える事はない。
「チュン・・・。」
人生に疲れながらも歩き続けていると、一羽の死に掛けた小鳥を見つけた。
「・・・可哀想だけどね。
小鳥に優しくするような気持ちなんか、とうの昔に捨てちゃったわ。」
あの時の私は地面に横たわる小鳥を無視して、立ち去ろうとしたの。
けれど気が付いたら、私は小鳥の前へと戻って来て・・・。
「ヒール!!」
「!!??
・・・チュン!!」
初めて回復魔法を発動させた時と同じように、小鳥を救っていたわ。
もう二度と善意で何かを助けたりしない。
そう誓ったはずなのに・・・。
「何、やってるんだろう?
私・・・。」
世間で噂される聖女のよーに、人々のために喜んで命を差し出せたら・・・。
逆に他人がいくら苦しもうが、笑顔で見捨てられたら・・・。
どれだけ良かったでしょうね。
けれど現実の私は善にも悪にも染まれない、中途半端な女。
聖女としての力と美貌はあっても、その中身は無様で見苦しいだけの女。
そんな自分に嫌気を抱えつつも、私は居場所を求め、ジャクショウ国までやって来たの。