第119話 過去編(聖女)⑩ 初級冒険者との別れ
Side ~聖女~
「偽聖女エミリー!!
あなたは本物の聖女である私を差し置いて、聖女の名を騙りましたね?」
「いや、別に聖女って世界に一人しかいない訳じゃないんだけど。
ってか、本物でも偽物でも構わないから、帰してくれない?」
「しかもワイバーンの群れから、この国を守ったなどと嘯くとは・・・。
手柄を騙り、民を惑わすとは、聖女どころか人としても救いようがありませんね!!」
「自分が国を守っただなんて、一言も言ってないんですけど?
ってか、どーでも良いから、早く帰してくれない??」
私、聖女エミリーは連れに対する情などと言う、愚かしい理由で、魔物から国を守ってしまう。
故郷ではそのせいで家族共々、痛い目を見たにも関わらず・・・。
今回はフーク国の自称聖女様に難癖を付けられてしまい、城まで連行されてしまったの。
「なんですか、その不真面目な態度は・・・。
ワイバーンの群れから国を守ったのはこの私、聖女ライなのですよ!?」
「ハイハイ。
もうそれでいーから。
とっとと私を帰してくれない?」
「いい加減にしなさい!!
大体、何ですか。聖女である私に向かって、その口の利き方は?
あなたのような礼儀知らずなど、誠の聖女ではありません。」
いやね。
ライがあまりに鬱陶しすぎて、聖女ぶりっ子する気も失せてたのよ。
「まあまあ、ライ。
そんなに興奮しないで、ね?」
・・・ちなみに聖女は世界にただ一人しか存在しない、って訳じゃないわ。
同じ時代に複数の聖女が存在するケースは歴史上、いくらでもあった。
最近はイーニエ国が聖女を犠牲にしたがるせいで、稀なケースになっちゃったけどさ。
ただねぇ。
ライからはオーラってものが、全く感じられなかったの。
だから初めて目にした時から『噂通りの偽聖女だな』って確信してたっけ。
ボンクラ王子に取り入って、好き勝手に振る舞ってるだけのダメ女よ。
「で、聖女(?)ライ様ー。
お尋ねしたいのですが、あなたは何の魔法を使って、ワイバーンから国を守ったのですー?」
「え?
・・・・・・。
どーしてあなたにそのような事を話さなければならないのです!?」
「ちょっ!?
防御魔法が使えないどころか、防御魔法の名前すら言えないの!?」
「馬鹿にしないで!!」
・・・さすがに防御魔法の名前すら言えないってのは予想外すぎたけどさ。
「エミリー!!
君の眼は節穴か!?
ライほどの美貌を誇る女性が聖女じゃないなんて、ありえないだろう・・・。」
「あの・・・うん。
ソーデスカ・・・。」
「あれ?
でもその理屈でもいくと、エミリー。
君もライと同じく、本物の聖女なのか!?」
基本的に聖女と呼ばれる人種は容姿が優れていると伝えられている。
けどだからって『美少女=聖女に違いない』なんて暴論すぎるわ。
当時はライのよーなダメ女を聖女様、聖女様って、称えているこの国は本当に大丈夫かしら?
って、心配になったっけ。
実際にライを本気で聖女だと思い込んでたのは、ごく一部しかいなかったようだけどね。
「惑わされてはいけません。
あの女はその美貌で男を誑かし、自分を聖女だと騙る愚か者です!!」
「それって自己紹介?」
「侮辱する気ですか!?」
「・・・もう誰が聖女で、誰がこの国を守ったかなんて、どーでも良いでしょーが。
そんな事はあなた達で勝手に決めてちょーだい。
だから早く私を帰してくれない?」
どうせ報酬なんか出なさそーだし、手柄とかどーでも良いっつってるのにさぁ。
ライったらやたらとしつこく絡んできて、凄く面倒臭かったわ。
多分、ここで私を悪者にしないと聖女としての威厳が無くなるとでも思ったのでしょう。
「なんて愚かな女・・・。
王子様、この聖女を騙る不届き者に罰を下しましょう!!」
「え"?
こんなに美しい女の子に罰を下すなんて、可哀想だよ。」
「王子様は甘すぎます!!」
あの時はライのあまりのウザさに、つい腹を立てちゃってね。
「何が罰よ、いい加減にしてくれる・・・。
あんたのくっだらない聖女ごっこにいつまで付き合わせる気よ!?
早く私を帰せ、この偽聖女ーーーー!!!!」
立場も忘れて、ライを罵倒しちゃったの。
そしたら彼女ったら、泣き出しちゃってさぁ。
「う・・・ううっ、うえ~ん・・・。
王子様~・・・。
エミリーが私の事、偽聖女だって言っていじめるの~。」
「ラ・・・ライ!?
・・・おお、よしよし。
良い子だから、泣かないで。」
気まずくなった私は・・・。
「あ、あら・・・おほほ。
確かにこんなはしたない私が聖女な訳、ありませんよね♪
じゃ、私はもう帰りますんで。」
強引に逃げ出そうとするも、兵士達に囲まれそれも叶わなかったっけ。
「まあ待て、エミリーよ。
そなたをこの国から出す訳にはいかぬ。」
「え"?」
王曰く、本物であれ偽物であれ、たった一人でワイバーンの群れから国を守れるかもしれない者を捨て置く訳にはいかぬ、と。
だから真実が判明するまでは、私を捕えておく事にしたんだって。
迷惑極まりない話だわ。
まー、王の様子からすると、国を守ったのが私だってのには気付いてたみたい。
ついでにライが偽物の聖女で、何の力も持ってない事も知ってた感じね。
ライや王子の騙りが広まりすぎて、今更偽物扱いし辛くなってたっぽいけど。
********
「あーあ。
これからどーなるのかしらねー。
私ったら。」
真夜中の牢で一人、陰鬱に呟く。
少なくともフーク国の王は私に重い罰を下す気はなさそうだった。
・・・その代わり、国のためにコキ使う気満々っぽくてさぁ。
困ったものよ。
「父さん、母さん、ハルト。
もう会えないのかな・・・。」
でも遠く離れた家族に想いを馳せていると、一人の兵士がやって来てさ。
唐突に牢の扉を開けてくれたの。
「!??」
「しっ!!
・・・静かに。」
どーやらその兵士はシンのお兄さんみたいでね。
弟から国を救ってくれた恩人を助けて欲しいって、懇願されたそうよ。
で、ずっと私を助けるチャンスを伺ってたみたい。
「良いの?
私を解放して・・・。
もしバレたら、罰を受けるかもしれないわよ。」
「へーき、へーき。
聖女なんだから不思議な力で牢から抜け出すくらい、容易い事だろう。
・・・って、噂でも広めれば皆、信じるはずだから。」
「弟のシンに似て、雑ねぇ。」
なんだかんだで良い奴ってのも、シン似ではあるけれど。
「けど、ありがとう。
私を逃がしてくれて。」
「礼を言うのはこっちの方さ。
国を救ってもらったのに、牢に閉じ込めるような真似をして、本当にすまなかった。」
「あなたのせいじゃないわよ・・・。
・・・シン達に伝えてくれる?
パーティに誘ってくれてありがとう、さようなら。って。」
「・・・。
ああ、必ず伝えておくよ。
さ、早く行くんだ!!」
こんな事になってしまった以上、もう彼らと別れの挨拶を交わす余裕なんて無い。
シンのお兄さんに伝言を任せ、私はフーク国から逃げ出した。
ロクに感情を整理出来なかったけれど、それでも私は走り続けた。
********
ってな感じで、グダグダな旅路ながらも、どーにか故郷のサザル国まで帰って来たわ。
・・・あの後、父さん達は屋敷に戻れたのだろうか?
そんな心配を胸に、懐かしの我が家へと向かったんだけど・・・。
「屋敷が・・・ない?
なんで・・・。
火事にでもあった、の?」
住み慣れたはずの屋敷はなく、見えるのはその残骸と思われる焼け跡ばかりだった。
ショックのあまり、しばし放心していると。
「!!??
エミリーちゃん、なの?」




