第118話 過去編(聖女)⑨ 不器用聖女
Side ~聖女~
ファイツ国は魔王の手によって滅ぼされた。
どさくさ紛れに逃げ出した私はもう一度、家族に会いたいと願い、故郷を目指したわ。
お金は小遣い程度しか持ってない上、食料もアイテム・ボックスの中に非常食がいくらか残ってるだけ。
けれどパーシヴァーからサバイバル用の訓練を受けた事があるし、なんとかなるだろうって楽観してたの。
木の実や魚なんかを確保しながら進めば、大丈夫かなって。
・・・でも現実は甘くないどころか、劇物のような辛さだったわ。
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売却用に確保した薬草でも売ろうかと、とある村に入ったんだけど、飢饉にでも合ったのでしょう。
明日、食べる物にすら困ってる連中ばっかで物を売るどころじゃなかったの。
しかも私から持ち物でも奪う気なのか、襲い掛かってくる奴まで現れてね。
「フォース・プロテクト!!」
まー、この程度の連中の攻撃なんて、簡単に防げるんだけど。
しかも痩せこけてるのもあって、私の攻撃でも倒せそうなくらい、弱々しかったわ。
・・・とは言え、はっ倒すのも気が引けたし、無視して村を立ち去ろうとした矢先。
「ランク4の、防御魔法?
!??
まさかあなたは聖女エミリー様!?」
つい、強力な防御魔法を使ってしまったのが、いけなかったのでしょう。
聖女である事がバレてしまったの。
「だから何よ?」
「お願いします!!
飢えに苦しみ、死にゆく我らにどうかお恵みをーーーー!!!!」
「ふざけないでくれる!?
あんたらのよーな強盗なんかに、手を差し伸べる気はないわ。
早く離れてちょうだい!!」
私の正論に対し、恥の概念を失っている村人達は・・・。
「な・・・なんと薄情な。
苦しんでる者を放置するなど、それでも人間か!?
それでも聖女かーーーー!??」
「!!??
・・・・・・。」
聖女失格の烙印を押し付けてきたの。
・・・はっきり言って、こんなクズ共なんか、助けるどころか関わるのも嫌だったっけ。
けれど私が聖女らしくない振る舞いをすれば、ロクでもない聖女の家族として父さん達が迫害されるかもしれない。
だから嫌々ながらも、笑顔で彼らに施しを与えるしかなかった。
結局、一週間と経たずに夜逃げしちゃったけどね。
だって持ってた食料なんて、村人達が一日で食らい尽くしちゃったもの。
しかも生き残るためには、外へ出て自力で食料を確保する以外ないって、何度言っても・・・。
「聖女様はこれほど非力な我らに食料を確保しろと?
魔物に襲われたらどうするのです!?」
などと駄々をこねて、自分達は全然何もしなかったわ。
なのに私が苦労して取ってきた食料を、当然のように食い潰す始末。
危険を冒したくないのはわかるけど、そーでもしないと飢え死にしちゃうってのを理解してないのかしら?
・・・と、当時は思ってたけれど、おそらく違う。
私に全ての責任を押し付けて、自分達は安全な場所から施しを受けたかっただけなのね。
このまま無理して聖女ぶってると、村人より先に自分が飢え死にしてしまう。
けれど善意を強要された挙句、命を失ったとなれば・・・。
聖女としての評判を下げずに父さん達は自由になれるかもしれない。
とも、考えた。
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「ふざけるなぁああああああああ!!!!!!!!
・・・自分が死ねば親が幸せになる、だと?
子の死を願う親がどこにいると言うんだ!?」
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なのに、魔王の言葉が呪いのように私を縛り付ける。
更に空腹による苦痛で理性を失い掛けてたのもあって、我慢出来ずに夜逃げしちゃったって訳よ。
死にたがってる癖に、いざ死にそうになったら、心の中で言い訳を繰り返しながら、意地汚くも生き延びようとする。
そんな無様で矛盾だらけの自分にほとほと嫌気が刺したわ。
あの村に立ち寄ったおかげで、ただでさえ少ない食料が底を付いたけれど。
それでも私はパーシヴァーから教えてもらったサバイバル技術を駆使し、どうにかやっていったわ。
まー、飢え死にしない程度しか食べられなかったからね。
もう少しお金や食料を確保したいと考えた私は、聖女だとバレるリスクを覚悟でとある小国・・・フーク国へと入ったの。
そして冒険者ギルドに登録し、クエストを受ける事にしたわ。
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「君、ソロ?
良かったら、俺達とパーティ組まない??」
薬草採取なんかのクエストを一人でこなしている最中。
初級冒険者のシンがパーティを組まないかと誘って来たの。
少し迷ったけれど、一人よりは効率良く稼げるかなと思い、了承したわ。
彼らが受けるクエストの範疇でなら、聖女だとバレるような魔法を使わずとも済みそうだしね。
シン達はお世辞にも強いとは言えないし、生意気な部分も多かった。
抜けている所も目立ち、あからさまに詐欺臭いクエストに引っ掛かって、痛い目を見る事も一度や二度じゃなかった。
お金に目が眩んで、依頼内容の怪しさに気付けなかった私も同罪だけど・・・。
とは言え、なんだかんだで素直な良い子らばかりだったからね。
彼らの存在にわずかながらも癒されたわ。
・・・けれど、情が移ってしまったのが悪かったのかもしれない。
「「「キシャアアアアアアアア!!!!!!!!」」」
「ワ、ワイバーンの群れだーーーー!!!!」
ギルドでクエストを探していたら、ワイバーンの群れが現れたと騒ぎになったの。
「ど、どうしよう・・・?
どうしよう!?」
「あ、でもこの国には聖女様がいるんだろ?
聖女様ならワイバーンの襲撃くらい、防げるはず・・・。」
「バッカ。
城勤めの兄貴が言ってたぜ。
あの聖女は口先と容姿しか取り柄のないニセ者だって。」
フーク国には私とは違う聖女様が名をとどろかせていたわ。
『王子様に気に入られ、城で我儘三昧している』みたいな悪評ばかりだったけどね。
「聖女ライ様・・・。
どうか我らをお助け下さい!!」
「ワイバーンの群れから、お助け下さーーーーい!!」
聖女ライに助けを求める声が鳴り響く。
だけどフーク国の聖女が現れる気配は一切ない。
「や、やっぱりライ様は偽者の聖女・・・だったのか?」
「舐めやがって!!
あのクソアマがぁ・・・。」
そのせいであの聖女は偽物だったんだ、みたいな罵倒まで飛び交う始末。
「・・・。」
しかしいくら騒ごうが、ワイバーンがフーク国を襲撃するのも時間の問題だったわ。
なのにいつまで経っても、誰も何も出来ない。
「畜生・・・。
俺がもっと強ければ、ワイバーンなんか・・・。
もう人生、おしまいなのか?」
「諦めてんじゃないわよ、シン!!
早くこの国から逃げるのよ。
急いで!!」
ここで防御魔法を使って、国を守っても、故郷の時の二の舞にしかならないのは分かっていた。
絶対にロクでもない結末しか迎えない、と。
「父さん、母さん、ハルト・・・。
私は、私はっ!!」
「エミリー?」
けれど不安そうにしている仲間達の表情から目を背ける事が出来ず、私は同じ過ちを繰り返す!!
「フォース・バリアー!!」
そう。
人目も憚らず、強力な防御魔法を使って、ワイバーンから人々を守ってしまったの。
「キシャアアアアアアアア!!??」
「キー・・・。」
「キシャア!!」
いくらワイバーンが暴れようが、ランク4の防御魔法を打ち破る事なんて出来ない。
悔しそうにしながらも、余計なエネルギーを使うのを嫌い、ワイバーンの群れは去って行く。
幸い、ワイバーンによる被害は一切なかった。
「嘘だろ?
エミリー。
お前、ランク4の防御魔法なんて、使えたの・・・か?」
「エミリー・・・エミリー?
!!??
って、まさかあなた様は聖女エミリー!?」
「えーーーー!!??
嘘でしょ?
いくら頼りになるからって、エミリーが実は聖女だったなんて。」
でもやはりと言うべきか。
パーティの皆に聖女エミリーである事がバレちゃったわ。
他の人に気付かれるのも時間の問題だと悟った私は・・・。
「・・・バレてしまっちゃ、しょーがないわね。
ゴメン、皆。
さようなら!!」
「ちょっ!?
どこへ行くんだ?
待てよ、エミリーーーー!!!!」
シンの制止も構わず、逃げるように立ち去るしかなかったの。
しかし過ちを繰り返す愚か者に対し、運命は厳しかった。
「・・・あなたね。
自分を聖女だと語る不届き者は!!」
こっそり城から逃げ出すつもりだったのでしょう。
運悪くフーク国の聖女ライとその取り巻きに出会い、絡まれてしまったわ。