第10話 能力紹介編① 爆発魔法「ボム」
転移勇者テンイは冒険者ギルドでチンピラ二人に絡まれた。
するといつの間にか、国をも滅ぼす力を持つドラゴンが空から落ちてくる事態へと発展。
当然ながら城下町は大混乱。
これ以上、トラブルに巻き込まれるのは嫌だったので、私は、
「冒険者ギルドの皆さま、後はお任せしますわ。
心配せずとも、ノマール王子に『勇者様が恐ろしいドラゴンを退治し、国を救った』と伝えれば、わかってくださるはず。
証拠としてドラゴンの死骸の少し置いていきますから・・・では!!」
と、強引に話をまとめ、勇者、聖女を連れて城下町を後にした。
後始末を押し付けられ、ギルド職員達が半泣きになりながら引き留めようとするから、心が痛かったけど。
でも『王が旅に出るよう命令したから』の一点張りで、無理矢理逃げ出したの。
・・・一応、勇者が何もしなければ、城下町どころか国ごとドラゴンに潰されていた可能性だってある。
そう考えると、騒動になったとは言え、ほぼ被害無しでドラゴンを討伐した勇者PTが責められる云われはない。
と、思い込む事にするわ。
その代わり、迷惑料としてドラゴンの死骸は少し残していった。
聖女がちょっと愚痴ってたけど、貴重な魔物の素材を置いとけば、欲の皮突っ張った偉い輩に対する撒き餌・・・じゃなくて足止めになるからね。
しかし、このまま勇者が感情任せに魔力を暴走させ続けるのはマズいわ。
魔法について、少しでも学んでもらわないと・・・。
ってなわけで、私は勇者に魔法の使い方を教える事にした。
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「ねぇ、王女。
魔法を教えてくれるのは良いんだけど、さ。
なんでこんな岩しか見えない秘境に来たの?」
勇者の話す通り今、私達は周り一帯が岩だらけの殺風景な秘境まで来ていた。
なんでって・・・。
「それはもちろん、勇者様の才能が神掛かっているからですわ♪」
「うわぁ、褒めてくれてありがとう♪
・・・別に俺が迂闊な事して、誰かを巻き添えにしそうとか、さ。
そんな風に思ったからじゃないよね?」
感情の無い笑顔で勇者が問い返す。
なんだ、よくわかってるじゃない。
もちろんそれを馬鹿正直に喋ったら、勇者が傷つくだろうから黙っておくけど。
「そんな、まさか。
おほほ・・・。」
「サード・サイン・サーチ!!
・・・大丈夫よ、王女。
ここら一帯、人間どころか魔物の気配すら無いわ。」
先ほど聖女が使った『サード・サイン・サーチ』は周りに人間や魔物なんかがいないか探る魔法よ。
ランク3の高度な魔法であり、その効果範囲はおおよそ町一個分にも及ぶ。
そんな魔法をサラっと使えるなんて、さすがは聖女と言った所かしら。
「OK。ありがとう、聖女。
ささっ、勇者様。
これで何の遠慮もなく、魔法の練習が出来ますわ♪」
勇者の魔法に巻き込まれて、無関係な人が死んだ~・・・。
な~んて事になったら私達三人全員、心に深い傷を負うからね。
「ははは、心配してくれるのは嬉しいなぁ。
・・・でも、核兵器みたいな扱いを受けるのは悲しいよ。
俺、すっげぇ複雑な気分・・・。」
『核兵器』って確か、勇者達が住む世界では最強クラスの武器だって、例の本に書いてあったのを覚えている。
でもまあ、転移勇者もこの世界だと最強クラスの生命体なんだし、似たようなものじゃないかしら?
「で、最初は何の魔法を教えるつもり?」
「そうね、聖女。
まずは『ボム』から教えようと思うの。
ドラゴンを倒したのも多分、『ボム』系統の魔法だろうから・・・。」
「いや、『ボム』ってランク1の魔法でしょ?
あの威力はどう考えたって、『フィフス・ボム』級じゃない??」
「えっ、えっ?
『ボム』って何??
爆発を引き起こす魔法とか!?」
あらまっ。
勇者ったら勘が良いじゃない。
「その通りですわ。
『ボム』は強力なエネルギーを放ち、触れたものを爆発させる魔法です。
ランク1の魔法ながら、ゴブリン程度なら一撃で倒せるほどの威力を誇ります。」
だけど普通の『ボム』ではドラゴンを倒すには威力不足過ぎる。
聖女の言う通り、勇者が無意識に放った魔法はきっと『フィフス・ボム』・・・ランク5の魔法のはず。
魔法には何段階かのランクが存在するわ。
ランクが高いほど効果も上がるけど、それ以上に修得難易度も上がる。
ランク1の魔法でも、使えれば一人前。
ランク2の魔法ですら、プロを名乗れるレベル。
ランク3の魔法なんて、達人と呼ばれる人達しか使えない。
ランク4の魔法まで来たら、使えるのは世界でも有数の実力者だけよ。
ランク5の魔法はそうね・・・扱えるのは神々のみとさえ言われているわ。
しかしドラゴンを倒そうと思ったら、ランク4の攻撃魔法でさえ、数回は必要となる。
一撃で倒すためには、ランク5の攻撃魔法でもないと不可能ね。
にしても、無意識に発動させた魔力がランク5並の破壊力だなんて、転移勇者にしたってデタラメすぎるわ。
・・・まあ、深く考えるのは後にして、と。
「では、実際にどんな魔法なのか実演しますわね。
ボム!!」
ドゴン!!
私は手の平からエネルギー波を放ち、近くにあった大岩の一部を破損させる。
まっ、普通のボムならこの程度の威力よね。
「うわぁ、王女凄い!!」
・・・なんか、皮肉にしか聞こえないわ。
悪気は無さそうなんだけど。
「良いわね、王女は攻撃魔法が使えて・・・。
私なんかランク1の攻撃魔法すら使えないのに。」
「何を言ってるのよ、聖女。
あなた、ランク4の回復魔法や防御魔法すら扱えるんでしょ?
・・・それ以上才能を望むなんて、贅沢すぎるわよ。」
魔法の才能は人それぞれで、私のように様々なタイプの魔法が使えるけど、ランク1~2止まりのケースもあればね。
聖女の様に一部の魔法の才能は無い代わりに、特定の系統に限ればランク4の魔法すら使いこなすケースもあるの。
当然ながら後者の方が得難い存在であり、私なんかはただの器用貧乏に過ぎないわ。
勇者の才能がどれほどのものかは未知数よ。
だけど最低でも『ボム』系統に関しては、確実に世界最強クラスの使い手だと思う。
「でね、勇者様。
実際に魔法を使うには・・・。」
「大丈夫だよ、王女。
さっき王女が使ってるのを見て、何となくわかったから。
試しにやってみる!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい?
勇者。」
魔法は初心者が見様見真似で使えるような代物じゃないって!!
「い~じゃない、やらせてみたら。
どうせ練習なんだし、成功しても失敗しても問題ないっしょ。」
・・・そうかしら?
別に失敗して、発動しないだけなら問題ないわ。
だけど変に暴走されたらと思うと・・・。
けどまあランク1の魔法だし、仮に事故っても大丈夫・・・かなぁ?
「だよね、エミリー。
じゃあ行くよ、ボ・・・。」
あっ。
「ちょ、ちょっと待って。勇者様。
せっかくだから目の前の岩を狙うんじゃなくて、ね。
あの遠く遠くにある巨大な岩を狙ってはどうかしら?」
私が試し打ちに使った岩を狙おうとしていたので、慌ててStopを掛ける。
「え~・・・。
あんな遠くの岩まで届くかなぁ?」
「良いじゃありませんの。
どうせ練習なんですから、標的はデッカい方が素敵ですわ!!」
どうしてか、目の前の岩を標的にするのは激しく嫌な予感がしたの。
ランク1の魔法の練習なのに何故・・・。
「・・・なんかちょっと納得いかないけど、まっいっか。
練習だしね。じゃあ行くよ。
ボム!!」
勇者の手の平から、王の間やドラゴンを破壊した時以上のエネルギー波が放たれる。
ゑ?
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!
そして、はるか遠くにあった巨大な岩が跡形もなく砕け散った!!