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第114話 過去編(聖女)⑤ 聖女と騎士

Side ~聖女~


炎や氷、雷などが四方八方から飛び交う戦場で。


「フォース・バリア!!」


防御魔法を駆使し、自分と仲間の身を守る。


ファイツ国へと売り飛ばされてから、しばし経った後・・・。

前線に立たせても問題無いと判断されたのか、戦場に向かわされるようにもなったの。


「エミリー!!

 こいつらの回復を頼む!!」


「また怪我人!?

 ああ、もう・・・。

 ヒール!!」


主な役目は怪我人の回復や、防御魔法・強化魔法による援護よ。

・・・まー、ファイツ国も適材適所くらいは理解してたからねー。

攻撃役の適正が無い私に殺し合いを強要したりはしなかったわ。


とは言え。


「・・・・・・・・・・・・。

 人も魔族も死に過ぎでしょ。

 気が滅入るわ。」


死体はあちこちに転がってるし、現在進行形で誰かが殺されるシーンを見せられるし。

精神的にはかなーり参ってたの。

いくら私が聖女でも、死人を復活させたりは出来ないからねぇ。


そもそもこの世界には死者蘇生の魔法なんて、存在しないわ。

『リザレクション』って言う、死ぬ寸前でも完全回復しちゃう魔法は存在するけどね。

私には使えないけど。


でもまあ、私が参戦したおかげで魔族との戦争も優勢になったみたい。

・・・活躍しようがしまいが、報酬なんて一切出ないし、待遇も変わらなかったから、どーでも良かったけどさ。

最低限の衣食住くらいは提供してくれるけど、体調崩される訳にもいかなかったからでしょーし。


家族の件がなかったら、迷う事なく逃げ出してたわよ。

こんなロクでもないところ。



********



「ホラ、メシ持って来たわよ。

 サッサと受け取りなさい。」


「ち。

 忌々しい聖女め!!」


それと捕虜の魔族の世話係としても働いていたの。


当然ながら、この国では魔族に対する風当たりが強かったわ。

過剰に恐れたり、忌み嫌ったりね。

私が来るまでは、食事すらロクに与えられず、餓死する捕虜も少なくなかったみたい。


別に強要された訳じゃないけど、私は進んで魔族の面倒を見たわ。

可哀想に感じたのもあるけど、魔族に関わる一番の理由は・・・。


「んな事言われても、知らないわよ。

 私だって、好きでこんな国に来たんじゃないもの。

 醜い連中どもに嫌々コキ使われてるだけよ。」


「・・・口が悪すぎだろ。

 本当に聖女かよ。

 アンタ。」


内々に溜まった本音をぶちまけるのに丁度良かったからよ。

他の連中相手に汚い言葉を吐くと、すーぐに圧力掛けてくるからねー。

パーシヴァーはある程度までなら、見逃してくれたけれど。


その点、魔族が捕らえられてる牢屋なんて、誰も近寄りたがらないからね。

嫌々やらされてる見張りの兵士も、一秒でも長く離れたかったのでしょう。

私が来たら喜んで一息いれにいった挙句、中々戻って来なかったわ。


そーいう意味では、話し相手として都合の良い存在だったの。

捕虜となってる魔族達って。


「にしてもあんたら、また一段と臭くなったわねー。

 しょーがないけど。」


「なんだと!?

 魔族だからと、汚物のように扱う気か!!」


「んなつもりなんか、無いわよ。

 体も洗えなかったら、人間だろうと魔族だろうと臭くなるでしょーよ。

 クリーニング!!」


「!!??

 体が、綺麗に!?」


それと同じ悪人に囚われている者同士、同情しちゃって『クリーニング』みたいな魔法を使ってあげたりもしたわ。

『クリーニング』は汚れなどを払う初級魔法で、掃除や生物の体を綺麗にする時なんかに役立つの。

高い魔力を誇る魔族なら、使える人も少なくないでしょう。


けどまあ、捕虜になってるような魔族は特別な拘束具のせいで、魔法やスキルが封じられてるからねぇ。


「ふんっ。

 この程度で誇り高き魔族が懐柔されるなどと思うなよ!!」


「・・・思ってないって。

 どーせ気まぐれでやってる事だし。」


はっきり言ってガラの悪い連中だけど、それでもファイツ国の上層部よりも魔族の方がはるかに善良だと思えたわ。

本音で言えば牢から逃がしてあげたかったけど、そこまでは出来なかった。

そんな事をすれば『魔族に味方した聖女』として、家族まで迫害される可能性が高かったから。


・・・所詮、私が魔族にやっていた事は偽善ですらなかったの。

憐れな奴隷が憐れな捕虜をペットのようにお世話し、気を紛らわせていただけよ。



「そうやって、余裕でいられるのも今の内よ。

 ファイツ国はあたしら魔族を本気で怒らせた・・・。

 いずれ魔王様が直々に裁きに来るわ!!」



けれど私の態度が気に食わなかった女魔族が脅しのようにそう叫んだの。


でも私はちっとも怖くなかった。

それは魔王の実力を侮り、負ける訳がないと思ったからじゃない。


「ふーん、魔王がねー。

 ・・・噂の魔王なら聖女だって容易く殺せちゃうのかしら?」


「聖女!?

 何を・・・。」


「聖女として不甲斐ない最後を迎えれば、父さん達が風評被害によって虐げられるかもしれない。

 けど魔王に殺されるってんなら、聖女の名を汚さずに最後を迎えられるわ。

 そしたら父さん達は安全に『聖女の家族』としての立場から解放されるはず・・・。」


別に魔王に殺されよーが構わなかったからよ。



「あーあ。早く、この国に魔王がやって来ないかなー。

 ・・・そして私の人生を終わらせてくれないかなー。

 もう戦争の道具として生きてくのも疲れちゃった。」



「「「・・・。」」」



私の投げやりな態度に魔族ですら言葉を失ってたようね。

けど。



「エミリー!!!!」


「!!??」


「何が『生きてくのに疲れた』だ!?

 そんな弱音が許されるとでも思ってるのか・・・。

 お前は聖女なんだぞ!!」



そんな私の弱音をパーシヴァーが聞いていたの。

どーやら、たまーに私と魔族が愚痴り合ってるのを見てたんだって。

多少の発言は見逃してたよーだけど、さすがに死にたいなんて台詞は無視出来なかったみたい。


「・・・・・・・・・・・・。」


「・・・まあ、良い。

 エミリー。休憩は終わりだ。

 早く、持ち場に・・・。」


けどあの時の私は感情がぐちゃぐちゃになってね。



「・・・。

 私だって。」


「エミリー?」


「私だって、好きで聖女になったんじゃないわよ!!

 こんな運命なんて、背負いたくもなかったわよーーーー!!!!」



自分の立場も忘れて、つい怒鳴り散らしちゃったの。

その後、パーシヴァーから逃げるように去って行ったわ。



「エミリー。

 ・・・。」



********



「・・・。」


ま、いくら喚こうがファイツ国からは逃げられなかったけどね。

家族が人質に取られてるよーなものだから。

私に出来る事なんて、人気の無い屋上で黄昏れるだけ。


「エミリー。」


その後、大した時間も経たずにパーシヴァーがやって来たわ。

また説教でもするのかと、冷めた目で見つめているとさ。



「・・・。」


「!??」



急に私に抱き着いて来たの。

さすがに予想外すぎて、かなりびっくりしたわ。


「ちょっ、何よ。セクハラ!?

 普段は生真面目ぶってる癖にどーいうつもりよ!!」


「・・・すまない。

 お前があんまりにも辛そうだったから、な。」


「意味、わかんないわ。」


どーやら、彼なりに私を励ましたかったようね。

男って寂しがってる女にはハグすりゃ良いとでも思ってるのかしら?


でもまー。



「一人で抱え込まなくて良いんだ、エミリー・・・。

 俺が傍にいるから。

 ・・・だから死にたいなんて言わないでくれ。」


「!!!!

 パーシヴァー・・・。」



孤独だのストレスだので限界だった私は、生真面目騎士の不器用な優しさにあっさり絆されちゃったわ。

我ながらなんてチョロいんだろう、って思い出すだけで恥ずかしくなっちゃうけどさ。

普通なら男だろーが女だろーが、赤の他人をそう簡単に受け入れたりはしないもの。


「さて、いつまでも持ち場から離れるのも良くない。

 行くぞ、エミリー。」


「うん。」


この一件から、私はパーシヴァーの事を異性として明確に意識し始めたわ。

彼がにっくきファイツ国の騎士だったにも関わらず。





「・・・・・・・・・・・・。

 パーシヴァーのような平民風情に、聖女を預ける訳にはいかない。

 彼女に相応しいのは、もっともっと偉大なお方だ。」


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