第113話 過去編(聖女)④ 聖女の悪あがき
Side ~聖女~
私は怖ろしいドラゴンから国を守り通した。
その結果、聖女である事がバレてしまい、故郷から売り飛ばされてしまったの。
簡単に言えば、人を守り抜いた結果、売り物のような扱いを受けたって訳ね。
ちなみに売り飛ばされた先はファイツ国。
世界屈指の軍事国家で、その戦力はチュウオウ国に次ぐと言われているわ。
でも基本的に専守防衛のチュウオウ国と違い、ファイツ国は多くの国に侵略戦争を仕掛け、領土を広げたの。
そして調子に乗った彼らは、とうとう魔族に戦争を仕掛けて・・・ね。
当時はよく知らなかったけど、魔族ってこちらから手を出さなければ、襲い掛かって来る事はないのよ。
だけど下手に攻撃すると、相手が滅びるまで報復を止めない恐ろしい一面も持っている。
そんな経緯もあって、ファイツ国は魔族との戦争の真っ只中だったの。
強力な魔族に少しでも対抗するため、彼らは魔族を人間を滅ぼす悪の種族と定義した。
そして薄っぺらい大義名分を掲げながら、各国から戦力となる人材をかき集めていたわ。
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「ヒール。」
「・・・??!!
怪我が、もう治って・・・。
さすがです。聖女様!!」
私がファイツ国へやって来たばかりの頃は、後方で怪我人の治療ばかりしてたの。
・・・人間なんて骨折しただけでもロクに戦えなくなる上、適切な治療を施そうが完治まで何週間、何か月と掛かりかねない。
でも回復魔法の使い手がいれば、骨折くらいなら数分と経たずに完治するからねぇ。
それだけでも、ファイツ国のような戦争ばっかしている野蛮な場所だと、すっごく重宝される存在なの。
聖女って。
ただ故郷にいた頃の私は聖女だと感づかれるのを避けるため、魔法の鍛錬をほとんど行っていなかった。
使える魔法もヒールの他はシールド系、バリア系の防御魔法だけだし、練度もなっちゃいない。
これでは前線に出すのは難しいと判断され、怪我人の治療以外の時間はひたすら訓練に費やす羽目になったの。
その結果、多くの魔法を修得出来たけれど、野蛮国家の訓練だけあって、本当に辛かったわ・・・。
でもそれ以上に私の心を苦しめたのは、攻撃魔法などの相手を害する類の魔法は一切修得出来なかった事よ。
・・・いくら努力を積み重ねても、ね。
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「フォース・ファイア!!」
何も起こらない。
「サード・アイス!!」
何も起こらない。
「セカンド・サンダー!!」
何も起こらない。
「・・・ウインドぉおおおお!!」
何も起こらない。
「なんで!?
どーして私はランク1の攻撃魔法すら使えないの?
私にはランク4の魔法を扱える程の魔力があるのに・・・。」
夜間、人目の付かない場所で攻撃魔法の修得に励むも、使えるようになる気配は全くなかった。
これも後で知った事だけど、魔法の修得には努力も必要だけど、才能もそれ以上に必要となるの。
あと強力な炎魔法を扱えるけど、氷魔法は低級のものさえ修得出来ない。
・・・などと言ったような、系統毎の得意・不得意も個人差が出るわ。
別に攻撃魔法の使い手としては、一切期待されてなかったからね。
いくらファイツ国と言えど、攻撃魔法を修得出来ないからと、責め立てたりはしなかった。
むしろ無駄な努力は諦めろとばかりに、攻撃魔法を修得しようとすると、怒鳴り始める始末よ。
まー、聖女って強力な防御魔法や、聖女のみが扱える回復魔法を修得出来るんだけど。
その一方、攻撃魔法や敵を苦しめるタイプの魔法なんかは全く覚えられないの。
書籍にも書いてあるくらい、有名な話よ。
けどそれでも、私は攻撃魔法の修得を諦め切れなかったわ。
だけど、そんな健気な私を邪魔する奴もいた。
「無駄だ、聖女エミリー。
いくら足掻こうが、お前は決して攻撃魔法を使えない。」
彼の名はパーシヴァー。
平民上がりの騎士ながら、ランク3の魔法・スキルすら操る容姿・実力共に優れたエリートよ。
そしてこの時の私にとっては鬼教官の1人でもあり、内心では相当反発していたの。
「パーシヴァー、様。
しかし私は諦める訳には参りません。
聖女でも・・・いえ、聖女だからこそ、悪しき者を殲滅する力が必要なのです!!」
「その悪しき者とは魔族ではなく、俺達の事か?」
「!!??
・・・。」
もっともいくら取り繕った所で、私の内心なんてバレバレだったけどね。
そう。
例え、ランク4の防御魔法を使えようが、私に他者を傷付ける力はない。
だからこそ、一人じゃ理不尽な存在に抗えなかったの。
もしも私が強力な攻撃魔法を使えれば、どんな外道が現れようと、跳ね除ける事が出来たのに・・・。
「まあ、良い。
だがお前が何を願おうが、聖女に攻撃魔法の才能など無いのだ。
・・・それでも誰かに牙を剥きたいのなら、特別に剣の稽古でも付けてやろうか?
優れた剣の使い手ならば、魔法などに頼らずとも、敵を打ち倒せるようになるぞ。」
「望む・・・ところよ!!
フォース・プロテクト!!」
「むっ!?」
「アハハ・・・。
この防御魔法を掛ければね、私の体はドラゴンの攻撃すら通じなくなるの。
・・・そうよ、この魔法があればいけるわ。
攻撃魔法なんかに頼らなくても、私はファイツ国を屈服させ、家族を取り戻して見せる!!」
でも並の人間では傷一つ付けられない程、頑丈になれたなら。
普通の武器でも相手を圧倒出来ると、信じてた。
けれど、現実はそんなに甘くはなかったの・・・。
「ううー・・・。
ううー!!」
所詮『フォース・プロテクト』は防御力を上げるだけで、それ以外の能力は何も変わらないからね。
パーシヴァー曰く、私の腕力や剣技なんて一般的な女兵士と大差ないんだって。
その程度の実力では、いくら体が頑丈になろうと、歴戦の猛者を打ち倒す事なんて出来なかったみたい。
「なんでよーーーー!!!!
どーして私の攻撃が軽くあしらわれちゃうの!?」
・・・あの頃の私は今以上に直情的だったからねー。
王女のように起死回生の案も思いつけず、パーシヴァーにあしらわれるばかりだったわ。
「これでわかっただろう。
お前と俺では持って生まれた才能が全く違う・・・。
お前が俺を打ち倒すなど、どう足掻いても無理なのだ。
だが『フォース・プロテクト』は悪くなかったぞ。
上手く使えるようになれば、前線に出る事になっても、負傷するリスクをグッと抑えられるだろう。」
「えっらそうに!!
覚えてなさいっ!!」
「・・・。」
私は半泣きになりながら、パーシヴァーから逃げ出すしかなかったの。
そんな私を彼は追おうともしなかった。
ファイツ国はおろか、たった一人の騎士すら打ち倒せない事実に悔しがるしか出来なかったわ。