第110話 過去編(聖女)① 初めての回復魔法
過去編(聖女)Start。
どーして闇聖女エミリーはグレた金の亡者へと成り果ててしまったのか?
その理由を赤裸々に書いていこうと思いますw
Side ~聖女~
「小鳥さん、可哀想・・・。」
これは私がまだ小さく、無邪気だった頃の記憶。
サザル国の弱小貴族の娘として、それほど裕福じゃないながらも、幸せに生きていた頃の記憶。
まだクロと変わらない年齢だった頃、弟のハルトと死に掛けの小鳥を見つけたのが、全ての始まりだったわ。
あの時の私は手の平に乗せた小さな命をただただ純粋に救いたいと願ったの。
するとね。
唐突に私の手の平から眩い光が放たれてね。
「!!??」
「ね、姉さん!?
何なの、その光は・・・。」
「・・・わ、わからないわ!!」
当時の私は滅茶苦茶びっくりしたわ。
でもね。
「・・・・・・・・・・・・。
?・・・!!
チュン。」
光を浴びた小鳥が急に元気を取り戻した事には更に驚いたの。
訳も分からず戸惑っている私達を尻目に、小鳥はお礼を言うように一声鳴くと、空高く飛び去って行ったわ。
「どうして小鳥が元気に・・・。
まさか!!
・・・姉さんは伝説の聖女様!?」
「私が、聖女ぉおおおお!??
どゆ事・・・。」
だけどあの頃は聖女とは何なのかさえ、よく知らなかった。
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でも父さんの書斎に聖女に関する本がいくらか置いてあってね。
色々と読み漁っていく内に、あの時の光が回復魔法によるものだって事がわかったの。
小鳥を助けたいと強く願うあまり、私の中に眠る聖女の素質が覚醒したみたい。
「えーっと、回復魔法って聖女にしか使えないの?
へー・・・。
つまり、私って凄いんだー♪」
本によると、聖女は数十年に1~2人くらいしか現れない、特別な女の子なんだって。
強力な防御魔法や回復魔法を駆使し、世界を破滅から救う存在だと書かれていたわ。
・・・あの時の私はまだ幼かったからねー。
自分は特別な存在なんだって、無邪気に浮かれてたわ。
「そーだ!!
もっと上手に回復呪文を使えるようになったら、父さんや母さん、驚いてくれるかなー・・・。
よ~し♪」
そして、とっても子供っぽい動機で回復魔法の修得に励んだわ。
両親を驚かせたい、なんて下らない理由からしばらくの間、聖女だって事は、私とハルトだけの秘密だったの。
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「あいたたたた・・・・・・。」
「あなた!?
・・・大丈夫?」
とある日、屋敷の中でくつろいでいると、突然、大きな音が鳴り響いたわ。
どーやら、父さんが階段から転げ落ちたみたいでね。
命に別状は無かったけど、足を強く痛めちゃったみたい。
父さんは他の貴族から『落ちぶれ貴族』なんて言われて、バカにされているの。
お人好しすぎるせいで、最低限の税金しか取らないから、家を大きく出来ず、権威がちっとも無かったのよ。
でも税金が安い割に他の領地よりも平和で過ごしやすい環境を作り上げてたからね。
領民からは凄く慕われていたの。
私もそんな優しい父さんが大好きだったわ。
多分、聖女として覚醒していなかったら、怪我した父さんを見て、泣いちゃってたかもね。
でも当時の私は回復呪文をお披露目するチャンスだと思ったわ!!
「私に任せて~♪」
「エミリー?
任せてって、一体・・・。」
「ヒール!!」
「「なっ!?」」
人間に対して使うのは初めてだったけど、目論見どおり、私の回復魔法で父さんの怪我は完璧に治ったの。
「ふふーん、驚いたー?
実は私、聖女だったのよー♪」
「姉さんったら・・・。
調子に乗りすぎだよ。」
「いーじゃない。
だって私、聖女だもん。
凄いんだもん♪」
「・・・はいはい。」
あの時の私はね。
娘が聖女だった事に驚いた両親が、諸手を上げて凄い、凄い!!
って、喜んでくれると思ったわ。
でもね。
確かに父さんも母さんも驚いてたけどね。
「足の怪我が完璧に治って・・・。
まさかエミリーは本当に聖女、なのか?」
「・・・そんな。
エミリー!!
あなた、回復魔法が使える事、誰かに話して・・・。」
「え?
・・・あの、その。
回復魔法が使えるの、他に知ってるのはハルトだけ・・・。」
全然、嬉しそうじゃなかったの。
あの時の両親の不安そうな表情は今でも忘れられない。
「ハルト!!
あなた、お姉ちゃんが回復魔法を使えるって、誰にも言ってないわよね!?」
「う・・・うん。
姉さんがね。
父さんと母さんをびっくりさせたいから、内緒にしておいてって。」
「そう・・・。
良かった!!」
当時の私からすれば、意味がわからなかったわ。
「エミリー、ハルト。
エミリーが聖女だって事は誰にも話すんじゃないぞ!!
・・・これは家族だけの秘密だ。」
まるで自分の娘が聖女だって事を、隠したがってるみたいで。
しかも鬼気迫る表情で話すものだからさぁ。
温厚でのほほんとしている父さんらしくなくて、凄く戸惑ったわ。
「あっ!?
じゃあエミリーが、もうランク2の防御魔法を使えるのは・・・。
・・・聖女、だったからなの?」
「えーっとね。
実は昨日、魔法の練習してたら、ランク3の防御魔法が使えるようになったの。
だから魔法の先生に発表しようかなって・・・。」
「ダメだ、ダメだ、ダメだぁああああ!!!!
・・・ランク2の魔法ならまだ、神童と言う事にでもすれば、ギリギリだが誤魔化せる。
だがな、お前の年でランク3の魔法なんて使ってみろ・・・。
絶対に聖女だって、バレてしまう!!」
更に父さんは、人前でランク3以上の魔法を使う事も禁じたの。
・・・あの頃はわからなかったけど、親としては当然の反応よね。
10にも満たないお子様がランク3以上の魔法なんて使ったら、確実に素性を疑われるわ。
「ねえねえ。父さん、母さん。
どーして姉さんが聖女だって、誰にも話しちゃいけないの?
聖女って、世界を救う特別な女の子なんでしょ・・・。
なんで、皆に言っちゃダメなの?」
「・・・そうか。ハルト。
お前は何も知らないんだな。
聖女はな。世界を救う事は出来ても、自分を救う事は出来ないんだ。」
そして父さんから聖女の恐るべき真実を聞かされた。
聖女に選ばれた者は無償で人々に尽くさなければいけない事。
聖女に選ばれた者は皆を守るために命を賭して戦わなければいけない事。
聖女に選ばれた者は世界を救うための礎とならなければいけない事。
「え・・・?
じゃあもし姉さんが聖女だって、バレたらさ。
皆から虐げられた挙句、世界のために死ねって言われるの!?」
「!!!!
・・・ああ、そうだ。」
「嘘でしょ・・・。」
でも当時は父さんの言う事がいまいち信じられなかったわ。
だって、ね。
「・・・ま、まー面倒事になりそーなのは、わかったけどさぁ。
ちょっと信じられないかな・・・。
だって父さんの話だと、聖女って世界中の人から嫌われてるみたいじゃない。」
「あー、なるほど。
嫌われてるんでもなかったら、世界の救世主に対して、そんな態度なんか取らないもんね。
・・・だとしても、酷すぎる話だけどさぁ。」
「そうね。悲しくなってきちゃった・・・。
聖女だなんて言っても、防御魔法や回復魔法が得意なだけでしょ?
何も悪い事なんかしてないのに、どーして嫌われちゃうのかなぁ。」
ハルトが言った通り、もしも聖女だってバレたらさ。
タダ働きを強要され、命懸けで戦わされた挙句、殺されるようなものだからね。
よっぽど嫌われてない限り、そんな風に扱われないわ。
「エミリー。
お前は何も悪くない、嫌われてもいない。
だから・・・。」
少し落ち込んでいると、父さんは泣きそうな表情で。
「聖女だって事は誰にも言わないでくれ!!
私はもう二度と家族を失いたくないんだ・・・。
頼む、頼む!!」
私を強く抱きしめたわ。
「父さん!?」
あの頃の私には、父さんがあんな態度を取る理由が全然わからなかった。
だから、ただただ困惑するしかなかったの。
「ハルト、あなたもよ。
お姉ちゃんが聖女だって事、絶対に言わないでね。
・・・約束よ。」
「う・・・うん。
わかった、よ。」
その隣では母さんが真剣な表情で、ハルトに言い聞かせていたわ。
内心、かなり混乱してたけど、両親が聖女である事を隠して欲しいのだけは理解出来た。
「・・・もう、心配しすぎだって。
つまり聖女だってバレたら、奴隷のよーにタダ働きばっかさせられるんでしょ?
そんなのヤダもん、言いふらす訳ないじゃん。」
「姉さんったら・・・。
そーいう問題かなぁ?」
「そーいう問題よ!!
あーあ・・・。
せっかく回復魔法があれば、大儲け出来ると思ってたのにー。」
いくらなんでも、両親の態度は大袈裟だって思ったけれど。
それでも聖女だって周りに知られない方が良さそうだってのは、わかったからね。
既に聖女として自分を売り込む気は失せてたわ。
「・・・ったく、この子ときたら。
一体、誰に似たのやら。」
「さーね。
ウフフ。」
それに何より、父さんや母さんを悲しませたくなかったから・・・。