第108話 ハーレム失格編⑨ 暴走の終わり
「あんたらのような、あっさい馴れ合いを続けてるような連中に!!
私の復讐の邪魔をする権利なんて、無いのよ!!
わかったら早くどこかへ消えなさい!!」
「うっ!?」
ユウナからの指摘を受けて。
私達が1つのハーレムとして、如何に浅く、脆い関係なのかを思い知らされてしまった。
そんな私達に本物の愛を知るユウナの邪魔をする資格なんか・・・・・・・・・・・・あれ?
「でも私達の関係がどうあれ、あなたの暴走を止めない理由にはならないんじゃない?」
ど~して愛がわからなければ、町を壊し回る人間を止めちゃいけないのかしら?
全然、筋が通ってないわ。
「よく考えたらそ~だよ。
ユウナ!!
これ以上、町の皆を傷付けるのは止めるんだ!!」
勇者も私も、彼女の言葉のマジックに惑わされていたようね。
危ない所だったわ。
「そうよ、そうよ。
あんたなんか、早くテンイ達に処刑されてしまえーーーー!!」
いや、だからって処刑はしたくないけど。
リーラはどれだけユウナが憎いのよ?
「ユウナ・・・。」
「くっ!?
・・・テンイの実力は私よりも遥かに上。
それに彼にはあの金色のドラゴンや自称聖女も味方してる・・・。」
ユウナは勇者や、静観しているアビス様を見やり、そして。
「・・・わかったわよ。
町じゃなくて、人気の無い所で報復する分には構わないでしょ!!
それで手を打つから、邪魔しないでくれる!?」
このままではカズキ達への復讐なんて、到底無理だと判断したユウナが妥協案を示す。
「なるほど。
それなら・・・あれ?」
何かが引っ掛かるよ~な。
「いやいや、納得しかけちゃダメだよ。王女。
そりゃビンタくらいで済ますなら、止めるのは野暮ってもんだけどさ。
このまま放っておいたら、ユウナはカズキとリーラの事、殺しちゃうよ・・・。」
「それがど~したのよ!?
あんた達には一個も関係ないじゃない!!」
血走った目でユウナは叫ぶ。
「ダメだよ、だってユウナも日本人だろ。
人を・・・しかも愛する人を殺して、後悔せずにいられるの?
元の世界へ帰った時、罪の意識に耐えられるの??」
「・・・るさい、うるさい、うるさい!!
どうせ私は元の世界には帰れないのよ。
もう何も残ってないのよ・・・。」
「ヤケになっちゃダメだ。
君は山賊王とは違う。
・・・まだ、引き返せるんだから。」
そうよ。
他人事とは言え、山賊王のように後悔しながら自滅していく様なんて、見たくはない。
「黙れーーーーーーーー!!!!!!!!
フォース・フレイム!!」
怒り狂ったユウナが再びランク4の炎魔法を発動させる。
けれど。
「バリア!!」
先ほどと同じように勇者はランク1の防御魔法で、軽々と防いだ。
「テンイ・・・なんて奴だ。
俺でも防げないユウナの魔法を、たかだかランク1の魔法で防ぐなんて。
一体、何者?」
「どうして・・・。
どうして私はあんなバリアも壊せないの?」
勇者はチート能力により、ランク1の魔法ですら、ランク5の魔法以上のパワーを発揮する。
いくら頑張ってもランク4の攻撃魔法では、太刀打ち出来ないわ。
けれど敵わないとわかっていながらも、ユウナは攻撃の手を緩めようとしない。
なんで彼女はそれほどまでにカズキを憎むの?
「・・・。
あんた達なんかに、私の気持ちなんてわからないわよ。」
泣いてるような声色なのにユウナの顔から涙は流れない。
憎しみの炎が全てを乾かすせいで。
「勇者召喚なんて名前の、拉致行為のせいで元の世界に戻れず・・・。
戦争の道具にされかけ、国から逃げ出すも、行く当てすらなく、彷徨う日々。
・・・そんな中、私に手を差し伸べてくれたのはカズキだけだった。」
「!!」
「あなた達にはわからないのよ。
世界でたった一人の理解者が、違う人を愛していたと知った時の苦しみなんて・・・。
絶対にわからないのよ!!」
「ユ・・・ユウナ。
・・・。
そうだ。俺だって、もし王女に捨てられたらと思うと・・・。」
勇者?
何を言って・・・って!!
勇者のバリアが歪んで、る?
「・・・あ、あれ?
突然、ユウナの炎が強くなった!?
くっ、このままじゃバリアを保てない!!」
「嘘でしょ?
止めてよ。
あなたのバリアが壊れたら、私やカズキも燃え尽きちゃうでしょうが!!」
炎に押され、ヒビが入り、壊れそうになるバリア。
けれど、ユウナの炎魔法が強くなったんじゃない。
「ユウナの魔法が強くなったのではありません!!
勇者様のバリアが弱くなっているのです・・・。
けれど、どうして?」
今まで勇者の魔法やスキルが弱くなった事なんか、一度もなかったのに・・・。
「・・・わからない。
でも何故か、凄く動揺しちゃって・・・。
力を入れようにも、上手く入らなくて。」
それよ!!
魔法やスキルは精神状態によっても、パワーの強弱が変化するの。
今の勇者は何かに心をかき乱されている。
そのせいで本来の力を発揮出来ずにいるんだわ。
「勇者様。
バリアが弱まっているのは、あなたの気持ちが乱れているからです。
どうか落ち着いて下さい!!」
「そ、そんな事を言われても。」
でもなんで、勇者の気持ちは乱れてしまったの?
まるで予想が付かないわ。
「う・・・ううっ。
!!
うわぁ!?」
バリアが壊れた!?
このままじゃ勇者が!!
「勇者様!!」
私は思わず、勇者を庇おうと前に出た。
・・・って、前に出たからってどうなるのよ!?
ただの小娘が下らない真似をした所で、ランク4の炎魔法から勇者を守れるはずないのに。
それなら防御魔法の1つでも・・・。
けれど私の防御魔法なんかじゃ『フォース・フレイム』を防ぐなんて無理。
思考が定まらないまま、それでも炎の勢いは止まらなかったけれど・・・。
「フォース・バリア!!」
ランク4の防御魔法が、殺意の炎から私達の身を守る。
この魔法は!?
「ふぅーーーー。
ったく、ヒヤヒヤさせないでよね。」
「ご主人様、王女様!!
・・・大丈夫?」
聖女!!
やっぱり聖女の防御魔法なのね。
「ランク4の防御魔法だと!?
あの綺麗な娘・・・本当に聖女だったのか。」
そうよ。
彼女は性格こそひねくれているけど、その実力は聖女の名に恥じないわ。
聖女のバリアのおかげで一命は取り留めたけど、炎の勢いは止まらない。
・・・と思ったら『フォース・フレイム』の勢いは急速に弱まり、やがて消滅する。
「あら?」
聖女やアビス様の仕業じゃなさそうね。
なら、どうして?
「なんで・・・。
どうして。
どうしてあの子はテンイを庇ったの?」
え?
なんでって言われても、なんでかしら?
「どうして愛を知らない女が人を庇って・・・。
愛を知る私が人を傷付けてるの?」
攻撃の手を止め、涙を流しながら独白するユウナ。
そんな事、私にだってちっともわからないんだけど。
「ロング・シール!!」
「!??」
放心するユウナの周りに突如、光の網のようなものが出現し、彼女に纏わりつく。
しかしそれも一瞬で消えたため、今、彼女を縛るものは一見、何も無い。
けれど。
「未来の英雄をこのような所で死なす訳にはいかないのでな。
この魔法を使わせてもらった。」
「王女。
さっきアビスが使った魔法は・・・。」
「『ロング・シール』は、一時的に魔法やスキルを封じる魔法です。
一時的にと言っても約1日間は使えない状態が続くのですが。
魔法やスキルを得意とする存在にとっては、非常に恐ろしい魔法ですね。」
「・・・って、アビス様ったら。
そんな魔法が使えるなら、最初から使えばい~のに。」
「そう突っかかるでない、エミリーよ。
強大な力を持つ異世界人の魔法やスキルを封じるなど、この我ですらそう容易くは出来ぬ。
ユウナの心が動揺し、精神的なガードが弱まったからこそ、上手くいったのだ。」
基本的にこの手の魔法は実力差がなければ、滅多に成功しないわ。
いくらアビス様とは言え、ランク4の魔法が使える相手に成功させるのは、困難だったのでしょう。
けどこれでもうユウナは暴れられなくなったわ。
めでたしめでたし、かな?