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第9話 旅立ち編③ 理想と現実

今更ですが、このお話の主要メンバーはなろう勇者とそのハーレム達・・・の皮を被ったネタキャラどもですw

冒険者ギルドでチンピラ二人に絡まれる勇者テンイ。

颯爽と返り討ちにするかと思いきや、全力でビビった挙句・・・。



「・・・やめろ、やめろ!!」



「な、なんだ・・・この魔力。

 なんだ!!

 この魔力は!!??」


「あわわ、あわわわ!!」



また、魔力が暴走し掛けてるの!?



「なんて魔力だ。

 ・・・あの少年は一体?」


「ま、まずいですよ。ギルドマスター!!

 こんな所であれほどの魔力が暴走したら・・・。

 あわわわ。」


・・・間違いなく、中にいる人達ごと冒険者ギルドは消滅するでしょうね。

いや、もしかしなくてもこの国そのものが、この世界の地図から消えてしまうかも。


「ちょ、ちょっとマズイわよ。王女。

 テンイ!!

 抑えて、抑えて!!!!」


「ダ、ダメだ。

 これ以上、俺の右腕で暴走する魔力を抑えきれない!!」


左手で右腕を抑えながら、必死に力を抑えようとする勇者。

このままだと長くは持たない。

もう迷っている暇は無い!!


「聖女!!

 早く勇者を外へ運びましょう。

 急いで!!」


「え、ええ!!」


私と聖女は魔力を抑えるのに必死な勇者を抱え、大急ぎで外へ出す。

ざわめく人々を無視しつつ、辺りを見回してから・・・。


「うん、ここなら空高く魔力をぶっ放せば、被害は出ないはずよ。

 ・・・多分。」


「聞いたわね、テンイ。

 ほら、右腕を空に掲げて・・・。

 さん、はい!!」


「う、うわぁああああああああ!!!!」


空に掲げた勇者の右腕から、信じられないほど強大な魔力が放出される。

これは・・・王の間の時以上のパワーね。

聖女の防御魔法でも防げなかったかもしれない。


・・・そして。









ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!

グォガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!









巨大な爆発音と断末魔が国中に響き渡り、大地を長々と揺らし続ける。

まるで終末でも訪れたみたい・・・。


でも爆発音はわかるけど、何故に断末魔?

疑問に思い、ふと空を見上げると、でっかい何かが落下してくるのが見えた。


・・・あっ、まずい!!


「聖女、皆。早くここから離れて!!

 なんか落ちてくるわよ。

 ほら、勇者も放心してる場合じゃないわ、急いで!!」


私は大慌てで、聖女達にこの場から離れるよう促す。

どこか上の空の勇者が空からの贈り物に潰されないよう、手を引っ張りながら・・・。





ズゥウウウウウウウウンンンンンンンン!!!!





「うわわっ!!」


なんかとても大きな物体が、大地を陥没させながら地に伏せる。

・・・どうやら巻き込まれた人はいないようね。

良かった。


けどこの黒焦げの何かは・・・ま、まさか!?


「これって、もしかしてドラゴンの死骸?」


どうやら勇者が放ったあのとんでもない魔力、偶然上空を飛び交っていたドラゴンに命中したみたい。

祝砲を上げていたら、飛んでいた小鳥に運悪く当たっちゃったようなものかしら?


さすがのドラゴンも、聖女のバリアさえ打ち破る勇者のパワーには敵わなかったようね。

あんな所を飛んでいたって事は今、正にこの国を襲おうとしてたのかしら?

・・・それが運の尽きだったとも知らずに。



「何なの、あの爆発音?

 何なの!! あのドラゴン??」


「あの、弱っちそうなガキが殺ったって話だぜ!!

 ・・・信じられねぇ。」


「そう言えば、転移勇者が王女や聖女を連れて旅に出たって噂が・・・。

 って、あいつが噂の転移勇者!?」


「け、けど転移勇者って、王の間を吹き飛ばしたとんでもない化物だって!!

 ・・・ひゃっ、こ、こっちを見た!?

 うわぁああああああああ!!」



余りにもイベントが多すぎて、町中が大パニックになってる・・・。

ど、どうしましょう。


「て、転移勇者!??

 に、逃げろぉ。

 殺される!!」


それでも、転移勇者がドラゴンを倒したって事だけは伝わってるようね。

彼の目線が向いただけで、人々は魔王にでも遭遇したかのごとく、逃げ出してしまう。

私もこの状況から今すぐにでも逃げ出したいわ。





「ま、また俺何かやっちゃいました?」





やっちゃいましたよ。


って、あれは確か『自分の強さがずば抜けている事に無自覚』故に放たれる、転移勇者の決め台詞・・・。

この台詞の後、大げさに驚いたり、褒めてあげると、自尊心をくすぐられて内心、大喜びするんだって。

例の本にそう書いてあったのを覚えている。


正直『自分のずば抜けた力が大騒動を引き起こしたことを認めたくない』から、放たれた言葉にしか思えないけど。

それはさておき。


「・・・あ、あのドラゴンを一撃で倒すなんて、さすがですわ~?

 このデルマ、いたく感動致しましたぁ・・・。

 まったく、勇者様のお力には驚かされるばかりでぇす。」


感動どころか内心引きまくっているんだけど、早く勇者を宥めないとマズいわね。

だがしかし。


「ねぇ、王女・・・本当はそんな風に思ってないでしょ?

 引いてるんだよね、俺の魔力の大きさに引いてるんだよね!!

 ねぇってば!!!!」


両手で私の肩を揺さぶりながら、問い詰めてくる勇者。

ちょっとやめて!!

頭が揺れて、酔う。酔っちゃう!!!!


少なくとも最後の一行だけは本音だから、落ち着いて!!


「お、落ち着いてください。勇者様。

 別にあなたは何も悪い事などしていません。

 むしろ、恐ろしいドラゴンからこの国を守った英雄なのですよ!!」


・・・自分で言ってて、どうにもしっくりこないけど。

一応、事実なのに。





「王女の言う通りですわ、テンイ様!!」





うわっ、聖女!?

どうしたのよ、急に!!


「あのドラゴンを一撃で倒すなんて、さすがですわ!!

 このエミリー、いたく感動致しました。

 まったく、テンイ様の力には驚かされるばかりです!!


 あっ、そうそう。

 せっかくテンイ様が仕留めたドラゴンですもの。

 すぐにでも解体致しませんと!!」


もの凄い勢いで褒めたと思ったら、もの凄い勢いでドラゴンの解体に向かう聖女。


・・・ああ、なるほど。

ドラゴンの素材って、どれもこれも超高級品だものね。

そんなお宝が手に入ると思ったら、嬉しくてしかたないのでしょう。


「・・・ほ、ほらぁ。

 聖女も勇者様の功績を称えてますわよ。」


私と違って、本音で褒めているのは確かだと思うわ。

なのに・・・。


「・・・なんか、嬉しくない。」


そんな事、私に言われても。





「「「・・・・・・。」」」





あれっ?

さっきのチンピラ二人組にギルドの人達まで!!


チワワみたいに震えながら、勇者をチラ見してるわ。

・・・気持ちはよくわかるけど、あんまり怯えないでくれるかしら?

勇者が取り乱しちゃうから。


「あ、あの~。

 ええっと。」


「ひ、ひぃ?

 命ばかりはお助け~!!」


「あっしらは、あなたが転移勇者様である事を知らなかったのです。

 どうか、どうかお許しを!!」


「「「お許しを!!!!」」」


チンピラ二人組だけじゃなく、無関係のギルドの人達まで土下座を始める始末。

確か『転移勇者は自分のチート能力で他者が屈服した瞬間、無上の喜びを感じる』って、例の本に書いてあった。

書いてあったんだけど・・・。


「・・・そ、そんな。

 土下座なんかされても・・・。」


・・・勇者ったら、全然喜んでいるように見えないんだけど。

むしろ、途方に暮れてない?



「見ろ!!

 あのお美しい聖女様が、血塗れになりながらドラゴンを貪ってるぞ!?」


「しかも、笑っておられる・・・。

 なんて悍ましい笑みなんだ!!」


「・・・終わりだ。

 世界の終わりだ!!」



ん・・・ひゃっ!?


聖女ったら、あんな欲望にまみれた表情でドラゴンの解体を!!

おまけに体中、血塗れじゃない。


しかもさりげに式神を何体か作り出して、解体を手伝わせてるし。

式神まで揃って血塗れなせいで、何かの怪奇現象にしか見えない。


「あひゃひゃ・・・。

 あひゃひゃひゃひゃ!!」


・・・聖女からすれば、お宝とも言えるドラゴンを解体出来て、大喜びしているだけなんでしょうけど。

欲望に目が眩む余り、周りがドン引きしている事すら、どうでも良いのかしら。


あそこまでとは言わないけど、ほんの少しでもあの強さが勇者にあればねぇ。





「こ・・・。」


あら?


「こんなの俺が知ってる異世界チートじゃなーーーーい!!!!

 うわぁああああああああ!!!!!!!!」


「ちょ、ちょっと勇者ったら、急に何を言い出すの!?

 落ち着きなさい!!

 大丈夫、大丈夫だから・・・。」


とうとう精神に限界が来たのか、勇者が大泣きしながら私の胸へと抱き着いてきた。

・・・何も泣かなくても良いのに。

困ったわ。





大泣きする勇者。


血塗れになりながら狂乱する聖女。


欲に塗れた聖女の手で、無情にも解体されていくドラゴンの死体。


あまりの大事件にパニックを引き起こしている国民達。


・・・そして、そんなカオスな状況を前に途方に暮れる私。





私達この先、本当に大丈夫かしら・・・?

未来に大きな不安を抱えつつ、私は勇者を宥め続けていた。


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読んで頂き、ありがとうございました。

少しでも「続きが気になる!」「面白い!」と思って頂けたら、評価★★★★★と、ブックマークを頂ければと思います。

どうぞよろしくお願いします。
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