第107話 ハーレム失格編⑧ 生まれながらのハーレム要員
「あんた、もしもテンイがよ?
あんたよりもあの自称聖女の方が好きだったら、さ。
本当にそれを許せるの?」
ユウナは私に問い掛けた。
もしも勇者が私よりも聖女の方が好きだったなら・・・。
本当にそれを許せるのかと。
・・・。
「許すも何も全く気にしないけど。」
「ちょ!?
本気で言ってるの?
それともあんた、実はテンイの事が嫌いなの??」
「別に嫌いじゃないけど・・・。」
???
よくわからない事を聞いてくるわね。
大体、勇者からすれば、私よりも聖女の方が好きに決まってるじゃない。
だって彼からすれば、私は自分を誘拐した人間の娘だもの。
「だったら!!
テンイがあんたも自称聖女もだ~い好き♪
・・・な~んて言い出したら、どう思うの!?
絶対、腹が立つでしょ!!」
「???
まあそんな事があり得るかはともかく・・・。
ど~して腹が立つの?」
さっきからユウナの質問の意図がちっとも理解出来ないわ。
そもそもの話。
「だって私は元とは言え、ジャクショウ国の第四王女なのよ?
誰かのハーレム要員になるために生まれて来たの。
それが私の運命なんだから、男性が大勢の女性を好いたくらいで、怒る訳ないじゃない。」
そう。
私は元とは言え、王女。
誰かのハーレム要員になる事、それが存在意義だったのよ。
「・・・い、意味がわからないわ。
つまり私はまるで王女のように心が美しいから、男が浮気したくらいで怒り狂うような、みっともない真似はしない。
そう言いたい訳!?」
ええええ!?
「違うわよ!!
別に1対1の純愛を好む人がみっともないだなんて、言わないわ。
そんなの、好き嫌いの問題だもの。
・・・そりゃあ嫉妬に駆られて、無関係な人間を傷付けるような女性はさぁ。
みっともないを通り越してケダモノに片足突っ込んでると思うけどね。」
「一言余計なのよ!!」
浮気に対し、報復を行う事の是非はわからない。
けれど、無関係な人々を苦しめるような人間は、どんな事情があろうと責められて当然だもの。
それとユウナは王女と言う立場を全くわかっていない。
「大体、身分の低い王女なんて、いずれは政略結婚して誰かの妾になるものよ。
大人になったら、あなたの言うハーレム男と一生を共にするのが普通なの。
そんな立場の私が、男が一途じゃない程度で怒り狂うはずないでしょ。」
まあ、姉上達は彼氏が浮気した~、な~んて理由でしょっちゅう怒り狂ってたけどね。
そんな体たらくで王女としての役目を果たせるのか、妹ながら心配だったわ。
「・・・クソっ、あのロクでなしの王め!!
実の娘になんて辛い運命を背負わせやがる!?」
え?
勇者??
「あの~、勇者様?
確かに私の父は人間としてあれですが、その件に関しては特に間違ってる訳でもありません。
ほとんどの国の身分の低い王女は、いずれ政略結婚し、誰かの妾となるものです。」
「マジでっ!?
・・・けど、そっか。
この世界、今の日本と違って血筋とかを凄く大事にしそうだからなぁ。」
その通りよ。
第一王女ならともかくそれ以外の王女、特に弱小国の第四王女なんて、国の利益のために政略結婚するのが当たり前。
そして相手となる王や王子からしても、血筋を絶やさないためにも一人の女だけを一途に大切にする事なんてほぼないわ。
「あんた・・・。
いくら王女だからって、本当にそれで良いの?
運命に抗おうって気はなかったの??」
「そう言われても、ね。
それが当たり前だと思ってたから。
私としてもよっぽどの極悪人でもない限り、どんな男性の妾になろうが構わなかったもの。」
「・・・王女。
そんな寂しい事を平然とした顔で言わないでよ。」
寂しい事なのかしら?
一応、どうしようもない男の妾になった際の対策としてね。
母上から勉学や武術を学んで、万一に備えてはいたけれど。
けどよほどあれな男に捕まらない限り、何も気にせず誰かの妾として生を全うしたでしょう。
・・・それがどんな運命のいたずらか、実質、私は国から追い出されてしまった。
その上、罪滅ぼしの一環とは言え、勇者のハーレム要員として今を生きている。
結局、私はそういう人生を過ごす運命だったのかもね。
「なるほど・・・。
やっとあんたの本性がわかったわ。」
ん?
私の本性って。
「王女!!
あんたは人を本気で愛した事がないんじゃない?
誰かを愛する気持ちがわからないんじゃない??
だから一途に愛する女の苦しみが理解できない・・・。
だから誰かのハーレム要員にだって、平気でなれる・・・。
そうでしょう!!」
「・・・う~ん。
そう言われれば、そ~かも。
誰かを愛そうと思っても、上手く出来なかったし。」
「あっさり認めるのね。」
つい最近、私はハーレム要員としての責務を全うするため、勇者を本気で愛そうとしたわ。
けど結局、上手く行かなかったの。
人を『愛する』なんて、その気になれば楽勝だって思ってたのにね。
「でも無理に『愛する』事に拘らなくても良いんじゃない?
皆で仲良く、楽しくやっていけるなら、それで十分なはずよ。」
例の本の教えとは少し矛盾するけど、夢の中の勇者がそれを教えてくれたからね。
仮に『愛』を理解出来なくとも、勇者が幸せならばそれで・・・。
「・・・バカな事を。
いつまでも仲良くハーレムごっこなんて、続けられるはずないじゃない。」
「そんな事はないと思うけど。」
今までだって、皆とそれなりながら上手くやってこれたもの。
「王女、あんたは運命だからと他人を真剣に愛そうとしなかった。
だから今のあんたは、あの黒猫の女の子と何も変わらない。
本当の愛がわからない、世間知らずなお子様に過ぎない・・・。」
「・・・概ね、その通りだとは思うけどさぁ。
さすがに8歳児のクロとおんなじ扱いってのは酷くない?」
「?~。」
私が男女のあれこれをあまり理解出来てないのは認めるけど。
「けどね、王女。
女なら、いえ、人間なら誰かを本気で愛する時が来るのよ。
いつか必ず・・・。
その日が来た時、あんたはテンイのようなハーレム野郎を受け入られるのかしら?
いえ、むしろテンイを愛し、彼に近寄る女も彼自身も憎むようになるかもしれない。
私がカズキを憎んだように、ね。」
そう・・・なの?
じゃあ。
「私、いつか勇者の事を本気で愛しちゃうの?
そしてユウナのように傷付けちゃうかもしれないの??
・・・だったら勇者の幸せのためにも、何が何でも愛さないよう、努力する方が。」
「ちょっと王女!?
少し落ち着いてよ!!
言ってる事が滅茶苦茶だよ。」
だって、だって。
人を愛する事で、幸せにすべき人を傷付けてしまうのであれば・・・。
私は、私は・・・・・・。
「・・・テンイを本気で愛するかも、かぁ。
今はまだ、世話の焼ける男の子くらいにしか思えないけどさぁ。
けど彼ってば、容姿も実力も滅茶苦茶優れてるからねぇ。
もし真っ当に成長すれば・・・。
・・・あらやだ。
いつか私もテンイの事、本気で愛しちゃう日が来るのかしら?」
「エミリーまで!?
微妙な照れ顔で反応に困るような発言、しないでよ。」
ああ、そっか。
聖女もいつの日か勇者の事を本気で愛する時が来るかもしれない。
そうなったら私やクロを邪魔に思って、排除しようとするのかしら・・・。
「あたしもなの?
大きくなったらご主人様の事、もっと好きになって、ユウナさんみたいにいじめだすの!?
・・・そんなのヤダ~~~~。」
「クロまでおかしな誤解をしないで!!」
「そもそも私の行為は『いじめ』じゃない!!」
クロも今は子供だから、私と同じで『愛』が何かをわかっていない。
でも大きくなったら、ユウナのように勇者を愛してしまい、ハーレム要員としての責務を果たせなくなるのかも。
「・・・それにしても、変ねぇ。
テンイ。
彼女達の本音を知った割にやたらと冷静じゃない?」
「へ?
まあ、今更だし・・・。」
「なるほどねぇ。
つまり本音を知っているからこそ、罪悪感を覚えず、安心して色んな女の子に甘えられると。
さすがはイケメン。
綺麗な容姿と違って、なんて醜悪な心なのかしら。」
「!!??
そ、それは・・・。」
ど、どういう事なの?
全然、話が見えないんだけど。
ど~して勇者はそんなに後ろめたそうにしているの!?
「あんたらのような、あっさい馴れ合いを続けてるような連中に!!
私の復讐の邪魔をする権利なんて、無いのよ!!
わかったら早くどこかへ消えなさい!!」