第103話 ハーレム失格編④ 怒りの少女ユウナ
「勇者様、皆。
ここは二手に分かれて、行動しましょう!!」
謎の災厄が町を襲い、人々は炎に包まれ、傷付いていく。
アビス様の活躍により、町を燃やす炎は消し去ったものの、まだ元凶をどうにか出来た訳じゃないわ。
けれど大勢の怪我人を放っておくと、命を落とす人も現れるかもしれない。
「分かれるって怪我人を治すチームと、元凶を止めるチームに?」
「そうよ、聖女。
・・・まあ、どうメンバーを分けるかはほとんど決まってるようなものだけど。」
空の上から怪我人を治すと言う作戦な以上、当然ながら聖女とアビス様はセットになるわ。
となれば、元凶を止める役割は勇者と私が果たす事になる。
「つまり、エミリーとアビスが町の人を治して、俺と王女で元凶を止めるんだね?
じゃあクロは・・・。」
「クロは聖女達と一緒に行動してもらいましょう。
『索敵』の力で、私達との合流もしやすくなりますしね。」
それにどちらが危険かと言えば、私達の方だもの。
ならば、子供のクロは聖女達と一緒にいさせた方が安全でしょう。
「と、言う訳だからクロ。
聖女達の側で良い子にしてるのよ。」
「は~い♪」
「話はまとまったわね。
じゃ、行きましょうか。
アビス様、クロ。」
こうして聖女とクロはアビス様に乗り、傷ついた人々を癒すべく宙を舞った。
「・・・・・・。
一つ言っておくがな、エミリー。
我はそなたの言いなりになって、この町を滅ぼしたりなどせぬぞ。」
「や~ね~♪
あんなのはただの脅しよ、お・ど・し。
大体、踏み倒しの報復なんて、不殺の剣で泣き喚くまで殴るだけでじゅ~ぶんだもの。」
「今の世の聖女は呆れる程、破天荒な性格ようだ・・・。
このような者が我でも使えぬ回復魔法を扱えるのだから、分からぬものよ。」
・・・にしても、闇聖女ったらアビス様相手に馴れ馴れしいわね~。
それを簡単に受け入れるアビス様もさすがと言うか。
ただやっぱりアビス様でも回復魔法だけは使えないみたい。
この世界では聖女や一部の女神のような、本当に特別な存在じゃないと、回復魔法は使えないからね。
一目見ただけで魔法もスキルもすぐに修得しちゃう勇者でさえ、おそらくは扱えないでしょう。
「じゃあ、俺達も行こうか。
・・・と、言いたい所だけどさぁ。
どこへ行けばい~のかな?」
「ご安心を。
私の飛ばした式神が、町を壊した元凶らしき女性を見つけましたから。
道案内はお任せ下さい。」
「おおっ!!
頼りになるなぁ。
王女は。」
「急ぎましょう。」
********
「やめてくれ~~~~!!!!
どうか許してくれ~~~~!!!!」
「絶対に許すもんですか~~~~!!!!」
私は勇者と共に、この町で破壊の限りを尽くす女性の元へと向かったわ。
そこでは一人の女性が、一組の男女に向かって、鬼のような形相で攻撃を繰り返している。
・・・それにしても、襲っている方も襲われている方も美形揃いね~。
攻撃に巻き込まれないよう、式神は少し離しておいたから、詳しい事情まではわからないけど・・・。
「おいっ。
暴れるのは止めるんだ!!」
「(゜Д゜)ハァ?
誰よ、アンタ??」
攻撃を行っていた方の女性がヒステリックな声を上げる。
しかし勇者は襲われていた男女を庇うかのように、女性の前に立ち、返事をした。
「俺の名はテンイだ!!
・・・って、そんな事はどうでも良い。
どうしてこの町を破壊するんだ?」
「わ、私とカズキはただの被害者よ・・・。
ユウナが、あの女が恐ろしい魔法で私達を殺そうと襲い掛かってくるの!!」
「被害者ぶってんじゃないわよ、リーラ!!
この悪女が・・・。」
・・・これは。
「どうやらユウナは、カズキとリーラに強い憎しみを抱いているようですね。」
「みたいだけどさぁ・・・。
けどそれだけじゃ、町を壊す理由まではわからないよ。」
まあ、普通の神経なら、誰かが憎いからって、町まで壊したりはしないものね。
「さっきから町が町がって、うるさいのよ。
・・・どーでも良いわ。
そんな下らない事!!」
どーでも良いって、つまり・・・。
「町への被害って、カズキ達への攻撃の流れ弾が原因?
単なるとばっちりだったの!?」
「あ、ああ・・・。
ユウナの奴、おそらく周りが全く見えていないんだ。」
てっきりモンスターや悪党なんかが、悪意を持って町を襲ってるとばかり。
「とばっちりって・・・。
ユウナ!!
君のせいで、罪の無い人々がどれだけ傷付いたと思ってるんだ!?」
相手が美少女なのにも関わらず、勇者は厳しい表情でユウナを叱咤する。
「・・・るさい。
うるさいうるさいうるさい!!
部外者なんかに私の何がわかるって言うのよ!?
私がカズキ達にどれだけ苦しめられたと思ってるのよ・・・。」
けれど勇者の正論もカズキ達への強すぎる怒り故か、彼女の耳には全く届かない。
それどころか・・・。
「私の邪魔をする奴は、誰であろうと容赦しない!!
フォース・フレイム!!」
怒り狂うユウナは私や勇者がいる事も気にせず、カズキやリーラ共々燃やし尽くさんと、攻撃魔法を放つ!!
『フォース・フレイム』はランク4の炎魔法よ。
同じランク4の炎魔法である『フォース・ファイア』よりも更に力強い炎を放つの。
「バリア!!」
しかし勇者はランク1の防御魔法を使い、ユウナの生み出した炎を軽々と防ぐ。
彼の『バリア』はチート能力のおかげで、聖女の得意とするランク4の防御魔法『フォース・バリア』をも上回る防御力があるわ。
ランク4の攻撃魔法では、まず打ち破れないでしょう。
・・・でも私と同い年くらいの女の子がランク4の攻撃魔法を使うなんて。
彼女はもしかして・・・。
「なっ!?」
「嘘・・・だろ?
ランク1の防御魔法で、ランク4の攻撃魔法を・・・。
異世界人であるユウナの攻撃を防いだ、だと?」
「異世界人!?
つまりユウナも俺と同じ、日本人なのかい?」
やっぱり。
「そういうあんたも日本人、なの?
・・・しかも私よりもずっとずっと、大きな力を持っている。
なんで、なんでよ!!
どうして部外者が私の復讐の邪魔をするの!?」
「いや、部外者とも言い切れないけど。
下手したらあなたの攻撃の巻き添えを受けてたかもだし・・・。」
「・・・何よ、何よ、何よ!!
どうせテンイの力を使えば、私の魔法なんて余裕で防げるでしょうが。
屁理屈こねてんじゃないわよ!!」
「ユウナさぁ・・・。
いくらなんでも自分勝手すぎない?」
・・・相手の方が強ければ、理不尽に攻撃しても良いなんて理屈、間違ってるわ。
けどいくら正論を叩きつけた所で、怒りで我を失っているユウナに響くとは思えない。
まずは彼女がどうしてあれほど怒り狂ってるのか、探った方が良いのかも。
「ねえ、カズキ。
どうしてユウナはあんなに怒り狂ってるの?」
「そ・・・それは。」