第102話 ハーレム失格編③ 闇聖女が生まれる理由
聖女が闇か、世界が闇かw
謎の災厄により、町全体が炎に包まれ、大ピンチ!!
しかし勇者が召喚した伝説のドラゴン、アビス様の活躍により、町を焼やし尽くす炎は一瞬で消火されたわ。
アビス様のお力に驚くのも束の間。
何かに気付いたクロがいきなり走り出したの。
「こらっ。
ど~したのよ、クロ。
勝手に走っちゃ、危ないわ!!」
「来て。
こっち来て。
聖女様、早く!!」
しかしクロは慌てた様子で聖女を呼んで・・・。
って、ピンポイントで聖女呼び?
・・・まさか!!
「う・・・。
うう・・・。」
「おい、しっかりするんだ!!」
「ママ~・・・。」
災厄に巻き込まれたのか、一人の女性が頭に血を流しながら呻いていたの。
「あらま。
このまま放っておくのは、少しマズそうねぇ。」
だけどこういう事には慣れているのか、マイペースに呟く聖女。
「そんな!?
ママ~!!」
「・・・何故だ。
どうして俺の代で、こんな事に・・・。」
父娘の悲壮な声が虚しく響く。
「エミリー!!」
「しょ~がないわね~。
・・・。
ヒール!!」
「う・・・う?
あれ、私・・・。」
「なっ!?
回復魔法・・・?」
「ママ!!
ママ!!」
面倒臭そうな態度を取りながらも、聖女は女性に回復魔法を使う。
すると、女性の怪我はみるみる治り、生気を取り戻したの。
「・・・ふむ。
エミリー、と言ったな。
只者ではないと思っていたが、まさか回復魔法を使いこなす聖女だったとは・・・。」
そ~いやアビス様って、まだ聖女の力を見た事が無かったっけ?
「ま~ね~。
って、しまった!!」
「ど~したの~?
聖女様~。」
「・・・あのおじさんに回復魔法の代金を請求するの、忘れたouz」
「回復魔法を使える聖女が、代金の請求・・・だと?」
「あのね。
エミリー。」
何を言い出すかと思えば、相変わらずねぇ。
「でも、後出しじゃんけんみたいな形で代金を求めるのもね~・・・。
しょ~がない。
次からはたくさん、治療費を請求しないと。」
時々この闇聖女が、律儀なのかがめついのか、よくわからなくなるわ。
「いやいや。
今はそんな事を言ってる場合じゃ・・・。」
ドオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!
って、またぁ!?
「う~む・・・。
どうやらこの町に災厄をもたらす者が暴れ回っているようだな。
早く止めねば、被害は収まらぬだろう。」
「そうですね。
・・・しかしあの女性のように、災厄に巻き込まれ、重傷を負った人達も大勢いるでしょう。
そういった方々を放っておけば手遅れとなり、命を落とすかもしれません。」
「あたしもそう思う。
だって弱ってる人の気配、たくさんするもん!!」
クロがそう言うのなら、間違いなさそうね。
もちろん、私達に全てを救う義理なんてないわ。
けれど勇者がこの町の人々を助けたい、と望み、私はその想いを受け入れた。
ならば、最善は尽くすべきでしょう。
そのためには暴れる何者かを止めなければいけないし、重傷者への対策も考えなければいけない。
どちらもこなさなければ、町を災厄から救えないわ。
「でも重傷者を助けると言っても、どうすれば良いの?
王女。
いくらエミリーが『ヒール』を使えると言ってもさぁ。」
そうね。
この広い町を駆け回りながら、怪我人を見つけては『ヒール』する。
なんてやり方では、あまりにも大変すぎるし、効率も悪い。
「もし、聖女が『ラージ・ヒール』を使えるのであれば・・・。
アビス様に乗せてもらって、空の上から回復魔法を使う。
・・・ってのが、雑ながら一番確実でしょうが。」
『ラージ・ヒール』は『ヒール』と同じく、生命の傷を癒す回復魔法よ。
しかし癒す対象が一人の『ヒール』と違い、『ラージ・ヒール』は広い範囲にいる人々を一度に回復出来るの。
魔力が強ければ強い程、より広い範囲の人々を癒せるわ。
当然ながら『ヒール』よりも修得難易度は高いけどね。
でもなんとなく、聖女の実力なら使えそうな気がするのよね。
「『ラージ・ヒール』ねぇ。
一応、使えるわよ。
たださぁ・・・。」
使えると白状しつつも、微妙に気が進まなさそうなあの表情。
さては。
「タダで人々を癒すのが嫌なんでしょ?」
「ええ。
だって『聖女は無償で民に尽くす存在』って噂に拍車を掛けちゃうもの。」
「それって良い事じゃないの?」
「どこがよ、テンイ!!
言い換えれば『聖女は皆の奴隷です』って事よ?
最低の風潮被害だわ!!」
『聖女は無償で民に尽くす存在』って話は、私も聞いた事があるわ。
・・・聖女エミリーと出会う前から、ずっと不思議に思ってたけどね。
『無償』で民に尽くしながら、かつての聖女達はどう生活をしていたのだろうって。
「奴隷!?
人を奴隷にするなんて最低・・・。
絶対、ダメーーーー!!」
「はいはい。
クロ。
話がややこしくなるから、今は大人しくしてなさい。」
「ぶぅ~。」
クロは元奴隷少女だから、憤りたくなる気持ちは理解出来るけどね。
「・・・でも、町中の緊急患者の治療費を請求するなんてさぁ。
町長なんかを見つけない限り、無理でしょ?
この状況でそんな人を探す余裕なんてないわ。」
「ギクッ!!」
「?~。」
とは言え、癒した後で治療費を求めても、払ってくれる人はあんまりいないでしょうね。
むしろそんな真似をしたら、誹謗中傷の嵐よ。
世の中、いくら助けられようが、義務がなければ報いようとしない人の方が多いもの。
「ですよね~。
・・・あ~あ。
やる気出ないなぁ。」
それを理解しているのか、聖女のモチベーションはいまいち低い。
「困ったわねぇ。
聖女のやる気が出ないままだと、回復魔法のパフォーマンスも落ちちゃうわ。」
「魔法のパフォーマンスとやる気って、関係あるんだ・・・。」
けどだからと言って、町の人々の治療費なんて、請求出来る人を探すだけでも一苦労・・・。
「ねえねえ、皆~。
多分、このおじさんが町長さんじゃな~い?」
・・・・・・・・・・・・。
「「「なんでそれを!??」」」
いくらクロの索敵が秀でてたとしても、知らない人間の職業を当てるなんて、無理に決まってるわ。
「王女様が町長さんの話をしてた時、ギクってしてたから~。
なんかあやし~なって~。」
「そういう理由でか~。
クロは妙な所で鋭いなぁ。」
「えへへ~♪」
まあ、それはともかく。
「良かったじゃない、聖女。
治療費の請求を出来そうな人が側にいて。」
「待て待て!!
・・・聖女は無償で人々に尽くす存在だろう?
金を要求するなど・・・。」
「ほらぁ、すぐそ~いう事言う!!
所詮、聖女なんて世間にとっちゃあ、無償でこき使える奴隷と変わんないのよ。
・・・やっぱこの町救うの止めて、とっとと逃げない?」
う~ん・・・。
聖女が金に汚いロクでなしなのか。
町長のような連中が多いせいで、人々から優しい心が無くなってしまうのか。
判断が難しいわ。
「ま、待ってくれ!!
仕方ないんだ・・・。
・・・こんなに大きな被害が出てしまっては、報酬を支払う余裕なんて。」
「じゃ、町が復旧して余裕が出来るまで待ってあげるわよ。
・・・それでも報酬を払うのが嫌だ、なんて言わないわよねぇ。
町・長・さ・ん♪」
「ううっ・・・。
わ、わかりました。
いつの日か必ず報酬を支払いますので、どうかこの町をお救いください。」
あ。
町長が折れた。
「まいど~♪
・・・あ、そうそう。
もし余裕が出来てるにも関わらず、支払いを踏み倒そうなんてしたら・・・。
エンシェントドラゴン様にこの町を滅ぼしてもらうからね。」
「ひぃ!?」
「おい・・・。」
本気ではないのでしょうけど、脅し方が悪辣すぎるってば。
それとも報酬を払おうとしない人だらけだから、闇聖女のような存在が生まれてしまったのか。
「まったく、エミリーときたら。
そ~いう所がなかったら、もっと良い女なのになぁ。」
「ま~、しょ~がないんでしょ~ね。
だって勇者様と出会った直後の聖女、たった銀貨5枚しか持ってなかったのですよ?
お金に対する執着が強くなっても、無理はありません。」
「・・・あ、そっか。
エミリー程の能力があって、そんなに貧乏なのはおかしいもんね。
聖女だからって、寄ってたかって無償を強要する方が悪質なのかなぁ。」
勇者の言う通り、聖女の能力は億万長者になれても不思議じゃないくらいには希少で実用的よ。
しかも一緒に旅した限り、彼女は金を求める割に少々食い意地が張ってる程度で、あまり金遣いが荒くない。
にも関わらず、これまで彼女が貧乏だったのは、誰も成果に報いようとしなかったから・・・かもね。
それはともかく、聖女のやる気が出てくれた以上、怪我人を救う算段は付いたわ。
と、なれば・・・。
「勇者様、皆。
ここは二手に分かれて、行動しましょう!!」