第101話 ハーレム失格編② 伝説竜の実力
平和な町に突如、謎の災厄が降り注ぐ。
数多の建物が崩壊し、町全体が燃え盛る。
そんな中、一人の転移勇者が人々を救わんと立ち上がった!!
・・・誤って町全体を凍らそうとしていたので、慌てて止めたけれど。
「ちょ!?
どうして止めるの、王女?」
「当たり前ですって!!
勇者様は『アイス』を使うつもりだったのでしょう?」
「そうだけど。」
そうだけどって。
『アイス』はランク1の氷魔法よ。
普通ならこれほどの火災の前で使っても、焼け石に水程度の効果しかないわ。
けれどチート能力により、魔法の威力が超強化されている勇者が使えば・・・。
「勇者様が『アイス』なんか使ったら、火災はどうにか出来ても、町中が氷漬けになってしまいます!!」
「う″!?」
そうなる事は火を見るよりも明らかよ。
しかも町全体の様子もよくわからないまま使えば、確実に不要な人的被害が出てしまう。
「・・・え、え~っと。
じゃあさぁ。
水魔法、なんてものはないの・・・?」
「・・・一応、水を生み出す魔法は存在します。
しかし勇者様がそのような魔法を使えば、仮にランク1のものだとしても、危険極まりないですね。
大火事が大洪水に変わるだけで、人々にとって迷惑なのは同じ・・・。」
「・・・王女様~。
その辺にしてあげて~。
ご主人様、可哀想・・・。」
「あ。」
しまった!!
・・・勇者ったら、叱られた幼子のような目で私を見つめているじゃない。
「も、申し訳ありません。
勇者様に後悔して欲しくなくて、つい・・・。」
助けるつもりの魔法で、大勢の被害者を出せば、絶対に勇者の心は深く傷付く。
「・・・それはわかってるけどさぁ。
もうちょっと優しくしてよぉ(´;ω;`)」
私としては、別に勇者に厳しく接しているつもりはないんだけどねぇ。
事実を語っているだけで。
年頃の男の子は扱いが難しいわ。
「俺って、王女からしたらやっぱバカなの?
自分の力もよくわかってない、ダメな奴??」
「バカとも、ダメとも思ってませんって。
ただ結構なうっかり者・・・。」
「...ρ(。 。、 ) 」
げ。
つい本音が。
は、早くフォローしないと。
え~っと。
「そ、それだけチート能力を使いこなすのは難しいって事ですよ。
ほら。
勇者様の世界では危険な物を取り扱う時は、たくさんお勉強しますでしょ?」
例の本に書いてあったわ。
彼らの世界ではたくさんお勉強して、資格を取らないと、危険すぎるものは取り扱えないって。
むしろそんな世界から来た人達が、ど~してチート能力に限って何の危機感もなく、振るってるのかしら?
「・・・う、う~ん。」
「ま、志が立派でも空回りしちゃうなんてのは、よくある事ですよ。
誰か勇者様を正しい方向へ導ける方がいればい~んですけどねぇ・・・。」
そういう人がいれば勇者だって、安心してこの世界を過ごせるでしょうに。
「「「・・・。」」」
って、ど~して勇者も聖女もクロも訴えるような目で私を見てるの?
「けどじゃあ、ど~するのよ。
王女。
何もせずにいても、事態は悪くなる一方よ?」
「それもそ~なのよね~・・・。
・・・。
・・・一つ、思いついてる事はあるけど。」
「そなの!?
だったら、勿体ぶらずにい~なさいよ。」
いや、勿体ぶってるんじゃないの。
良いやり方か自信が無かったから、黙ってただけ。
でも無闇に氷魔法や水魔法をぶっ放すよりは・・・。
「いやね。
勇者にアビス様を召喚してもらえばさ。
なんとかなるかも~って。」
「アビス様!?
エンシェントドラゴン様だ~♪」
アビス様はとある事件で勇者が偶然、召喚した伝説のドラゴンよ。
底知れぬ力でモンスターも悪人もあっけなく制した姿は今でも印象に残っている。
それでも単純な力の大きさだけで言えば、勇者の方が上でしょう。
何せ、勇者はアビス様の召喚者なのだから。
でもアビス様は勇者と違って、強大な力を正確にコントロール出来るからね。
「・・・アビス様の力は未知数な所も多いけどさ。
あのお方なら、二次災害を出さずに災厄を抑えるなんて、容易い事かもしれないわ。
しれないんだけれど・・・。」
「だけれど?」
・・・。
「あの方は神の使いだからねぇ。
軽々しく頼ってい~のかな~、って。」
「え~・・・。
い~じゃん、別に。
だってアビス様、明らかにおかしい命令以外は全部聞いてやるって、言ってたし~?」
「・・・ええ。
言ってたし、今回の頼みだって嫌がらずに聞いて下さるとは思うけどぉ。」
「ちゃんとわかってるじゃん。
王女。」
前回だって、勇者の頼みで貴族の女の子を悪党から守ってくださったものね。
だから人助けに関する頼みなんかは、おそらく不満がらずに聞いて下さるでしょう。
けどねぇ。
「わかってても、躊躇っちゃうわよ。
神の使いを私達の都合で振り回すなんて。」
「ったく、王女ときたら。
普段はやたらと図太い癖に、妙な所で躊躇するわねぇ。」
とは言え、あまり迷っている場合でもない。
ここはアビス様に頼る方が・・・。
いえいえ、やっぱり他のやり方を模索すべき・・・。
「・・・確かアビスの姿をイメージしながら。」
ん″?
「エンシェントドラゴン・サモン!!」
「ウォオオオオオオオオンンンンンンンン!!!!!!!!」
などと私が考えている隙を突いて、勇者がアビス様を召喚してしまったの!!
ちょ!?
「ド・・・ドラゴン?
けれど、なんて美しい・・・。」
「エンシェントドラゴン!?
エンシェントドラゴン様だ!!」
災厄を前に混乱していた人々も、突如現れた金色の竜の姿に息を飲んでいる。
って、そんな事よりも!!
「ゆ、勇者様!!
いけませんよ、勝手にアビス様を召喚しては・・・。
話、ちゃんと聞いてました?」
「うん、聞いてたよ。
だから召喚したんだ。
悩む理由が、単なる余計な遠慮っぽかったからね。」
「・・・よ、余計な遠慮って。」
そりゃまあ、二次災害なんかを恐れてた訳じゃないけどさぁ。
伝説上の存在への配慮を『余計な遠慮』って・・・。
この勇者、本当に要所要所で豪胆よねぇ。
「王女。
今は一刻も早く、町の皆を助けないといけないんだ。
そんな理由で躊躇してる場合じゃないよ。」
「う″?」
「こればっかりは、テンイが正しいわねぇ。」
確かにそうかも・・・。
私だってアビス様なら多分、不満を持たずに頼みを聞いて下さるだろう。
と、思ってたからね。
「久しいな、テンイとその仲間達よ。
・・・と、呑気に会話している場合ではなさそうだな。
災禍に見舞われたこの町を救うため、我を召喚したのか?」
「さっすが、アビス様ねぇ。
もう状況を把握してるわ。」
「アビス。
早速で悪いんだけど、二次災害を出さずに町中の炎を消火するとか、出来る?」
「要は町を燃やす炎だけを消せば良いのだろう?
それくらい、容易い事よ。
我に任せるが良い。」
容易いって。
勇者の頼みをあっさり聞き入れたアビス様が空高く舞う。
そして空中から町を見渡した後、魔力を集中させ・・・。
「フォース・ラージ・ウォーター!!」
魔法を発動させると同時に、町を燃やさんとする炎が一瞬で消火された。
「炎が・・・。
町を燃やす炎がこんなにあっさり・・・。」
「・・・エンシェントドラゴン様。
俺達の町を救って下さった、のか?
「これが伝説の竜の力・・・!!」
町の人達もアビス様の実力に驚きを隠せない。
『フォース・ラージ・ウォーター』はランク4の水魔法よ。
その気になれば、そこいらの村や町くらい、水没させかねない程の水を発生させるわ。
けれどアビス様は出力をコントロールし、町を燃やす炎だけを消すよう、調節されたの。
さすがは伝説のドラゴン。
本当にとんでもないお方だわ。
「・・・・・・?
!!
あっ!!」
アビス様の神業に呆然としていると、何かに気付いたクロがいきなり走り出した。
一体、どうしたのよ?
クロ!?