第100話 ハーレム失格編① 急展開
「じゃあクロ。
今日もハーレムについて、お勉強しましょうね。」
「は~い。」
とある町のとある宿屋にて。
今日もクロを一人前のハーレム要員にするためにお勉強を行っていた。
「よっくもまあ、くだらないお勉強を飽きもせずに・・・。」
・・・相変わらず、聖女は謎に辛辣ねぇ。
まあ、それはともかく。
「今日はハーレム要員はお互い、仲良くする事がとっても大切だって事をお勉強しましょう。」
「仲良く~?。」
「そうよ。
ハーレム要員はね、転移勇者とだけ仲良しでもダメなの。
ハーレム要員同士・・・クロの場合は私や聖女とも仲良くする必要があるわ。」
例の本によるとね。
ハーレム要員同士でギスギスするのは絶対にNGだと書かれているわ。
仮に自分を好いていたとしても、女同士の仲が悪いと、男の人はストレスで胃が痛くなるんだって。
つまりハーレム要員は皆、転移勇者を深く愛さなければならない。
けれど転移勇者の一番になりたいからと、ハーレム要員同士でいがみ合ったり、足を引っ張り合うのはダメ。
転移勇者の一番を目指すなら、純粋に女としての魅力を磨く事。
そしてハーレム要員同士、皆で仲良く転移勇者に好かれるために努力しましょう。
って、書かれていたわ。
「え~っと・・・。
つまり仲良しが一番って事~?」
「そんな所かしらね。」
「わかった~♪」
でもまあこんな事はわざわざ教える必要も無かったかしら?
何故なら・・・。
「・・・随分と男に都合の良い教えねぇ。
けどそんなの、無理じゃないかしら?」
え?
「どうしてよ、聖女。
だって私達、それなりに上手くやれてるでしょう?」
私達はハーレム要員同士、深い絆で結ばれている!!
・・・とまではいかないかもしれないけどさぁ。
それほど仲違いはしてないんじゃない?
「ま~、そうね~。
確かに私達の仲はそんなに悪くないと思うわ。」
でしょ?
「ただそれは・・・。」
ドオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!
キャっ!?
なんて大きな衝撃音かしら??
「ど、どうしたの~・・・?」
衝撃音は絶え間なく鳴り響き、人々の悲鳴まで届き始める。
一体、何が起きているの!?
まずは状況を把握しないと。
「ペーパー・サモン!!」
私は紙の式神を作り出し、外へ行かせ、空から様子を伺わせる。
・・・って!!
「どうなの?
王女。」
「と・・・とんでもない事になってるわ。
聖女、クロ!!
勇者を連れて、早く外へ出ましょう!!!!
急いで!!」
細かい説明は後、後。
まだ全てがわかってる訳じゃないけど、このまま宿屋に引き籠るのは危ないわ。
だって・・・。
********
「嘘・・・だろ?」
勇者がボヤくのも無理はない。
外では衝撃音も人々の悲鳴も鳴り止むどころか更に酷くなっていく。
数多くの建物が破壊され、火が回り、町全体が赤く染まっている。
まだ宿屋付近は目立った被害が無いけど、とても楽観視出来る状況じゃないわ。
さっきまではあんなに平和だったのに、どうして・・・。
野良ドラゴンの襲来?
それとも凶暴な魔族が攻めて来た?
詳しい状況はわからないけれど、早く・・・。
「早く逃げないと!!」
「早く助けないと!!」
・・・。
「「え″?」」
あ。
「そ、そ~ですね。
勇者様なら、そう考えてますよね~・・・。」
「・・・いやいや、王女さぁ。
町の人を見捨てて逃げようだなんて、薄情すぎるよ。」
う~ん・・・。
それはそうだけどさぁ。
「私のような一般人からすれば、それが普通ですよ。
これほど大きな危機に抗うような力なんてありませんから。
逃げる事だけを考えるのは当たり前です。」
「!!」
私の能力は決して秀でてはなく、高く見積もっても訓練していない人達よりは多少、マシな程度。
町すら崩壊させてしまうような危機が迫れば、まずは自分や身内の安全を考え、逃げる事を優先してしまう。
けど勇者は違うのよね。
元からの戦闘センスにチート能力まで備わっているもの。
彼がその気になれば、たった一人で町を救うも壊すも、可能でしょう。
普段はともかくいざと言う時は非常に勇敢だし、町の人を助けたがるのも無理ないかもしれない。
「そっか。
俺も元の世界じゃ、火事から人一人助ける勇気だって無かったもんね。
・・・ねえ、王女。
俺、少しチート能力を手に入れたからって、調子に乗ってたかな?」
「いえ。
別に調子に乗ってたとまでは・・・。
考え方が常人離れしてるとは感じましたが。」
「・・・。
やっぱりチート能力なんて、人の身には過ぎた力なのかな?
なのに可哀想、なんて理由で安易に強大な力を振るうのは、悪い事なのかな??」
安易に強大な力を振るう事の是非、かぁ。
確かに良い事だとは思えないけど、今回に限って言えば・・・。
「別にい~んじゃな~い。
やりたいようにやれば~?」
って、聖女!?
「・・・エミリー?
本当に良いのかな。」
「ま、私はタダで人を助けたいなんて、もう思わなくなっちゃったけどさぁ。
やりたいなら、好きにすればい~じゃん。
お役人に捕まる訳でもないし~?
安易に強大な力を振るってはいけない?
そ~んな下らない事、気にしなくて良いって。」
「聖女!!
・・・まあ今回は純粋な人助けだから、力を振るっちゃダメ、とまでは言わないけど。
そんな無責任な考え方はダメよ。
強大な力を振るえば、それだけ周りに大きな影響を与えるんだから!!」
だから無責任にチート能力を使うなんて、良くないってば。
「じゃ力の弱い人間なら、無責任に力を振るってい~の?」
え?
「いくら非力だろうが、たっくさんの人間が無責任に力を振るったらさぁ。
チート能力なんかよりも、はるかに大きな影響が出るわ。
自重すべきなのは、転移勇者や聖女のような人達だけ~?」
「そんな事はないけど・・・。」
「けれど世の中なんて、力の強弱関係無く、大体の人間は無責任に生きてるでしょ?
特に周りから責められそ~にない時は、み~んな自分勝手に振る舞ってるわ。
だからい~のよ、てきと~で。」
「考え方が極端すぎるでしょ!!
・・・もう。」
「?~。」
さすがは闇聖女ね~・・・。
存在そのものが破天荒すぎるわ。
「・・・ありがとう。
エミリー。
君のおかげで少しスッキリしたよ。」
「って、勇者様!?
ダメですよ。
闇聖女の言葉に惑わされては!!」
「あのねぇ!!
わたしゃ悪女か!?」
悪女と言うか、世の中に反発しまくってる不良娘と言うか。
「確かに俺はズルいよ。
チート能力がなかったら、他人を助けようともせずに逃げ出してたと思う。
・・・けど、今の俺にはズルだったとしても、大勢の人を救う力があるんだ。
だからせめて、目の前で困っている人達だけでも助けたいんだ。
ダメかな、王女。」
勇者は真剣な眼差しで私に問う。
・・・。
「ダメだなんて、そんな事はありませんよ。
むしろ素晴らしい考え方だと思います。
あなたはもしかしたら、誰よりも素晴らしい転移勇者かもしれません。」
最初から勇者の事を、悪人とまでは思っていなかった。
でもまさかこれほど綺麗な心の持ち主だったなんて・・・。
今までは彼がいつ、力を誤った方向に暴走させるか、不安だったけれど。
もうそんな心配なんかしなくても良さそうね。
「ありがとう、王女。
よしっ、じゃあさっそく町中に広がっている火の手を消すんだ!!
アイ・・・。」
「って、ちょっと待ったぁーーーー!!
ダメよ、勇者。
それは絶対ダメーーーー!!」
「ふぐっ!?」
多分、氷魔法で町中の火を消そうなどと考えていたっぽい、勇者の口を慌てて塞ぐ。
うん。
一瞬でも勇者を信じ切った私がバカだったわ。
考え方が立派なのと、力を正しく振る舞えるかは、別問題よね・・・。