第99話 ハーレムの基本編⑦ 王女の本音
「・・・正直に答えて欲しいんだ。
本当は俺と一緒に旅をするの、嫌だったの?」
え?
夢の中の勇者から、私は唐突に質問をされた。
「それは・・・。」
「夢の中なんだから、い~じゃん。
素直にぶっちゃけちゃいなよ。」
「随分、夢ですアピールをする勇者ね~。」
夢の中の住人の癖に。
でも、勇者と旅をするのが嫌かどうか、ね。
・・・。
「・・・そうね。
最初は嫌だった。
いえ、嫌と言うよりも怖かったわ。」
「・・・。」
「だってチート能力なんて、人知を超えた力を持つ男の子の側にいるなんて、ね。
しかもその男の子は私に深い憎しみを抱いている・・・。
いつか殺される可能性だってある、そう考えると怖かった。」
だって勇者にとって私は自分を誘拐した男の娘だから。
彼が何を思って、私と一緒に旅を続けているのかはわからない。
けれど、いつ彼に殺されてもおかしくはない。
そう思っていた。
「やっぱり、か。
けど、王女!!
・・・俺は。」
「でも。」
「でも?」
勇者や聖女と旅を始め、色々な事があった。
すぐうっかり力を暴走させ、大騒動を起こす勇者にはほどほど困り果てた。
彼の責任ではないとわかっていても、トラブルに愛されまくる所も悩ましかった。
いつぞやの山賊事件のように、世界滅亡の危機に晒された時は寿命が縮むかと思った。
でもね。
クロが仲間になって、アビス様のような存在と出会って。
色々な人達と出会って。
色々な町や村、場所を共に旅して。
「いつの間にか嫌だなんて気持ちは忘れちゃってたみたい。
むしろこの旅を楽しんでいる私がいるの。」
「!!!!」
ああ。
そうだったんだ。
私ったら自分でも気付かない内に、皆との旅が嫌じゃなくなってたんだ。
「それに勇者が本当は怖い人なんだって事も、すっかり忘れちゃってたわ。
・・・あなたなりに強く正しく生きよう、って頑張ってるのが見て取れるからかしら?
うっかりミスも多いけどね。」
勇者を攫ったのが、私の父でなければ。
チート能力なんてなければ。
彼は剣が得意なだけの、ごく普通の青年でしかないもの。
立場や能力を無視すれば、恐れる所なんて一つもないわ。
「良かった。」
?
「王女が俺との旅を嫌がってなくて、本当に良かった。
・・・どんなに変な振る舞いをしようがさ。
君が楽しいって思ってくれるなら、それだけで十分だよ。」
「え・・・?」
なんで?
勇者への罪を償うため、私が彼を楽しませなければいけない。
なのに立場が逆転してない?
どうして・・・・・・。
あっ!?
「なるほど。
目の前の勇者は夢の世界の勇者だもの。
だからこんなにも優しいんだわ。」
「・・・あのさぁ。
現実世界の俺って、君にとってそこまで酷い男?」
えーっと。
「別にそんな事もないか。
よくよく考えたら、現実の勇者も割と私に優しいわ。
父の一件で恨んでるはずなのに、不思議なものね。」
「ホッ。」
あ、でも。
「たま~に肩を揺さぶったり、変な子扱いして、いじめてくる時はあるけど。」
「いや、それは君のせいだと思うよ?
言っとくけど、俺に恨まれてるからそんな扱いを受けるんだ~。
・・・な~んて、誤解しないでね。」
そんな誤解はしていないから。
勇者が肩を揺さぶったりするのは、下らない何かに軽く怒ってる時だもの。
「しないってば。
けど、私と勇者は元々違う世界の住人だもの。
考え方にズレがあるのは仕方ないわ。」
「この世界の住人基準でも、君は変な子じゃない?
エミリーはおろか、クロにさえ突っ込まれてるじゃん。」
「まあ、酷い。」
私と勇者は下らない事を言いながらも、笑い合っていた。
何故でしょう。
彼を無理矢理、愛そうとした時も仲良くなれている気がするわ。
・・・。
あ、あれ。
目の前が暗く・・・?
「・・・俺さ。
本当○○かったんだ。」
どうして急に勇者の声が途切れ途切れになったのかしら?
・・・それどころか、意識も遠のいて。
「君に○○○てるんじゃないかって。
○緒に旅○○○だって、○○○んじゃな○かって。
そう考○○○○○った。
だって、俺は王女の
********
・・・・・・。
・・・。
( ゜д゜)ハッ!
あ・・・あれ?
「「zzzzzz」」
聖女、クロ?
確か私、昨日は眠れなくて、ベランダで夜空を眺めてて。
話の内容はうろ覚えだけど、勇者と色々お話して・・・。
・・・でもあの時の勇者、これは夢だって言ってたわよね。
・・・。
じゃあ夢なのかしら?
じゃ、なかったらベッドで目を覚ます訳がないもの。
・・・。
********
そして私達はいつも通り宿を引き払い、チュウオウ国を目指し旅を続けた。
けど。
「あら、王女。
今日はテンイにベタベタしないのね。」
「ほんとだ。
いつもの王女様に戻ってる~♪」
そう。
私は昨日と違って、無理矢理勇者とくっついたりせずに、一歩離れた場所から眺めてるの。
だって。
「・・・昨日の夜ね。
夢の中の勇者が教えてくれたの。
いくらハーレム要員として、変な振る舞いをしようが、気にしなくて良いんだって、ね。」
少しうろ覚えだけど、大体こんな感じの内容だったはずよ。
「余計な単語がくっ付いてるのは引っ掛かるけど。
ま、いっか。」
「???
ど~して勇者様が私の夢の中の話を知ってるのです?」
「気のせいじゃない?」
いたずらっ子のような表情でしらばっくれる勇者。
けど勇者がそう言うならきっと、気のせいなんでしょうね。
グーーーーっ。
あらら?
「あたし、お腹空いた~・・・。」
クロがお腹に手を当てながら呟く。
そ~言えば、もうそろそろお昼の時間かしらね。
「そ~だね。
そろそろお昼にしよっか。」
「わかりました。」
あ、そうそう。
「勇者様。
今日も私、あなたにお弁当を作ってきたんです。
良かったらどうです?」
「ほんと?
やったぜ!!」
「さすがに毎日、作るのは難しいですけどね。
時々で良ければ、作ろうかと思います。」
手料理を喜んでもらえたのは、普通に嬉しかったもの。
勇者も結構美味しそうに食べてくれたし、さ。
ただまあ。
「『あ~ん♪』は恥ずかしいから、もう止めておきたいですが。」
「そ・・・そうだね。
俺達にはちょっと早かったかも。」
絶対にやりたくない、とまでは言わないけどさぁ。
あれは勇者がどうとか以前に恥ずかしすぎて耐えられないわ。
・・・本当にいい年した大人が、あんな幼児の真似事を楽しんでいるのかしら?
「あ~!!
またあんた達だけ、ずる~い。」
「ずる~い。」
「はいはい。
そ~言うと思って、あなた達の分もついでに作っておいたわよ。」
「ほんと!?
やったぁ♪」
まったく。
女の子の癖に食い意地が張ってるわねぇ。
「どうも~♪
まっ、気が向いたら今度は私がお弁当を作ってあげるわよ。」
「・・・嘘っ?
聖女、あなた料理なんか出来るの!?」
「王女。
あんたは私を何だと思ってるのよ・・・。」
だって、普段の聖女ったらあんまりにもガサツすぎるもの。
料理するイメージなんか、全然湧かないわ。
そんな下らない言い合いをしつつ、私は昼食の準備を始めた。
勇者への罪を償うため、立派なハーレム要員として振る舞う。
その使命は忘れていない、忘れてはいけない・・・。
けどだとしても、無理に頑張らなくても良いんだって。
私自身がこの旅を楽しんでも許されるんだって。
夢の中の勇者が教えてくれた、そんな気がするわ。