エピローグ
同盟の為の大義名分として、二人は結婚した。
戦争賛成派の多くが決戦に出撃、或いは多額の支援を行った事で勢力は極端に縮小し、両惑星間の同盟に対する抵抗は殆ど見られなかった。
両惑星のトップが絶対的な兵力を保有している――そんな認識も、新たに始まった政に対して良い影響を与えていた。
ほぼ皆殺しという結果も相まって、民間レベルですら大きな同盟反対運動が起きなかったのだ。
カムナ統一惑星星王には、第一王子であるカムドが即位。時を同じくして、惑星カザーダでは選挙により議員の一人としてベザルが選出。翌日には大統領として着任し、補佐として夫となるレビが選ばれ新たなる内閣が発足した。
その二日後には、カムドを筆頭とした使節団が惑星カザーダを訪れ、挙式。
惑星を上げての盛大な結婚式で正式に結ばれた二人は、更に二日後にはカムナ統一惑星で再び式を上げ、更に惑星間会談、内政に外政と寝る間すら無い忙しい日々を送る事になる。
それにレグも巻き込まれた。
おかげでこの一ヶ月間、私の≪廃棄城≫ライフは快適である。
まぁ、嫌いじゃ無いんだけどね?
単に、レグの熱意が他よりヤバいってだけだ。
一礼して、空になったカップを手に取るセバス。
ベザルちゃんに比べるとまだまだで、見られているのが分かる程度に気配の消し方が下手だけど、出来るだけ見ないようにしとこうと言う気配りが分かる。
気配を消したジッと見てきてたりするレグに比べれば、可愛いものだ。
と、そのセバスはキュピーンとでも効果音が付きそうな顔で虚空を見上げると、深々とため息を吐いた。
「姫様。奴が、帰ってきました」
「奴?」
首を傾げるのとほぼ同時に、奴が転がり込んでくる。
比喩では無く、マジで。
扉を開いた瞬間転んだのか、前のめりに倒れて一回転。
前転終了の姿勢のまま私を見上げたレグは、その整った顔立ちをクシャリと潰すと、いきなり泣き始めた。
「ひめさまぁーっ! やっと、やっとお会いできましたぁっ!」
「いや一ヶ月程度だし」
「俺は、俺はああぁぁぁぁっ!」
「五月蠅いし」
「はい邪魔だから横にね」
そんなレグを横へと蹴り転がしたのはレビ。
なかなか容赦が無い事である。
「姫様、ただいま帰還いたしました」
「まずは私達の下らぬ諍いに手をお貸しになって下さった事に、感謝を」
レグと並んでジゼルちゃんまで跪き、そんな事を言ってくる。
何というか、似たもの夫婦なのかもしんない。
「気にしなくていいから。新婚生活を楽しんでね?」
「はっ。今後とも夫婦で姫様に忠誠を尽くす事を誓います」
「誓います」
「誓います」
何故かレグまで二人の横に跪いて復唱してくる。
お前は夫婦じゃ無いだろうが。
喉元まで出かかった言葉を飲み込み、二人へと視線を向ける。
「え、えっとね? 新婚旅行とか楽しんでって意味なんだけど」
「必要ありません」
「不要です」
「常に姫様と共に」
何か一匹余計なのが混ざってくるので、セバスに視線で合図して退室して貰う。
「やめろーっ! いやだーっ!」
レグはかなり抵抗していたが、どこからか取り出されたチェーンでぐるぐる巻きにされて外へと引き摺り出されてゆく。
「邪魔者もいなくなった所で。……えー、そもそも国政は?」
「兄達に任せました」
「えぇ……」
「アベイド兄様を始め、三人には罰を与える必要がありましたので。国政の勉強も兼ね、カザーダで受け入れています」
「補佐としてお爺様もつけましたので、問題はありません」
「いやいや。あんた達、トップでしょ?」
「出席する必要がある行事はありますが、概ね些事です。問題なくこちらの業務を行えるかと」
明らかにこっちの業務の方が些事なんですけども。
「いや、えっと……」
「防衛大臣としての職務に比べれば、あちらの事などさほど気にする必要はありません」
そんなレビの言葉に、実祖父がいるベザルちゃんは怒るかと思いきや、
「さすがです、あなた」
褒めるな。
「賛同してくれて嬉しいよ、ベザル」
スッと手を重ね、その手を握り返すベザルちゃん。
うん、見つめ合うのもイチャイチャするのも良いんだけどね? 他でやろうか。
「えー、うん。じゃあ、新婚旅行に行ってきなさいよ。こっちはこっちで、新築用意しとくから、当面はそこを新居って事で」
「必要ありません」
「必要無いって……」
「……さすがベザルだ」
うっとりとした目で、ベザルちゃんを見つめるレビ。
お前等感覚おかしいよ。
「全ては姫様の為に」
「その通りだね。全ては、姫様の為に」
「「今後ともよろしくお願いいたします」」
息を合わせて頭を垂れる二人を前に、私は引きつった笑顔を返す事しか出来なかった。
もしかしたら私は、とんでもないの二人を結婚させてしまったのかもしんない。