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第七章   決戦

 翌日。

 カムナ統一惑星時間 PM13:25。

 カムナ統一惑星と惑星カザーダ内で全ての映像受信えいぞうじゅしんが可能なスクリーンが起動し、元より起動していた映像装置に関しては自動で映像が切り替わった。

 それは、両軍の艦機かんきともに同様だった。

 映し出されたのは、カムナ統一惑星とういつわくせい星王せいおうその人。

 背景はどこかしらのメインデッキを思わせるものだったが、多くの者は王その人が生きていると言う事実に驚き、息をむ。

静聴せいちょうせよっ!』

 王の声が響く。

『我が名はルブド・デビ・カムナ・ルビ・レイ。カムナ統一惑星とういつわくせい星王せいおうである。此度こたび汝等なんじら慶事けいじもたらしに来た』

 パッと映像が変わる。

 そこに立っているのは、二人。

 一人は白いスーツに赤いネクタイをつけ、ガチガチに身体を強ばらせた美形の青年。

 もう一人は一輪の花を思わせる白いウエディングドレスに身を包み、金色の複眼で真っ直ぐ前を向いている。

『今ここに、惑星カザーダ大統領がまご、ベザル・グラーマと、カムナ統一惑星第五王子クルレド・レビ・カムナ・ルビ・レイがながちぎりのやくかわわす。これは、終わりの見えぬ無為むいな争いをしずめるいしずえとなる為のやくである』

 ベザルちゃんが黒い右手を伸ばし、レビがおずおずとその手を取る。

 政略結婚せいりゃくけっこん――王の言葉はそうとしか取れない内容ではあったが、互いに目を合わせ、微笑ほほえさまには、それ以外の何かがある事は確かだった。

『同盟はった。両軍とも、退くがい』

 映像が王へと戻り、そう告げた王はしばしの沈黙の後、一つ息をいた。

『とはいえ、そう簡単に退けはすまい。それほどに多くの死者が出た。ゆえに、次代をになう者より提案がある』

 映像が再び、手をつないだ二人へと戻る。

 二人は一度視線をかわわすと、うなずいてから口を開いた。

『次代をになう王子、クルレド・レビ・カムナ・ルビ・レイとして――』

『次代をにないし姫、ベザル・グラーマとして――』

『『今ここに、カムナ統一惑星と惑星カザーダ両軍に対し、決闘を申し込む』』

 先に口を開くのは、レビ。

『これは、憎しみにおぼれた者への救済きゅうさいである』

『戦争に目がくらんだ者達への慈悲じひです』

われらはより良き未来の為に、憎しみの連鎖れんさたねばならない』

『これは、その為の提案。私達は、あわれにもくるった方々(かたがた)に力をしめしましょう』

『憎しみの連鎖れんさつ為に、汝等なんじらわれらにその憎しみをぶつけるがい』

『女神の寵愛ちょうあいにより結ばれた私達が、お相手しましょう』

『こちらの戦力は三十機。日時は明日のこの時間』

『そちらの数はいません。戦争の継続を望む者のみの参加を望みます』

心得こころえよ。女神の加護かごは、狂いし汝等なんじらことごとくを消し去るであろう』

 そこまで交互にげた二人は、つないでいた手を離すと、右手を胸に当ててその場にひざまづいた。

 ヤバい。

 咄嗟とっさに映像を王へと切り替える。

 『女神様の御心みこころのままに』――そんな言葉が聞こえてきた気がする。

 もうね、アホかと。

 確かに私が出るけど、これは惑星間の戦争だ。そこに女神教を持ち出すなって話である。

 ……建前たてまえでも結婚すれば宗教なんてどうでも良くなるかなぁと思ったんだけど……ちょっと、考えが甘かったかもしんない。

 いきなり映像を切り替えられた王は、だが戸惑とまどった様子を見せもせず、一つ咳払せきばらいをすると口を開いた。

『以上だ。われらを打ち倒せたのならば、もう戦争には干渉かんしょうせぬ。好きにするがい。だが、われらが勝ったその時は、終戦しゅうせんに対する異議いぎもうては受け付けぬ』

 ふっ、と王は笑った。

軍民ぐんみんの制限はない。戦争を続けたいというおろ者共ものどもよ、総力そうりょくを挙げてかかってくるがい。それこそが、くるった貴様等に与えられる女神の慈悲じひである』

 こいつまで女神とか言い出したし。

 もういいや、と私は広域通信こういきつうしん遮断しゃだんした。

 まぁ、ちょいちょい問題はあったけど、おおむね打ち合わせ通りの内容である。

 明日のこの時間にしたのは、他惑星からの干渉かんしょうを制限する為。

 同時に、民間人で参加したい者がいた場合に、間に合うようにだ。

 家族を殺された者もいるだろう。

 いとしい人を殺された人もいるだろう。

 その誰もが参加できるわけではない。だが、どうしようもなく狂った人は参加するはずだ。

 そう言う今後の問題になりそうな人達を片付けるのが、私の仕事。

 ベザルちゃんを結婚までさせたのだ。

 満更でもなさそうだったけど、そう指示した張本人ちょうほんにんとして、彼女らの未来の為に手を出す義務がある。

 本当は干渉かんしょうする気なんて無かったんだけど……十分過ぎるほどに死んだしなぁ。

 他人が死んでも何も思わないけど、億単位の死者はさすがに。

「これで良かったか?」

 カメラへと向かって笑みを見せる王に、私は音声だけで言葉を返す。

『女神とか言い出さなければね』

「だが、神でもなければ止められまい」

『神様なんかじゃないから止めるのよ。……これ以上続くと、知り合いまで危険そうだし』

ままだな?」

『神様っぽいでしょ?』

「はーっはっはっはっはっ!!!」

 ひどく楽しげに笑う王に、私は内心でため息をいて第五州へと移動した。

 決戦用の機体は、全て第五州の軍施設ぐんしせつにあるのだ。

 一応最新機体だけど、カスタムする余裕は無いのでどノーマル。

 ま、搭載とうさいしている輸送艦ゆそうかんでチャージは出来るし、どうにかなるだろう。

 一通りチェック済まして、発進申請はっしんしんせい

 全てはシナリオ通り。

 だから私は、気楽な気分で一度電脳世界へと戻っていったのだった。


 思ったよりは少ない。

 決戦前に陣取じんどった両陣営の数を見て、私がいだいたのはそんな感想だった。

 まぁ、それでも戦闘機が五百近く。戦艦系も二十ほど。戦闘機は全てが発進しているわけでも無いはずなので、もう少し増えるだろう。

 戦力で言えば、こっちの二十倍以上。そう言うと無理ゲーだけど、想定の半分以下だ。

 その理由は単純、全てが民間人みんかんじんあつかいになっているからだ。

 正義やら王道やら言われてはやされるような戦争をしていたのだ。あんなことを言われて、軍人として参加は出来なかったのだろう。

 なので、全てが個人所有。

 戦艦系せんかんけいがあるのは、企業とかの支援しえんを受けたからだろう。普通は民間人で所有できるような代物では無い。

 まぁ、それは戦闘機も同じだ。ピカピカの機体が半分以上をめるのは、戦争を続けさせたい企業の多さを物語っている。

 これが二十四時間後だから良かったものの、もう一日延ばしていたら三倍にはなっていただろう。

 そんな企業ならつぶれるぐらいの損害そんがいこうむっても心は痛まないので、それもありだった気はするけど。

「ホントに、いけるのか?」

『ンな事よりも……なに勢揃せいぞろいしてんのよ』

 王が乗る中型航行艦こうこうかんのメインデッキには、言葉通り全員がそろっていた。

 第一から第五王子、カトレアちゃんにベザルちゃん。ベザル祖父そふまで車椅子で参加してたりする。

 でもって、見た事無い女性も三人。それぞれに場違いなドレスを着ていているので、王妃おうひかなんかなんだろう。

 そんな中で唯一ゆいいつ平民のレグがしれっと混ざっているが、美形だからか何の違和感も無い。

「こやつらのした事が正しいとは言わんが……間違ってるとも言えん」

『うん、知ってるけど』

「ん?」

『ねぇ? ベザルちゃん』

「はい。そちらにいるお爺様じいさまに聞きましたので」

「えぇっ!? ボク聞いてないけどっ!」

「……言いませんでしたか?」

「聞いてないよっ!」

 そんな感じでイチャイチャし始める二人を見守って、戦場となる宙域ちゅういきへと視線を戻す。

 このかんからだと、最大望遠さいだいぼうえんでも豆粒まめつぶサイズだ。安全を考慮こうりょすると仕方ないけど。

『じゃ、万が一も大丈夫ね』

「あぁ。……万が一で済むとは思えんが」

『その為にこの艦を用意したんでしょ? 信じないならそれで結構。私はベザルちゃん達の未来の為に一肌ひとはだぐってだけなんだから』

「さすが姫様ですっ!」

『レグ、うっさい』

 レグがしょんぼりするのも、何か見慣れた気がする。

 そう返されるって分かってるはずなのに、なんでいちいち大声出すんだろうか。

『ま、のんびり観戦かんせんしてて。じゃあね』

 そう告げて、私は戦場となる宙域ちゅういき、そこに移動させた輸送艦ゆそうかんの中へ。

 最悪、私が負けてもベザルちゃん達は無事だ。

 でもって、戦争も早い段階で終結しゅうけつするだろう。

 あんな宣言をした後の決闘だ。勝ったとしても民意は得られないだろうし、メディアだって黙ってない。

 だから全てシナリオ通り。

 ま、やる以上は負ける気なんて無いけど。

双方共そうほうともに、準備はいな?』

 王の声が流れる。

 それに会わせて私は二十機の戦闘機を射出しゃしゅつ

 十機は防衛ぼうえい、十機は前線ぜんせん、十機は予備だ。

『では、決闘を開始するっ!』

 それが、始まりの合図。

 私は九機を引き連れて交戦宙域こうせんちゅういきへ。

 大事なのは初速しょそく。そして、速度を落とさない事だ。

 最新機体と言う事もあって、動作が軽い。正三面体せいさんめんたいの機体は、上下左右に機敏きびんに動く。

 まず突っ込んで来る機体は、単独たんどく徒党ととうを組んでいる機体もあるようだが、そう言う奴らは初動しょどうが少し遅れている。

 乱戦らんせんになる前に対処たいしょできるのはありがたい。

 すれ違いざまにフェザーライフルを発射はっしゃ。シールドで防がれるが、三発目でシールドがげ、四発目で被弾ひだん、五発目で爆散ばくさんする。

 うん。やっぱり最新の機体はい。

 前回ぜんかい並列操作へいれつそうさおこなったのは古い機体だった事もあり苦戦したが、最新機体なら十機同時でもそこそこ動かせる。

 まぁ、意識を反映はんえいして最高の性能を引き出せるのは一機だけだけど。

 それでも、我先われさきにと突っ込んできた奴らをいなすには十分過ぎる。

『さて。じゃ、遊んで貰おっかな』

 人を、殺す。

 その事に忌避感きひかんすら無いのは、私が一度死を経験しているからか。それとも、すでに人という器が存在しないからか。

 どちらにしろ、殺すのは初めてじゃ無い。

 そして、奴らは、戦争を望む敵。

 私の、敵なのだ。

 だから私は、人を殺す。

 躊躇ためらう事無く、殺せるのだ。


「……凄い、な」

 思わずと言った様子で呟いたのは、カムナ統一惑星星王、ルブドだった。

 その声を切っ掛けに、静まりかえっていたメインデッキが動き出す。

「おいクルレド、なんだあれはっ!」

「おかしいだろうっ!? 異常だっ!」

「ははっ。とんでもない、な」

「うん。……え? あれを、一人でやってんだよね?」

 王子達が騒ぐ横で、大統領ボリもベザルのスーツを引っ張った。

「のう。本当に、神なのか?」

「かみねーさま、凄いですっ!」

 彼らが見ているのは、メディアによる放送だ。

 十分過ぎるほどの安全距離を取っている為、メインモニターでは確認できない。そこで、メインモニターに生中継で放映ほうえいしているニュースの一つを流していた。

 そこで繰り広げられる宙海戦ちゅうかいせんの様子は、カトレアが目を輝かせる程に曲芸きょくげいじみていた。

 曲がる、撃つ。

 機体性能で大きく差は無いはずなのに、敵となる機体が止まって見えるほどに動く。

 そうできる理由は一つ。

 単純に、ほとん制動せいどうをかけていないのだ。

 言葉にすればそれだけの事だが、実際にそんな事をやれる者がこの世界に何人いるか。

 回避行動一つでも、普通は制動せいどうがかかる。曲がるのでも同様、後方以外からあつがかかれば、わずかなりとも速度は落ちるものなのだ。

 だが、カナメが操る機体にはそれが無い。

 減速しないように平行してエンジンを吹かし、減速げんそくけているのだ。

 その結果が、圧倒的あっとうてき機動力きどうりょく

 すれ違いざまに撃墜され、旋回せんかいするに後ろをとられて撃たれる。

 前線は、たかが十機だ。

 その十機が、五百機を圧倒している。

 あまりにも機敏きびんなその動きをとらえられず、同士討どうしうちが多発たはつしているほどだ。

『……現実、よね?』

 現地リポーターである女性の呟きに、ワイプで口を半開きにしていた女性アナウンサーがあわてた様子で言葉を発した。

『思わぬ事態になっていますっ! 星王軍せいおうぐんの十機が、圧倒あっとうっ! 圧倒あっとうですっ! いまだ一機として落とされていませんっ!』

 それは、奇跡きせき

 敵対した者にとっては、悪夢と言っても過言かごんでは無い。

宙海戦ちゅうかいせん専門家せんもんかのジャダールさんにおしいただいていますが……これは、どう考えたら良いのでしょうかっ!?』

『いや、そう言われても……。……もしかしたら、特殊なAIを搭載とうさいしているのかも……』

『あれほどの動きが出来る人工知能、ですか?』

『あ、いえ、聞いた事は無いのですが……その、それ以外に、説明がつかないと言いますか……』

 ジャダールと呼ばれた外見だけでは年齢が分からない彼は、止めどなくあふれる汗を誤魔化ごまかすように触手しょくしゅの一本で巨大な頭をぬぐった。

 ジネイス人。すべからく天才と呼ばれるような人種であり、頭部が人体の八割をめる、ぱっと見ではたこ。ただ、グロテスクな感じはせず、ちょこんとかけられたメガネには愛嬌あいきょうすらある。

『す、少なくとも、同一の技術、センスで、十機は動いている……ように、見えますよ』

『そうなんですか?』

反応速度はんのうそくど対応たいおうともに、同一人物が操縦そうじゅうしていると見るのが妥当だとうだと、思うよ」

 アナウンサーへのおどおどとした態度たいどとは裏腹うらはらに、映像を見つめるジャダールの瞳は燃えていた。

すごい、すごいよ。AIだとしたら奇跡きせきだ。十世代は先を行っている。訓練されたパイロットだとしても、奇跡きせきに等しい。何をどうすれば、あれほどの技術で統一とういつできる? まるで、視界を、意識を共有しているようだ』

『あ、あーっと、そうっ! ですが両惑星にも。言葉通り数十億人に一人という逸材いつざいがいますっ!』

『あぁ、フェイズ・バルバロテと、ギギール・ギデ・マドだね』

 ジャダールは女性アナウンサーの言葉をうばって、饒舌じょうぜつかたり出す。

 視聴者しちょうしゃにでは無く、うちなる自分に語りかけるように。

『フェイズ君は幼少よりパイロットとしての教育を受けたエリートだ。それだけで惑星内でも知られる程度のパイロットにはなれただろうが、彼には才能があった。最近は酒におぼれているようだが、それでも不敗ふはいと呼ばれるパイロットだね』

『は、はぁ』

『そしてギギール君。彼は虫人むしびとの頂点に立つパイロットと言ってもいいだろう。十五の頃に頭角とうかくを現し、既に四十だったはずだけど、おとろえたという話は聞かない。両者ともに、この銀河系に限れば五本の指に入るだろうね』

『……へぇ』

共闘きょうとうという形にはならないだろうけど、これは見物だね。何せフェイズ君にはあの共同惑星体きょうどうわくせいたいイシズの――』

 ブヅッと、映像が消えた。

 そのかん、二秒ほど。

『はいっ! えー、両者共に所属しょぞくしていた軍を退役たいえきした上でこの決戦に参加しているようですっ! 戦争を続けたいのでは無く、友や部下の犠牲ぎせいが無駄になるのを嫌ったと思われますっ!』

 先程まで見せていた冷たい視線が嘘のような笑顔で、女性アナウンサーは気持ち早口でそこまで伝えると、あざとさ全開でウインクした。

『では、生中継をどうぞっ!』

 その放送以降、ジャダールの姿を見た者はいない。


 二人、とんでもないのがいる。

 両機共に艦籍かんせきは不明。機体情報に関しても不明だ。

 今後も続く戦争の為に作られた機体、だろう。

 通常の戦闘機より一回りは大きく、私の機体と比べれば二倍以上。両方共に地上でも航行可能こうこうかのう有翼型ゆうよくがただ。

 だが、形状は異なる。

 一方はずんぐりとした形状で、一目で装甲そうこうあつさが分かる黒い機体。常時じょうじ展開てんかいされているシールドに、数多あまたの武装。その重量じゅうりょうゆえに初速こそ遅めなものの、大出力から発生する加速と十二のエネルギー兵器同時発射によるめん制圧力せいあつりょく脅威きょういの一言にきる。

 もう一方は、スマートな形状で、白く輝く機体。武装こそエネルギー兵器が両翼りょうよく一門いちもんずつ、機首きしゅに大型エネルギー兵器が一門と限られたものだが、恐ろしいのはその速度。初速、加速共に常軌じょうきいっしたもので、複数のスラスターによる旋回性せんかいせいも見事の一言。

 その二機だけが、ずば抜けていた。

 機体もそうだが、パイロットもヤバい。

『これは……無理か』

 白い機体に追い立てられ、向かう先には黒い機体。

 さすがの私でも、これは無理だ。

 けど、簡単にはとされてやらない。

 視界が白くまりそうなほどの、光の雨。エネルギー兵器の一斉射いっせいしゃだ。

 その中を、私は小型戦闘機のメリットを最大限にかした回避行動をとる。

 勿論もちろん回避かいひしきれない。けど、エンジンさえ無事なら良いのだ。

 たった四門のエネルギー兵器は余波よはだけで破壊され、被弾ひだんした装甲そうこう容易たやすがれれる。コックピットでは無数のアラートが鳴り響き、スクリーンが展開し流れ出す被害状況ひがいじょうきょうはコックピットをくすほどだ。

 次の瞬間にはメインカメラが破壊され、爆発と共にコックピットと外がつながった。

 けど、機能は生きている。

 見た目だけならすで大破たいは。それでもエンジンは無事で、二本のエンジンノズルだけは火をいたまま。

 衝撃しょうげきのせいでかなり減速げんそくしたが、それでも黒い機体のわきを抜け、私は駆逐艦くちくかんへと突っ込んだ。

『やー……面白いけど、勝てないわねあの二機には』

 意識を他の戦闘機へと移した私は、結局けっきょくわずかに損傷そんしょうしただけだった駆逐艦くちくかんながめながらそうぼやく。

 こっちは残り二十五機。

 敵の戦艦系せんかんけいはほぼ無傷。戦闘機だけは撃墜数げきついすうが二百を超えたものの、あの二機が出てきてからはかなりの劣勢れっせいだ。

 あの二機だけが、とんでもなくヤバい。

 機体性能、パイロットの技術共に一流な上に、味方を動かすのが上手いときている。

 一対一ならどうにか勝てるかなって相手なのに、これは無理だ。

 共闘きょうとうする気は無いみたいだけど、たがいを上手く利用してるってのがまた厄介やっかい

 おかげさまで、あの二人相手だけでもう三機失っている。このペースだと、一時間とたずに全機無くなっちゃうかもしんない。

 ちなみに、失った五機の内二機は、かなめとなる輸送艦ゆそうかんへの攻撃に対応する為に使った。

 決闘、かつ数で圧倒的あっとうてきに勝ってるってのに私の母艦ぼかんを狙うなんて……うん。なかなか戦略眼せんりゃくがんのある戦闘狂共せんとうきょうどもだった。

『……ん?』

 適当てきとうに戦闘機を撃墜げきついしていると、あの二機から通信が入った。

 対応させている一機に対してだ。

 勝てそうに無いので生存優先せいぞんゆうせん、兎に角逃走をメインに操縦そうじゅうしているんだけど、文句だろうか?

『はいはーい』

 どうやら映像通信えいぞうつうしんだったらしく、私の機体に二人の顔映像が現われた。

 なので、私の顔映像も相手側に。ちゃんとコックピットの背景付きだ。

『はっ。随分ずいぶんと余裕だなぁおい』

『オンナ、ダト……?』

 一方は人間。首筋から目元まで痣がある金髪の男。もう一人は、カマキリのような頭部で複眼ふくがんだけは黄色い虫人むしびと

『へぇ』

 私が思わず目を輝かせてしまったのは、その虫人むしびとを見たからだ。

 六本の腕を、せまいコックピットの上下左右に伸ばして身体を固定している。まるで狭い所にいる蜘蛛くものようだ。

 人によっては忌避感きひかんを覚える光景かもしんないけど、私は大丈夫。でもって、そんな光景よりも凄いのが操縦方法そうじゅうほうほう

 八肢はっし操縦そうじゅうしている上に、それぞれの手足の指、平からワイヤーの様な糸を出して一機を完全に掌握しょうあくしているのだ。難易度で言えば、私が平行で十機操縦しているよりもはるかに難しいだろう。

 白い機体。機動の機敏さが異常だとは思ったけど、なるほど道理どうりではある。

『何で虫野郎むしやろうまでいやがんだ』

『コチラノ、セリフガ。サル、ガ』

『おうおう、サルの言語げんごしゃべりやがって、ちゃんとお勉強したみたいでえらいでちゅね~』

『……クソムシ、ガ』

『虫はテメェだろうが、おぉん?』

 二人とも、頭は悪そうってのが幸いだ。

『まぁいい、こいつらを片付けたら次は貴様だ』

『ハッ。イヌノヨウニ、ヨク、ホエル』

『うっせぇぞ虫野郎っ! 覚悟しとけっ!』

 一流ではあっても、こうやってしゃべりながらなら操縦そうじゅうにぶる。それが一瞬いっしゅんにすら満たないわずかな差であっても、かなり逃げやすくなる。

『兎に角だっ! クソガキ、テメェは殺すっ! ただの末端まったんなのか全員がテメェなのかは知らねぇが、おれたちの戦争を邪魔じゃましたむくいは受けてもらうぞっ!』

『へぇ、分かるんだ』

『ちっ。……動きのくせが、全部同じなんだよ。何をどうやってんのかは知らねぇが、もう覚えた』

『ドウジョウハ、シヨウ。ツクラレタモノ、ヨ』

『ふっ。……あははっ! 貴方達、いいわね』

『狂ったか?』

『……ドウジョウハ、シヨウ』

『いやいや、いたって正常よ。ま、私の状態が正常かどうかは知らないけど』

 苦笑しつつそう答え。交戦宙域こうせんちゅういきを確認する。

 私の忠告ちゅうこく通り、いくつかの救命機きゅうめいきが戦場を離れてゆく。

 私の言葉を聞かなかった人も混じっているけど、まあ良いだろう。

 状況は整った(・・・・・・)

『私は意識だけの存在。分かりやすく言えばデータのかたまりね。実際どうかは知らないけど』

『クルッタ』

『狂ったな』

『失礼な』

 パチンと指を鳴らしてみせると、二機の動きが一気ににぶくなった。

『ムッ』

『何しやがった……』

 白い機体はわずかに動きが悪くなっただけだが、黒い方は他の戦闘機程度にまで機動力が落ちている。

 まぁ、それでもまともに動かせるだけすごいんだけど。

『プログラムに干渉かんしょうしたのよ。もう終わったから』

『マダ、タタカエル』

くさってんじゃねぇぞガキがぁっ!』

 白い機体が距離をめ、黒い機体が全砲門ぜんほうもんを開き一斉射いっせいしゃ

 だが、当たらない。

 白い機体の射撃しゃげきですら簡単に回避かいひできるようになったのだ。黒い機体のプログラムだよりな射撃しゃげきが当たるはずも無い。

 逆に広範囲に広がって、友軍に被害ひがいが出ているほどだ。

『何を勘違かんちがいしているのかは知らないけど、終わったのは選別せんべつ。貴方達の終わりは、これからよ?』

『くそ;つ、くそっ!』

『ナニヲ、イッテイル?』

『見た方が早い』

 パンと柏手かしわでを打った瞬間しゅんかん、宇宙に大量のほたるが舞った。

 交戦宙域こうせんちゅういきにいる全ての敵機体を爆発させたのだ。それには戦艦系せんかんけいふくまれる。

 一際ひときわ大きな爆発はそれだ。大型のエンジンを積んでいるがゆえに、オーバーロードさせた際の爆発は見事なものだ。

 ただ、やっぱり映像をつないでいる二機は無事。

 見た事も無い新型なだけあって、その辺りの対策もしっかりしている。

 まぁ、背景は赤く染まってアラートが鳴り響いてはいるけど。

『断り切れずに参加しちゃった人とかは巻き込みたくなかったから、ずっと調べてたのよね』

 私の指示を聞かずにげなかった人、友達を連れて戦場を離脱しようとした人とかは、一緒に爆発した。

 選んだ者以外は、戦争を望む者、受け入れた者、復讐ふくしゅうまった者等だ。そう言った奴らを片付ける為の決戦なんだから、誰一人としてのががしはしない。

『ちゃんとげれたのは、十人だけかな? ……労力ろうりょくには見合わなかったけど、まぁ私が好きでした事だしね』

『ナニヲ、イッテイル……』

『テメェ、まさか最初から出来たってのに……』

『そー言う事。最後の最後まで戦えたんだから、満足でしょ?』

『やめ――』

 黒い機体の奴は私へと手を伸ばし、白い機体の奴は首をかしげたまま――白い光に包まれた。


「あの方こそ、私の主人です」

 無表情ながらも、ベザルの背筋が更にり、胸を張っていると言うのが分かる。

「いや、駄目だろう」

 そんなまごに対し、ボリがどうにか絞り出した声はそれだった。

 駄目。

 色々言葉を探してみた所で、他の単語が出てこないほどの光景。

 敵が、全て、爆発した。

 その光は、今なお宙域ちゅういききらめかせている。

「駄目、だな……」

「何が、駄目、なのですか?」

「う、うむ」

 ベザルの疑問に、ボリは祖父そふとして言葉をにごし、王へと視線を向けた。

 『分かるだろう?』と視線でいかけたものの、王はモニターに向かってひざまづく末の息子を一瞥いちべつすると、首を振った。

 言葉にしにくい。

 それはボリも同じ意見だ。

 『息子よりまごの方が可愛いに決まってるだろうっ!』と怒鳴りたいのをこらえ、ボリはため息をきつつ言葉を選ぶ。

 孫には、次期大統領の地位をゆずるのだ。

 怒らせたくは無いし嫌われたくも無いが、アレの危険性は理解して貰わねばこまる。

「その、あの方は……そう、偉大すぎるのだ」

「お爺様じいさまも、分かりますか。そう、姫様は、すごいのです」

 淡々(たんたん)とした口調ながらも、ベザルの複眼ふくがんかがやいていた。

 そんな孫の視線を受けて、ボリが言葉を続けられるはずも無かった。

 あれは、危険だ。

 現存する兵器の中で、最も危険な存在と言っても過言では無いだろう。

 機械への干渉かんしょう

パイロットとしても一流ではあったが、恐ろしいのはそこだ。

 この世界に機械が存在する限り、アレは倒せない。もしアレに対抗たいこうしようとするのならば、機械やエネルギーにたよらない文明にまで戻る必要がある。

 不可能だ。

 対抗手段たいこうしゅだんが無い現世げんせにおいて、アレは一種の神。孫達まごたちあがめるにる存在とはいえる。

 だが、政治家として文明を、経済を知るボリからしてみれば、まさに悪夢のような存在だ。

 何せ、個人で全てを破壊しうる。

 対抗たいこうしようが無い存在。

 それが無干渉むかんしょうならば、神でんだだろう。だが干渉かんしょう出来るからこそ悪魔であり、対抗たいこうするすべが無いから悪夢なのだ。

「大統領。……いえ、ボリ殿。そう難しい顔をせずに」

星王せいおう。あぁ、いや。ルブド……さん」

「本日は、めでたき日です。えぇ、それでかったと、しておこう」

 そうは言いながらも、ルブドの表情もまた引きつった笑顔だった。

 現存げんぞんする神ほど厄介やっかいな存在はない。

 その意識が共通できただけでも幾分か気分が楽になり、ボリは一つ息をくと頰をゆるめた。

「そうですな。本日は、き日です」


 決闘は、結果だけが残った。

 のち同盟決戦どうめいけっせんと呼ばれる事になるその戦闘の真実を知るものは少ない。

 真実として残るはずの中継が途切れ、映像が戻った時には全てが終わっていたのだ。

 少数が、多数を殲滅せんめつした。

 残った事実はそれだけ。

 一斉いっせいに、全ての機体が、かんが、爆発した。

 生き延びた者は、そう証言する。

 だが、生き延びた者は、逃げた者。もしくは自分達の都合で現実すらねじ曲げるメディア。

 そんな者の証言を信じる者はおらず、だが都合つごうい証言だけがうわさとして流れ始める。

 女神の忠告を受けた。

 その証言がいつしか神の逆鱗げきりんに触れたのだと言う話へと変わり、戦争はむべきモノだと再認識されるまでにさほどの時間はかからなかった。

 そんな噂の裏で女神教が暗躍あんやくし、更に勢力を広めてゆくのだが……それは別の話である。



忠告は頂いたのですが、生身の声は「」、機械を通す等の生身以外を『』で表現してますので、どうしてもこんな感じになってしまいます。他の括弧を使うと、逆に分かりにくくなりそうで。

読みにくかったら申し訳ありません。

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