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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファン創作

ファン作品 箱庭の幻想英雄譚 ~燃え尽きぬ憧憬~

作者: 古口 宗

 魔法。神が人間に遺した、大いなる遺産。その真髄を求める少年が、とある場所にたどり着いた。


「ここが...クリスタリオ学園!」


 グラシアイス王国の中央、王城の側に居を構えた立派な建物。かつては研究機関であったそれは、国境を問わず老若男女が集まった結果、学園という形で今も人を受け入れている。

 五つの土地に分かれ、人類が発展してきた歴史。その中でも切り離す事の出来ない魔法について、最も詳しく学べるであろうここは、内部での政治的争いの一切を禁じている。それほどの力があるのだ。


「しっかし、ここはやっぱり寒いな...帝国とは大違いだ。」


 すぐ隣に面した暑いとさえ言える祖国を思い、厚着を怠った自分を呪う。

 神獣と呼ばれる、生命体かも怪しい超常の存在。その影響で、まるで箱庭の様に切り取られたこの世界は、不思議な温度の変化さえ見られる。


「ここは...氷竜(ドラフ)だっけ?確か協定を結んだとかで、まだ居座ってんだよな...」


 彼の住むフレアマグナ帝国では、神獣は過去に英雄に打倒され、今はどうなっているのか...一市民の彼に知るよしは無い。


「よぉ、ナーラ。何してんだ?」

「ん?なんだよ、シヴォン。」

「いや、一人でぶつくさ言ってっから...」


 聞かれていたか、と気まずげに顔を背ける彼に、シヴォンと呼ばれた少年は笑いかける。


「気にすんなって!それよりも、今年はヤバいのが集まるよな...」

「ヤバいの?」

「んだよ、知らないのか?」

「正直、魔法意外に興味もないし。」


 肩をすくめる彼に、ニヤつきながら彼は頭を掴んで口に寄せた。

 ボソボソと呟く声がくすぐったく、苛立たしいが。その内容の前には霞む。


「来てんだよ、戮炎(トゥラフラム)が。」

「マルセルク様が!?」


 急に振り向いた為に、互いに額をこれでもかと打ち付けた。蹲って痛みに耐えるシヴォンに、それどころでは無いと掴みかかる。


「マジでか?マジなんだろうな!?」

「おま、離れろ!この狂信徒め!」

「誰が狂信徒だ、誰が。」


 不満気に問い直しながら、手を貸すナーラ。それに呆れながら、シヴォンは自力で立ち上がって呟く。


「他に誰がいんだよ...ったく、あの殺戮兵器の何が良いんだか。」

「まず秀でているのは、あの戦闘力。14歳にして軍に負けない程の個人戦力だ。圧倒的な熱量と迫力の魔法は、もはや神の所業!人間業じゃない!僅かな第二節のシンプルな魔法でさえ、訓練した軍人とは比べるのもおこがましい!

それに顔も良い。まさに人間離れした存在に相応しい、惹き付ける様な美しさがある。汚れに触れたことのないような白い肌と、対照的なまでに深い黒髪。そして赤い瞳は彼の炎を表すようだ!」

「ヤバ...面倒くせぇ。」


 そっと離れ始めるシヴォンに気付かず、ナーラはスラスラとその口を滑らせていく。


「魔道を、神の恩恵の真理を解き明かす道を極めるのに、これ程までに近しい存在がいるか!?他者を見下ろす冷たい眼は、まさに神に近づいた証拠だろう!あれこそ、全人類の目指すべき姿...あれ?シヴォン?」


 シヴォンどころか、周囲の人間が全て引いていたが。彼にはそれは関係無く、聞いてきた(と思っている)奴が逃げた事が腹立たしかった。


「ったく、むしろ何がそんなに嫌いなんだか。」


 フレアマグナ帝国は、内乱状態の真っ只中であり。力を振るう将軍の息子が、好かれないのは必然に近いのだが。粛清と抑圧の皇帝派は、恐怖の対象なのだ。

 とはいえ、それは今回は関係ないが。この学園に来るのは、政治よりも魔道な人間。単純にイッた目で朗々と語るナーラが怖いだけである。


「...あー、そういや開会式ってどこでやるっけ?」




 ナーラが遅れつつも入った時には、既に全員が揃っているようだった。コソリとそこに混じり、ホッと溜め息をつく。

 華美な額縁に入れられた様々な絵画の掛かる壁。複雑な彫り込みのある瑠璃色の鉱石が飾る高い天井と、それを支える流麗な装飾の柱。そんな広間にて、人々が集まっていた。


「新入生諸君、入学おめでとう。」


 よく響く声で、校長である老人が挨拶を投げ掛ける。遂にここまで来たのかと、感慨深い物が込み上げてくる。


「突然で申し訳ない。だが――ちょうど昨年、この王国で何が起こったか知らぬ者はいないだろう。王国は今、未曾有の危機に晒さらされている」


 重々しい雰囲気へと転じた空気に、ついナーラも緊張を感じる。静けさが支配した場において、老人の声は重くのしかかった。


()()()()()()()()()。昨年、竜族との交渉に赴いた使節団の大使、ミーシャ・アルブレヒトだ。この事実が意味するところが判るか?王国は、じきに本格的に竜族を討伐しにかかるだろう。そして、もしそれが失敗すれば――この王国に未来はない。」


 容赦の無い言葉に、学童が息を飲む。その雰囲気の中で、校長の説明は続く。

 曰く、王国の領土そのものが、人類の生存圏として危機であること。

 曰く、特例的に学園が一つの国に対し、直接的に援助を行う事。

 曰く、十分な戦力と覚悟を持つ者で、志願すれば兵として王国に助力する事。


(って事は。竜を討伐する流れ...なのかな?)

「こんな状況ではあるが、君たちが学園生活を楽しめるよう、最大限の努力をするつもりだ。」


 流石の事の大きさに、魔法でも無い事に考えを巡らしていたナーラの耳に、校長の激励が届くか否か。そんなタイミングで、突如として空気が震える。


「――――――――――グォォォォォォオオオオッッッ!!」


 原初の記憶から怯えさせる様な、生物の根幹の恐怖を呼び覚ます咆哮。あっという間に阿鼻叫喚の様を実現したそれは、今しがたの話も手伝って嫌な想像を掻き立てる。

 泣き出す生徒、走り出しぶつかる人々。その中で、教師達の動きは早い。彼等も恐怖はあるだろうに、それを感じさせぬ声音で指示が響く。


「生徒諸君は、ここで待機!! 教員、戦闘員は全員集合、外で応戦!! 他は生徒の護衛に徹しろ!!」

「グォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 再びの咆哮。あまりの出来事に、その混乱は未だに終息を見せない。


「...お姉ちゃん!! これ...!!」

「竜...でも、なぜ...?」


 誰かの声が耳に入り、そちらを向くが誰かは分からない。しかし、明らかな確信を持った声。


「竜...やっぱりかよ?」

「ナーラぁ~、ヤベぇよ~!」

「うわ、くっつくな!お前なら一人でどっかしら行けんだろ、第1クラスさんよ。」

「お前さんもだろ~、なんかヤバいんだって!なんつーか...空気?がひりついてんだよ。」

「ひりつく?どっちかって言うと凍てつく...」


 そこまで疑問を挟んだ瞬間、魔力の大きな流れを感じる。外からだ。


「先生たちかな?」

「見に行ってみるか?」

「お前、危機感壊れてんじゃねぇの~。」

「泣き言を言うなよ。それで死んだらそれまでだった、ってだけだろ?」


 しり込みするシヴォンをおいて、ナーラは騒ぎの見える場所まで近づく。

 左翼を中心にボロボロだが、今にも魔法を放たんとする竜。魔力を感知すれば、どうやら二人の生徒が中心であることに驚きを隠せない。そして、その魔法が発動される直前だった。


「【火よ、焦熱を纏いて炎矢となれ】。」

「ギイ――――――――――――――――」


 教員でも戦闘員の生徒でもない少年の声が、ナーラの心を振るわせるその声が、呪文を発して魔法を紡ぐ。

 巨大な炎が地上から燃え上がり、その全てが一本の矢を形作る。天をも焦がさんと空に駆けるそれは、埒外の威力を秘めた紅蓮の矢。

 狙い過たず目玉を射抜き、眼球から広がった炎は全身を焼き尽くさんと這い回る。炎に蝕まれた竜は、断末魔の叫びを上げてゆっくりと落ちていった。


「ありゃ...戮炎(トゥラフラム)か。」

「...」

「ナーラ?流石のお前も、恐怖を覚え」

「素晴らしい!最っ高だ!マルセルク様の魔法を、この目で!肌で!感じられるなんて!見たかよ今の!空でさえ落とすんじゃ無いかって魔法をよ!!」

「...お、おう。いつも通りで何より。」


 あの神獣を!いとも易く!興奮を抑えずに叫び続けるナーラを抑え、シヴォンは複雑な目を向けている。


「どうした?なんか気になる事でも?」

「いや...ガキだな、と。あの竜。」

「ん...ま、しょうがないだろう。子供一人で出歩けば、こうなることもある。」

「どうにかなんなかったのかね...」

「どのみち、誰が来ても同じだよ。この国は今、竜を殺す為に動いてんだろ?」


 同意しながらも不満げなシヴォンに、ナーラは呆れを含む。まるで清く正しい騎士様が見え隠れする、数少ない友人に彼は同情を寄せた。


「お前の良いとこだけどさ、生きづらいぞぉそれ。」

「知ってるよ。取り敢えず、次に備えて強くなっとくかね。」

「次?」

「また竜が来たら、次はビビんないように。まずは、そうだな。ベイリュードの息子に勝つ。」

「そういや、魔法も使えないのに第1クラスの...脳筋そうだな、苦手だ。」


 勝手な憶測をすると、ナーラは早々に引き上げる。この後は寮で待機だった筈。地図を見ながら行けばなんとかなるだろう。


(さて、どうなるかな...取り敢えず最初の一年は、しっかりと見させて貰おう。世界のトップを担うかもしれない、魔法の使い手達を...)


 最後に勝つのは、自分でありたい。そう願いながら、彼はこれからの生活に思いを馳せた。



「って、シヴォンかよ...相部屋。」

「愛しのマルセルク様が良かったか?」

「いや、見飽きただけ。」

「酷くね?」

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