絶体絶命で幕末志士を召喚したら生き延びられた件
魔王バルは魔法陣の真ん中に現れた男をみて天を仰いだ。その男は白い奇妙な服で膝立ちをしており、頭を垂れて何やら呟いている。
「某に名誉の切腹を……」
武芸に長けていないバルは、勇者に対抗する為に召喚の禁呪を使ったのだが、出てきたのは奇妙な髪型をした人族である。しかし、召喚を無駄にするわけにはいかず、バルは口を開いた。
「そなたの望みを叶えてやろう」
バルの声を聞いた男は顔を上げ周りを見渡した。
「ここは地獄の沙汰か……切腹の名誉を賜われると。閻魔殿……刀を頂きたく」
「まずは名乗れ。そして、刀とは何か?」
バルは男を味方にする必要があったので、男の望みを叶えることを考えた。
「某は伊藤団十郎と申す。刀とは武具でござる。出来れば大小頂きたく」
バルは少し考え、大小2つの剣を投げ渡した。
「それは握ると好きな形に変わる。そなたの望みは叶うはずだ。それでは余の……」
団十郎はバルが話を続ける前に這いつくばって剣を手に取る。すると剣は片刃の細長い形状に変化する。
「なんと奇怪な……だが、有難き幸せ。これで切腹が……」
その時、部屋の扉が開き二人の男が入ってきた。
「やっと、追い詰めたぞ魔王! お前を殺して終わりだ!」
そして金髪の男が輝く剣を手に構えた。
「勇者ロキよ、余は争いを好まん」
「怖気づいたか魔王! 俺と戦え!」
その時、団十郎がバルとロキの間に立ちはだかる。
「閻魔殿、この異人と死合をすれば良かろうか? 恩義を返していない事に気付き申した」
そう言うと団十郎は頭を低くし腰脇に刀を構えた。
「魔王に加担する人間も同罪だ! 聖剣の藻屑となれ!」
ロキが聖剣を振り下ろす刹那、団十郎は腰脇から刀を切り上げ、聖剣ごと鎧を砕き、腕もろとも切り飛ばす。
ロキは膝から崩れ落ち、力なく呟いた。
「そんな……こ……殺せ……」
団十郎は剣を収め、代わりに脇差を抜いてロキの背中に回り込んだ。
「その心意気あっぱれ。切腹の手伝いを致す」
そう言うと団十郎は後から脇差を千切れかけのロキの手に持たし、ロキの腹に突き刺す。そしてゆっくりと腹を横一文字に切り裂き、返す刃が心臓に刺さった時にロキは事切れた。
「介錯を致す」
団十郎は脇差をそのままに、刀を抜いて首を垂れているロキの横に立ち一閃。ロキの首はストンと下に落ちた。団十郎がもう一人の男に首を手渡すと、その男は首を持ってそのまま逃げ出した。
バルは団十郎に言った。
「団十郎、余に仕えよ」
「武士として死ねるのなら」