86 森の魔王軍とその主
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
こっちは蜜堕ちして私の専属妖精となったキーリ。
妖精キーリから森のことを全て教えてもらうことになったの。
でもその前に、私が毒の妖精に襲われたことをキーリに説明します。
最初は驚いていたけど、しばらくするとバケツの蜜を飲みながら私たちに森のことを教えてくれました。
「その毒の妖精の名前はオーインに間違いないね。あいつは闇の妖精なんだよ」
「なに、それ?」
「魔王軍に寝返った妖精のこと。逆にあたしたちみたいな善良な妖精は、光の妖精と仲間内では呼んでいるの」
その説明からすると、キーリは魔王軍の妖精ではないということだよね。
妖精も一枚岩ではなかったということかな。
「あいつに除草液を撒かれたってことは、土はそのままだよね。いま洗浄してあげるよ」
キーリが精霊魔法で土の中の毒素を抜いてくれました。
毒の精霊ほどではないけど、どうやら似たようなことができるみたい。
私はキーリに感謝を述べたあと、気になっていたことを質問します。
「ドライアド様も、魔王軍の、一員?」
「そんなわけないじゃん! むしろ逆だって。ドライアド様は森の精霊としてこの森と塔の街を守っているんだから」
「本当に?」
「本当だよ。こないだだって森を大火事が襲ったんだけど、ドライアド様の大規模精霊魔法で結界を張って、炎から森を守ったんだから!」
もしかしてそれ、私と魔女っこがこのドリュアデスの森に来るときに空から見た境界線のことかな。
線を引いたように森が火事から守られているような場所を目撃したよね。
ということはドライアド様が炎龍様の起こしたあの大火事から、この森を守ったんだ。
「大火事のせいでドライアド様は力をほとんど失ってしまったんだよ。だから力を取り戻すまで、アルラウネに森の用心棒を頼んだわけ」
「魔王軍から、森を、守るため?」
「そういうこと。あとは魔王軍からあたしも守って貰おうって理由もあったけど」
それはまるで、キーリが魔王軍から狙われているような言い方だね。
「実はね、あたしは聖域に入る鍵になっているの。あの聖域に入るためには、あたしと一緒でないと通れないわけ」
「他の妖精も、鍵になって、いるの?」
「他のやつらじゃダメだよ。あたし、これでも特別な妖精なのさ」
どうやら妖精キーリがドライアド様の元へいく鍵になっているみたい。
でも、なんでそこまで聖域に入るのが厳重なんだろう。
「そりゃ、あそこには勇者の兜があるからね。勇者が持つ聖剣と同じで、女神様が創造したといわれる光の聖遺物の一つだから」
私は婚約者の勇者さまが持っていた聖剣を思い出します。
全てを断ち切るといわれている光の加護を受けた聖剣と同じように、神々に祝福された兜なら利用価値はいくらでもあるかも。
「ドライアド様は勇者の兜を使って、この東の森と塔の街に結界を張っているの。だから魔王軍はドライアド様と兜がある限りは、ここに大群で攻めてくることはできないってわけ」
「毒の妖精は、入れるの?」
「一部の力を持った妖精や魔族なら、短時間だけだけど結界内に入れるみたい。だから魔王軍はいつもドライアド様と勇者の兜を狙っているんだよ」
ということは、毒の妖精が探していたのは妖精キーリだったってことか。
キーリを捕まえて、聖域に入って勇者の兜を奪うのが目的。
でも、なんで毒の妖精はキーリがここにいることを知っていたのかな。
誰かから聞いたみたいなこと言っていたけど。
「特にあたしは西の森では狙われているの。あっちは魔王軍に支配されているから」
そういえば西の森で妖精キーリはカエルに食べられていた。
あれはただ捕食されていたのではなく、妖精さんを聖域の鍵として捕まえたということなのかも。
となると、あのカエルモンスターも魔王軍の一員だったんだね。
「西の森にいるモンスターはみんな魔王軍の手下なのさ。東の森に移動しているときに襲って来た大鷲のモンスターなんて、その中でも一番ヤバイやつだね」
大鷲型モンスターのベギーアデアドラーのことだね。
この森に初めて来たとき、あの大鷲は私たちを見張っているような感じだった。
魔王軍の大鷲だったのなら、あの時は私たちというよりは下の道にいた聖女見習いの馬車を監視していたのかもしれない。
塔の街に新しい聖女見習いが入ったということを、魔王軍に報告していたのかも。
「妖精、まだ肝心なことを話していないでしょ」
魔女っこが妖精キーリに疑惑の視線を向けます。
「50年前に勇者を殺したくらいだから、ドライアドも魔王軍の仲間なんじゃないの?」
そうだった、ドライアド様には勇者の墓の件があるからね。
それに毒の妖精はドライアド様に命令されていたと話していた。
ということは、ドライアド様はこの森を裏切って魔王軍に寝返ったんじゃないかな?
「たしかにドライアド様が勇者を殺したのだけど、あなたたちが知っているドライアド様ではないんだから」
それはもしかして、勇者を殺したドライアド様は別にいるということかな。
ということは、森の精霊は一人じゃない……?
「なんでこのドリュアデスの森が東と西に分かれているか。それは二人のドライアド様によって東西に分かれて森が支配されているからなの」
やっぱりドライアド様は二人いた。
私に森の用心棒をするよう頼んだのは、東のドライアド様。
そういえばドライアド様が私に用心棒を頼むとき、「東の森に外敵が迫ったとき」と、話していた。
つまり、西の森は最初からドライアド様の勢力圏外だったというわけだったんだね。
西の森を支配しているのは、毒の妖精の主人であるもう一人のドライアド。
そちらが魔王軍の一派であり、外敵だったというわけなのだ。
いや、これもっと早く教えてよ。
森の用心棒になるときにもう少し話して欲しかったのですけど。
「みーつけた!」
聞き覚えのある、かんに障る声が耳に入ってきます。
いつの間にか、褐色肌の小さな妖精が現れていました。
私に除草液を撒いたあの毒の妖精で間違いない。
茨の棘のせいで体に傷口が出来ていて、左の羽もなくなっているけど、やっぱりまだ生きていたんだね。
どういうわけか、右の羽一枚で空を飛んでいる。
フラフラとしているから飛ぶので精一杯みたいだけど、妖精は随分と器用なことができるみたい。
毒の妖精を目にしたキーリが、声を上げました。
「オーイン! あんた、まだ魔王軍にいるつもりなの?」
「キーリにあたしの気持ちのなにがわかるっていうのさ。あたしはご主人様に忠実な妖精ってだけだしー」
妖精キーリと毒の妖精オーインが口喧嘩を始めました。
どうやら二人は因縁ある関係だったみたいだね。
雰囲気からして、今は決別しているけど昔は仲良かったのかも。
「そこのアルラウネっ! よくもあたいの羽を剥いでくれちゃったね!」
「除草液を、撒いた、妖精が、悪い」
「うるさいうるさい! あんたのことは絶対に許さない。枯らして殺してくださいってあたしにお願いしてくるくらいに、痛めつけてあげるんだから!」
毒の妖精が精霊魔法を発動させて、紫色の液体を宙に作り出します。
そして、その液体を花火のように空へと打ち上げました。
「もう遅いんだから。キーリとアルラウネ、ついでにそこの人間には死んでもらうよー!」
いきなり大きな突風が吹き荒れました。
竜巻のように風の渦が、私たちを襲います。
突如、大きな影が森を包み込みました。
おそるおそる、空を見上げて見る。
すると、上空には見覚えのある巨大な大鷲が滞空していました。
毒の妖精が「キャハハハ」と笑い出します。
「さあ、こいつらを殺しなさい、ベギーアデアドラー!」
女子高生時代に目にした旅客機のような大きさの怪鳥が、私たちに襲い掛かってきました。
どうやら援軍を呼んできたみたいだね。
除草液を克服したいま、正直言って毒の妖精よりもこっちの大鷲のほうが厄介です。
実力的にクマパパに匹敵するか、それ以上の相手。
空を飛んでいる分、クマパパよりも厄介かも。
幼女アルラウネでは荷が重すぎるよ。
でも、ここで引き下がるわけにはいきません。
だって私は森の用心棒。
これまでだって数々の強大なモンスターを倒してきた。
だから、今度もやれるはずだよね。
さて、森の用心棒としての初仕事の開始です。
私の力を、この森の皆さんに見せつけてあげましょう。
お読みいただきありがとうございます。
次回、怪鳥ベギーアデアドラーVS植物モンスター幼女です。







