85 蜜風呂でおもてなし
お昼寝から目が覚めました。
残念ながら、夢は見ることはできなかったみたい。
でもなんだろうこれ、体が温かい。
まるで誰かに優しく包まれているみたいだね。
蕾を開いてみます。
すると、魔女っこが私に抱き着いていました。
もう街への買い物から帰って来たんだね。
「あ、咲いた! アルラウネ大丈夫!?」
「平気、だよ」
「街に行っている間に、また枯れちゃったんじゃないかと思って……」
魔女っ子が私をぎゅっと強く抱きしめます。
どうやら魔女っこは昼間から蕾を閉じている私を見て、不安に思ったみたい。
たしかに昼間なのに花を咲かせていないのは珍しかったかも。
心配してくれた魔女っこの気持ちが嬉しいね。
「はい、これお土産の肥料だよ」
「ありが、とう」
ビックリです。
無一文に近いはずだった魔女っこが、肥料を買ってこられるなんて想像できなかったよ。
どうやら蜜を買ってくれる常連の女の人と会ったみたいで、肥料を買うお金を出してもらったみたい。
やっぱりその女の人、良い人すぎるでしょう。
蜜の常連客になっているし、その人は私たちにとっての聖女だよ。
肥料を撒いてもらったら、水やりもしてもらいました。
肥料最高!
お水おいしい!
さて、元気になったことで頭も働くようになりました。
まさか妖精に襲われるなんて思いもしなかったね。
自分は魔王軍の一員だと、あの毒の妖精は話していた。
同時に、ドライアド様の命令で動いているとも。
この二つの事実を組み合わせると、ドライアド様も魔王軍の一員ということじゃないかな。
でも、このことはあくまで推測。
詳しいことは妖精キーリに訊いてみましょう。
キーリは蜜欲しさにドライアド様から私に乗り換えたくらいだし、質問すれば正直に話してくれるかもしれない。
でも、毒の妖精が魔王軍だったのだし、同じ妖精であるキーリも魔王軍の一員だったら困るね。
そもそもの話だけど、毒の妖精が探していたのはいったい誰だったのか。
結局わからないままだったね。
「ねえアルラウネ。さっき街で変な話を聞いたの」
魔女っこが真剣な顔つきで話し始めました。
どうやら常連客の女の人から、森の精霊と勇者の話を聞いたみたい。
「あのドライアドはね、50年前に当時の勇者を殺したらしいの」
「それ、本当?」
「うん、塔の街では有名な話みたい」
森の精霊であるドライアド様が、50年前の勇者を殺した。
だからあの聖域に勇者の墓があったんだ。
自分で勇者を殺めたから、私が墓について質問したときに答えにくくて口を閉ざした。
辻褄はあっているね。
なんで森の精霊ともあろう方が、勇者を亡き者にしたのかはわからないけど。
でも、この話はさきほどの推測の裏づけになる。
勇者の敵であったのなら、ドライアド様もきっと魔王軍の一員。
魔王軍なら勇者を殺す理由はいくらでもあるよ。
それでもちょっと不思議だね。
ドライアド様は私と魔女っこを助けてくれた。
そのうえ、私を森の用心棒にしたんだよね。
もしもドライアド様が本当に魔王軍の一員なら、私に用心棒なんて頼まなくても強い味方がたくさんいるはずなのに。
それに今さら私たちを裏切るのもおかしい気がする。
魔女っこが倒れていた数日前に襲った方が、効率が良かったと思うの。
そう考えると、ドライアド様が悪い人には思えないんだよね。
「ヤッホー! あれ、二人して真剣そうになに話しているの?」
のんきそうな雰囲気の妖精キーリが現れました。
ちょうど良いところに情報源がやって来たね。
妖精さん、ちょっと失礼いたしますよ。
「え、ちょっとアルラウネ、いきなりなにするの!?」
私は蔓で妖精さんを捕獲しました。
脅すように、少しだけ蔓を締めつけます。
「正直に、答えて」
「な、なにを……?」
「この森の、全てを」
ドライアド様のこと、他の妖精のこと、そして50年前の勇者の墓について、教えるよう妖精キーリにお願いをします。
「いくらなんでも全部は教えられないよ。この森に無関係なあんたたち伝えて良い範疇を越えているからね」
「ドライアド様、から、私に、乗り換え、たんでしょ?」
「それでもあたしは森を守る妖精だから。守秘義務は守らないと」
簡単には口を割ってはくれないみたい。
なら仕方ないね。
できれば使いたくなかったけど、あの手を実行するしかないか。
私はあらかじめ背後に隠していたバケツを取り出しました。
バケツいっぱいに蜜がたっぷり詰まっているの。
肥料とお水によって栄養を補充した私が作ったばかりの、新鮮な蜜です。
「み、蜜がこんなに……っ!」
妖精キーリがよだれを垂らし出している。
蜜に反応しているみたいだね。
私は有無を言わさずに、妖精さんをバケツの蜜の中に沈めました。
「蜜しゅごいよー! 蜜風呂だよぉおおお!!」
蜜漬けを経験している妖精さんは、蜜に溺れながら大興奮しているみたい。
数秒待ってから、ゆっくりと妖精さんを蔓で引き上げます。
「あ…………」
妖精さんを蜜から脱出させてあげると、寂しそうに声を上げました。
どうやら蜜の中に戻りたいみたい。
もう一度、妖精さんを蜜の中に落とします。
大はしゃぎする妖精さんを観察してから、また蔓で引っ張り上げました。
「あ………………」
あからさまに悲しい表情になる妖精さん。
どうやら蜜のことがご執心みたい。
「森のことを、話して、くれたら、もう一度、蜜に沈めて、あげる」
「こ、こんなことであたしが屈するなんて思ったら、大間違いだからね!」
「ついでに、この蜜、全部あげる」
「はいっ! あたしが知っていることならなんでも話しますアルラウネさま!」
妖精キーリ、まさかここまで簡単に蜜に堕ちてしまうとは……。
バケツの中の蜜に飛び込む妖精さんを見ながら、鳥肌が立つような思いをします。
「ドライアド様ごめんなさい。だってこの蜜、凄いんだもん!」
「キーリは、私の、味方、だよね?」
「あたし、今度こそ身も心もアルラウネの妖精になることにしたよっ!」
妖精さんは蜜を飲みながら、再び私の妖精になってくれると約束してくれました。
でも、想像以上の効果で驚いてしまうの。
ねえ、私の蜜ってなんなのかな?
妖精さんを豹変させてしまうほど甘くて美味しいなんて、いったいどんな味なのでしょうか…………。
ともかく、これでキーリは完全に私の妖精になりました。
あとは蜜に溺れる妖精さんから森についての話を教えてもらうだけだね。
「じゃあ、キーリが、知っていること、全部、話して」
「わかった!」
こうして私は、森の真実を知ることになるのです。
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次回、新米聖女見習いのお仕事奮闘記です。







