83 除草液には負けません
毒の妖精に除草液を大量に撒かれてしまいました。
体が枯れてしまって、全身が鉛になってしまったように動かない。
あぁ、苦しいよ。
意識が消えてしまいそう。
視界だってほら、真っ暗だよ。
もしかして、私はもう枯れて死んでしまったのかな。
まさか死因が除草液で枯れた、ということになるなんて思いもしなかったよ。
除草液を撒かれた植物は静かに枯れるのを待つしかない。
そうやって枯れて命を散らして、森の土に返る。
花らしい最後だね。
そもそも、なんでこんなことになっちゃったんだろう。
私は聖女として頑張って働いていたはずなのに…………。
ポトリと、涙が流れました。
けれども透明な水滴ではなく、黄金色の濃厚な蜜が地面には落ちている。
そうだ、私はもう人間ではない。
聖女からアルラウネになったのだった。
だからもう涙を流すことは二度とない。
蜜は流すけど……。
聖女のときにできたことのほとんどがアルラウネになってできなくなった。
涙を流すことも、歩くことも、匂いを嗅ぐことも二度と出来ない。
前からできることといえば、腕が動かせることと、両目が見えること、あとは光回復魔法を使うと体が成長することくらいかな。
──うん、光回復魔法?
アルラウネになって光回復魔法を使うと、植物の体を急成長させることができる。
その要領で、枯れた部分を成長させたらどうなるのでしょうか。
枯れてしまった細胞を成長させて、若葉のように再生することができるかもしれない。
私は元聖女。
聖女時代だと毒系の攻撃は、全て光魔法で無効化できたのだから。
アルラウネ生活が長かったせいで、聖女としての常識を忘れていたようです。
でも、おかげで一筋の光の道が、見えた気がしました。
目が覚めます。
眼前には、毒の妖精が飛んでいました。
どうやら私はまだ死んではいないみたいだね。
生きているんだ。
自分の体を確認すると、いつの間にか葉が茶色になっていました。
花冠も萎びて、いまにも地に落ちてしまいそう。
球根と蔓も、色鮮やかだった緑色が土のように濁った色になってしまった。
ためしに蔓を動かしてみます。
けれども、そこにはもう蔓はありませんでした。
除草液によって蔓は枯れてしまい、動かした部位から砕けるように破片が空を舞っていたのです。
毒の妖精の枯れ薬とやらの効果は絶大でした。
前世に存在していた除草剤に即効性を加えてパワーアップさせたようなもの。
ただの植物ではなくモンスターである私が、ものの数分で枯れかけているのだから。
先ほどの夢の中と同じように、頬を伝って蜜が落ちていきました。
どうやら私は泣いていたみたい。
ポトリと、蜜が花冠に落下します。
すると、不思議なことが起きました。
萎びて色が抜けていた私の花びらなのだけど、蜜が落ちた場所だけ色鮮やかな赤色を取り戻していたの。
まるで蜜によって枯れた状態から回復したみたい。
もしかしたら夢の中で聖女時代のことを考えていたせいか、この蜜には光回復魔法が込められていたのかも。
つまり私の推測とおり、光回復魔法を使えば除草液で枯れた体を回復できるかもしれない。
そうと決まれば、実験です。
日中に光合成をして貯め込んだエネルギーを集中させます。
そうして光魔回復魔法で、体全身を超回復させていく。
「なにこの花……いきなり光りだしたんですけど!」
毒の妖精が慌てながら、距離を取りました。
光回復魔法の効果があったみたいで、私の体の葉緑素は緑を取り戻していきました。
枯れて砕けてしまった蔓が、急成長するかのように再生されていきます。
葉っぱもピカピカの緑色に復元しました。
花冠も潤いが戻って、色鮮やかな赤色となって咲き誇っています。
体に貯め込んでいた太陽光と光回復魔法の力を使えば、私はまだ負けない。
私、完全復活です。
「なんで枯れた状態から元に戻っちゃったの、このアルラウネ……もう意味わかんないんですけど」
毒の妖精が声を上げました。
私は胸を張って応えます。
「残念、でしたね、除草液は、私には、効かない」
「嘘つきなさいよ! さっきは枯れていたじゃない!」
「気のせい」
「効果あるのはわかっているんだから。再生したのなら、また枯らせばいいだし!」
毒の妖精が精霊魔法で除草液を生み出し、私へと液体の塊を飛ばしてきました。
蔓でガードしても、結局は除草液を被ってしまう。
防御は不可能なので、そのまま私は除草液を身に受けました。
「見なさい、植物が除草液で枯れないわけないんだからー。これでアルラウネも枯れて終わ…………え?」
除草液によって、私の体は茶色に枯れていく。
けれども枯れるよりも早く、超回復魔法によって植物の体を急成長させます。
除草液の効力で枯れていったとしても、それ以上の速度で回復させれば問題ない。
私の体は、若葉のように生命力あふれていました。
「な、なんで枯れないのよっ!」
毒の妖精が除草液を次々に飛ばしてきます。
光の帯を纏うほど光のエネルギーを使用して細胞を成長させることができる私には、枯れた箇所を一瞬で再生することなんて簡単なことでした。
「信じられない。不死身なの、このアルラウネは……?」
本当に簡単なことだったね。
除草液はいわば毒。
状態異常が回復できる聖女であった私には、そもそも毒は弱点でもなんでもなかったのだ。
光回復魔法を使用すれば、除草液なんて怖くない。
植物の身体を強制的に急成長させて再生させれば、枯れた部位も復元できるの。
こうやって光回復魔法が使えるのは、日中に太陽光を浴びて光合成をしていたおかげかも。
聖女のときと違って魔力がないのだから、光合成の力で光回復魔法が使えている気がする。
ほら、辺りが明るくなってきた。
もうじき、夜が明けるのだ。
日の光が増えるごとに、私の力がみなぎっていくような気がするよ。
「こんな規格外のアルラウネなんて聞いたことも見たこともないんですけど!」
「そう、ですか。お初に、お目に、かかります」
「植物モンスターに除草液がまったく効かないなんて、こんなことあり得ない!」
「わたくし、元気が、取り柄の、お花なの」
「なんなのこの花! でも、これなら……!」
毒の妖精さんが精霊魔法を使用しました。
突如、周囲の木々が枯れていきます。
代わりに、巨大な除草液が空中に生み出される。
どうやら周りの植物を媒介に、枯れ薬の毒の塊を生成したみたい。
「この高濃度の除草液なら、さすがのあんたでも一瞬で朽ちてしまうよ」
「どう、かな」
「これで終わりよ。くらいなさい!」
闇の妖精が、巨大な除草液の球体を飛ばしてきました。
このサイズだと魔女っこごと被ってしまうね。
除草液は人体にも悪影響が出るだろうから、避難させないと。
蔓で魔女っこを掴んで、背後の大岩へと逃がします。
そうしているうちに、私は高濃度の除草液を浴びてしまいました。
「これでアルラウネも粉々に枯れて──」
「枯れる、って、なにが?」
「え……?」
毒の妖精と相対してから、それなりの時間が経ちました。
そのせいか夜が明けて、完全に日が昇っていたの。
朝になったのだ。
朝焼けの太陽の光が、私に降り注ぎます。
全身の葉緑素が喝采を上げるのがわかりました。
太陽光を浴びて光合成をすることで、成長と再生が加速します。
光回復魔法が私の体の中から溢れていきました。
その結果、毒の妖精の高密度除草液に、私は打ち勝つことができたの。
枯れるよりも早く、再生して簡単に元の状態へと戻ることができた。
光合成おいしい。
「ひいっ! ば、化け物……!」
「待ち、なさい」
ごきげんよう、毒の妖精さん。
逃げるように後ずさるなんて、およしになってくださいませ。
それにしても、よくもわたくしを散々に枯らしてくださましたね。
いまのわたくしは元気そうに見えるけど、身も心も枯れているの。
枯れて再生しての繰り返しで、身体的にかなり辛いです。
だから、許しませんよ。
さあ、攻守交代です。
今度はわたくしの番ですよ。
思う存分、努めさせていただきます。
礼儀がなっていない悪い妖精さんに、令嬢の心得をお教えいたしましょう。
お仕置きのお時間です。
お読みいただきありがとうございます。
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次回、悪い子にはお仕置きですわです。







