79 私の妹分がアマゾネスだった件
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
鳥型モンスターであるメジロさんの群れに、蜜の回し飲みをされそうになっているの。
なぜこんなにも蜜を舐めるモンスターに襲われるのか。
それは、私が蜜を出す花だから。
アルラウネとして生きている限り、私は無数のペロリストに狙われる運命なのです。
悲しい気持ちになりながら、頭上の鳥さんたちを確認しました。
木の枝にはたくさんの鳥型モンスターが止まっている。
この緑色の鳥は、鳥型モンスターのヴァイスアオゲン。
メジロを人間の成人男性くらいに大きくしたような鳥さんだね。
メジロと同じ習性を持つヴァイスアオゲンは、花粉を運ぶポリネーターなのです。
送粉者として、私を受粉させる恐るべき存在ということなの。
どのメジロさんも私をじっと見つめていました。
まるで獲物を狙う狩人のよう。
やっぱり狙いは私みたい。
いったい、いつから鳥に囲まれていたのかな。
子アルラウネに夢中になっていたせいか、まったく気がつかなかったよ。
鳥は自由に空を飛べる。
戦闘時に制空権を支配できる有利さは、先日のトカゲ退治のときに経験することができた。
あの時は、浮遊魔法を使う魔女っこにバケツごと持ってもらって、上空からトカゲさんを一網打尽にしたんだよね。
今回はその時の逆。
地面に生えて動けない植物の花が、空を舞う鳥の群れと戦うのは不利でしかないよ。
万が一、メジロさんが私に取りついたら大変です。
メジロさんは私の口に嘴を突っ込んで、舌を使って私の口内の蜜を吸い出すつもりだからね。
私の視線に気がついたメジロさんたちが、一斉に飛び立ちました。
生粋のペロリストであるメジロさんたちが私に襲いかかってきたのです。
鳥に蜜の回し飲みをされるのはいやー!
毒花粉で周囲を覆います。
けれども30羽にも及ぶ鳥の羽ばたきによって、毒花粉はいとも簡単に飛ばされてしまいました。
しょうがないので毒茨で繭を作って防御体形です。
同時に茨でメジロさんを叩きつけようとしたのだけど、上手い具合に避けられてしまったの。
やっぱり空を飛ばれるのは厄介だね。
しかも一度に30羽も相手をするとなると、防御だけで精一杯。
地面から移動できない植物である私では、どうすることもできないよ。
背後から「チィーチイー」と鳴き声が聞こえてきました。
どうやらメジロさんに後ろを取られたみたい。
高速移動しながら背中へと突進してくるメジロさん。
毒茨で盾を作りたいけど、間に合わない……!
すると、私とメジロさんの間に一本の枯れ木が立ち塞がりました。
私の妹分こと枯れ木のトレントです。
トレントはメジロさんの突進を枝で受け止めて、地面へと叩きつけました。
そのままメジロさんの首の骨を折ります。
そういえばトレントは私に植物を貢いでくれたあとも、ずっとこの場にいたままだったね。
ごめんなさい。
完全に存在を忘れていたよ。
だって立ったままだと枯れ木にしか見えないから、背景に紛れて認識しづらいのだもの。
でも、味方がいるとわかれば安心するね。
さきほどの手慣れた動きからして、トレントはそこそこ強そう。
なら後ろはトレントに任せましたよ。頼りにしているからね、私の妹分。
毒茨をうねうねと漂わせて、メジロさんたちを近づけさせないようにします。
でも、これじゃジリ貧だね。
数で押されてしまえば、ひとたまりもない。
トレントも私も、空を飛ぶ鳥に対しての有効手段は持ち合わせていないわけだし。
せめて遠距離攻撃ができれば……。
──そうだ!
トレントが持ってきた植物の中に、良いものがあった気がする。
私は側に置いたままになっている植物の貢物を蔓で漁ります。
この中で自殺ヤシであるタヒナの次に珍しそうだった植物を、蔓で掴みました。
その植物は、蔓の先端に長楕円形の果実がついている。
私は女子高生時代の植物図鑑でみたことがあるの。
この植物の名前は、テッポウウリといいます。
テッポウウリは漢字で鉄砲瓜と書くように、種を発射する植物です。
英語では「爆発キュウリ」と呼ばれているツル植物でもある。
長楕円形の実の中に、種と汁がパンパンに詰まっていて、穴から種がマシンガンのように飛び出すの。
私はテッポウウリを下の口で捕食しました。
これで私は種を噴射することができるようになった。
テッポウウリのように種を飛ばせば、空を飛ぶ鳥に攻撃当てることができるかもしれないよ!
すぐさま、蔓にテッポウウリの実を生成します。
大砲のように膨らんだテッポウウリの実が、蔓の先端に誕生しました。
品種改良して巨大化させたこのテッポウウリの種なら、きっとメジロさんへの有効的な攻撃になるはず。
種をマシンガンのように発射させます。
スポポポポポンッ!
勢いよく、汁とともに種が連射されていきました。
メジロさんは驚いて反応できなかったみたいで、私の種に直撃したよ。
やったね。ついに私は遠距離攻撃を手に入れたのです!
けれども致命傷にはならなかったみたい。
弱ったようには見えるけど、そのまま羽ばたき続けていました。
このままだと攻撃力が足りない。
弾の改良が必要だよ。
私は種を茨の棘のように鋭利にするよう品種改良します。
ついでにしびれ粉の黄色い花粉と眠り粉の青い花粉もまぜ混んじゃうよ。
麻酔種の完成だね。
気を取り直して、テッポウウリマシンガンを発射します。
連射攻撃を全てかわすことができなかった数匹のメジロさんに、種が突き刺さりました。
麻酔の効果が出たのか、メジロさんは地面へと落下していきます。
飛び出す的を狙って弾を飛ばし、撃墜させるこの感覚。
なんだか前世のゲームセンターにあった射的ゲームをプレイしているようで楽しいねこれ!
調子に乗った私は、テッポウウリマシンガンを増やすことにしました。
四丁拳銃です。
四本の蔓の先にテッポウウリマシンガン生やして、銃口を空中に向けます。
くらいなさいー!
スポポポポポンッ!!
計四丁のテッポウリマシンガンの雨に、メジロさんたちは蹂躙されていきました。
乱射しているおかげで私でも簡単に種を当てることができて、とても良い気分なの!
ボトボトと墜落していくメジロさんたち。
麻酔種のせいで、地面に落ちても思うようには動けないみたい。必死に羽を動かそうと頑張っているね。
そんな朦朧としているメジロさんたちに、妹分であるトレントが襲い掛かります。
颯爽と墜落したメジロさんの元へ駆け出すトレント。
捕まえたメジロさんを地面へと抑え込みます。
そうして猛り狂ったトレントが、鳥の羽を引き千切りました。
私の妹分、まさかの怪力の持ち主だったみたい。
野性味あふれる姿に目を見開いてしまうよ。
しかもそれだけでなく、近くの木を一本丸ごと引き抜きました。
その木を槍のように投擲して、空を飛ぶメジロさんをも撃墜してしまったのです。ちょっと凄すぎるね。
トレントを妹分にするとき、騎士の宣誓のような真似をしました。
本来であれば女騎士と呼ぶところなのでしょうけど、この野蛮な姿から騎士は想像できない。
もう女騎士とか、そういった感じじゃないね。
強くて、猛々しくて、そして野生感が凄い。
こんなに力強い女の子を、私は見たことがないの。
むしろその姿は女狂戦士。
森の戦闘民族の女性というと、アマゾネスを連想するよ。
なるほど、つまりトレントはアマゾネスだったのね。
納得だよ。
でも、どうしましょう。
私の妹分、アマゾネスだったんですけど!
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次回、森の戦闘植物姉妹です。







