書信 出稼ぎ冒険者の仕送り便
冒険者になった元兵士の伍長さん視点です。
俺の名前はフランツ。
前は兵士として伍長をやっていたが、今は塔の街で冒険者をしている。
魔女狩りのために訪れた辺境の村で、変わったアルラウネと遭遇したのが懐かしい。
その後すぐに魔王軍のドラゴンに襲われ、そこから逃げのびた俺は塔の街で冒険者としてやり直すことになってから数日が経過していた。
故郷の家族に仕送りをしないといけないからな。
心機一転で頑張るとしよう!
塔の街での冒険者活動にも慣れ始めたころ。
俺は酒場で気の良いドワーフのじいさんと出会った。
「そうか! 故郷の嫁さんと娘さんのために仕送りか。お前さんも大変だなあ!」
ガハハハと豪快に笑うドワーフ。
ついさっき意気投合して一緒に酒場で飲むことになったのだが、話してみると情報通で面白いじいさんだった。
「お前さん知っておるか? この街の近くの砦が、魔王軍によって落とされたらしいぞ」
近くの砦というのは、こないだの冬に魔王軍に攻略された城塞の街とこの塔の街の間を守る出城のことだろう。
その砦が、魔王軍の四天王を名乗る者に落とされたらしい。
四天王とは穏やかじゃないな。
どうやら次に魔王軍が狙うとしたらこの塔の街らしく、街の住民や兵士は戸惑っているとのことだ。
もしもこないだのドラゴンのようなやつが現れたら勝ち目なんてないだろうから、気持ちはわかるな。
なんでも、砦は大きな鳥の姿をした敵に襲われたとか。
空から狙われたんじゃどうしようもない。
俺も仕事中は頭上にも気をつけよう。
「それでお前さん、明日はどこへ仕事に行くんじゃ?」
「すぐそこの森の探索任務だよ」
冒険者組合から請け負った仕事は、ドリュアデスの森の調査依頼だった。
もしかしたら、この仕事は砦が魔王軍に奪われたことと関係があるかもしれない。
なにせあの森が魔王軍の手に落ちれば、塔の街は魔王軍とご近所さんになる。その時点で、既に街は落ちたといっても過言ではない。
森はそれほど大事な防衛拠点ということだ。
「ならこれも知っておるか? あそこには森の精霊ドライアドが住んでいるんじゃ」
どうやら森には精霊様が住んでいるらしい。
なるほど、それは調査のしがいがありそうだな。
翌日。
俺は一人で森を歩いていた。
故郷では狩人をしていたので、森を進むのはお手の物だ。
モンスターがたくさん生息している森だとは聞いていたが、街に近いこの辺りはそこまで狂暴なものはいないようだな。
特別変わったことはなにも発見できない。
魔王軍が森に迫っているというのは俺の気のせいかと思ったところで、俺はそいつと出会ってしまった。
小川で休憩していると、すぐ後ろで木が倒れる音がしたのだ。
振り返ると、一本の枯れ木が目に入る。
いや、こいつは枯れ木じゃない。
樹木のモンスターである、トレントだ!
そのトレントが、変わった三角形の木を伐根していたのだ。
これはいったいどういうことだ?
トレントは森の番人ともいわれていて、人間やモンスターから森の木々を守っている存在だ。
故郷の森でトレントを見たことがあったが、どのトレントも木を大切に守っていた。
それなのにこの枯れ木のトレントは、その木を自ら壊している。
三角形の変な木を担いだトレントは、森の奥へと消えて行ってしまった。
だが、俺の未知との遭遇はそれだけでは終わらなかった。
小川から少し進んだ森の中で、一人の少女と出会ったのだ。
こんな大きな森の中で、人間とばったりと巡り合うことは珍しい。
フードを深く被っているから顔がよく見えないが、10才前後くらいの小さな女の子のようだ。
なんだかどこかで見たことがあるような気がするな……。
よく観察してみると、少女はバケツを手にしていた。
森になにか採集しに来たのだろうか。
不思議な雰囲気を放つ少女は、強い口調で俺に警告する。
「この先に行くことは許さない」
「……なぜだ?」
「行ったらお前を許さない」
答えになっていないな。
いったいこの先になにがあるというんだ。
こちらのことを無視するように、少女が俺の隣を横切った。
「ちょっと待ってくれ」
奇妙なことに、俺が振り返った時には少女の姿は消えていた。
どこからか鳥の羽ばたく音が聞こえるだけ。
いったいどこに行ってしまったのか。
まるで妖精に化かされたような気分。
そうか、妖精だ!
わかったぞ。今の少女は妖精だったんだ。
ドワーフのじいさんが、森には精霊が住んでいると話していた。
精霊がいるならきっと妖精だっているはず。
ということは、この先に行くことは危ないと妖精が忠告してくれたのだろう。
こういった森のお告げは、素直に聞いておいたほうが良い。
故郷の先輩狩人たちから、森の者からの忠告を背くとろくな目に合わないとよく言われていたからな。
街に帰った俺は、さっそく冒険者組合へと報告をしに行った。
その帰り道、広場で変わった少女を発見する。
「なにこの蜜。おいしすぎでしょう!」
あの娘、さっきから壺に入った蜜を舐め続けているのだ。
歳は15才くらいだろう。
あのくらいの女の子は甘い物が好きなのはわからないでもないが、ちょっと引いてしまうほど蜜を舐め続けている。
しかもこの娘の格好から察するに、教会の者だろう。
たしか聖女見習いの服だったはずだ。
無我夢中で蜜を手づかみで舐める聖女見習い。
口の周りはベトベトだ。
実は俺は、一度だけ聖女様を目にしたとがある。
あれはもう五年も前、俺の故郷の村が魔王軍に襲われた時のことだった。
偶然村を訪れていた聖女様に、村人は助けられたのだ。
戦いで傷を負った者を全て光魔法で癒してくれた。ちなみに俺も魔法で治癒してもらった一人だ。
村の救世主となった聖女様は、今も村の子どもたちの中で憧れの存在となっている。
隣の家の大賢者の孫娘なんて、「将来は聖女になる!」とうるさいくらいだった。
聖女様と会ったのはその一度きりだったからもう顔は覚えていないが、とても神々しいお方だった気がする。
そういえば、聖女様の名前はなんといったっけか。
風の噂で亡くなったと聞いて、ショックを受けたのを覚えているんだがな。
そんな美しい聖女様を連想させる、聖女見習いが広場でやけ蜜食いをしている姿は記憶には残したくない。
うん、見なかったことにしよう。
俺の中での聖女像が壊れてしまいそうだ。
酒場に行くと、昨日のドワーフのじいさんとまた顔を合わしてしまう。
相席させてもらい、酒を酌み交わすことにした。
やはり仕事終わりのアルコールは最高だな。
俺は森で妖精を目撃したことを話した。
おかげで、ドワーフのじいさんに森のどの辺りで妖精を見たのか詳しく質問されるはめになってしまったよ。
「なあじいさん。なんでそんなに妖精のことが気になるんだ?」
「そりゃそうじゃ。お前さん、妖精と会って無事に帰れたのは幸運だったな」
「どういう意味だ?」
「若い者は知らないか。なあに、この塔の街では有名な話じゃよ」
じいさん曰く、妖精の主は森の精霊ドライアドであるらしい。
そのドライアドが、人間にとって危ない存在だというのだ。
「精霊は別に魔王軍というわけではないのだし、そこまで危険だとは思えないが」
俺がそう言うと、愉快そうだったドワーフのじいさんの表情が真剣な顔つきに変わった。
「あの森の精霊はな、50年前に勇者を殺しているのじゃ」
俺はドワーフのじいさんの話に耳を傾けた。
50年前、あの森でドライアドによって勇者が殺されたという話を、俺は知ることとなる。
今回は冒険者視点でした。
元伍長さんは兵士をやめて、冒険者として頑張っているようです。
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次回、大事な家族のため身を売る覚悟で、今日も私は蜜をたくさん搾り出しますです。







