72 花の蜜大好き、グルメなトカゲさん軍団
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
ペロリスト集団である花蜜大好きなトカゲさんたちとの受粉をかけた戦いが始まったところなの。
十数匹もいる緑色のトカゲ型モンスター、クスアイデクセたちが躍るように私へ突撃してきます。
そもそもなんでいきなり、トカゲさんたちが出てきたんだろうね。
もしかして、この辺りは元々トカゲさんたちの縄張りだったのかな。
そこに私と魔女っこが住み着いてしまったから、こうして遭遇した。
あり得そうな話だね。
正直、ペロリストの目つきをしたトカゲさんたちとの相手をするのは怖い。
魔女っこに飛んでもらって、空へ逃げるという選択肢もある。
でもその代わり、あそこでトカゲに噛まれている妖精さんは、きっとそのまま食べられてしまうことでしょう。
お世話にもなったし、さすがに妖精さんを見捨てるという選択は取れないね。
ならば、トカゲさんたちを迎え撃つしかないでしょう。
うん。覚悟を決めたよ。
踊り狂ったトカゲさんたちのお相手をさせていただきましょう。
ごきげんよう。
緑のトカゲさん御一行様ですね。
わたくしの新居への引っ越し記念ダンスパーティーにお越しいただき、ありがとう存じます。
そちらの凛々しい顔つきのトカゲさんは、既にわたくしの友人である妖精さんとペアになって踊っているようですね。
今宵の妖精さんはいつもと一味違います。
なぜなら蜜のドレスに身を包んで、全身を輝かせているのですから。
でもね、トカゲさん。
まだ舞踏会は始まってはいないのです。お手付きは厳禁ですよ。
殿方を誘う甘い香りに我慢できなかったのはわかりますが、とりあえず彼女を離していただきましょうか。
前方のトカゲさんたちへ、ダンスのお誘いをします。
私と踊りたい殿方はたくさんいたようで、毒の茨の手を取ったトカゲさんたちがバタバタと地面へと倒れていきました。
どうやら肌を触れ合うだけで失神してしまうほど、わたくしのことを想ってくれていたようです。
そんなに恥ずかしがってくれるなんて、わたくし嬉しいですの。
とはいえ、この数のトカゲさんから一度に求愛されたら、ひとたまりもありません。
わたくしの腕である茨は何本もあっても、それを処理する頭は一つしかないのですから。
迫り狂うトカゲさんたちを毒茨でなんとかあしらいながら踊っていると、後ろの岩からなにかが落ちる音がしました。
振り返ると、緑のトカゲさんと目が合います。
どうやら背後からもお客様が来場してしまったようですね。
どうしましょう。
わたくしの茨は全て、前方のトカゲさんたちの相手をしているのです。
だから後ろに回り込んできた殿方へと手を差し伸べることはできません。
背後のトカゲさんが全速力でわたくし目掛けて走ってきました。
ハチミツ大好き変態クマさんを彷彿とさせるペロリストのオーラを放っています。
このままでは後ろから襲われて、トカゲさんに舐められてしまう!
わたくしの蜜を奪っていいのは、この世に一人しかおりません。
バケツに植え替えてまでしてお世話をしてくれている、魔女っこだけなのです。
迫るトカゲさんが突撃してくるよりも先に、私の体が宙に浮きました。
「アルラウネ、飛ぶよ」
魔女っこが私を抱えたまま、空に飛び上がった。
空中に浮遊したまま、眼下の様子を伺います。
十数匹のトカゲさんが、呆然とした様子で私たちを見上げていました。
地上でしか踊ることのできないトカゲさんたちには、空中舞踊はついていけなかったようですね。
空でダンスを踊ることができるのは、魔女っこの浮遊魔法、そして私がバケツアルラウネだからこそできる芸当なの。
私は魔女っこに抱きかかえられながら、地上のトカゲさんたちへと茨を向ける。
魚を釣り上げるような感覚で、一匹、また一匹とトカゲさんたちを捕まえていきます。
さあトカゲさん。
第二幕の始まりです。
皆さまに世にも珍しい空中ダンスをご覧にいれましょう。
わたくしと踊ることが嬉しくて天にも昇る気分なのか、トカゲさんたちは茨にぶら下がりながら泡を吐いて歓喜の賞賛を送ってくださります。
上から獲物を見定めるのは簡単で標的を狙いやすかったせいか、地上のトカゲさんたちのほとんどがわたくしと手を繫いでくださりました。
何十本と伸びる茨にぶら下がったままのトカゲさんたちが、ぶらぶらぶらと宙に揺れています。
まるでメリーゴーランドのよう。
わたくしを中心に、白馬となったトカゲさんたちが楽しそうに上下しています。白い泡を吹いてしまうほどはしゃいでいるところを見ると、どうやら目が回っているようですね。
なんだか久しぶりに食虫植物らしいことができて、わたくしも嬉しく存じます。
これが今、流行りの空中ダンスパーティーですの。
トカゲさんたちはお気に召してくださいましたでしょうか。
残るは凛々しい顔つきのトカゲさんただ一匹。
未だに妖精さんを口に咥えているみたいです。
まずは妖精さんを救出するのが先ですね。
モウセンゴケの粘着性のある蔓をトカゲさんの口へと貼り付けます。
トカゲさん、妖精さんとのダンスは楽しんでいただけましたでしょうか。
次はわたくしがお相手いたしますわ。
強制的にトカゲさんの口を開かせます。
そして粘着質の蔓で妖精さんを捕獲。
そのまま妖精さんを一本釣りすることに成功です。
地上には大口を開けたままの凛々しいトカゲさんが、悲しそうに私を見上げていました。
そんな寂しそうな顔をしないでくださいな。
わたくしが他のトカゲさんたち全員とダンスを踊っていることがそんなにも羨ましいのでしょうか。
大丈夫、もう寂しい想いはさせませんよ。
すぐにお仲間のもとへと行かせてあげますから。
あなたもこのメリーゴーランドの一部になるのですよ。
トカゲさんを毒茨で釣り上げます。
目から血の涙を流しながら、トカゲさんはわたくしに喝采を送ってくださりました。
仲間と一緒に踊ることができたことを喜んでくれたみたい。
うんうん、良かったね!
私は十数匹のトカゲモンスターをぶら下げながら、空中ダンスパーティーの終幕を宣言いたします。
魔女っこと一緒に地面へと着地しました。
さてと、踊り疲れたあとはディナーの時間だよね。
いただきます!
パクリ。
もぐもぐ。
うん、久々の大物だよ!
最近は魚とかその辺の動物しか食べていなかったからね。
やっぱりモンスタークラスになると外の動物とは食べ応えが違うよ。
「アルラウネ……ちょっと食べすぎだと思うんだけど…………」
魔女っこが引きつった笑みをしながら、私に声をかけてきました。
たしかにちょっと食べすぎちゃったかもしれないね。
幼女となった私は、以前のように胃袋が大きくありません。
だからこのトカゲさんを一匹丸呑みした時点で、私の球根は膨張してしまったの。
これ以上は球根が裂けちゃいそうだね。
以前の感覚だと、まだ食べ足りないんだけど。
幼女ってこういう時は不便かも。
移動できるから楽しくてつい鉢植え生活を続けちゃっているけど、そろそろ土に根を張る頃合いかもしれない。
とりあえず今回は仕方ないですね。
食事はここまでにしましょうか。
私がトカゲさんに満足していると、今度は魔女っこが食事を始めました。
パンをかじりながら、何か考えているみたい。
あれ、そういえば何かを忘れているような気がするような……。
「トカゲに辱められちゃった……あたし、妖精なのに…………」
そういえば妖精さんを地面に放置したままでした。
私の蜜とモウセンゴケの粘液とトカゲの唾液によって、全身がベトベトの液体まみれになっているみたい。
なんだかあの妖精さん、いつも粘液をかぶっている印象があるよね。
どうしてでしょうか。
妖精さんを放置したままの魔女っこが、パンを頬張りながら喋り始めました。
「食べ物があるのは嬉しいけど、久しぶりに温かいものが食べたいな……」
なんだか魔女っこが寂しそう。
もしかしたら、久しぶりに人の食べ物を食べたことで、両親に作ってもらった料理のことを思い出しているのかもしれないね。
家族と一緒に食べた食事は、きっと温かい料理だったのでしょう。
でも、今この場にあるのは冷めたパンや干し肉のみ。
「せめて火が起こせればいいんだけど、仕方ないよね」
魔女っこが諦めたように呟きます。
火さえあれば、魔女っこに温かい食べ物を提供できる
「大丈夫、私に、任せて」
「どうしたの急に?」
「私が、火を、起こして、みせる」
はい、決めました。
いつも水やりをしてくれている魔女っこのために、今度は私が頑張ります。
温かいものを食べることができれば、きっと魔女っこは喜んでくれるに違いない。
ついでに私のことを尊敬して、お姉さんだと認めてくれるかもしれないし!
私は体が植物だから火は危ないけど、魔女っこのためなら多少のリスクは仕方ないよね。
よーし、こうなったらやるぞー!
魔女っこのために私、火起こしを覚えます!
お読みいただきありがとうございます。
次回、求む、植物が火を起こす方法です。







