8 森立アルラウネ女学院
私、アルラウネ。
植物のモンスター娘。
このたび、私の蜜を提供する代わりに、餌の配給とボディガードをしてもらえることになりました。
ハチに囲われる生活の始まりです。
まさに貢いでもらうアイドル気分。いや、お姫様かな。
たまに私に襲い掛かってくるおいたしちゃう子もいるけど、そのたびに蔓でメッと叩きつけて追い返すのです。悪い子はお仕置きよー。
そういえば働きバチはみんなメスのはずだよね。
ということはこの騎士のように私を守ってくれるハチさんは女騎士ということになる。
ハチサークルは百合の園だった。
女子校かなここは。
アルラウネの私を中心に集まる女騎士たち。
個別に集まるなら名前を決めないとね。
同好会、いやサークル名はそうだね、森百合会とでも名付けましょう。
ごきげんよう。
ねえ、お姉さまはどちらのハチさんですか?
なになに、巣にいらっしゃって女王様と呼ばれているですって?
女王陛下、いつも女騎士を派遣してくださって恐悦至極に存じます。
この機会に是非、わたくしを義理の妹にしていただいて姉妹の契りを結びましょう。女王陛下の加護のもと生きていきたい所存です。
なのでわたくしを姉妹に任命してください。そうなれば陛下のことを敬愛の証にお姉さまとお呼びしますわ。
そういえばフランス語で姉妹のことを「スール」って呼ぶらしいね。オタクだと使うことのない変な知識ばっかり溜まっていくよね。お姉さま、ごきげんよう。
ついさっき、私を受粉させようと突っ込んできて地面に叩き落としたハチがいたけど、あのハチはきっと悪役令嬢ポジションだろうね。先ほどみたいにまた頭の悪いことをすれば私に食べられるというバッドエンドを迎えることになるでしょう。転生できるとは限らないからルートを間違えないよう命は大切にね。
たまにおいたをしちゃう子もいるけど、みんな仲良くしていれば良い子たちなの。
今もほら。
私が昨日退治したこのサル型モンスターのバルバアッフェ。
それがね、今日になってこいつのお仲間が、仇討に来ましたと一族総出でお礼参りにやって来たの。
合計二十匹を超えるサルモンスターの集団。
しかもこいつら、知能があるようでなぜか剣とか槍、中には弓まで持っている個体もいるの。ちょっと物騒すぎやしないだろうか。
さすがに私一人では対処できない。
だってさ、蔓がね、サルにすっぱり斬られちゃったの。
こんなの初めて。
なので私は救難信号を出すことにした。
蔓を超回復させ、天高く伸ばす。
するとどうでしょう。
どこからともなく何かが空を飛ぶ重音が近づいてくるのです。
はい、女騎士の登場です。
私のお友達、ハチ型モンスターのツォルンビーネさんたちがSPのごとく現れたのです。
武器を持ったサル二十匹に対して、サルよりも大きいハチが約百匹。
もう圧勝だったね。
いくら武器を持っていても、ハチの大群が同時に特攻してくれば全てを叩き落とすことは不可能。おサル一家はあえなく壊滅しましたとさ。
気がつくと、どこからか飛んできた白い鳥がサルの亡骸をつついていた。カラスをペンキで真っ白に塗ったような鳥だ。鳥にまで追い打ちをかけられるとはおサル一家も哀れな。
さてと、じゃあそこの白い鳥さんよ、初めて見たしちょっと味見してみようかな。
あー残念、蔓を動かしただけで逃げられちゃった。
でも問題ない。
ここにはたくさんのご馳走が準備されているのだから。
私の女騎士であるハチさんたちも何匹か返り討ちにあって地面に落ちちゃったけど、そんなハチさんは私が慰めてあげるのだ。もちろん、消化液でね!
パクパク。
今夜のディナーは生のおサル一家のと、生のハチです。
ハチさんたちはどうやらお仲間の死体が私の餌食になっても怒らないみたい。蜜のためとはいえ凄い。
ハチさんたちはおサル一家の半数を抱えて、巣へと帰っていった。きっと家族で晩御飯なのだろう。いいなあ、私はいつも一人飯なのに。
一人で静かに食事をしながら、私はこれからのことを考えることにする。
受粉の危機を経験して、私は決意しました。
そう、今後の目標です。
もう危険なことは嫌なの。裏切られるのもまっぴらごめんだし、退治されるのも勘弁。
だから、私は私が過ごしやすいような楽園を作ります。
自然が豊かで私に友好的な植物が多く茂っている大きな森。
私を慕ってくれる動物やモンスターに囲われ、みんな仲良く平和に暮らす。
そうして光合成をしながら静かに植物ライフを過ごすのだ。
今のこの状況はその第一歩。
この調子で森の勢力を広げていって、安全安心な植物生活を手に入れてみせよう。
そうして私が目標を定めた夜。
なんだか変なものを見てしまった気がするのだ。
あれは蕾を閉じてぐっすりと寝ていた時のことだった。
いきなり周りの温度が急上昇した気がしたのだ。
私が人間だったら間違いなく寝汗がべっとりだったね。今はそういった心配とは無縁になったけど。
蕾の中で目を覚ますと、ちょうど頭上を何かが通過していったのを感じたの。
まるで炎上した飛行機が空を飛んでいるように見えた。
光る謎のそれは未確認飛行物体。
宇宙からやってきたという意味ではないほうのUFOだ。
いったい何だったんだ今のはと不思議に思ったけど、今は草木も眠る夜の時間。
お花は寝る時間だよと、蕾を開くことはなくそのまま二度寝を決め込んだのだった。
思えばその日からだったと思う。
雨が全く降らなくなったのは。
私はまだ知らなかった。
いつも欲しいと心の中で呟いているあのお水欲しいという言葉。
植物である私にとってあの感情はとても大切なことだったのだ。
それを文字通り身に染みて体験することになる。
お読みいただきありがとうございます。
明日も一日二話更新をしたいと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
次回、誰か私に雨乞いのやり方を教えてくださいです。







