68 私を見捨てた枯れ木なら別に食べちゃっても問題ないよね
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
こっちは火事のなか私を見捨て、一人で走って逃げた枯れ木のトレント。
突如、まさかの知り合いと再会してしまったの。
茂みから現れたトレントが、鋭いフォームで走りながら私に突撃してきたのだ。
ビックリしすぎた私は、反射的に蔓で体をガードします。
迫力ありすぎてちょっと怖いよ!
けれどもトレントは私に突進して攻撃はしないで、手前でピタリと急停止します。
私のすぐ近くで仁王立ちをして、そのまま相対するような状況になってしまったの。
ぐぬぅ!
トレントめ。
あの時はよくも私を捨ててくれやがりましたね!
火事の時、助けてくださいって言ったのに、そのまま走り去ってしまうなんてすごく悲しかったんだから。
トレントの後ろ姿を眺めながら、泣きたい気持ちになったことを今でも思い出せるよ。
同じ植物のモンスターに見捨てられる私の気持ちが、あなたにわかりますか?
自由に歩けるトレントにはわからないよね。
こうなったら、トレントを食べてあげましょうか。
そうすればトレントの歩行能力を得ることができるから、自力で歩けるようになるんじゃないかな。最高じゃん!
そうと決まればご飯のお時間です。
トレントさん。
久しぶりに会ったから積もる話もあるけど、それは私の胃袋のなかでしてよね。
トレント目掛けて蔓を伸ばします。
すると、トレントの後ろから小さな光の玉が飛び出してきたの。
「お二人さんただいまー」
ひょいと現れたのは、あの妖精さんでした。
なんで妖精さんがトレントと一緒にいるの!?
と驚いた私は、蔓の攻撃を止めてしまいます。
妖精のキーリは、ゆっくりと飛びながら私の頭の上に着地する。
どうやらこの場所が気に入ったみたい。
「思ったよりも早く戻れたよ。元気してたー?」
陽気な挨拶をしてくる妖精キーリ。
たしかに早かったのも驚いたけど、まさかあのトレントと一緒に戻ってくるとは思わなかったね。
妖精さんは倒れたままの魔女っこに目を移すと、「元気そうじゃないね」と呟きます。
そうだよ、妖精さんに魔女っこを助けるために力を貸してもらいたいんだよ!
でも、トレントと一緒にやって来たのはどういうこと?
まさか二人は知り合いだったとかではないと思うけど。
「そうそう、アルラウネ。あのトレントと知り合いなんだって?」
「どうして、知って、いるの?」
「そりゃあたしは植物と会話ができるからね。ここに来る途中でこのトレントと会ったんだけど、なんだかアルラウネを探しているみたいだから連れてきちゃった」
アルラウネを探していた?
なんで一度は私を見捨てたトレントが、アルラウネを探していたのかな。
「このトレント、火事のなかであんたを置き去りにしたんだってね。それ以来、そのことをずっと後悔したらしくて、他のアルラウネに会ったら罪滅ぼしをしようと思っていたみたい」
なんですと……!
まさかあのトレントが私のことを気にしていてくれたなんて、ビックリだね。
私を見捨てながら颯爽と走り去るフォームからは、後悔なんて察することはできなかったよ。
「火事で森を追われたアルラウネの話はあんたたちから聞いたばかりだったからね。だからピーンと来たの。もしかしてあんたたち知り合いなのかなーって」
そうです、大当たりです。
あの時とは違って、今の私は幼女になっちゃったけどね。
「トレントはあんたの姿が小さくなっても、同じアルラウネだとわかったみたいだね」
妖精さんはそう言いながら、私の耳元で小さな声で話します。
「このトレント、相当アルラウネのことが気に入っているみたい。アルラウネのためなら命をかけて何でもするって張り切っているよ」
トレントが私のことを気に入っていてくれていたのはわかるよ。
ずっと私のこと見守っていてくれたみたいだしね。ストーキングされていたともいえるけど。
「トレントは、どう、したいの?」
私の問いかけに、トレントは黙ったままでした。
代わりに応えたのは妖精さんのほう。
「無駄だって、そいつに人の言葉はわからないよ。ついでに喋ることもできないしね」
なるほど!
たしかに森で生まれたトレントが人間の言葉がわかるほうが変だよね。
ということは、あの時に私が助けてと言ったことも、理解していなかったのか。
妖精さんは私の頭の上から飛び立つと、トレントの近くまで移動します。
「あたしが通訳してあげるから安心して」
植物と会話ができる妖精さん。
森の妖精らしくて、便利な能力だね。
「ふむふむ。どうやらこのトレント、アルラウネの子分になりたいらしいよ」
──子分ですって!?
子分って、なに?
舎弟みたいな感じ??
てことは、私は親分ということ!?
「一緒に行動したいとは言わないから、せめてご近所さんとして少しでも力になりたいみたい。それがアルラウネを焔の中に置いて逃げた贖罪になるんだって」
妖精さんの説明が終わると、トレントは私の前まで歩いてきて一礼をします。
まるで私に従順な召使いのよう。
正直、最初はこのトレントを食べるつもりでいました。
私を見捨てて逃げたトレントには慈悲はなかったからね。
けれども、私の「助けて」という言葉は樹木型モンスターには理解できなかったらしい。
それだけでなくあの火事の時のことを反省して、私の子分になりたいと願いでてきてくれた。
ここまで誠意を見せられて下手に出られたら、今更パクリと食べるわけにはいかないね。
さすがに私もそこまで悪人にはなれないよ。
なので、決めました。
トレントを子分にします。
今までボッチ歴が長かったせいか、ちょっと求められただけでも嬉しくなっちゃうの。
それに魔女っこが倒れた今は非常事態。猫の手でも借りたいくらいだから、トレントの力だって借りちゃうよ。
──こほん。
わたくし、今まで親分にはなったことがないのですが、迷える子羊のためなら精一杯努力をするつもりなのです。
人生初の舎弟なので、自分のなかでちょっとした儀式をしてしまいましょう。
騎士の叙任式を行うように、トレントの肩辺りの枝に私の蔓を伸ばして軽く叩きます。
我、汝を子分にすることを許しましょう。
女騎士であるハチさんたちのように、私の騎士に任命するにはまだ信用が足りないからね。舎弟から頑張って昇進していってくださいな。
妖精さんに、トレントを子分にしたことを通訳してもらいます。
「トレントのやつ、喜んでいるよ。それにしてもハグレ魔女の次はトレントかー。あんたは随分と珍しいやつに好かれるみたいだね。なにせこのトレントはメ……」
妖精さんが何かを言おうとすると、トレントが枝をバサバサと振りました。
「わかったよ、内緒にしておくから安心しな」
妖精さん、今なんといったのかな。
トレントの目?
目がどうしたんだろう。
このトレントは、前世の日本で見たハロウィンのカボチャみたいな目をしているの。だからちょっと怖いよね。
妖精さんはトレントと内緒話を終えると、私に声をかけてきます。
「トレントがなにか命令して欲しいって言っているけど、どうする?」
命令といわれてもどうしましょう。
トレントは歩ける。
なら私と魔女っこのために、食料を探してきてもらいましょうか。
ついでに私の能力向上のために、珍しい植物も見つけてきてくださいな。
その旨をトレントに伝えてもらうと、舎弟なりたての枯れ木が颯爽と走り去ろうとしました。
「あ、ちょっと、待って」
私は蔓でトレントを捕獲して、待ったをかけます。
良いこと思いついたよ。
食料を探してきてもらう前に、運び屋として仕事をしてもらいましょう!
私は魔女っこを抱えたまま、トレントに抱っこしてもらうようポーズを取る。
どうにかトレントに意味が通じたみたいで、腕のように伸びてきた枝にバケツごと体を持ってもらうことに成功しました。
あとは進む方向を蔓で示せば、きっとトレントは私をその場所まで連れて行ってくれるはず。
「どこ行くつもりなの?」
妖精さんが私の前まで飛んできます。
「街に行く。そこなら、この子のための、薬や食料が、手に入る」
「アルラウネとトレントが街に行ったりしたら、すぐに焼かれて退治されるのがオチだって」
それはわかっている。
でも、他に方法がないのだから仕方ないよ。
「人間の街に行くくらいなら、もっと良いところへ案内してあげるよ。そこならきっとこの魔女もすぐ元気になる」
「本当?」
もちろんさと言いながら、妖精さんは私の頭の上に乗ってきました。
「トレント、あたしが言う通りの方向へ走りなさい」
妖精さんの言葉を聞いたトレントは、森の奥へと駆けだします。
やっぱりこのトレント、木にしてはかなり足が早いね。
「どこに、向かって、いるの?」
「この森の聖域に行くんだよ」
森の聖域?
この森にそんなものがあったんだね。
「そこで森の主に助力を請えば、その魔女さんはすぐに助かるよ」
森の主というと、まさかクマ型モンスターのラオブベーアだったりして。
もうクマパパの顔しか思い浮かばないのですが。
「いつかアルラウネを紹介してやろうと思っていたからちょうどいいや。きっとあんたたちのことを気に入ってくれるよ」
「森の、主様は、クマ、じゃ、ないよね?」
クマパパみたいなのに気に入れられでもした日には、悪夢の顔ペロペロ地獄が再発してしまうよ。
魔女っこのためとはいえ、それは勘弁してほしいの。
「クマよりももっとおっかなくて、とても美しいお方だよ。なにせ森の精霊様だからね」
良かった、クマパパとは会わずに済むんだね。
というか、ちょっと待って。
森の精霊様ですって?
それはもしかしなくても、ものすごく偉いお方なんじゃ……。
「あたしたちがこれから会うのは、この太古の森が誕生したときから主としてここを統べてきた森の精霊、ドライアド様だよ」
森の精霊、ドライアド。
その名前は私も知っている。
言い伝えや書物の中でしか見たことがない、伝説のような存在だ。
私は口の中に溜まっていた生蜜をゴクリと飲み込みます。
植物型モンスターのアルラウネになってから早一年。
ついに私は、植物界の大物であるドライアドに会うことになってしまったらしいです。
お読みいただきありがとうございます。
本作を読んで「面白かった」「頑張っているな」と思われましたら、ブックマークや★★★★★で応援してくださるととても嬉しいです。その応援が執筆の励みになります。
次回、森の精霊ドライアドです。







