64 みんな粘液まみれ
私、植物モンスター幼女のアルラウネ。
魔女っこと一緒にカエルの舌に掴まって、粘液でベトベトにされている最中なの。
どうやらこのカエルは草食らしい。
口の中に青いお花が見えたからね。
つまり、このままだと私はカエルに食べられてしまうよ!
バケツごとカエルの舌に捕まってしまったので、もうどうしようもない。
とりあえず、このまま口の中へ引っ張られて丸呑みされるのが一番まずいよね。
瞬時に、私は近くの木の幹に蔓を伸ばします。
そして丈夫そうな木を蔓でグルグル巻きにしていく。
これでカエルに引っ張られても大丈夫。
私の蔓とカエルの舌で、綱引き状態になるからね。
やっぱり地面に根を張っていないと、こうやって植木鉢の体ごと移動させられてしまうから困るかも。
ともかく、これですぐにカエルに食べられる心配はなくなったよ。
私はまだら模様のカエルに視線を移す。
やはり私の勘は正しかった。
このカエルは王子様でもなんでもない。ただの野生のカエルモンスター。
世の中、白い鳥さんみたいな王子様はそうはいないのだ。
動物に変身できる存在なんて魔女くらいだろうしね。
数日の間に魔女が何人も現れでもしたらビックリだよ。
そんな魔女である白髪の少女はどうして良いかわからなくて慌てているみたい。
魔女っこが私の蔓に絡まっているこの状況で毒花粉を噴射してしまうと、カエルと一緒に魔女っこも毒を吸ってしまうかもしれない。
しかも魔女っこの戦闘経験は皆無のはず。
これ以上、危険に晒すわけにはいかないね。
ここはお姉さんである私がなんとかしないと!
──そうだ!
さっき魔女っこから貰ったこの世界のモウセンゴケの仲間。
その能力を試してみましょう。
女子高生時代の知識によると、モウセンゴケを一言でいうとトリモチ式の食虫植物なの。
葉に生える腺毛の先端から粘液を出して、虫を絡めとることができる能力を持っている。
私の蔓にこのモウセンゴケの腺毛を生やして、粘着質の粘液を出してみればどうだろう。
新しく作った粘着性のある蔓をカエルの舌に付着させて引っ張れば、カエルの舌から解放されるかもしれない。
そうと決まればと、植物生成を使って蔓に腺毛を生やします。
でもその時、私はすっかり忘れていたの。
今、私は魔女っこと蔓で絡まっているということを。
つまり、魔女っこの体は蔓が巻かれている状態なの。
悲しいことに、私は魔女っこに巻かれている蔓にも腺毛を生やしてしまった。
初めて使う能力だから、上手くコントロールできなかったみたい。
腺毛からはベットリとした粘液が滲み出る。
そのせいで、魔女っこの体にも粘液が付いちゃったの。
「なにこれ、すごくベトベトする……」
魔女っこが粘着質のある蔓をどけようと腕を動かすと、糸を引くように粘液が体に付着した。
そのせいで、蔓と完全に密着してしまっているみたい。
カエルと私の粘液でベットリになっているね。
ぎゃぁあああああ!
魔女っこ、ごめんなさぃいいいい!!
魔女っこの白色の髪の毛と可愛らしい顔が、粘液まみれになってもうめちゃくちゃ。
うぅ、違うの。
別にわざとじゃないの。
そのう、なんというか……非常に申し訳ないです…………。
「今の、なし。失敗、した」
この能力、使えないよー!
完全に私の選択ミスだよー!!
モウセンゴケの腺毛を生やした蔓に、植物生成を上書きします。
すると粘液を出す腺毛は消え、ただの蔓に戻りました。
とはいっても、魔女っこに付着した粘液までは消えなかった。
腕から粘液の細い糸が伸びたままだね。
頭についた粘液もそのままでどうしようもないです。
完全に粘液は取れなかったけど、これで少しは魔女っこが動けるようになったはず。
今の粘液騒動にカエルまで混乱していたのか、舌の締め付けに隙ができている。
逃げるなら今が好機だよ!
「魔女っこ、逃げて!」
「で、でも!」
「今のうちに、蔓と舌から、抜け出して」
「……わかった」
次の瞬間、魔女っこの体が歪み始める。
そうして白い鳥さんへと変身してしまった。
白い鳥さんになった魔女っこは、私の蔓の隙間から空へと羽ばたく。
私の粘液とカエルの舌からも抜け出し、自由になることができたのだ。
人型だったから蔓に絡まっていたわけで、小さな鳥になればすぐに抜け出せるみたいだね。
──ん、ちょっと待って?
もしかして、はじめから鳥に変身していれば、蔓で絡まったままにはならなかったんじゃ……?
ちょっとー!
なんで今までやらなかったのさー!
ま、まあ、これで魔女っこの無事は確保できたのだし、良しとしましょう。
それに人の体のままだと色々と見てはいけないような光景になっていたけど、白い鳥さんになればそこまで問題はない。
鳥さんが濡れていても、ちょっと可愛らしいだけだよね。これなら平気!
よし、あとはこのカエルさんだけだよ。
「はな、して」
わずかな望みをかけて話しかけてみたけど、私の言葉はカエルには伝わらないみたい。
全くの無反応だよ。
やはり言語のわからないただのモンスターだったのだ。
カエルはゲコゲコ叫びながら、舌に力を入れてくる。
つ、蔓が、千切れちゃいそう……!
巨大カエルなだけあって力がある。
今の私だと力勝負だけなら負けてしまうよ。
私は茨を伸ばして、カエルの前脚に巻き付けます。
べっとりしている粘液も、私の茨にかかれば肌に刺すことができる。
茨から注入した痺れ薬によって、カエルの動きが鈍くなりました。
私を引っ張るカエルの力が弱まる。
今がチャンス!
舌を伸ばしてしたままということは、口の中も開いているということ。
大口を開いている自分をうらみなさい。
カエルの口内めがけて毒花粉を噴射します。
魔女っこが近くにいなければ、私は毒を撒き放題なのだ。
でも今の私は幼女アルラウネだから、以前と比べれば毒の量はかなり少ない。
それでもきっと品質は前と同じだよね。
口を閉じようとしたのか、カエルは舌を解いて私を離した。
でも、そうは私がさせないよ。
引き戻る舌に、蔓を巻きつけます。
けれども舌がベトベトしているせいで、すぐに抜けちゃいそう。
それならばと、モウセンゴケの腺毛付きの蔓を作り出して、カエルの舌に巻きつけます。
粘着質のある蔓が、カエルの舌とべったりくっつく。これなら簡単には離れないよ。
再び蔓と舌による綱引きに逆戻り。
そのままポカンと口を開いたままのカエルへ、毒花粉をどんどん注入しちゃいます。
しばらくすると、カエルは泡を吹きながら白目になりました。
どうやら私を食べることは諦めてくれたみたい。
よ、良かったー。
幼女になってから初めての本格的な戦闘だったけど、なんとかなったよ。
「アルラウネ!」
魔女っこが私の元へと駆けよってくれる。
いつの間にか魔女っこは人の姿に戻っていた。
きちんと服も着ているね。
カエルの舌でベトベトになった私とバケツごと、魔女っこはぎゅっと抱きしめてくれました。
そんな魔女っこ髪の毛は、カエルの唾液と私の粘液でべっとりとしている。
とても申し訳ないね……。
魔女っこの髪を蔓でとかしながら謝ります。
「ごめん、なさい……」
「アルラウネが気にすることなんてなにもないよ。むしろカエルを倒してくれてありがとう」
そう言ってくれた魔女っこは、私を強く抱きかかえてくれる。
魔女っこ、やっぱり良い子だね。
その気持ちが嬉しいよ。ボッチ歴が長かった私の涙腺にくるね。
目から蜜が漏れちゃいそう。
私と魔女っこがカエルのよだれでベトベトになりながら抱き合っていると、どこからかうめき声が聞こえてきました。
いったいなんの声なの?
周囲を見渡してみるけど、どこからも生き物の気配はしない。
ならどこからと警戒していると、カエルの口の中からベチャリという音がしました。
もしや、まだカエルは生きていたの!?
「下がって」
魔女っこを背にして、カエルと向き合います。
警戒の姿勢を保っていると、カエルの口の中で何かが動いていました。
しばらくすると、カエルの喉の奥のほうから舌の上に、なにか小さなものが滑り落ちてきます。
私はそれを見て驚くことになる。
カエルの口から出てきた物体。
それは、手のひらサイズの小さな女の子でした。
手で掴めてしまいそうなくらい小さな女の子の背中には、虫のような羽が生えている。
金色の長い髪も綺麗で、お人形のように整った可愛らしい顔をしているね。
全身がカエルの唾液によってベドベトになっているし、どうやら目を回して気を失っているみたい。
こ、これって、もしかして……。
羽根が生えた手のひらサイズの人なんて、思いつくものは一つしかない。
その姿は、物語の中でしか見たことがない妖精にそっくりだったの。
カエルの口から出てきた女の子。
それは、小さな妖精さんでした。
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いつも応援していただき、改めて感謝申し上げますm(_ _)m
次回、妖精との遭遇です。