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63 魔女っこと絡まりました

 蕾を開くと、朝になっていました。


 目の前には、蔓に絡まっている魔女っこの姿があります。



「おはよう、アルラウネ」


 どうやら魔女っこは私の蔓から抜け出せなくなっていたみたい。

 蔓に絡まってグチャグチャになっているよ。


 知らぬ間に、私は魔女っこを捕縛してしまったみたいだね。

 


 魔女っこ、柔らかくて暖かいからつい抱き枕にしちゃったからなー。

 まあ私も魔女っこに抱かれたままだから、お互いがお互いを抱き枕にしていたみたいだけどね。



 私が蔓を動かそうとすると、魔女っこが恥ずかしそうに声を漏らす。


「くすぐったい……」

「ごめん、なさい」


 

 どうしよう。

 蔓が複雑に絡み合って、簡単には解除できなそうだよ。

 

 この状況、あまりよろしくないのではなくて?

 ちょっと冷静になって私たちの姿を観察してみます。


 森の中で女の子を蔓で緊縛している植物モンスターとその被害者。

 どうしましょう、はたから見たら私、幼女を襲うとんでもないモンスターにしか見えないよ!


 そんな私も外見は幼女です。

 いったいどう思われてしまうのこれー!



 この危機的事態を解決するため、知恵の輪を外すように蔓をほどいていきます。


 蔓がもぞもぞと動くたびに、魔女っこの口から甘い声が漏れる。

 くすぐったいのを我慢しているみたい。


 それと同時に、魔女っこの体から汗がにじみ出てくるのがわかった。


 もしかしたら熱くさせすぎたのかもしれないと、急いで蔓を操作する。

 けれども余計に魔女っこは身体をもじもじとさせて、額から汗を垂らさせる。


 それでもグルグル巻きだった蔓を丁寧に解除していきます。


 蔓から抜け出すたびに、少しずつ魔女っこの肌色の姿が露わとなる。

 なんだかいけないことをしている気がするよ。


 私はすぐ近くの木の枝に干してある、魔女っこの服に目を向けます。

 魔女っこの衣服はあれで全部。ということは、そういうことだよね。



 いいえ大丈夫、これはなにもやましいことなんてないの。

 ただ魔女っこに絡まった蔓をほどいているだけ。

 それ以上でもそれ以下でもないのだから。


 それに私は魔女っこよりも精神年齢はお姉さん。

 妹のお世話をする姉としては、こういう機会もきっとあるよね。


 私、前世で妹がいたことなかったからよくわからないけど。

 よーし、お姉さん頑張っちゃうよー。



 でも、私はすぐにお姉さんを挫折してしまうことになるの。


「あ、これ、無理かも」


 そこには、どうなったらこんな風に絡まるのかわからないという複雑怪奇(ふくざつかいき)(むす)()が存在しているの。

 お姉さん、ダメでした……。


 私の手ではこれ以上ほどくことはできなさそうだよ……。



「ごめん、ほどけ、ない」

「なら仕方ないね。今日はこのまま過ごすことにするよ」



 意気消沈する私と違って、なぜか魔女っこは気にした様子がない。


 心が広いというよりは、適当すぎやしませんか。


 だって私と蔓で絡まったまま生活するんだよ?

 魔女っこ、蔓でグルグル巻きのままなんだよ?



「アルラウネの蔓を服だと思えば問題ないよ」


 かなり野生児みたいな格好になっちゃっているけど、いいのかな。


 それに魔女っこは、さっきから全く蔓をほどこうとしていない。

 ずっと私の行動を見守っているだけだったの。なんでだろうね。



 まあこうなったらしょうがないね。

 動いていればほどけるかもしれないし、それまでは魔女っこにくっついたまま過ごしましょう。



 ──うん?



 今気がついたけど、どうやら寝ているうちに、私はよだれという名の蜜を口から垂らしていたみたい。

 恥ずかしい……。


 この年で寝ながらよだれを垂らすなんて、はしたないよね。

 まあ見た目は幼女だから問題はないかもしれないけど。


 

 でも、なんだろうこの感じ。

 ちょっと口の中がおかしい気がする。


 なにとは言えないけど、いつもの寝起きとは違う気がするんだよね。

 よだれを出しながら起床することなんてこの一年でもほとんどなかったのだし。


 うーんと悩む私の視界に、魔女っこが指をしゃぶる姿が入りました。



 普段は冷静そうでいるけど、魔女っこも子どもらしい仕草をするんだね。


 10才の魔女っこが指しゃぶりをやめられないなら、私がよだれを垂らすことなんてかわいいことだよ。

 うん、良しとしましょう。



 なぜか念入りに指を舐めている魔女っこを待ちながら、朝食にとリンゴを作ってあげる。


 不思議なことに、今朝は魔女っこが蜜を求めることはなかった。

 

 魔女っこが蜜狂いにならなかったことを感謝だね。

 変態はあの少年とクマパパだけで良いのです。 



「これ、アルラウネの朝ごはん」


 魔女っこが干してある服の中から草を取り出した。

 

 どうやら昨日、私が迷子になっているうちに森で採取してくれたらしい。

 魔女っこは私の植物生成の能力のことを知っているし、こうやって食べたことのない植物を集めてくれるのは助かるね。


 これはなんだろう、モウセンゴケに似ているね。


 女子高生時代に、これと似た植物を植物図鑑で見たことがあるよ。

 モウセンゴケは私と同じで、食虫植物なの。


 とにかく、せっかくもらったのだしいただきましょう。

 パクリとモウセンゴケらしき植物を食べながら、魔女っこの様子を伺います。



 私のリンゴをむしゃむしゃと頬張(ほおば)る魔女っこ。

 

 リンゴと蜜だけでは魔女っこの食生活に問題しか残らないよね。

 なんとかして、精がつくものを食べさせてあげないと!



「食べ物、探しに、行こう」

「リンゴと蜜があるから大丈夫」

「それ、だけじゃ、ダメ」



 昨日、魔女っこの体を抱いたからよくわかる。

 魔女っこは()せすぎです。


 食べ盛りなのだし、もっとたくさん良い物を食べないと。

 お姉さん、心配なの。



「食べ物ってどんなもの探すの?」


 果物と蜜だけだと栄養が偏りすぎだからね。


 森で簡単に手に入る他の物といえば、やっぱりタンパク質かな。

 やはり肉が一番でしょ。


「動物、捕まえて、お肉、食べる」

「たとえばあれとか?」

「……あれ?」



 魔女っこが木の奥を指さします。


 視線を移してみると、そこには一匹の大きなカエルがいました。



 まだら模様の、巨大カエル。

 カエル型モンスターのフルトフロッシュである。


 模様からして、昨日私が川で見たカエルさんと一緒みたいだね。


 私を川から助けてくれたカエルの王子様。

 まさか向こうからまた会いに来てくれるとは思わなかったよ。



「せっかく二人きりで良いところだったのに、カエルに邪魔されるなんて……」

 

 魔女っこが警戒するようにカエルを見据えます。


 そういえば、魔女っこは私がこのカエルに助けてもらったかもしれないということを知らなかったね。


 私は頑張って口を動かして、このカエルが川から助けてくれた可能性があるということを魔女っこに丁寧に伝えます。



「このカエルがわたしのアルラウネを……」



 あれ、なんだか魔女っこの表情がより(けわ)しくなったのですけど。


 どうして?

 カエルに感謝の気持ちというより、なぜか敵対心を持ってしまっている気がするのだけど。



 カエルが近づいてくる。


 無表情のまま迫る巨大カエル。

 

 なんだか怖い。


 王子様ならもっと優しい態度で接して欲しいのだけど、全くそんな気配がない。

 むしろ獲物に対して無機質な感情しか持たないロボットみたいだよ。



 私たちまであと数歩というところで、カエルの口が素早く開かれた。

 そうしてカエルの舌が伸びてくる。



 それは一瞬のことでした。


 気がつくと、私はカエルの舌に(つか)まっていたの。



 ひぇええええ!?



「アルラウネっ!?」


 魔女っこの焦った様子が声から伝わってくる。

 

 なにしろ、今の私と魔女っこは一心同体。

 二人まとめて舌の餌食になっているの。



 そしてわかっちゃいました私。

 このカエルさん、王子様ではありません。


 ただの食欲旺盛(しょくよくおうせい)な野生のモンスターカエルです。



 なにせ、私と魔女っこは二人そろってカエルの舌でベトベトにされてしまっているのだから。



 魔女っこはもっとひどいよ。

 私の蔓に絡まっている上から、カエルの舌に巻きつけられているからね。

 

 二重に捕獲されているの。

 

 ねっとりとしたカエルの粘液が、舌から垂れてくる。

 うぅ、気持ち悪いよ。


 しかもカエルの生々しい大きな口が間近に迫って、よけいに辛い。

 植木鉢という名のバケツに入ったままの私は、地面に根を張っていないから体ごと簡単に引きずり込まれてしまうの。

 


 そこで私は気がつく。

 不思議なことに、カエル口の中になぜか青い花のようなものが咲いていたの。

 

 なぜ口の中に花が……。


 もしかしたら植物を食べるカエルなのかもしれないね。

 ということは、私は餌ではなくて?



 草食のカエルさんですか。

 しかも生きたままのお花が好物なのね。


 てことは私、もしかしてカエルさんの好みのタイプのお花なのかな……?


 以前のように大きい姿の私だったら、これくらいのカエルなんて簡単にあしらえた。

 

 でも今の私は幼女。

 食べるというよりは、どちらかというと食べられる側だったの。


 い、いや。



 カエルになんて、食べられたくないよぉおおおお!!


お読みいただきありがとうございます。

本作を読んで「面白かった」「頑張っているな」と思われましたら、ブックマークや★★★★★で応援してくださるととても嬉しいです。その応援が執筆の励みになります。


次回、みんな粘液まみれです。

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― 新着の感想 ―
普通に寝てる時に蜜をつまみ食いしてるだけな気が…… 主人公の脳ミソ(?)が幼女に引っ張られてるのかな
そこの魔女っ子、朝こっそり蜜をつまみ食いしましたね。 その蜜、危険すぎます。
[良い点] いいぞもっとやれ(おっとアルラウネさん、それ以上いけません、作者様がBANされてしまいます) [一言] カエルさーん!?Σ(*゜Д゜*) 王子様でも王女様でもなくベジタリアンの野獣先輩だっ…
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